企業活動を続けていくためには、マーケティングの実施が欠かせません。マーケティングを実施する際は、さまざまな手法を用いて、顧客の動向や状況を分析します。
マーケティングの分析方法の一つとして挙げられるのが、RFM分析です。RFM分析とは、少ない情報で顧客の分析が行える点が強みです。
本記事では、RFM分析とはなにか、メリットや分析方法、注意点などを解説します。
目次
RFM分析とは?
RFM分析とは商品の最終購入日や購入頻度、購入金額を基に顧客を分類する分析手法です。RFM分析に基づくことで、顧客の性質に応じたマーケティングが可能になります。
顧客分析において、RFM分析は基本的な分析手法です。そのため、顧客分析で何から手を付けたらよいか迷ってしまっている場合は、RFM分析を活用しましょう。
RFM分析を用いるマーケティングは企業の販売戦略にとっても重要な要素です。どれだけ優れた商品やサービスを提供していても、販売できなければ収益にはつながりません。
そもそも商品やサービスを販売するためには、顧客のニーズをしっかりと把握する必要があります。
また一度購入してもらうだけではなく、繰り返し購入してもらえる仕組みを作る際にもRFM分析による顧客把握は欠かせません。
RFM分析の3つの要素
RFM分析とは次の3つの要素からなる分析手法です。
- Recency(直近いつ):顧客がいつ商品やサービスを購入したかを算出して、最終購入日から時間が短い顧客を高く評価する
- Frequency(頻度):顧客が何回商品やサービスを購入したかをカウントして、購入回数が多い顧客を高く評価する
- Monetary(購入金額):顧客が購入した金額を算出して金額が高い顧客を高く評価する
例えば、Frequency(頻度)とMonetary(購入金額)が高い一方、Recency(直近いつ)が低い顧客の場合、商品やサービスの購買力があるにもかかわらず、最後の購入から時間が経過しているため、競合他社に流れてしまっている可能性があります。
Recency(直近いつ)
Recency(直近いつ)では顧客の商品やサービスの購入データを基に、顧客の最終購入日の算出が必要です。最終購入日に応じて顧客をグループ化して、最終購入日から日が浅い顧客の方が、最終購入日から何日も経過している顧客よりも優良な顧客として扱われます。
購入日の期間をどれくらいの範囲で分けるかは、商品やサービスの特性で異なります。
Frequency(頻度)
Frequency(頻度)で顧客を分類する基準は購入頻度です。購入頻度が高い顧客の方が、購入頻度が低い顧客よりも高く評価されます。
例えば、4カ月で2回購入した顧客と、4カ月で4回購入した顧客では4カ月で4回購入した顧客が優良な顧客です。
Frequencyの数値が高い顧客が多い場合は商品に満足しているリピーターが多い状況、購入頻度が低い顧客が目立つ場合は商品やサービスに満足していない顧客が多いことが分かります。
一方購入頻度が少ない顧客があまりいない場合は、新規顧客が少ない可能性があります。
Monetary(購入金額)
Monetary(購入金額)は、顧客の購入履歴から購入総額を算出してグループ分けします。Monetaryでは、購入金額が多い顧客ほど優良な顧客です。
例えば、1回の購入で1万円を使った顧客と3回の購入で5,000円を使った顧客では、1回で1万円を使った顧客が優良な顧客として扱われます。
なお、Monetaryもどの期間の購入金額を対象とするかは商品やサービスの特性で異なります。
RFM分析の目的
RFM分析を実施することで、顧客の状況が可視化できます。顧客の動きが見えると、顧客が自社の商品やサービスをどのように利用しているかが把握しやすくなります。
またRFM分析によって、優良顧客とそれ以外を分けることが可能です。顧客を区分けすることで、それぞれに適したマーケティングができます。
顧客の状況に応じたマーケティングを実施することで、無駄のない効率的な施策につなげられるため、結果として合理的で効率的に収益へとつなげられるでしょう。
RFM分析のメリット
RFM分析を実施することで次のようなメリットにつながります。
- 手元にある情報が少なくても行うことができる
- 顧客の属性や状況に合わせたアプローチができる
- 効率的にマーケティング施策を立てられる
- PDCAが回しやすくなる
それぞれのメリットについて解説します。
手元にある情報が少なくても行うことができる
RFM分析は手元にある情報が少なくても実施できるという点がメリットです。個人情報を含む詳細な顧客情報は不要で、顧客ごとの購入履歴があればすぐに分析できます。
個人情報は漏えいや紛失をした際、企業の信頼を大きく失墜させる可能性があります。そのため、厳格なルールに基づいた取り扱いが必要です。
しかし、RFM分析であれば個人情報は不要なため、紛失や漏えいの心配がありません。
