2020/01/31

組織の知識を力にするSECIモデルとマネジメントの力

「畳水練」という言葉があります。

畳の上で泳ぎを説明しても、なかなか理解できないということです。泳げるようになるには、とりあえずは水のあるところに行ってみて、実際に飛び込み、手足を動かしてみなければならず、そうしてはじめて、私達は泳げるようになります。

つまり、言葉にできない知識やノウハウが確かに存在するのです。
この言葉にできない知識は、一般に「暗黙知」と呼ばれます。そして、言葉にできる知識は「形式知」。知識はピラミッドのように、頂点の形式知の下に、膨大な暗黙知が積まれているのです。

そして、知識が組織から生まれることをモデル化しているのが、「SECI(セキ)モデル」です。今回は、古くて新しい概念であるSECIモデルと、組織マネジメントのパワーをみていきたく思います。

 

SECIモデルの4つのプロセス

 

SECIモデルとは、日本を代表する哲学者・西田幾多郎先生に起源を持ちます。哲学。そう、哲学から派生した考え方なのです。また、SECIモデルを詳しく解説した書籍に「知識創造企業」(野中郁次郎、竹中弘高 著)があります。同著を書いたひとり、一橋大学名誉教授でナレッジマネジメントの権威である野中先生はいいます。

「暗黙知は表現し難く、他人に伝達して共有は難しい。主観に基づく洞察、直感、勘がこの知識のカテゴリーに含まれる。個人の行動、経験、理想、価値観さらには情念などにも深く根ざしている」

と。

すでに知っている形式知を、そのまま部下や同僚に伝えることは比較的容易です。なぜなら、言葉にできるからです。一方で、畳水練の例にあるように、泳ぎ方を口頭で伝えるのは極めて困難であるばかりか、不可能に近いのではないでしょうか。

しかし、現代の知識社会では、組織もまた知識でできており、その格差が競争力を分けます。ただ、その知識が、企業内でどう醸造されるのか、解き明かされていなかったのです。同著はナレッジマネジメントの権威・野中氏とハーバードビジネススクールの教授・竹中氏の共著として日本企業の事例を参照しながら、知識創造が理論化されており、高い評価を得ています。

それによると、SECIモデルは、4つのプロセスに分かれます。

  • 共同化(暗黙知→暗黙知)Socialization
  • 表出化(暗黙知→形式知)Externalization
  • 連結化(形式知→形式知)Combination
  • 内面化(形式知→暗黙知)Internalization

これらが、コミュニケーションの結果、知識が生まれて共有されるというロジックとなります。そしてそれが新しい製品開発に活きることもしばしばあります。

 

SECIモデルと実際の開発の例

 

では、このSECIモデルを実際の事例にあてはめて確認していきます。
その対象となるのが自動車メーカーのホンダで、シティというコンパクトカーの開発です。シティといえばかなり古いながらも歴史を持った車で、1981年の話となりますが、SECIモデルの事例にぴったりなのです。

  • 共同化(暗黙知→暗黙知)

暗黙知同士を共有します。ホンダには「ワイガヤ」と呼ばれる手法がありました。経験を徹底的に話し合う手法です。ワイガヤは本音で3日3晩話し合って、意見が出尽くしたところでさらに初日の議論に立ち戻るという方法です。

  • 表出化(暗黙知→形式知)

ホンダのシティは、「冒険しよう」というコンセプトをベースに作られています。このコンセプトは企業トップが考えたものです。そしてここからがすごいところで、リーダーの方がそれを受け「クルマ進化論」を考えだしたのです。つまり車が生命なら、どのように進化するのが道筋かということをメンバーに問いかけたのです。

議論の結果、進化は、車が球体になるということでした。全長が短く背が高く。というシティのコンセプトが決まったのです。

  • 連結化(形式知→形式知)

さらに、コンセプトを連結していきます。
その結果、「シティ」が生まれました。

  • 内面化(形式知→暗黙知)

そして、学びを組織に広めていきます。実際、シティの開発メンバーたちは、その後さまざまなプロジェクトに散っていきましたが、ここで学んだ経験を活かして活躍したのです。

このように、SECIモデルは実際の現場で行われた知識の共有を、帰納法でモデル化したものですので、実際の事例を見ていただくのがもっともわかりやすいかと思います。

 

日本型組織のミドルアップダウン・マネジメント

 

そして、SECIモデルのもっとも優れた点は、「冒険しよう」というビジョンを打ち出した経営トップや、実際に開発して大ヒットさせた現場のエンジニアだけではありません。トップ方針から「クルマ進化論」を導き出した現場リーダーにあるのではないでしょうか。

ホンダ・シティの開発リーダーは、渡辺洋男さんという方でした。
書籍によると、「理想と現実のギャップが大きかったため、コンセプトを考え、作り出せた」と語っておられます。

これは、日本型のリーダーシップ、すなわち、中間管理職として上から厳しくいわれ、下からも突き上げられるという側面が、ポジティブな作用を生んだものだと考えられます。トップの理想と現場の現実。その矛盾点を、リーダーこそが解決できるというものです。それが日本型のリーダーシップであり、ミドルアップダウン・マネジメントの真骨頂だといえるのではないでしょうか。

経営スタイルには、トップダウン型とボトムアップ型があります。両者ともに非常に優れた経営モデルですが、ミドル世代のマネジメントが評価されていないと、ビジネス書作家の永井孝尚氏は指摘しています。

そのミドル世代のマネジメント層が活躍でき、知的に創造できるのが、SECIモデルなのです。

 

知的創造は暗黙知を継承する

 

他にも例はあります。たとえば、松下電器のホームベーカリー。松下電器の社員は、ホームベーカリーを開発するのに、ホテルのチーフベーカーに見習いを申し出ました。ホテルのパンはなぜ美味しいのか、研究しているうちに、パン生地をひっぱるだけでなく、「ひねる」ことによって美味しさが加わっているのだと気づき、製品のプログラムに加えたのです。

今や、日常生活に当たり前のようにあるホームベーカリーも、このように暗黙知の継承によって創造されたものであり、これもある種の表出化であるといえるでしょう。

 

最後に

 

このように、暗黙知から形式知を創造することは、冒頭の畳水練の例でいうならばクロールやバタフライの腕の振り方を型にして共有することに似ています。暗黙知と形式知。理論と実践。理想と現実。マネジメントとは、そして経営とは、このギャップを埋める作業の繰り返しなのかもしれません。

SECIモデルは、西田哲学を継承しており非常に難易度が高いものとされます。しかしシティやホームベーカリーの例から分かる通り、実践できればこれほどパワフルなナレッジシェアもないと感じられます。

また、ミドルアップダウン・マネジメントによる知識創出は、ビジネスパーソンにとってもっとも創造性が光り、やりがいを感じる瞬間ではないでしょうか。今、変化しつつある日本の経営シーンにおいて、今一度、SECIモデルを検討してみるのもいいかもしれません。もはや3日3晩、本音で社員が話し合うというワイガヤは、現代のビジネススタイルにマッチしないかもしれません。しかし、本気で経営にコミットしているマネジメント層ならば、その重要性に気がつくはずです。

書き手:名もなきライター

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参考

「知識創造企業」(野中郁次郎、竹中弘高 著)
「世界のエリートが学んでいるMBA必読書50冊を1冊にまとめてみた」(永井孝尚 著)
「知識創造理論と西田哲学」(保井 温 著)※立命館大学非常勤講師http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/lt/rb/625/625pdf/yasui.pdf