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行動経済学とは?マーケティングとの関係性や有名な理論についてわかりやすく解説

行動経済学とは?仕事に役立つ知見を簡単に解説!

行動経済学とは、経済学に心理学的なアプローチを取り入れた学問です。

行動経済学はマーケティングと深い関係があるため、今ビジネスの世界でも大きく注目されています。

この記事では、行動経済学についてわかりやすく解説し、経済学との違いやマーケティングとの関係性について説明します。

また、有名な行動経済学の理論や活用例を紹介しているので、仕事にも役立ててください。

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「行動経済学」とは?

人間は、感情や心理の影響を受けて合理的とはいえない行動を取ることが少なくありません。

そのような非合理的な行動を経済学的見地から分析するのが行動経済学です。

ダニエル・カーネマン、エイモス・トベルスキー、リチャード・セイラーによって生み出され、現在に至るまでさまざまな研究がなされるとともに、ビジネスにおいても活用されています。

行動経済学と経済学の違い

行動経済学と経済学の違いは、前提としている人間のあり方です。

経済学では、人は自分の利益を最大化するために合理的な行動をするとされています。

これは人に限らず企業や行政も同じで、合理的に利益追求するための行動をとり続けると考えます。

しかし、現実には人が必ずしも合理的な判断をしているとは言えないでしょう。

例えば、格安スマホを使わずに何倍もする高いキャリアのiPhoneを使っている人がいたり、明らかに健康に良いとは言えない糖質や脂質たっぷりのスイーツに高い金額を払ってる人がいたり、負けることがわかっていてもギャンブルを続ける人がいたりなど、不合理に見える行動を取るのが人間です。

行動経済学では、このような直感や感情によって合理的ではない行動をとる人間を理論の前提としています。

非合理的な人間の行動は従来の経済学では説明がつきませんが、行動経済学を確立することで、経済学的に矛盾する人間の行動を解明できるようになりました。

行動経済学は心理学の影響を受けている

行動経済学は、経済学に心理学の要素を取り入れた学問です。

経済学では説明ができない非合理的な行動をとる人間の心理や感情を、認知心理学や社会心理学などの心理学分野から検証しています。

現実に起きている人間の経済活動は、経済学の理論で導かれる行動と異なることがあります。

そこで経済学に心理学の知見をプラスして、現実の経済活動を理解し、本質に近づいていくものです。

行動経済学とマーケティングの関係性とは?

行動経済学は、マーケティングと親和性の高い学問です。

マーケティングとは、ニーズを満たす自社の商品やサービスを顧客に認知してもらい、売れるような仕組み作りをする活動のことを指します。

物質的に飽和状態にある現代では、単に価格が安い、機能が優れているだけでは商品が売れない時代になってきています。

企業が商品を売るためには市場を的確に分析して、どうやったら売れるのかを数値化するマーケティングが求められているのが現状です。

似たような商品は市場にあふれているので、企業が売上を伸ばすためには他社との差別化が必須です。

そこでマーケティングを取り入れれば、さまざまな角度から他社との差別化が叶います。

例えば、年々利用者が増えているオンラインショッピングですが、ECショップはその特性を活かしてユーザーごとにパーソナライズされた広告を打ち出したり、コミュニケーションの取り方を変えたりできます。

このパーソナライズ化を行うときに、行動経済学が役立つのです。

マーケティングには、売れるキャッチコピーを作る、インターネット広告を利用するなどさまざまな手法がありますが、それらの手法を理論的に裏付けしているのが行動経済学です。

行動経済学を理解すれば、自社の売上を向上させるマーケティング施策に活用できるでしょう。

行動経済学の有名な6つの理論とは?

