従業員が次々に辞めてしまう状況というのは、企業にとって生産性の低下や追加的な採用コストの増加、そして社内の雰囲気の悪化など、さまざまな悪影響をもたらします。
離職率が高い状況であれば、離職者が次々と現れる原因を突き止め、適切な対処を行わなければなりません。
この記事では、離職率が高い職場に共通する要因について解説するとともに、離職率を下げる方法も紹介していきます。
目次
日本全体の離職率の平均は14.2%
厚生労働省のまとめた『令和2年雇用動向調査』によると、2020年の日本の常用労働者(短期や臨時の場合を除いた労働者)全体での離職率の平均は「14.2%」であり、おおむね「7人に1人」が1年間のうちに離職している計算となります。
離職率は業種や企業規模によっても大きく異なりますが、特に離職率が高い宿泊業・飲食サービス業などにおいては20%台後半に達しており、計算上は1年間のうちにおよそ4人に1人以上が離職しています(厚生労働省『令和2年雇用動向調査結果の概況』)。
離職率が低い会社は、従業員の満足度や忠誠心が高い傾向があります。
一方で、自社の離職率が業界の平均や同じ規模の企業の平均に比べて高い状況であれば、従業員が不満を感じるもととなる、労働環境上の問題が存在すると考えたほうがよいでしょう。
高い離職率につながる6つの原因
離職率が高い企業には、以下のような要因がみられます。
- 低い賃金体系
- 労働条件の悪さ
- 人間関係の問題
- キャリアアップの機会不足
- 仕事のやりがい・達成感の不足
- 組織のビジョンや方針に共感できない
以下、詳しく解説していきます。
1.低い賃金体系
人が仕事をするモチベーションに関して、やりがいや人間関係もちろん大切ですが、そもそもの目的は労働の対価としてお金を貰うことです。
給与水準が一定額以上を下回ると不満を覚えるのは自然なことと言えるでしょう。
個人の生活はもちろん、家族を養う上で一定額以上の収入は必要不可欠となります。
従業員が「自分の働きに見合った報酬を受け取れていない」と感じれば、やはり他の企業や業種への転職を検討するようになるでしょう。
2.労働条件の悪さ
長時間労働や無理なスケジュール、過剰な業務負担がかかる職場では、従業員のストレスが増加し、健康状態をも悪化させてしまう要因となりえます。
ストレスの存在自体が従業員の離職につながってしまうのはもちろん、離職する気がなかった従業員が心身の不調をきたしてしまって仕事を続けられない状態となり、結果的に離職してしまうケースも少なくありません。
3.人間関係の問題
職場に限らず、人間にとってのストレス要因となりうるものの中でも最たるものが人間関係の問題です。
職場内の対人関係の悪化やハラスメント、上司と部下のコミュニケーション不足などが労働者のストレスにつながります。
また、人間関係の問題はすでにご説明した賃金体系の低さや労働条件の悪さと併発して生じることもあります。
というのも、賃金や労働条件が良くない職場でストレスを溜めた従業員が精神的に追い込まれた結果、より立場の弱い従業員に対して八つ当たりしてしまうというケースが少なくないからです。
こうした仕事環境の悪化は、労働者が退職を決意することにつながります。
4.キャリアアップの機会不足
スキルアップや昇進の機会が少ないことは、労働者が将来への不安を感じ、ほかの企業への転職を決意する要因となりかねません。
キャリア意識が強い従業員ほど、たとえ給料や労働時間に不満がなくても、「勤め続けることで自分のキャリアが発展するイメージが持てない」と感じれば、ほかの企業へ転職を検討することが多いです。
5.仕事のやりがい・達成感の不足
労働者が仕事に対する情熱や達成感を感じることができない環境では、数年単位でやる気を維持することは難しく、結果として退職を考えることつながります。
たとえば、仕事内容が単調で日々同じような業務の繰り返しである場合、やりがいや達成感を感じられず、従業員は「何年もこの仕事をし続けるのは嫌だ」という感覚を持ってしまうことがあります。
