中古車販売・買取を請け負うビッグモーターは、創業者が一代で業界最大手へと成長させた企業です。しかし、2023年7月にビッグモーターの不正問題が連日報じられ、課題も浮き彫りになりました。
この記事では、ビッグモーターの経営戦略に見る成功までの道のりを紐解いていきます。また、課題の原因についても紐解きます。
目次
ビッグモーターとは
株式会社ビッグモーターの始まりは、兼重宏行氏が出身地の山口県で創業した「兼重オートセンター」です。わずか一代で従業員数が6,000人(2021年2月時点)の全国展開企業へ成長しました。
大型店舗を郊外に設置しているケースが多く、車に関することはすべて1つの店舗で完結するワンストップショッピング型であることが強みです。各店舗では中古車・新車の売買のほかに車検や一般整備、損害保険代理店としてトータルサポートを担っています。
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業界最大手に成り上がったビッグモーターの経営戦略
ビッグモーターは1976年に創業後、徐々に店舗を拡大しました。急成長を遂げたのが2013年以降だといわれ、2023年5月時点で300店舗を超える業界最大手へ成長しています。
中古車販売・買取業界でトップに登り詰めた、ビッグモーターの経営戦略2点について解説します。
- ラジオを中心とした積極的な広告活動
- 他者を圧倒する在庫数
ラジオを中心とした積極的な広告活動
集客を得意とするビッグモーターは、広告活動に力を入れていました。歴代のCMキャラクターには俳優の西村雅彦・大森南朋・佐藤隆太が起用され「車を売るならビッグモーター」のフレーズを耳にしない日はないほど、世の中に浸透しています。
広告活動において繰り返し同じ社名、フレーズを見聞きさせることは有効な手法です。脳にインプットされることをすりこみ効果(インプリンティング)といい、ビッグモーターはこうした積み重ねを経て、集客につなげていたと考えられます。
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他社を圧倒する在庫数
ビッグモーターは他社に劣らない圧倒的な在庫数を確保し、常時顧客の需要に対応できる体制ができていました。在庫を大量にストックしておくことで、品切れを防いで機会損失を減少させるメリットがあります。
同業他社のガリバー公式サイトによると、ガリバーは約2万台の自動車在庫、一方のビッグモーターはライバル社を大きく上回る約2万7千台の商品がヒットしています(2023年7月現在)。
そもそもビッグモーターは、2013年頃まで全国で約80店舗にとどまっていました。しかし中古車売買を取り扱うハナテンをグループ傘下においたことがターニングポイントとなり、関西を中心に勢いを増しています。結果、競合に負けない在庫数の確保に成功しました。
不正発覚でビッグモーターは経営の窮地に
着実に規模を拡大してきたビッグモーターに発覚した不正問題の数々が、今世間を騒がせています。保険金水増し請求に不正な整備が横行しているとして、メディアが実態を次々と報道しているのが現状です。
メディアから告げられている、ビッグモーターで発生したと思われる出来事は下記の3つです。
- 浮き彫りになった不正の実態
- 不正が起きた背景
- 不正による経営への影響
浮き彫りになった不正の実態
水増し請求が明らかになった発端は、2022年に発生した店舗従業員による社長への内部告発です。
告発当初は会社として大きく取り上げることはなかったものの、2022年2月以降にビッグモーターと取引のある損害保険ジャパン・東京海上日動火災保険・三井住友海上火災保険により実施された調査により、33ある工場のうち25箇所から合計80を超える水増し請求が発覚します。
これら3つの損害保険会社は「修理費の請求書類」をサンプルとし、過剰な自動車修理による費用の水増し請求の事実を明らかにしました。
その後、損害保険会社が追加調査の必要性を訴え、ビッグモーター側の再調査を経て結果的に関東の4工場が同様の不正行為をはたらいていたことも判明しています。
また、ビッグモーターの幹事会社である「損害保険ジャパン」のみが、追加調査の途中段階で事故車の受け入れを再開したことも問題視されました。
また、2023年5月には、ビッグモーターのとある店舗で横行していた不正請求を週刊誌が報道しました。その際、工場長らしき人物が、故意に見えないようにタイヤへ穴をあけるレクチャー動画が流出しています。整備・修理費用のかさ上げが横行していたとして、世間から大バッシングを受ける事態になりました。
参考記事
・ビッグモーター、自動車保険不正請求事件の調査報告書受領を発表|企業法務ナビ
・保険の「不正請求疑惑」めぐり大手損保が大揺れ|東洋経済オンライン
・金融庁、ビッグモーターと損保各社に報告命令へ|東洋経済オンライン
