現代の労働市場では、企業を評価するにあたって、離職率が重要な指標となっています。
離職率は、業界や企業の働きやすさや労働環境を評価する際に用いられることが多く、従業員の満足度や企業の競争力にも関係する要素です。
本記事では、業界別の離職率の平均について説明するとともに、離職を防ぐ方法についても解説します。
目次
離職率が高い業界・低い業界はどこ?
厚生労働省が令和3年に発表した調査によると、大卒の新規就職者の3年以内離職率について、離職率ワースト5位の業界は以下の5業界となっています。
- 宿泊業・飲食サービス業 ・・・51.5%
- 生活関連サービス業・娯楽業・・・46.5%
- 教育・学習支援業 ・・・45.6%
- 医療・福祉 ・・・38.6%
- 小売業 ・・・37.4%
これらの業界では、労働条件が厳しいことや労働時間が長いこと、また、さまざまな客層の消費者と対面し、直接クレームを受けたり、ストレスフルな対応を迫られる機会が多いことなどが、高い離職率につながっていると考えられています。
一方で、離職率が低い業界としては、以下の5業界が挙げられます。
- 電気・ガス・熱供給・水道業 ・・・11.1%
- 鉱業・採石業・砂利採取業 ・・・11.5%
- 製造業 ・・・19.0%
- 複合サービス事業(郵便局・農協)・・・25.8%
- 金融業・保険業 ・・・24.2%
ご覧の通り、社会インフラに携わる業界やBtoBで消費者と直に接しない業界の離職率が低い傾向にあるということが分かります。
離職率が高い業界と低い業界、それぞれの共通点については以下で説明していきます。
関連記事:離職率の高い・低い業界ランキングTOP5!【共通点も紹介】
離職率が高い業界の特徴
先述した離職率の高い業界の特徴として、
- 労働時間が長い
- 消費者との接点が多い
- 給与が低い
- 人間関係のトラブルが多い
というものがあります。以下で詳しくみていきましょう。
1.労働時間が長い
離職率が高い業界に共通する特徴として、「労働時間が長い」というものがあります。
労働時間の長さは、従業員の肉体的・精神的疲労度やプライベートで過ごす時間の短縮などに直結する要素です。
したがって、労働時間が長くなりがちな業界の離職率が高いのは、ある意味自然なことと言えます。
特に、宿泊業など「季節的な需要の変化に大きく左右される」業界では、需要が高まるピーク時期には人手不足となることが多く、労働時間が普段以上に長く、過酷な労働状況となりがちです。
2.消費者との接点が多い
宿泊業や飲食サービス業、小売業、娯楽業などには特に当てはまる話ですが、接客で消費者と接する機会が多く、「客を選べない」業界は、離職率が高い傾向にあります。
さまざまな客層を相手にするということは、それだけクレームを受けたり理不尽な目に遭う機会も多いということであり、ストレス源となりえます。
基本的に従業員の側が消費者よりも立場が弱いこともあり、消費者から無下に扱われる場面も多く、不満が溜まりやすいことが離職率の高さにつながってきます。
3.給与が低い
医療系や福祉系を除いては専門的な知識・技能を求められない分、ある意味では「人材の替えが効きやすい」業界であるため、賃金水準が低く抑えられがちです。
ストレスが多い割に給与が低ければ「やっていられない」という感情になるのも自然であり、長くコミットするモチベーションを保ちにくく、離職率の高さにつながりやすくなっています。
4.人間関係のトラブルが多い
上にあげた業界ではパワハラ・セクハラや同僚同士のトラブルなど、人間関係上の問題が多く報告されています。
特に労働時間や待遇が劣悪な職場だと、従業員の心が荒みやすく、そのストレスのはけ口が立場の弱い従業員に向かってしまいがちです。
また、従業員に専門知識や技能が求められず、「替えがいくらでもいる」という考え方が蔓延している職場も少なくなく、社員間のいじめやパワハラ・セクハラが激しくなりがちな要因となっています。
離職率が低い業界の共通点
記事の前半で挙げた離職率の低い業界には、以下のような特徴があります。
- 安定した業績と将来性
- ワークライフバランスの重視
- 充実した給与と福利厚生
- 豊富なキャリアアップの機会
- 消費者と直接関わる機会が少ない
- 良好な人間関係
それぞれについて詳しく説明していきます。
1.安定した業績と将来性
離職率が低い業界は、社会的なインフラなどに根付いていて競合が少なく、景気変動に業績が左右されず、安定している傾向があります。
将来的にも業績が悪化する可能性が低く、雇用を脅かされる心配が少ない分、従業員の立場としては目先の心配をせず、長期的な視点でキャリアを見据えられます。
安定した業界であれば、従業員は不安感を抱かず、安心して勤められます。
また、企業が従業員の雇用を守ろうとする姿勢は、従業員から忠誠心や愛社精神を抱かれやすく、結果として離職率の低さにつながってきます。
2.ワークライフバランス
従業員にとっての「働きやすさ」にコミットしている企業は、従業員側としても高い満足度が維持されます。
そのため、他の業界への転職を考えにくくなり、離職率が低く抑えられるのです。
残業時間の徹底した管理、有給休暇の取得促進など、従業員の働きやすさへの配慮が手厚いと、従業員は疲労やストレスを蓄積しにくく、不満を溜めずに長く勤める傾向があります。
また、従業員にとってストレスとなりうる、無給の飲み会、勉強会、接待イベントなどへの参加の強要も、ワークライフバランスが充実している業界では厳しく管理されていることが多いです。
従業員の人権への配慮が徹底されています。
関連記事:ワークライフバランスとは?従業員や企業のメリットや注意点、導入事例を徹底解説!
