人材育成をしたいけれど、何をどのようにおこなうのが効果的なのかわからず、悩んでいませんか。
人材育成はいくつかのポイントや流れがあり、やみくもに進めても社員のモチベーションを下げてしまうことになりかねません。
そこで、この記事では以下のことを紹介します。
- 人材育成の進め方
- 手法一覧
- フレームワーク
- 育成にあたって大切なこと
効果的な流れをしっかりと把握して、無駄な努力を生まない人材育成を心がけましょう。
目次
人材育成の進め方を4ステップで解説
ここからは人材育成の進め方を4ステップで解説します。
1.現状・課題を把握する
人材を理想の状態に導くためには、まず理想と現状にどのような乖離があるのかを確認します。
現場のさまざまな仕事に対して、誰がどのようにおこなっているか、効率がよいのか、手順は適切かなどを確認します。
このとき部署や役職、社歴、年代なども含めて詳細に分類し、スキルや成果の状況を可視化するようにしましょう。
現状について以下の点を把握します。
- 細かな仕事も含めどのぐらいの量をこなしているか
- どのくらいの時間を使っているか
- 社内の若手・中堅と段階に応じてどのような課題を持っているか
- さまざまな仕事で経費は適切に使われているか
- 適切なスキルを持った者がおこなっているか
ここでは現場の生の声を聞き取ることが大切です。
なぜなら現状の問題点や効率化できていない部分、その要因は実際に業務にあたる社員が一番わかっているからです。
ヒアリングした事項をもとに、以下のふたつをまとめます。
- どのような仕事をしているときにどのような課題があるのか
- 何が問題となっているのか
あとの工程にも役立てるため、なるべく詳細にヒアリングすることが大切です。
2.組織の理想と社員のスキルとのギャップを把握する
人材育成の目的を正確に打ち出すためには、企業のありたい姿を描くことが重要です。
目的を持たずに育成を始めるのではなく、3年後、5年後と中長期にわたって理想を掲げるようにします。
この際に重要となるのは、数字を使い、理解がぶれない客観的な目標を作ることです。
例えば 「5年以内に10人は、部署の仕事を全体的に把握している者を生み出す」と考えたとしましょう。
このときに育成担当者は計画を立てるだけではなく、経営者の意見も取り入れるようにします。
なぜなら経営者は現場とはまた違った視点で企業を発展させる長期的なビジョンを持っているからです。
そのため、必ず経営者も含めて理想と現実とのギャップを考えましょう。
このときに検討したいのがKGIとKPIです。両者にはそれぞれ以下のような意味があります。
KGI……Key Goal Indicator/重要目標達成指標
KPI……Key Performance Indicator/重要業績評価指標
ひとつのKGIに対して複数のKPIを立てるのが一般的です。
例えばKGIが「商品Aの売り上げ120%アップ」であれば、KPIは「1ヵ月に〇個販売する」「受注単価を平均1〜2%上げる」などの、目標達成におけるプロセスを定点観測するための定量的な数字で表されます。
3.スキルマップを作成して育成する
組織の理想と現状とのギャップを把握できたら、次はスキルマップを作成します。
スキルマップとは、取り組む業務に必要なスキルを表面化させ、社員がどの程度スキルを持っているかを可視化したものです。
作成すると人材育成の全体像がわかるだけでなく、足りないスキルと、どの程度足りていないのかを把握できます。
スキルマップは以下のステップで作成します。
- 企業の成長に必要なスキルを洗い出す
- スキルを項目ごと分ける
- 現場に即した内容となるよう指導者が確認し、修正する
まずは企業が持続して成長していくために、人材に求めるスキルを考えることです。
例えば商品を販売する企業であれば、販売率を上げるために商品知識や営業力を身につける必要があるでしょう。
知識や経験が溜まった人材が流出しないようにするためのチームワーク力、指導力を含めてもよいでしょう。
次にスキルを項目ごとに分けます。
商品知識、分野の専門知識など、学習によって得られるものか、もしくは営業力やチームを構築する力、ダイバーシティ推進力など人間力に分類されるのか、などを検討します。