・【証拠動画を初公開】生々しい指示が飛び交う…中古車販売大手・ビッグモーター「穴あけ動画」の全貌|Yahoo! JAPANニュース
不正が起きた背景
不正の背景には、ビッグモーターの厳しいノルマ制度が大きく関係しています。不正発覚後、関係者が続々と声を上げて明らかになった社内の実態は驚くべきものでした。
板金・塗装案件では1台あたり14万円前後のノルマを課せられており、達成できなければ降格や左遷などの厳しいペナルティを受けます。
そもそも車両の修理工賃は損傷状態によって決まるもので、ノルマを課すことは不合理な行為です。数々の不正の元にあるのは、厳しいノルマ制度であったと推測されます。
参考記事
・修理ノルマ、1台当たり14万円 ビッグモーター不正で調査報告書|Yahoo! JAPANニュース
・ビッグモーターと損保ジャパン、不正請求の蜜月|東洋経済オンライン
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不正による経営への影響
2023年7月18日にビッグモーターは、公式サイト上で報告文書を公開しています。一連の不正問題に関する調査結果や今後の取り組みについて詳しく記され、返金についても対応する方向で整理されています。また、社長をはじめとする全取締役の報酬返上を実施する旨が発表されました。
そのほか方々へ影響を及ぼし、6年以上CMキャラクターを務めた俳優の佐藤隆太が契約を解除したことも話題です。
ビッグモーターは、これまで培ってきた信用を一瞬で失うことになりました。今後の経営では、失った顧客をいかに取り戻せるかが重要です。
参考記事
・当社板金部門における不適切な請求問題に関するお詫びとご報告|ビッグモーター
・【ご報告】ビッグモーター 広告契約について|ケイファクトリー
ビッグモーターの問題から分かる”顧客満足経営”の重要性
一気に世間の信用を失ったビッグモーターの問題の裏で、経営における顧客満足(CS)の大切さが見えてきます。
スローガンに”顧客満足経営”を掲げる企業は多数存在する一方、精神論に終わってしまうことが多いのも事実です。具体的に何をすればよいのか、基礎的な考え方を3点解説します。
- すべての判断基準は顧客視点
- サービスの質向上を追求
- 徹底したアフターフォローによる信用獲得
関連記事:【顧客を離さない】「ファンベースマーケティング」とは?「パレートの法則」との関係も徹底解説!
すべての判断基準は顧客視点
開発・販売・接客など、経営のあらゆる場面を顧客視点で考えましょう。企業側の目線で物事を取り進めることは、一時の利益につながるかもしれません。
しかし、企業にとって都合のよいことは、顧客からすると都合が悪いという評価になるケースは少なくありません。顧客満足度が低いとリピーターはつかず、その場しのぎの経営になりがちです。
ビッグモーターは企業の利益を過度に優先した結果、顧客のみならず従業員満足度も十分に得られなかったといっても過言ではありません。
サービスの質向上を追求
顧客の心を掴むために念頭に置いておきたいのが、日常的にサービスの質を向上させることです。同業他社と差別化を図るために、商品価値はもちろん、提供するサービス内容に目を向けてみましょう。
接客業だけでなくとも、直接顧客と顔を合わせたり、電話やテキストで会話したりと、コミュニケーションをとる機会は多くあります。ルーチン業務の中で少しでも不信感を与えてしまえば、顧客の中に「企業=悪いイメージ」が生まれてしまうでしょう。
現状に満足せず、アンケートやコミュニケーションを通して常にサービスの質を追及することは、他社と差別化して顧客を獲得する有効な手段です。問題のビッグモーターにおいても、サービス内容を見直して現状を打破することが望まれています。
徹底したアフターフォローによる信用獲得
商品を提供して対価を受け取った後の行動にも、企業の本質があらわになります。たとえばクレームを受けたときに後に回したり、ぞんざいに対応したりすることはやめましょう。SNSが普及する今、特に悪い口コミは強い拡散力を持っています。
事実、SNSユーザーによるビッグモーターの悪い口コミはいたるところで目に入ります。それを見た別のユーザーが拡散し、企業のマイナスイメージは大きく波及したのち定着してしまうでしょう。
単に売って終わりではなく、きめ細やかなアフターフォローまで対応できてこそ、企業は信用を得られます。そして信用を得た後も、ささいなことにも迅速に対応する徹底した教育が大切です。
まとめ|ビッグモーターの今後の動向に注目したい
兼重宏行氏は2023年7月26日付けで社長を辞任し、後任には専務取締役の和泉伸二が就任するとの発表がありました。
急激な成長を経て大手へと登り詰めたビッグモーターは、問題が浮き彫りになったことで経営の窮地を迎えています。今後の動向に注目しましょう。