企業の成功は、製品開発や革新的なビジネスモデルの導入だけで実現できるものではありません。
どんなに優れた仕組みや装置も、それらを動かすのは人です。
特に組織内の指導者層が優れていなければ、成果を得るのは難しいでしょう。
マネージャーは、経営者層などのトップマネジメントに代わり、現場社員たちの陣頭指揮を執る指導者として重要な役割です。
この記事では、マネージャーが担う役割と求められる能力、そして優秀なマネージャーを育成するための心得について解説します。
目次
マネージャーの役割とは?
企業全体の経営計画を作成するのは社長を含む経営層の役割ですが、経営計画通りに実行していくうちに、計画にはなかったさまざまな事象が発生するものです。
特に変化が激しく不確実性が多い市場環境では、トップマネジメントの計画通りに物事が進むことはほとんどなく、現場では日々想定外の事態に対処していく必要があります。
この「計画外の事象への対処」こそが、マネージャーの役割です。
「計画外の事象」というと、トラブルや好ましくない事態を想定しがちですが、マイナスなシーンばかりではありません。
「顧客の声からビジネスチャンスのヒントを得る」という事象や、「製品開発チームが経営陣も思いつかなかった画期的商品の開発に成功する」といったように、会社全体の命運をも変えてしまうようなポジティブな事象が起こることもあります。
こうしたポジティブな機会の芽を潰してしまうことなく「チャンスだ」と見抜き、上層部へ報告することもまた、現場のマネージャーの役割です。
経営には、トップマネジメントが全体観をもって練り上げた計画と、現場からボトムアップで上がってくるアイデアの相互作用が重要とされています。
いずれにせよ、マネージャーの役割は、ただ単に「経営層の指示に従うこと」ではなく、「経営者に代わり、現場のリーダーとして日々の事象に対処すること」、「部下のバックアップや人材育成」、そして「現場の声をトップマネジメントへ伝えていくこと」だと言えるでしょう。
マネージャーに求められる能力について
マネージャーは、部下やチームメンバーのモチベーションを維持し、生産性を最大化することが重要なミッションです。
そのために、以下のようなさまざまな能力が必要とされます。
- 自律的精神
- 論理的思考力
- メンタルタフネス
- 指導力
以下、それぞれの詳細について説明します。
1.自律的精神
経営者に代わって現場で起こる計画外の事象に対処し、また独自の見解を持って経営層へ進言していくためには、「上を見て仕事をする」ようなイエスマンではいけません。
経営者に代わって独自の判断を行う自律性が求められます。
経営者の指示を現場に伝えるだけのマネージャーであれば、今後AIに取って代わられていくでしょう。
ただ単に上の考えをコピーしたような行動ではなく、マネージャー自身が「独自の考え」を持って現場の問題に対処していくからこそ、部下もマネージャーを信頼して行動するようになり、強いチームが作られていくのです。
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2.論理的思考力
現場のトラブルに対する適切な対処はもちろんのこと、部下が発案した良いアイデアを見抜いたり、顧客の声からヒントを見出すためには、論理的思考に基づいて判断する力が求められます。
たとえ営業マンとしてどれだけ営業成績が良かった社員であっても、最低限の論理性を持ち合わせず、直情的な判断を下すタイプであれば、マネージャーとして現場の判断を任せるのは難しいでしょう。
「優秀なプレーヤー」と「優秀なマネージャー」とを分ける違いの一つが、この「論理的思考ができるかどうか」であると言えます。
3.メンタルタフネス
メンタルタフネスとは、困難な状況でも自己を制御し、目標達成に向けて最善を尽くす精神的な強さを指します。
マネージャーとしての役割には、ストレスや不確定性が常に伴います。
計画通りに進まないプロジェクト、パフォーマンスが伸び悩む部下、予期せぬ市場の変化、そして組織の内外からのプレッシャーなど、マネージャーはさまざまな困難に直面します。
こうした状況に対処し、部下や組織をリードするためには、マネージャー自身がメンタルタフネスを持つことが重要です。
メンタルタフネスを持つマネージャーは、自分自身の感情をコントロールし、困難な状況においても冷静かつ論理的に思考し、適切な行動をとることができます。
また、メンタルタフネスは部下にも大きく影響します。
マネージャー自身が困難に対して冷静に対処し、ポジティブな態度を保つことで、部下も同様に困難な状況に対する対処能力を向上させ、組織全体のレジリエンス(困難に対する回復力)を強化することが可能となります。
4.指導力
マネージャーはプレーヤーと異なり、部下のやる気を引き出し、部下同士の結束を強めることで、相乗効果で何倍もの力を発揮させることを求められます。
したがって、部下と信頼関係を獲得し、適切な指示を出したり、人材を育成できる指導力が大切です。
「部下とコミュニケーションを深めて信頼を獲得する能力」は、上司から気に入られる力や同僚と協調的に動く力とは別物です。
ゆえに、「上司や同僚からの好感度が高い人材」をマネージャーに任命しても、そうした人材が部下に対して指導力を発揮できるとは限りません。指導力を持った人材は慎重に見極める必要があります。
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優秀なマネージャー育成の方法について
マネージャーには、上司だけでなく同僚や部下、顧客からも評価される資質が求められます。
育成にあたっては、「実務」と「座学」の両面からアプローチしていきましょう。
以下、実務的なアプローチと座学的なアプローチについて、それぞれ具体的な手法を紹介します。
1.実務を通じたアプローチ
マネージャー経験豊富なベテラン社員が、マネージャーに就任したばかりの社員に指導を行うという方法が効果的です。
この指導の中では「答えのある仕事のやり方」よりも、「答えのない状況の中でどのように考え、判断するか」に重点を置きます。
まずは自身の頭で考えて行動させ、それについてベテランのマネージャーからフィードバックを与えていきましょう。
また、異なる部署やプロジェクトの経験を複数積ませて、社内全体の利益を視野に入れて判断できる「ゼネラリスト」としての素養を身につけさせることも重要です。
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2.座学を通じたアプローチ
座学では、マネージャーとしてのスキルを積むためのトレーニングセミナーでマネジメントスキルやリーダーシップ理論を学ばせます。
座学で学ぶ知識を「机上の空論」と軽んじる声もありますが、数多くの先人たちのトライアンドエラーから確立されてきた理論です。
実務だけでは一人の人間が一生かけても体験できないメソッドを得ることを可能にします。
また、座学と言ってもただ一方的に話を聞くだけではなく、例えば、過去の事例に基づいたケーススタディを通じ、グループディスカッションなども一般的です。
複数のマネージャー同士で意見を交わすことで、単純な正解のない、複雑な問題に論理的な判断を下す思考力を養う効果が期待できます。
まとめ
マネージャーの役割は、トップマネジメントの経営計画を具現化するとともに、計画外の事象に対処することです。
また、部下育成・経営層への現場の声のフィードバックといった役割も欠かせません。
マネージャーには自律的な精神、論理的な思考力、メンタルタフネスそして指導力といった要素が求められます。
優れたマネージャーを育成するためには、実務はもちろん、座学面からのアプローチも重要です。