このときに注意したいのが、スキルマップが人材育成担当部署が描いた理想像になってしまっていないかです。
現場の状況と乖離がないか、もしくは無理をさせて社員のモチベーションを逆に下げてしまう数字になっていないか、そのバランスを慎重に検討するようにしましょう。
関連記事:スキルマップで社員の能力を見える化!導入メリットや業界別活用事例を紹介
4.人材育成の振り返りをする
取り組みの効果を検証するため、人材育成の進捗を適切に振り返る必要があります。
育成される対象者側に自分自身の取り組みに対するよい点、悪い点を客観的に振り返らせるだけでなく、上司からもフィードバックする仕組みを作りましょう。
このとき、決しておこなってはならないのは「プロセスでの評価」です。
なぜならプロセスに口を出してしまうと、結果に向けた最適な方法を部下が考える機会を奪ってしまうからです。
振り返りをおこなう際には必ず数値化された結果で評価し、数字にこだわって成果を上げられるように促しましょう。
スキルマップを作成する3つのメリット
スキルマップを作成するメリットは以下の3つです。
- 課題が明確になる
- 企業が求めるスキルを意識できる
- スキルを体系的に整理できる
順に解説します。
1.課題が明確になる
スキルマップを作成すると社員自身のスキルが可視化されるため、足りないスキルが一目でわかります。
同時に、それぞれの部署ごとに、企業が成長していくために十分な人数とスキルが集まっているのかも把握しやすくなります。
求められる力と実力の乖離が大きいスキルがあれば、その力を伸ばすための学習機会を増やしたり、行動量を上げるための仕組みを再検討することもできるでしょう。
できていない点にフォーカスできないまま目標達成のための重要なルートを失ってしまう事態を避けられるのが、スキルマップ作成のメリットです。
2.企業が求めるスキルを意識できる
スキルマップでは自身のスキルだけでなく、「どの年数までにこのスキルを身につけてほしいか」といった、企業が人材育成に必要とする力もわかります。
例えば営業力や商品理解度、ダイバーシティの推進を適切にできているかなどの項目が挙げられるでしょう。
求めるスキルを得るためにおこなう研修や日頃の教育を逆算できるため、スキルマップは有効な手段となります。
半期やクオーター、一年ごとに振り返ることで目指すべきスキルを再確認できるでしょう。
3.スキルを体系的に整理できる
日々忙しく働いていると、スキルの習得にまで頭が回らず、ただ目の前の業務をこなすのみになってしまうケースもあるでしょう。
一方スキルマップは各役職、または社歴ごとに必要なスキルがまとめられているため、必要なスキルの把握における抜け漏れを防げます。
体系的にスキルを整理できれば、それにアプローチする今後の教育計画や予算も立てやすくなる点がメリットです。
人材育成の手法一覧
人材育成には以下のような手法があります。
人材育成の方法 | 内容 |
OJT(現場研修) | 業務をこなしながら現場でおこなう教育。同じ分類の仕事をおこなう上司や先輩から学ぶため、現場に即した力を得られ、つまずくポイントをしっかりと理解できる。 |
Off-JT(職場外研修) | 現場から離れておこなう教育。集合型研修が一般的であり、スタンダードな知識やスキルを取得できる。
全員が同じ研修を受けるため、知識のバラツキがでないのがメリット。 |
1on1 | 上司と部下が1対1でおこなう対話。
部下の成長を促すマネジメント手法であり、部下から日常の悩みや不安、業務に対する課題を聞き出すというコーチングに似た関わり方をするのが特徴。 |
eラーニング | パソコンやスマートフォンを使ってネットワークを介し、時間や場所にしばられずにおこなう学習。
一方的に画面上で進むため、習熟度に差が出る可能性がある。受講後に確認テストがあるケースもある。 |
ジョブローテーション制度 | 部署や職種を異動して能力開発やキャリアアップする教育。
組織を各方面から見渡せるようになるため、課題に気づきやすくなる。リーダー育成に有効な手法。 |
自己啓発 | 書籍を購読したり通信教育をうけたりして社員が自主的におこなう学び。興味がある分野を自ら選んで学ぶため、高い学習効果が期待できる。 |