行動経済学にはさまざまな理論があり、マーケティング施策に活用できます。

ここでは特に有名な下記の6つの理論について紹介します。

  • プロスペクト理論
  • サンクコスト効果
  • ハロー効果
  • アンカリング効果
  • 現在志向バイアス
  • 認知的不協和

プロスペクト理論

プロスペクト理論とは、人は損失を回避したい習性が強く、損失を過大評価するという理論です。

この理論によると、人は損失を被った際、実際の数値よりも大きく感じてしまうものであり、できるだけ損をしないように行動します。

ただし状況によっても行動は異なり、すでに損失がある場合には損失を取り返せる選択肢を選ぶとされています。

プロスペクト理論を活用しているのが、「限定販売」や「先着〇名限り」「今日まで半額」などといったキャッチコピーです。

このようなキャッチコピーを見ると、消費者は現状はあまり必要性がない商品であっても「損をしたくない」心理が働いて、とりあえず購入するという行動をとります。

サンクコスト効果

サンクコスト効果とは、人はそれまで費やした時間やお金、労力を取り戻そうとする心理効果です。

英語では「sunk cost」と表記します。sunk(サンク)は直訳すると沈む・失うという意味、cost(コスト)は費用の意味です。

人は、かかったコストが無駄になる行為はもったいないと感じます。その結果、引き際がわからなくなってしまうことが少なくありません。

例えば、商品を獲得するまでクレーンゲームがやめられなかったり、一定金額以上の購入で特典がもらえる場合に必要でないものまで購入してしまったりするのは、サンクコスト効果からと言えます。

サンクコスト効果をうまく利用すれば、売上の向上が望めるでしょう。

ハロー効果

ハロー効果とは、人は物事を評価するときに目立つ特徴や印象に引かれて、それ以外の要素も魅力的だと考えてしまい公平ではない評価をするという現象です。

ハローはあいさつのHelloではなく、haloと書きます。

日本語で、頭の後ろから指す後光を意味する言葉です。そのためハロー効果は、後光効果とも呼ばれています。

例えば、好感度の高い有名人を広告モデルに起用すると消費者は商品にも好印象を抱きやすくなり売り上げが伸びる、製品のキャッチコピーやポップに著名な賞の受賞歴を記載すると他の製品より選ばれやすくなるなどが挙げられます。

アンカリング効果

アンカリング効果とは、最初に知った情報や印象がその人の中に強くとどまって物事の判断基準となり、その後の意思決定に大きな影響を与えるという心理効果です。

アンカリングは英語で書くとAnchoringで、船のイカリを打ち込むという意味を持ちます。

アンカリング効果の例として、「通常1万円が本日限り5,000円」といった商品ポップが挙げられます。

最初に1万円という値段を聞いているので、5,000円は安く感じるでしょう。このとき、その商品の5,000円という価格が本当に安いのか、その商品に5,000円の価値があるのかは関係ありません。

また、「本日限り」という文言も見た人にインパクトを与え、購入を促します。

現在志向バイアス

現在志向バイアスとは、将来得られる大きな利益より今すぐに得られる小さな利益を優先させるという心理効果です。

例えば、「今すぐもらえる10万円」「1年後にもらえる15万円」のどちらかを選ばせると、「1年後にもらえる15万円」の方が利益が大きいとわかっていても「今すぐもらえる10万円」を選ぶ人の方が多いという実験結果があります。

この現在志向バイアスを利用したのが、「購入後すぐに効果を実感できる」「登録後すぐに報酬をもらえる」などのキャッチコピーです。

バイアスには他にも、今持っているメリットを失いたくない「現状維持バイアス」や、先入観や第一印象の影響を受ける「確証バイアス」などがあります。

認知的不協和

認知的不協和とは、人の考えと行動が矛盾する場合に別の考え方をすることで矛盾をなくし行動を正当化する現象を指します。

例えば、ダイエットをしているのに揚げ物を食べたくなったときは認知に矛盾が生じています。

そこで、「我慢をすることはストレスを与えるので余計に太る」と考えることで、高カロリーな揚げ物を食べることを正当化できます。

マーケティング施策に認知的不協和を活用するなら、矛盾する2つの要素をキャッチコピーに入れると良いでしょう。

例えば、「コンパクトなのにパワフル」「甘いのに低カロリー」などです。

矛盾を含むキャッチコピーを見ると、消費者のなかに認知的不協和が起こり気を引くことができます。

行動経済学を理解して、得られるメリットとは?