これは、一人あたりの業務を細かく細分化してルーティンにしている大企業でもみられます。
たとえ十分な報酬をもらえていたとしても、単調な仕事がずっと続くと従業員のモチベーションが低下してしまうという事実は、労働者のマネジメントに関する欧米の研究などでも実証されている事実です。
したがって、単調な業務をこなすばかりの職場で従業員の離職が増えるのは自然な流れと言えます。
6.組織のビジョンや方針に共感できない
従業員が自分が働く企業や組織の目標、価値観、戦略について理解・同意できず、心から支持できないことは、離職率に悪影響を与える要因となります。
たとえば、「3年以内に業界ナンバーワンの売上を目指すぞ!」と言われても、従業員としては「この会社が業界ナンバーワンになったところで自分のキャリアに何の見返りがあるのか?」と考えても不思議ではありません。
上の例のように組織のビジョン・方針に従業員が共感していない状態で、「業界ナンバーワンを達成するために業務量を倍増させます」となれば、従業員としては「なぜ自分に関係のない組織の目標のために自分たちの仕事量を増やされなければならないのか」と反発心を覚えかねません。
納得できなければ他社への転職を考える結果につながるでしょう。
離職を防止するための6つの対処法
高い離職率につながってしまうそれぞれの原因については、以下のような対処法が有効です。
- 業界標準をベンチマークとした賃金体系の定期的な見直し
- 労働時間・労働環境の適正化とワークライフバランスの支援
- ハラスメント対策の徹底(相談窓口の設置等)
- 研修制度・社内異動・ローテーション制度の導入
- 従業員目線に立ったビジョン・方針の設定
- 従業員の健康診断・ストレスチェック実施
以上、それぞれの詳細について解説していきます。
1.業界標準をベンチマークとした賃金体系の定期的な見直し
賃金体系について、業界標準をベンチマークとした定期的な見直しを実施します。
また、従業員全体の給与水準を増やすことが難しい場合には、業績に連動したインセンティブ制度を導入するなどの施策を通じて、労働者のモチベーションの向上を図るという手段があります。
昇給制度や賞与制度を見直し、労働者の貢献に応じた報酬を提供するのも一手です。
入社したばかりの社員に高い給与を支払うのが難しくても、一定期間経過後に昇給するような賃金体系になっていれば、入社したばかりの社員も昇給のタイミングをモチベーションにして頑張ることができます。
そのほか、公平な評価基準を設けて従業員に適性な賃金を払うことや、社内福利厚生制度を充実させて労働者の満足度を高めることも検討しましょう。
福利厚生制度に関しては、自社で独自に用意することが難しければ、福利厚生を代行するサービスにアウトソーシングすることもできます。
2.労働時間・労働環境の適正化とワークライフバランスの支援
労働時間の長さは従業員の心身の疲労に直結する要素です。
そこで、労働時間の適正化や柔軟な勤務体制の導入、休日や休暇制度の見直しを行い、従業員が働きやすい環境を整えることが大切になってきます。
働きやすい環境作りの一環として、テレワークやフレックスタイム制度を導入し、従業員のライフワークバランスを考慮した働き方を支援する、という方法があります。
会社への通勤距離や生活スタイルによっては、在宅で仕事をできたり午後からの出勤とすることで、従業員の心身の負担を大幅に減らせる可能性があります。
近年では、転職活動においてテレワークやフレックスタイム制度の有無を企業選びの基準としている人も多くなっています。
したがって、これらの制度を導入することは離職率対策としてだけでなく、自社に人材を集めるための施策としても効果的です。
3.ハラスメント対策の徹底(相談窓口の設置等)
パワハラ・セクハラ等のハラスメントは、加害する側が悪気を持っていないことも多くあります。