関連記事:人材育成におけるマネジメントとは?【成功のためのポイントも解説】
人材育成で使える!3つのフレームワーク
ここからは人材育成で使える3つのフレームワークを紹介します。
ギャップ分析
ギャップ分析とは企業の理想の状態と現状とのギャップを把握し、その差異を埋めるための課題やアクションを洗い出す手法です。
企業がビジネス目標を達成するために最もよい方法はなにか、検討するのに役立ちます。
例えば「5年以内に幹部スキルを持つ人材を10人育成する」という目標を掲げた場合、現状は対象者がどの程度のスキルを持ち、何をどのように育成するかを考えることで人材育成を進める材料にできるでしょう。
コルブの経験学習モデル
コルブの経験学習モデルとは、人が経験からどのように学ぶのかをモデル化したものです。
このモデルでは以下の流れで学びを獲得することを提唱しています。
- 具体的経験……何かを経験する
- 内省……なぜその結果になったのかを振り返る
- 抽象化・概念化……経験から学んだことを抽象化・概念化する
- 実践……抽象化・概念化で得られた経験を実践する
経験を振り返り、仮説を立て、その仮説をもとに実践して……を繰り返すと学習を深めていく好循環が作られます。
こちらのモデルに当てはめて人材育成を進めることで、効果的な学習が得られるでしょう。
7:2:1モデル
人はビジネスにおいて以下の割合で学ぶことが研究でわかっています。
- 7割……仕事上の経験から
- 2割……先輩・上司からの指導
- 1割……研修や講義などのトレーニングから
上記の割合を人材育成の手法に当てはめて考えると、人材育成のために使う時間や費用の配分を適切に配分でき、無駄がありません。
例えば人材育成にかける時間の7割はOJT、2割は1on1やジョブローテーションによる先輩からの指導、1割はOff-JTや外部講師からの講義と分けられるでしょう。
適切な割合で学びの機会を設けることで、人材育成のスピードが加速します。
人材育成をするうえで大切な9つのこと
人材育成を間違った方法でおこなってしまうと、社員の考える力を低下させたり、間違った方向へ努力させてしまったりするケースがあるでしょう。
ここからは人材を育成するうえで大切なことを9つ紹介します。
1.マニュアルやルールを明確にする
物事の受け取り方は人それぞれであるため、誰が聞いても同じ理解となるようにマニュアルやルールを明確にすることが重要です。
例えば「会議後の議事録作成は3営業日後までにおこなう」というルールがある場合、それが3営業日後の定時までなのか、もしくは23:59までなのかは人によって受け取り方が異なります。
聞き手によって作業の質や量、時間に差が出ないようにするためにしっかりと「3営業日後の18時まで」などと数字を使って依頼したり明文化したりしましょう。
すると、誰が見ても統一された成果を生み出せます。
2.社長自らが現場に降りて指示しない
社長と現場との距離が近くなりすぎると、現場は「達成しなくても許してもらえるだろう」と甘えが出たり、言い訳をしてしまったりするケースがあります。
役割の差を認識させるために、社長が自ら現場に指示したり現場に足を運びすぎたりするのはやめましょう。
社長の仕事は「幹部たちが本気で考え、問題があれば即座に報告を上げる体制作り」です。
幹部も社長からの評価を受ける対象であると認識し、幹部に現場へ指示させることで社長や幹部、部下の上下関係が機能し、組織の動きにおける判断がスムーズになります。
3.問題点を明確にする
目標を達成できなかった際、部下が自分にとって都合がよいように他責の思考で言い訳するケースがあります。
そのため育成担当者は事実を淡々と拾い上げ、できない理由を考えさせる機会作りが必要です。
例えばマニュアルを覚えておらず業務ができないケースがあれば、「覚える気はあるが覚えられないのか」「覚える気がなく覚えられないのか」の違いを明確にして問題点を洗い出します。
育成担当者は常に一定のテンションで部下と向き合い、事実から部下の足りない点を気づかせる必要があります。
4.目標を多くしすぎない
ついつい欲張ってあれもこれも、とKPIに多数の目標を組み込んでしまうのはよくありません。
なぜなら目標を多くしすぎると、やるべき行動があふれて何に取り組んだらよいのかを見失ってしまうからです。