行動経済学を学ぶと、マーケティングやマネジメントに応用できる、自己実現に近づけるなどさまざまなメリットが得られます。詳しく見ていきましょう。

マーケティングに応用できる

行動経済学を理解すると、マーケティングに応用できます。

顧客がどのように意思決定して購入を決めるのか、どうすれば購入意欲が湧くのかを知ることで、効果的な販売方法や広告がわかるようになるでしょう。

先述の通り、行動経済学にはさまざまな理論があります。

それをうまくマーケティングに取り入れることで、非合理的であっても顧客が選択する理由がわかり、アプローチしやすくなるでしょう。

マネジメントに役立つ

行動経済学は、マネジメントにも役立ちます。

例えば仕事を同僚に手伝ってほしいときにはアンカリング効果が役立ちます。

最初に大量の仕事を同僚に見せてからその一部の手伝いを依頼すると、少ない量の手伝いだと感じて快く引き受けてくれるでしょう。

また、集団から離れたくない心理を利用した「ハーディング効果」も有効です。人は他の人と自分の行動が異なると不安を感じてしまいます。

「みんなにお願いしているから、あなたにも手伝ってほしい」と沿えて仕事を依頼すると、引き受けてもらいやすくなります。

自己実現を手助けできる

行動経済学を活用することで、自分の行動をコントロールして自己実現に近づけます。

例えば、ダイエットをしたいと思ってもついつい食べ過ぎてしまう課題があるなら、デメリットを見える化することで目標を達成して自己実現しやすくなります。

ワンサイズ小さい服を着ると、太っていることのデメリットを直視できるため食の誘惑に負けにくく、ダイエットに成功しやすくなるでしょう。

行動経済学がビジネス・日常生活で活用される例

行動経済学は、ビジネスだけでなく日常生活でも活用できます。

行動経済学を活用した事例を紹介します。

1.上司への悪い報告は、良い報告とセット、かつ悪い話は先にする

「良い話から聞きたい?それとも悪い話から?」などというやり取りを、映画のなかで見たことがあるでしょう。

実際に会社でこれを行うとすれば、行動経済学の観点から見ると、「悪い話から」が正解です。

ダニエル・カーネマンは「持続時間の無視とピーク・エンドの法則」と名付け、人間が感じる「苦痛の記憶」は、その持続時間ではなく、「一番苦痛だった時」と「苦痛の最後」の平均によって保持されるとしています。

  • ピーク・エンドの法則──記憶に基づく評価は、ピーク時と終了時の苦痛の平均でほとんど決まる。
  • 持続時間の無視──検査の持続時間は、苦痛の総量の評価にはほとんど影響をおよぼさない

(ファスト&スロー)

このことから、どうせ悪い話をしなければならないのであれば、「ピーク」は変えられないので、「最後」を良い話にすることによってその話の印象を変更することができる、と言えます。

まさに「終わり良ければ総て良し」となるのです。

2.人材育成は「褒めても叱っても同じ」

例えば部下の指導について、「褒める」のと「叱る」のと、どちらが良いのでしょうか。

例えば、ファスト&スローには、こんな逸話が出てきます。

カーネマンがイスラエル軍の教官に、訓練効果を高めるための心理学を指導していた時。

空軍の飛行訓練の教官から「とにかく叱るべきだ」と言われました。

事実、教官の観察では、教官が訓練生の操縦を誉めたときは次回にへたくそになり、叱ったときは次回にうまくなるということがよく起きたのです

教官たちは「だから叱るべきだ」と主張しますが、カーネマンはこれについて、「不出来だったあとはよくなるし、上出来だったあとはまずくなるのであって、これは誉め言葉や叱責とは関係がない」と述べています。

これは、人間の脳は些細なことに「因果」を発見してしまうバグがあり、統計的な事実を理解できないからです。

上の教官は「褒める」から「結果が悪くなる」、「叱る」から「結果が良くなる」と勘違いしてしまっていたのですね。

しかし実際は、単に結果がランダムであり、「極端に悪かったら、次回はすこしマシになる」「極端によかったら、次は当然悪くなる」という現象が起きていただけにすぎません。

3.昇給はできるだけ小刻みに。できる社員にはカネでなく「地位」を

「幸福な従業員」は、高いパフォーマンスと関係があると、多くのエビデンスが示しています。引用元:幸福度の高い労働者ほど生産性が高いのか?【独立行政法人経済産業研究所】

では、従業員を幸福に保つためにはどうすれば良いのでしょうか。

一つには、「思い切って給料を高くすれば、従業員の幸福度が上がって、仕事のパフォーマンスを上がるよ」という意見があります。

しかしまた他方では、「優しくすると、従業員は逆に怠けるようになる。給料を上げれば、もっとよこせと騒ぐ。従業員は『ちょっと厳しい』という待遇ぐらいが最もパフォーマンスが良い」という意見もあります。

一体どちらが正しいのでしょうか。

幸福経済学を専門とする行動経済学者、ニック・ポータヴィーは、著書『幸福の計算式 結婚初年度の「幸福」の値段は2500万円!?』で、世帯収入の50パーセント増に人々が完全に慣れるまでにはたった4年しかかからないという研究に触れています。

