以前は小説や映画の世界の話だったAIやIoTなどの技術は、急速な進化を遂げて私たちにとって身近なものになってきました。
そんな中、注目を集めているのが人間拡張です。さまざまな業界で少子高齢化による人材不足が問題となっている今、人間拡張はこれからさらに重視されていくと考えられています。
本記事では、人間拡張の概要や増強される能力、人間拡張が推進されている分野や今後の課題について解説します。本記事をチェックして、人間拡張への理解を深めましょう。
目次
人間拡張とは?
人間拡張(Human Augmentation)は、AI(人工知能)・VR(仮想現実)・AR(拡張現実)などの技術を駆使して、人間の身体能力や知覚、脳などを強化することを指しています。
また、すでに持っている能力だけではなく、新たな能力を得ることも人間拡張の一部です。
IT技術の革新が進む中で、テクノロジーの活用により人間に掛かる負荷の軽減するための研究・開発が急ピッチで進められています。人間と機械の融合により、現代社会が抱えるさまざまな問題の解決を図るのが、人間拡張の目的です。
障害を持つ人や高齢者、リハビリが必要な人の負担にも活用され始めています。
人間拡張で増強される能力
人間拡張で増強される能力は、大きく分けて4つあります。それぞれどのような能力か解説します。
1. 身体の拡張
身体の拡張は、テクノロジーによって人間が持つ身体機能を向上させ、補う技術です。例えば、外骨格や義足・義手、ウェアラブルデバイス、パワーアシストツールなどの装着により、身体にかかる負荷を軽減させることができます。
何らかの原因で筋力が低下してしまった人も、身体の拡張を図ることで、運動能力の回復が可能です。また、テクノロジーによって筋肉の動きを補い、一人当たりの運搬能力を向上させ、業務を効率よく進めることもできるようになります。
2. 五感の拡張
五感の拡張は知覚の拡張とも呼ばれ、人間が本来持っている感覚機能を向上させたり補ったり、感覚を置き換えたりすることを指しています。五感の拡張に用いられるのは、ヘッドアップディスプレイやVRゴーグル、スマートグラス、スマートコンタクトレンズなどです。
五感の拡張では、仮想世界と現実世界を融合させるVRやARなどの技術も多く用いられます。現在のところ、五感の中でも視覚・聴覚を対象としたものが中心となっています。
3. 脳の拡張
脳の拡張は、人間の脳が持つ学習能力や記憶力、認知能力などを向上・補完させることを指しています。また、脳から他の器官の制御能力をコントロールすることも、脳の拡張の一つです。脳の拡張は、認知の拡張とも呼ばれています。
脳の拡張に用いられるのは、AI技術を応用した記憶チップや脳情報モニタリング学習などです。記憶障害の補完や、学習効率の向上などが図れます。
また、AIによる脳機能の解読によって脳の潜在能力を引き出し、これまでの経験や学習内容、環境から得られる情報を活かし、高度な判断を迅速に行えるようにもなります。
4. 存在の拡張
存在の拡張は、遠隔地や仮想空間での活動のことです。テレプレゼンスなどによる遠隔操作や感覚共有などにより、物理的な身体の枠を超えて存在を拡張します。
存在の拡張をさらに分類すると、現実の身体・仮想の身体・他人の身体の3つに分けられます。
現実の身体は、人間の分身としてロボットやアバターロボットとの感覚共有や遠隔操作を行うことにより、離れた場所でも自分がその場にいるように活動できる技術です。
現実の身体の一例として、ロボットを用いて治療や手術が可能となる遠隔医療ロボットなどがあります。
仮想の身体は、仮想空間における自分の分身と感覚共有したり操作を行ったりすることにより、仮想空間で活動できる身体を得られる技術です。仮想感覚の構築により、まるで仮想空間に入り込んだかのような体験をすることもできます。
仮想の身体を実現するアプリケーションには、デジタルアバターがあります。他人の身体は、他者が感じる体感や五感を、自分の感覚のように体験できる技術です。
人間拡張が進む分野
さまざまな分野で人間拡張を活用できるよう、急速に研究・開発が進められています。ここでは、特に人間拡張が進んでいる3つの分野を紹介します。
製造業・農業分野
製造業・農業分野は、人間拡張の中でも身体の拡張が進められている分野です。
身体の拡張を行えば、個々の運動能力を高めて一人当たりの生産性を高めることができます。製造業・農業分野には、人手不足が課題となっている企業も少なくありません。身体の拡張による生産性の向上によって、不足する労働力を補える可能性があります。
すでにパワーアシストツールなど、身体の拡張を可能とするアプリケーションを導入している企業も見受けられます。
2. 医療・介護分野
医療・介護分野は、特に身体の拡張と五感の拡張が進められている分野です。
運動能力の向上を可能とする医療機器やパワーアシストツールなどの活用により、高齢者や事故などによって障害を持つ人の身体能力を補い、運動能力を高められます。
また、五感の拡張を医師が活用することで、技術力の向上にも期待が集まっています。AR技術を活用したシミュレーションを導入すれば、高度な技術を必要とする手術に対する万全な準備ができるようになり、手術の成功率を高められるかもしれません。
3. エンターテインメント分野
エンターテインメント分野は、五感の拡張や存在の拡張が進められている分野です。
近年はゲームを中心にVRが身近なものになってきました。ウェアラブルデバイスによる五感の拡張により、ゲームや映画などでよりリアルな世界観を体験できるようになります。
また存在の拡張によって、自宅にいながら試合会場にいるような体験ができるようになるかもしれません。
人間拡張の課題点
国内でも人間拡張を行うためのデバイスやプロダクト、サービスなどが誕生していますが、人間拡張にも課題点はあります。
すでに一部の企業では導入も進められている人間拡張は、導入により私たち一人ひとりに大きな恩恵をもたらします。もちろん良い影響もありますが、実用化するためには倫理的な問題が課題です。
どの程度まで人間と機械の融合を許容するかに関する規制が行われないことには、人権が侵害されてしまうリスクも生じかねません。人間拡張をさらに発展させ、実用化して普及させるには法整備が求められていますが、間に合っていないのが現状です。
また、倫理的な問題がクリアになっていないので、実用化されている人間拡張はまだわずかしかなく、そのほとんどが研究・実証段階でストップしています。事業として人間拡張を扱っている企業が少ないことも、今後の課題です。
さまざまな能力を補完する人間拡張に注目しよう
クリアにしなければならない課題もありますが、人間が持つさまざまな能力を向上させ、補完できる人間拡張は、少子高齢化で人材不足を抱える日本が、課題解決のための活路を見出せる可能性を持っています。
また、VRやARなどが家庭でもさらに普及することで、これまでにはない楽しみが増えていくかもしれません。
今後、法整備が行われれば、人間拡張はさらなる発展を遂げる可能性があるでしょう。