そうなると、評価者自身が目標を常に意識できずに評価の段階になって思い出す、などの事態に陥るケースが増え、目標の意味がなくなってしまいます。
目標は5つ以内に絞り、すべて「売上」「回数」「タスクのポイント化」などの数値化できるものにします。
すると社員全員が日頃から目標を意識できるため、すぐに行動に移しやすくなります。
関連記事:目標を数値化するメリットとは?方法やデメリットを解説
5.育成担当者のスキルアップを同時におこなう
育成者全員が最初から育成が得意であればそれに越したことはありませんが、必ずしもそうだとは限りません。
そのため部下のスキルアップを促すのと同時に、育成担当者のスキルアップもおこなうことが重要です。
例えば育成には以下のような注意点があります。
- 「当たり前」の基準が下がらないよう、褒めることはしない
- 緊張性を保つため、部下と距離をとる
- 創意工夫を促すため、過去のやり方を押し付けない
日頃から意識していないと部下を感覚で指導してしまい、育成担当者としてあるべき姿を維持できません。
そのため育成担当者にも定期的にスキルアップ研修を用意したり、人材育成の方法を評価したりして、「育成者」として育てる必要があります。
6.育成される側の自主性を育てる
企業を成長させるためにはPDCA(計画、行動、評価、改善のサイクル)を回すことが重要です。
しかし上司が部下の仕事のやり方に対して細かく指示してしまうと、ときに部下は「やり方に納得できない」と考え、計画から行動に移す際にタイムロスしてしまいます。
そればかりではなく、上司の言うとおりにおこなっていれば評価されると勘違いし、言われたことしかできなくなってしまうケースもあるでしょう。
部下の自主性を育てるためには、目標を設定したら期限まで結果を待ち、成果を定量的に判断することが大切です。
経過・プロセスの質をよくしていくアイデアを育成される対象者自身に考えさせることで、創意工夫する力が上がり、PDCAを自主的にまわせるようになります。
7.育成に関する効果を検証する
労力をかけて育成をおこなっても、必ず効果が出るものだとは限りません。
部下が生み出した成果を検証し、育成がどの程度効果を生んだのか検証することで、効果がある育成方法を確認し、継承できます。
このとき育成の効果測定を誤らないようにするため、感情でなく事実に基づくフィードバックが大切です。
あくまで数字で確認できる結果に注目し、評価することで企業の成長と人材の成長を比例させられます。
8.「上司ならどうするか」という質問には答えない
育成する側から物事へ取り組む際のアドバイスを提示するのは、プロセスへの介入となり、部下が自分で考えて成長する機会を奪ってしまうケースがあります。
「上司に言われたとおりやったのに……」と思われてしまうと言い訳の材料となってしまい、自責の思考が育ちません。
あくまでも部下の権限範囲内の業務であれば、部下に考えさせて結果を判断するようにしましょう。
すると部下に不足している力と今後指導する箇所が明確になります。
9.安易なモチベーションマネジメントに傾倒しない
部下はあくまでも企業から評価される立場にあります。
ときには「この仕事にはモチベーションが湧かない」と部下が思ってしまうケースがあるかもしれません。
しかしそこで評価者は、部下を別部署やチームに異動させる提案をしないようにしましょう。
評価者が求める成果を上げて初めて昇進や給料アップなどの待遇の変化を得られるものです。
そのため、決して上司が与えるのではなく、部下に置かれた場所で成果を上げるように考えさせるのが、人材育成で重要な点です。
【マンガで学ぶ】本当は誰も得をしないモチベーションマネジメント
目的を捉えて人材育成をスムーズに進めよう
組織の成長に欠かせない人材育成。
人材育成には進め方の流れがあり、ただ研修や指導をおこなったのみでは成長スピードが鈍化してしまい、無駄な努力にもなりかねないのが難しいところです。
やるべきことがたくさんあるように思えて、何から始めてよいのかわからないと思うときもあるかもしれません。
今回紹介した流れや手法、大切なことに沿って計画をまとめることで、人材の成長を促し、持続可能で体力のある企業に成長させましょう。