「部下を成長させたいけれど、なかなか思うように育たない」。管理職ならば、誰もがこうした悩みを抱いたことがあるはずです。その原因は何でしょうか。部下とはどのように接していけばよいのでしょうか。本稿では、特にフィードバックの方法に焦点を絞り、部下を成長させるために重要となるポイントを解説します。
目次
よくある間違ったフィードバック方法
以下の項目において、あなたが実践しているフィードバックのやり方はありますか。
- 部下は差別をせず、均一にフィードバックをしている
- 食事の席など、リラックスした雰囲気の中でフィードバックを行う
- まずは考えさせる。答えが出るまで、とことん部下に考えさせる
- 会議で振り返りを行い、フィードバックをする
いかがでしょうか。これらはいずれも感覚的なマネジメントだと言えます。先に答えをお伝えすると、上記①~④のフィードバック方法は全て間違っています。
もちろん、悪気があって間違った部下育成を行う管理職などいないはずです。しかし、感覚的なマネジメントを実施し、結果的に部下の成長を阻害してしまう管理職は多くいるのが現実です。
ここから、①~④がなぜ間違っているのかを一つずつ見ていきます。
一人ひとりに合わせたフィードバックをしよう
まずは①について。上司は、目の前に仕事ができる優秀な部下と伸び悩んでいる部下がいたとき、各人に合わせたフィードバックをする必要があります。
皆さんならばどのように接しますか。まずは伸び悩んでいる部下に注力し、全体の底上げを図りますか。
それも間違いです。伸び悩んでいる部下に上司がリソースを割いているとき、仕事ができる部下は結果的に放置されてしまい、「自分はこのままでよい」のだとか「学ぶことが少なくなってきたな」などと考えるようになってしまいます。つまり、成長速度が遅くなっていくのです。
一方、上司が面倒を見ることになった部下はどうでしょうか。上司がやり方を丁寧に説明していれば、その間素直に聞いているように見えるかも知れませんが、多くの場合、部下は自ら考えなくなります。黙っているだけで上司が答えを教えてくれるのですから。
正しいフィードバックは、例えば、下記のようにすることです。
仕事ができる部下へのフィードバック ⇒ 成長の伸びしろを見せる
※まだまだ成長できる余白を明確にする、ということです。
仕事に伸び悩んでいる部下へのフィードバック ⇒ マニュアルを整備し、標準化する
※標準レベルまでの仕事であれば、ほとんどの人が到達できます。コミュニケーションに頼らず、『誰でも分かる』マニュアルを作りましょう
例:営業トークスクリプト、営業資料など
上司と部下の縦の位置関係を明確に構築する
②のようなコミュニケーションも必要ではないかと非常によく質問されます。もちろん、コミュニケーションは重要です。
ただし、「上司と部下の縦の位置関係」が明確に構築されているという前提があるときに限ります。部下は上司の指示に従う必要がありますし、指摘は真摯に受け止め改善をしなければなりません。
しかし、この位置関係が構築されていないとコミュニケーションは意味がないどころから返って害あるものになってしまいます。無礼講という言葉があるように、コミュニケーションの場が食事の席、特にお酒が入るような場だと部下もつい気が緩んでしまうでしょう。こういった場面において、位置関係がしっかりと築けていなければ、すぐに上司と部下の関係が崩れ、その後の上司の指導に対し部下は異議を唱えてしまうようになります。
もちろん、部下の言い分のようなものもあるかも知れません。私にもそういった経験はあります。
しかし、冷静に考えてください。組織としてやらなければならないことと、部下の言い分のどちらをまず優先するべきでしょうか。もちろん組織であるはずです。
前提条件が整わないまま、安易にコミュニケーションという手段を用いてフィードバックを行うと、部下はどんどん上司の指示に従わなくなっていきます。しかも、そこに悪気はありません。注意してください。
ときには答えを与えることも必要
③には二つの落とし穴があります。
まず、人が成長をするときには、いかに自分の「不足」を認識できるかが重要です。不足とは、「売上目標100万円に対して結果80万円だった。不足は20万円だ」というような、単純な引き算の世界の話ではありません。
例えば、現在の打率は2割5分で、打率3割を目指すバッターがいるとします。この状態でひたすら素振りをしても、いち早く目標に届くかというと、そんなことはないでしょう。一体、何が打てていないのか、ストレートが打てないのか、カーブが打てないのか、ランナー三塁のチャンスになると打てないのか、より的確な不足がそこにはあるはずなのです。
不足によっては、できなかった理由も改善策も大きく変わります。まず、部下に考えさせる前に不足を明確にすることが上司には非常に強く求められるのです。
次の落とし穴は何か。それは、「上司が答えを持っていないのに、一方的に部下に考えさせる」というものです。このタイプの上司も非常に多く、ややもすると、パワハラ予備軍となってしまいます。
もちろん、部下に考えさせることは重要です。しかし、部下に考えさせるということと、部下だけに考えさせるということは全く意味が違うのです。
部下だけに考えさせるとは、言い方を変えるとただの放置に過ぎません。少し目標が高くなったり、外部環境に変化が生じたりすると、それまで順調だった部下も途端に壁にぶつかってしまう。このようなことは日常茶飯事です。
自ら考え答えを出せる部下はよいのですが、迷宮に入り込んでしまう部下も少なくありません。部下が考えても答えを出せないのであれば、そこは思い切って答えを与えてあげるべきなのです。
ここで答えを与えなければ、部下は間違った行動を取ってしまいます。そして、上司から「何でそんなことをやっているんだ。結果はいつ出るんだ。考えろ!」と、追及を受けることになるでしょう。
これでは部下が辞めてしまっても何ら不思議ではありません。上司は部下の状況を把握し、部下が迷っているときには答えを与え、そこでは管理ではなく育成をしなければならないのです。もちろん、最初から答えを提示するのではなく、一度考えさせることは大事です。
未来のために会議を実施する
最後に④の注意点です。毎週月曜日、週次会議を開催するとしましょう。その会議の内容は先週の振り返りではなく、過去のことは確認レベルで済ませ、いかに今週の目標を達成するかに集中してほしいのです。時間の使い方を誤らないでください。
過去は変えられないものです。会議が終わった瞬間は「は~、終わった、終わった。コーヒーでも飲もう」という状態ではいけません。「さぁ、行動しよう!」と最初の一歩がすぐさま踏み出されなければならないのです。そのために、会議を開催する前に、先週の振り返りが完了しているべきなのです。
例えば、部下は金曜日17時までに当週の週報を上司に提出しておくとよいでしょう。上司は内容を確認し、ここでフィードバックを実施するのです。そうすれば、一週間の振り返りが完了した状態で週次会議に臨むことができます。フィードバックを行うタイミングを工夫するだけで、一週間のスピードがぐんと上がります。
識学を学ぶ前は、私も非常に感覚的なマネージャーでした。振り返ると心が痛くなることばかりです。部下の成長を妨げないためにも、皆さんは本記事の内容をぜひ実践してください。