顧客の属性や状況に合わせたアプローチができる
RFM分析は、顧客の属性や状況に合わせたアプローチが可能という点もメリットです。
例えば、RFMという3つの指標がいずれも高い顧客であれば、自社のサービスや商品を引き続き購入してくれる可能性が高いでしょう。このような優良な顧客に対してアプローチすることで、成果につながりやすくなります。
反対に指標が低い顧客に対しては、クーポンを発行したりメルマガを配信したりして接点を持ち続けられるようなアプローチを講じることが必要です。
効率的にマーケティング施策を立てられる
RFM分析をすることで、どの顧客がどのような状況にあるかを3つの指標を基に判断可能です。そのため、RFM分析を用いることで顧客の状況に応じた効率的なマーケティング施策を立てられます。
例えば、Recencyの数値が低く、購入から時間が経過している休眠顧客に対しては利用を促すような施策を、Monetaryの数値が低い顧客には単価がアップするようなまとめ買い施策などを講じることで、効率的に売上をアップすることが可能です。
しかし、季節性の商品など一部商品は購入頻度が低い傾向にあるため、RFM分析でのマーケティング施策には適していません。
PDCAが回しやすくなる
マーケティング施策にはPDCAを回して、効果検証をすることが欠かせません。RFM分析は、どの顧客にどのような施策を、いつ実行するかが判断しやすいため、PDCAを回すのに役立ちます。
さらに、PDCAをより的確かつスピーディに回せるため施策のブラッシュアップに効果的です。
PDCAを回すことで、プランに沿って行動できるため、無駄なく効率的に施策の実行や改善につなげられるでしょう。
RFM分析の進め方
RFM分析は次のようなステップで進めていくのが一般的です。
- 課題に対して仮説を立てる
- 顧客データを集計・整理する
- 分析をする
- 改善施策を企画・実施する
ここでは、それぞれのステップのポイントを解説していきます。
1. 課題に対して仮説を立てる
RFM分析をする際は、最初に解決したい課題に対しての仮説を立てます。仮説を立てる過程で分析すべき対象がはっきりとするため、RFM分析をする目的を絞り込むことが可能です。課題と仮説、目的の例は次のとおりです。
課題 | 仮説 | 目的 |
商品の売上が落ちている | 顧客が競合他社に流れている | 顧客の離反率を明らかにする |
商品の売上が落ちている | 商品のPR不足が原因 | DMやメールマガジンを開封した顧客の購買率を明らかにする |
このように課題とその仮説を立てることで、RFM分析を用いる目的が明確になります。なお、RFM分析実施にあたっての課題、仮説、目的は社内で議論を行って決定しましょう。
社内で議論を重ねることで、多角的な視点での課題や仮説、目的がみえてきます。
2. 顧客データを集計・整理する
課題と仮説、目的が明確になったら、顧客データを集計・整理します。RFM分析では、最終購入日や購入頻度、購入金額を用いるため、これらのデータを用意して集計しましょう。なお購入頻度を集計するには、顧客ごとを識別する工夫が必要です。
例えば、顧客ごとにIDを振るといった工夫が適しています。顧客データを集計する際は、過去の数年分を対象とするのか、それとも特定の期間だけを対象とするのかといった分析期間を明確にします。
顧客データを集計する際は、データを整理することも大切です。表記ゆれを始めさまざまな理由で、本来同一データが別のデータになっているかもしれません。
データを整理したら、慎重に集計していきましょう。もしデータ抽出や集計に誤りが発生してしまったら、やり直しが必要になってしまいます。少しでもミスなく集計するためには、Excelの活用がおすすめです。
RFM分析は最終購入日、購入頻度、購入金額だけで顧客を分析可能ですが、顧客の年齢や居住エリアなどを加えることで、より詳細な分析が可能です。しかし、顧客の年齢や居住エリアなどは個人情報にあたるため、取り扱いに注意しましょう。
3. 分析をする
データを集計・整理したら、分析を始めます。分析は、RFMの3つの指標ごとにランク付けをしましょう。一般的に3~5つのランクに分類します。
なお、分析する商品やサービスによって購入頻度や購入金額が異なるため、対象となる商品の特性に応じて設定しましょう。例えば、次のようにランクを分けます。
ランク | Recency | Frequency | Monetary |
A | 1カ月以内 | 30回以上 | 20万円以上 |
B | 2カ月以内 | 20回以上 | 10万円以上 |
C | 3カ月以内 | 15回以上 | 8万円以上 |
D | 半年以内 | 10回以上 | 5万円以上 |
E | 半年以上 | 10回未満 | 5万円未満 |
