社員の離職率が高く、収益性が低い原因を部下のせいにしていませんか。「最近の若者はゆとり教育で育ったから我慢が足りない」とか「指示待ちの部下ばかりで困る」など、部下との意思疎通がうまくいかないとき、「世代間ギャップだから仕方がない」と考えてしまいがちです。しかし、これらの課題は心理的安全性の高いチームをつくることで解決できます。その方法をご紹介しましょう。
目次
心理的安全性とは
心理的安全性とは、ハーバード大学のエイミー・エドモンソン教授が提唱した概念で、このチームではリスクのある行動をしても大丈夫であるという、メンバーに共有された考えを指します。上司や同僚などを信頼できることで、個人やチームの目的、目標の達成のためリスクを恐れずに、未来に向けた積極的なコミュニケーションを図れるようになります。
グーグルが2012~2015年にかけて、成功し続けるチームに必要な条件を探ろうと、「プロジェクト・アリストテレス」と名付けた調査を実施しました。その結果、「心理的安全性の高いチームのメンバーは離職率が低く、他のチームメンバーが発案した多様なアイデアをうまく利用することができ、収益性が高く、『効果的に働く』とマネジャーから評価される機会が2倍多い」と結論付けたのです。これにより、心理的安全性という言葉が注目を集めるようになりました。
心理的安全性が低下すればチームのパフォーマンスも下がってしまいます。エドモンドソン教授によれば、心理的安全性が低くなる原因として、下記の四つを挙げています。
- 無知だと思われる不安(Ignorant)
- 無能だと思われる不安(Incompetent)
- 邪魔をしていると思われる不安(Intrusive)
- ネガティブだと思われる不安(Negative)
心理的安全性を高める方法
上記①~④を解消することができれば心理的安全性を高めることができるはずです。以下、その方法を一つずつ解説していきます。
無知だと思われる不安(Ignorant)
①は、分からないことがあっても、「なんでこんなことも知らないんだよ」と思われるのが嫌であるため人に質問ができなくなってしまう、といったことです。これには、二通りの対処法があります。
一つ目は教育の仕組み化です。育成とは、知識(インプット)と経験(アウトプット)に分かれます。知識の獲得先として属人化(人に聞かないとわからない状態)ではなく、そもそも人に聞かなくても分かるようにする仕組み化(ルール、マニュアルを見ればわかる状態)が大切です。
二つ目は、部下に責任とセットで学ぶ権限があることを理解させます。責任を果たすための権限(研修や現場同行など)の上申を、日常的にしやすい環境をつくっておくのです。
無能だと思われる不安(Incompetent)
②は、ミスしてしまっても、仕事ができない人間だと思われたくないという理由からミスの報告を怠ったり、自らの失敗を認めなかったりすることです。例えば、月半ばで目標が未達ペースのとき、「未達のまま月末会議に参加したら、無能だと思われるのでは」と考えてしまうことによって、「未達で参加した会議をいかに乗り切るか」にゴールが変わり、言い訳を考えてしまうのが②です。
②の原因は成果視点(結果が出る前に、結果が出た後の相手の反応や評価を気にしてしまう)になることであるため、目の前のことに集中させます。まず今週は「3件のアポを入れよう。五つのタスクを消化しよう」と、一つひとつの結果を積み上げていくイメージです。
邪魔をしていると思われる不安(Intrusive)
③は、会議などで自分が話の邪魔をしてしまわないかと不安に思って、発言を控えるようになってしまうことです。現状を打破する有効なアイデアを思いついてもそれを隠してしまうわけですから、組織にとっては大きな損失です。
これを防ぐには、会議の目的を明確にしてルールを決めます。進捗会議(現在の進捗と完了見込み、課題の共有、遅れている場合の対策を一人ずつ発表していく会議)は、自身の役割を果たすために必要な権限の上申やルールの変更案を躊躇なく発言する場と認識させます。
ネガティブだと思われる不安(Negative)
④は、他人の意見を批判すると自分が否定的な目で見られるのではないかと考え、何も言わなくなることです。
これも、ルールを決めることで対策します。会議の席では、まずは相手の意見を否定せずに受け入れること、代替案の提示を行うこと、最後まで人の意見を聞くこと、などです。