具体的に言えば、年収400万円の人が年収600万円となったとしても、それはたった4年で慣れてしまうということ。

要は「思い切って給料を上げて、従業員を幸福にする」のはコストパフォーマンスが悪いのです。

さらに、ニック・ポータヴィーは「お金よりも「自分の順位」のほうが意味を持つ」と述べています。

つまり、従業員に対しては

  • 給与は、少しずつ、できるだけ小刻みに上げ、幸福が持続する期間を長くする
  • パフォーマンスの高い人には、肩書や地位で社内の他の人との「差」を明確につけるほうが従業員の幸福は長く持続する

という結論になるでしょう。

4.成功企業を検証して法則を導こうとする行為は無意味

ダニエル・カーネマンは「成功企業を検証して法則を導こうとする行為」はほとんど無意味だと述べています。

なぜなら、これらのほとんどが真理を述べておらず「ハロー効果と後知恵バイアス」によるものだからです。

  • ハロー効果……何か一つが優れていると、ほかも優れていると感じる
  • 後知恵バイアス……過去の事象に対して感じた驚きを後になって過小評価する

これは、人間は「うまくいっている企業には、必ずなにか合理的な理由があるはずだ」と思い込んでしまうからです。

しかし、実際にデータが証明しているのはそれと真逆の結果であり、分析から導き出した法則の多くは普遍性、再現性がありません。

「その時」「たまたま」うまく行ったことがほとんどなのだ。

『ビジョナリー・カンパニー』で調査対象になった卓越した企業とそうではない企業との収益性と株式リターンの格差は、おおまかに言って調査期間後には縮小し、ほとんどゼロに近づいているのが現実です。

トム・ピーターズとロバート・ウォータマンのベストセラー『エクセレント・カンパニー』(大前研一訳、英治出版)で取り上げられた企業の平均収益も、短期間のうちに大幅減を記録しています。

またフォーチュン誌の「最も賞賛される企業」にランクされた企業を二五年にわたって追跡調査したところ、最下位あたりにランクされていた企業の株式リターンが最も賞賛された企業を上回っていたという報告もあります。(ファスト&スロー)

カーネマンの言う通り、「少し前に」成功した企業の分析をするよりも、「いま」自分たちがやらなければならないことを、実際の市場と、顧客の行動データをもとに分析するほうが有用でしょう。

5.「わかりやすい」だけで、「知的だ」「信頼できる」と認識される

人間はわかりやすいものを好み、この「わかりやすさ」は、人間の認識に極めて大きな影響を与えます。

具体的に言えば、「わかりやすいもの」は親しみを感じ、説得力があり、心地よくて、信頼でき、知的に感じるのです。

これは人間の脳が「認知に関しての負荷が低いほど、好ましいと感じる傾向」を有しているから。

ダニエル・カーネマンはもっと極端な例もあげており、例えば、「鶏の体温」という単語を繰り返し示されただけで、「鶏の体温は四四度である」という荒唐無稽な文章が出てきた時にすら「正しい」と判断しやすくなると述べています。

文章の一部に馴染んでいるだけで、「全体に見覚えがある」と感じ、真実だと人間は考えてしまうのです。

また「大きなフォント」や「周りと異なる色使い」も人間の脳の認知負荷を減らし、「正しい」という判断を起こします。

例えば、

田中角栄の生年は、一九一七年である

という文章と

田中角栄の生年は、一九二〇年である

という文章では、後者の大きなフォントをつかった文章のほうが「正しい」と認識されやすいことがわかっています。(実際にはどちらも間違い。一九一八年が正)

読みやすい名前の会社の方が株式公開直後の株価が上がりやすく、スラスラ発音できる名前の会社は、無骨な名前の会社よりも利益率が高いと投資家に判断され、プレゼン資料はわかり易いほど信頼性が高いとみなされるのです。

とにかく「相手の負荷を下げる」ことは、企業やビジネスパーソンにとっては、真の意味で正義だと言えるでしょう。

まとめ 行動経済学の知見は、仕事の役に立ちすぎる

以上のように、すこし紹介しただけでも仕事の役にすぐに立ちそうなネタが行動経済学には満載です。

すでに公共政策などにも行動経済学の知見は反映されており、その有用性は折り紙付き。

参考までに、推薦する文献を最後に挙げておきましょう。

個人的には、リチャード・セイラーの「行動経済学の逆襲」にかかれているスキー場の再生プロジェクトの話などは非常におすすめで、ビジネスパーソンであればぜひ読んでおくべきでしょう。

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