データの集計結果を上記の表に当てはめることで、顧客がどのランクに位置するのかを可視化できます。
3つの指標のスコアを合計して、上位から優良、通常、休眠傾向、休眠といった4つのグループに分けます。
4. 改善施策を企画・実施する
RFM分析をしたら、改善策を企画して実施しましょう。改善施策を実施する際はPDCAを回すことがポイントです。
RFM分析の結果に基づく改善策は次の例のとおり、顧客のグループに応じて講じましょう。
- 優良顧客:限定商品や新商品の体験イベントの紹介
- 通常顧客:リピートを誘導する施策やセット販売
- 休眠傾向:メルマガやSNSを通じたクーポン配布
- 休眠顧客:オンラインサイトへの誘導やクーポンの配布
休眠傾向、休眠顧客にアプローチする際に用いられるチャネルとして、メール、DM、電話が挙げられます。それぞれの特徴は次のとおりです。
チャネル | メリット | デメリット |
メール | 低コストのためすぐにスタートできる | 開封率は低い傾向にある |
DM | 広告やパンフレットを直接手にするため反応率が高い傾向にある | 作成や送付にコストがかかる |
電話 | 口頭で離反理由を探れる | 電話のタイミングによっては悪印象を与えかねない |
これらのチャネルは一つを選択するのではなく、複数のチャネルを選択するのが効果的です。
優良顧客へのアプローチも重要ですが、休眠顧客にアプローチすることで商品やサービスの改善ポイントが把握できるため、企業の成長のためにはどちらも重要といえるでしょう。
また、休眠顧客にアプローチして、再度顧客になってもらうことは新規顧客を獲得するよりもコストを抑えられます。
RFM分析を活用する際の注意点・ポイント
RFM分析を活用する際は次のような注意点・ポイントを意識しましょう。
- 単発のマーケティング施策を繰り返すだけにならないようにする
- カスタマージャーニーに基づいたシナリオを作成する
- 他の分析方法と組み合わせる
RFM分析の効果を得るためには、このような注意点やポイントを押さえておくことが大切です。特に他の分析方法と組み合わせることで、より精度の高い分析が可能になるため、RFM分析を行う前に把握しておきましょう。
単発のマーケティング施策を繰り返すだけにならないようにする
RFM分析では単発のマーケティング施策を繰り返さないようにしましょう。RFM分析の目的は優良顧客を増加させることにあります。グループごとに単発のマーケティングを行って終わらせてしまっては、十分な効果は得られません。
単発のマーケティングだけでなく、顧客を長期的かつコンスタントに商品やサービスを利用してくれる優良顧客にするために、ストーリーやシナリオに沿ったマーケティング施策を講じることが大切です。
カスタマージャーニーに基づいたシナリオを作成する
RFM分析の結果、各指標の数値が低かったとしても長期的に考えれば優良顧客になるケースはあります。そのため、カスタマージャーニーに沿ったシナリオを作成して顧客の育成に努めましょう。
カスタマージャーニーとは、顧客の行動や思考、感情の動きなどを時系列に応じて見える化したものです。カスタマージャーニーを作成することで次のようなメリットにつながります。
- 顧客の行動を俯瞰的に把握できる
- 顧客のフェーズごとのアプローチが可能になる
- 担当者間で顧客情報を共有しやすくなる
このようにカスタマージャーニーに基づくシナリオを作成することで、顧客への理解を深めた上で、顧客の育成が可能です。
他の分析方法と組み合わせる
RFM分析は他の分析手法と組み合わせることで、より有効な分析が可能です。RFM分析は少ない情報で顧客の分析が可能です。
しかし、3つの要素でしか顧客を区分けできないため、画一的な区分けになってしまいます。さらに、RFM分析は顧客の購買特性、将来の予測には不向きな傾向にあります。
RFM分析では直近に商品を購入している顧客が優良顧客として扱われるため、長期にわたって低頻度で商品を購入している顧客を見逃してしまうかもしれません。
このような顧客をフォローアップできないと、顧客離れにつながる可能性があります。そのため、RFM分析だけでなく他の分析方法と組み合わせてより詳細な分析につなげましょう。
RFM分析と組み合わせると効果的な分析方法
RFM分析のみで顧客を分析すると、分析結果が画一的になりかねません。そのため、RFM分析は他の分析手法と組み合わせて、より高い効果を得るようにしましょう。
RFMと組み合わせることで効果が期待できる分析方法とそれぞれの概要は以下のとおりです。
分析方法 | 概要 |
CPM分析 | RFM分析の項目に「初回の購入から最終購入までの経過日数」を追加 |
デシル分析 | 顧客を購入金額別に10のグループに分類 |
MRFI分析 | RFM分析の項目に「Item」を追加 |