特にパワハラの場合、「指導のためだった」「相手のためを思ってやったつもりだった」と、正義感が引き金となっている場合もあるのが現状です。
意図はどうあれ、ハラスメントという行動が職場内で絶対に起こってはならないことを徹底する必要があります。
やってはならない言動を具体的に周知するために、管理層を中心としたコミュニケーション研修を実施し、職場内のルールを明確化するべきでしょう。
さらに、職場内で起こってしまっているいじめやハラスメントに厳正に対処するために、相談窓口を設置して、隠れた問題行為を把握することも大切です。
相談窓口の設置にあたっては、職場内でコンプライアンス対応を専門とする部署を用意するか、あるいは労働問題を専門に扱う弁護士事務所などといった外部の専門家に委託することも可能です。
こうして、従業員が人間関係に悩むことなく業務に専念できる環境を整えることで、離職率の改善はもちろん、職場の生産性自体を改善することにもつながります。
4.研修制度・社内異動・ローテーション制度の導入
従業員が将来に希望を持てるようにするために、スキルアップや昇進の機会を提供することは大切です。
充実した研修制度は、従業員が自己成長を実感できる環境作りに役立ちます。
また、社内異動やローテーション制度を導入することで、従業員が「自分自身でキャリアを選べている」と感じられる環境にすることも重要です。
こうすることで「この仕事も先が見えてきたから他の職場に移ろうか…」と感じさせず、会社にとどまってもらう効果を期待できるでしょう。
こうして多様なキャリアパスを社内に用意することは、離職率の改善のみならず、従業員が異なる部署や業務で経験を積む機会を提供し、社内の人材の質を向上させるのに役立ちます。
従業員の成長のためにできるほかの施策としては、キャリアカウンセリングやキャリアプランニング支援など、いわゆる「進路指導」にあたる施策を実施し、従業員のキャリア形成を会社側の意向に沿う形で支援する方法も良いでしょう。
また、業務外でのスキル向上や資格取得を奨励するなどの方法も挙げられます。
5.従業員目線に立ったビジョン・方針の設定
組織のビジョンや方針は、“社長にとっての願望”を反映しただけの内容では従業員の共感を得ることは難しく、“従業員の生活や人生に関わるビジョン・方針”を設定することが求められます。
これが実現できてこそ、従業員たちの協力を引き出すことができるでしょう。
たとえば、「会社に貢献した従業員に子会社社長のポストを与えるために、皆で会社の業績を拡大して子会社をいくつも立ち上げていこう」という方針を掲げれば、会社を経営する立場を経験したいと考えている従業員の共感を呼び、協力を得られる可能性があります。
このように、社長や経営陣自身が達成したい目標と従業員の利益とが一致するビジョン・方針を考えることが大切です。
6.従業員の健康診断・ストレスチェック実施
体調不良が原因でのドロップアウトを防ぐために、定期的な健康診断やストレスチェックを実施して、従業員の健康状態を把握することも大切です。
従業員向けの健康管理プログラムやメンタルヘルスケアの支援を提供し、継続的なケアを行っていきましょう。
さらに、従業員の心身の不調につながる根本要因を解決するために、労働時間の適正化や、適正な休憩時間の確保も大切です。
職場環境を改善し、ストレス軽減に勤めることで、従業員の心身の健康を維持・向上させていきましょう。
まとめ
労働者の離職率が高くなってしまう原因として、今回の記事で触れた
- 低い賃金体系
- 労働条件の悪さ
- 人間関係の問題
- キャリアアップの機会不足
- 仕事のやりがい・達成感の不足
- 組織のビジョンや方針に共感できない
という6つの要素が存在します。
企業は、従業員のニーズや期待に応えることができる環境を整えることが重要です。
賃金や労働条件の改善、キャリアアップの機会の提供、職場環境の改善などを通じて、従業員が働きやすく、やりがいを感じられる職場を作り上げることが求められます。