3.競争力のある給与と福利厚生
離職率が低い業界では、全体的に給与水準が高く、福利厚生も充実しています。
保証が手厚い企業は、家族を養う従業員にとっても安心材料となるため、従業員としては「可能な限り長くこの会社で働こう」というモチベーションを抱きやすくなります。
4.キャリアアップの機会が豊富
離職率が低い業界では働くストレスを低く抑えているだけでなく、従業員の「やりがい」や「キャリア形成」にも配慮しています。
そのため、従業員にとって自己実現の欲求を満たしやすい環境が整っているのです。
従業員の成長やスキルの向上に重点を置いており、研修制度や資格取得の補助、スキルアップのプログラムなどの整備が進んでいます。
こうした企業では、従業員が長期的なキャリアパスを描くことができ、将来に希望を持って働き続けることができるため、結果的に離職率が低下します。
5.消費者と直接関わる機会が少ない
接客業などとは対照的に、離職率が低い業界はBtoBの会社が多く、消費者と直接接する機会が少ない傾向にあります。
前章でも述べた通り、接客の機会はストレスの多さにつながるため、やはり接客が少ない業界は不満が溜まりにくく、離職率の低さにつながっています。
6.良好な人間関係
離職率が低い業界では、会社がパワハラやセクハラなどの撲滅に取り組んでおり、上下関係を起因とした人権侵害がない環境作りに積極的です。
また、給与や福利厚生が充実しており、接客などでストレスを溜めることも少なく、労働時間なども厳密に管理されている分、一人ひとりの従業員に精神的な余裕があるのもポイントです。
これにより、他の従業員へ攻撃的な接し方をすることも少なくなります。
人間関係はストレスの最大要因のひとつであるため、人間関係が良好であることは離職率の低さに直結します。
関連記事:人間関係もマネジメント職の重要課題!問題の原因と解決法を伝授
離職率を抑えるためにできる3つの対策
離職率の高い業界と低い業界、それぞれの特徴をふまえた上で離職率を抑えるためにできることとしては、以下の3つがあげられます。
- 従業員のワークライフバランスを守るための施策
- 社員の多様性の尊重
- 長期的なキャリア形成の支援
離職率が高い業界に属している企業の中でも、これらの取り組みを徹底することで、離職率の低減に成功しています。
以下、上記3つの施策についてそれぞれ詳しく説明していきます。
1.従業員のワークライフバランスを守るための施策
ワークライフバランスの改善につながる取り組みとしては以下が挙げられます。
- フレキシブルな勤務スケジュール:
時差出勤やコアタイム制度、テレワーク - 休暇制度の充実:
有給休暇の推進や育児・介護休暇の導入、リフレッシュ休暇の導入 - 労働時間の適切な管理:
残業時間の上限設定や労働時間の可視化、“ノー残業デー”の設定などを通じた残業時間の削減 - 職場環境の改善:
快適なオフィス環境の整備、パワハラ・セクハラ防止、接客等の業務によるストレスを軽減するためのストレスケアの仕組みなど - 社員の健康管理の充実:
定期検診やストレスチェック、メンタルヘルス対策など - 上司・部下のコミュニケーション促進:
定期的ミーティングやフィードバックを実施し、従業員の意見や要望に耳を傾ける
いずれの施策においても、「経営陣が推進していても現場には浸透していない」という形骸化した状態にならないよう、現場の役職者の協力を求めることが大切です。
2.社員の多様性の尊重
離職率が低い業界では、企業が多様性と包摂性を重視しています。
性別・年齢・人種・文化・能力などの違いを尊重し、従業員が自分らしく働ける環境が整っていることで、従業員の満足度が高まります。
3.長期的なキャリア形成の支援
企業が社員のキャリア形成を支援するために取り組むべき方法や施策としては、以下のようなものが挙げられます。
- 研修・教育プログラムの提供:
従業員が新しいスキルや知識を習得できる研修や教育プログラムを提供しましょう。
オンボーディング研修、専門スキル研修、リーダーシップ研修など、幅広い研修プログラムを用意することが大切です。 - メンター制度の導入:
経験豊富な社員がメンターとなり、新入社員やキャリア形成に悩む社員をサポートする制度を導入しましょう。
メンターはアドバイスやフィードバックを提供し、従業員の成長を促します。 - 社内公募制度の導入:
社内の昇進ポストや異動ポストを公開し、希望する社員が応募できるような制度を用意することで、従業員が自分のキャリアに対する意識を高める機会を提供します。
近年は、ワークライフバランスや人間関係が良好ないわゆる「ホワイト企業」であっても、「自己成長やキャリアアップのために転職したい」と考える社員が若手層を中心に増えている傾向があります。
したがって、上記の施策を実施することで、ただ単に目先の不満を取り除くだけでなく、「長期的視点でキャリアアップを図れる企業」と認識してもらうことが大切です。
まとめ
離職率が高い企業は、宿泊・サービス業を中心に消費者との接点が多いことからストレスを受ける機会が多く、それに伴って長時間労働や人間関係上のトラブルが多い傾向にあります。
また、社員の目から見て「長期的なキャリアを実現できる環境なのか」という点に疑問を持たれることも多々あり、これらの要因が離職率の高さにつながっていると考えられます。
たとえ離職率の高い業界の中にあっても、上記の問題について対策を実施している企業では、離職率を低く抑えることに成功している企業が多く見受けられます。
社員の心身にストレスを与える要因を取り除くとともに、社員の長期的なキャリア形成を支援して「未来に希望をもてる会社にする」ことがカギとなるでしょう。