RFMC分析 | RFM分析の項目に「Category」を追加 |
RFM-D分析 | RFM分析の項目に「Distance」を追加 |
ここでは、それぞれの分析方法について解説します。
CPM分析
CPM分析はRFM分析と同様に、顧客をグループに分けて、それぞれに適したマーケティング施策を講じるための分析手法です。顧客をグループ分けするという点はRFM分析と同様ですが、異なる点は分析項目です。
CPM分析では次のような項目を分析します。
- 購入頻度
- 購入金額
- 初回の購入から最終購入までの経過日数
- 最終購入日からの経過日数
RFM分析では通常顧客から休眠顧客となるまでの段階は追えません。
一方、CPM分析では通常顧客から休眠顧客になるまでの期間を分類可能なため、細かい分析やアプローチが可能です。
デシル分析
デシル分析では、顧客を購入金額別に10のグループに分類します。それぞれのランクごとに購買比率や売上の構成内訳などをデータから算出することで顧客の属性を把握することができます。
また、デシル分析では売上に対して各グループがどれだけの割合を占めているかを可視化できるため、どの層に対してアプローチするべきかの戦略が立てやすい特徴があります。顧客をグループ化する点においては、RFM分析に似た手法ともいえます。
デシル分析で用いる指標は購入金額だけであるため、RFM分析よりも簡単かつすぐに分析が可能です。
しかし、デシル分析は年に1回であっても多額の購入をしている顧客が優良顧客になってしまいます。そのため、取り扱うデータの期間には十分な配慮が必要でしょう。
MRFI分析
MRFI分析はRFM分析にItem(アイテム)を追加した分析手法です。購入金額や購入頻度、最終購入日からの期間に加えて、どの商品やサービスを購入したかを追うことで、顧客のニーズをより明確に把握することが可能です。
例えば、RFMの指標が同じような優良顧客の場合、Aという商品よりもBという商品を購入した顧客が多ければ、優良顧客はBを選びやすい傾向にあると判断できます。
RFMC分析
RFMC分析はRFM分析にCategory(カテゴリ)を追加した分析手法です。商品をカテゴリに分けることで、顧客がどのような商品を好むのか、自社の商品に何を望むのかが判断しやすくなります。
顧客の好みや商品に期待しているものが把握できれば、顧客のニーズに応じたアプローチや今後力を入れるべき商品のカテゴリなどがみえてきます。新商品を開発する上でも参考になるでしょう。
RFM-D分析
RFM-D分析は、RFM分析にDistance(エリア情報)を追加した分析手法です。ここでのエリア情報とは顧客の居住エリアと店舗までの距離です。
このようなエリア情報を、RFM分析に含むことで、近距離に住む顧客のリピート率向上や遠距離に住む顧客の離反防止策が講じられます。
RFM分析は、エリア情報が含まれていないため、近距離に住む顧客、遠距離に住む顧客どちらも同じように扱います。しかし、RFM分析の指標が同じような顧客の場合、遠距離に住む顧客の方が商品やブランドへの思い入れが強いといえるでしょう。
一方、近距離に住む購入頻度が高い顧客は、商品やブランドへの思い入れではなく、利便性の良さを理由に商品を購入している可能性があります。このように、RFM分析にエリア情報を追加することで、より多角的な分析が可能になります。
RFM分析を活用して効率的なマーケティングにつなげよう
マーケティングは、企業が商品やサービスを継続して販売していくために重要な要素です。このようなマーケティングを効率的に行う際に役立つのがRFM分析です。
RFM分析では購入金額や購入頻度、最後の購入からの期間で顧客を分類します。RFM分析で分類した顧客のグループに応じてマーケティング施策を講じられるため、無駄のないマーケティング戦略が立案可能です。
RFM分析であれば、少ない情報で顧客分析ができるので人的・時間的コストをかけずに分析を進められます。
RFM分析を実施する際は、課題に対しての仮説を立てるところからスタートします。その後顧客データを集計して分析をし、分析結果を基にマーケティング施策を講じて、PDCAを回していきます。
なお、RFM分析で得た結果に基づいたマーケティング施策は単発で終えないようにしましょう。コンスタントに商品やサービスを利用してくれる優良顧客にするために、カスタマージャーニーに沿ってアプローチしていくことが大切です。
また、RFM分析だけでは分析結果が画一的になってしまうため、他の分析手法も合わせて取り入れるのがおすすめです。
RFM分析では直近に商品を購入している顧客が優良顧客のため、長期にわたって低頻度で商品を購入している顧客へのフォローを怠ってしまうかもしれません。
そのため、CPM分析、デシル分析、MRFI分析、RFMC分析、RFM-D分析といった手法で、より高度な分析につなげていきましょう。