企業の管理職として働いている人の中には、部下の育成に関して悩みを抱いている人が多いのではないでしょうか。
部下がただ指示された業務に取り組むだけの状態から、自身の頭で考えて仕事に取り組むようになってもらうには、人材育成方針の設定が必要です。
この記事では、人材育成方針の作成方法や事例などについて詳しく解説します。 部下の育成を効果的に進め、企業の成長に繋げたいと考えている人は、ぜひ最後までお読みください。
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人材育成方針とは
人材育成方針とは、「社員の理想像を明確にし、理想像に向けて社員を育成すること」です。
企業を成長させるためには人材が非常に重要であり、そんな理想的な人材を育てるための人材育成方針は欠かせない要素です。人材育成に関する取り組みが定まっていないと、上司も部下も混乱する恐れがあります。
例えば、社員を育てるための研修やイベントを決定する際に「役に立ちそうだから受講してほしい」という理由だけでは、社員から納得を得られません。
しかし、人材育成方針が定まっていれば「当社では〇〇のような人材を求めているから、スキルアップしてほしい」ときちんと理由や目的を含めて説明することができ、上司も部下の育成の指針とすることができます。
また、人材育成方針によって評価制度も左右するため、企業を運営するのであれば明確に人材育成方針を定めておくのがよいでしょう。
人材育成方針は自治体でも利用されている
人材育成方針は、一般的な企業だけでなく、自治体においても利用されています。総務省によると、自治体に人材育成方針を求める理由は「社会経済情勢が変わる中で、柔軟に対応できるように、体質を強化するため」です。
総務省は各自治体に対して、委員会の設置や企業の人事担当者などの専門家へ意見を聞き、人事管理全般を変えることを推進しています。
日本の行政機関のひとつである総務省が各自治体に人材育成方針の設定を求めていることから、人材育成方針の策定は一般的な企業にとっても重要だと判断できます。
参考:地方自治・新時代における人材育成基本方針策定指針|総務省
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人材育成方針を設定する際の目的は、以下の3つが挙げられます。
- 評価制度を明確にする
- 企業の成長を促す
- 多様性に合わせる
自社の目的と照らし合わせて、どういった部分に人材育成方針が必要なのか判断しましょう。
それぞれの目的について、詳しく解説します。
評価制度を明確にする
人材育成方針を設定することで、評価制度が明確になります。「どのような人材を欲していて、どんな取り組みが必要なのか」が明確になっていれば、それをもとに評価基準を決定しやすくなるからです。
社員にとっても「企業が求める人材になれば評価が上がる」と理解できるため、評価制度が設定された理由を汲み取りやすくなるほか、モチベーション向上にも有効です。人材育成方針を用いて公正な評価制度の設定を目指しましょう。
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企業の成長には、人材の育成に力を入れ、社員のビジネススキルを向上させる必要があります。
人材育成方針を定めれば、理想の人材を育てるまでの流れがはっきりするため、どのように育成をすれば良いのかがより明確になるでしょう。
企業が求める人材のイメージは「上司の指示をそつなくこなしてくれる」や「自分で考えて行動に移す」などさまざまです。したがって、自社にどんな人材が必要なのかは、企業や業界によって大きく異なります。
どのような人材が不足しているかを確認をした上で、的確な育成をしましょう。
多様性のある会社を実現できる
経済産業省によると、中小企業や中堅企業が社会で結果を出していくためには「ダイバーシティ経営」が必要とされています。
ダイバーシティ経営は「昨今の経営環境の変化に対応するために、多様な人材の活躍を推進する経営」のことです。
ダイバーシティ経営を成功に導くには、ただ闇雲に多様な人材を採用するのではなく、現場で活躍するための育成をセットで考えることが重要です。
人材育成方針が定まれば、社員を活躍させるための評価指針や研修などの取り組みが明確になるため、多様性にも柔軟に合わせることが可能になります。
ただし、ダイバーシティ経営を実現するためには、各人の希望に合わせて柔軟に人材育成方針を流動化させる必要があるため、トップダウン式の育成になりすぎないよう注意が必要です。
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人材育成方針を定めるときの注意点やポイントは以下の4つです。
- 定期的に見直す
- 現実的な方針を設定する
- 記録として残す
- 社員への周知を徹底する
企業の成長へ繋がるような人材育成方針を定めるには、上記の注意点についてしっかりと理解する必要があります。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
定期的に見直す
人材育成方針は一度定めたら終わりではなく、定期的な見直しが必要です。なぜなら、事業によっては環境の変化が激しいこともあるからです。
特にエンジニアやマーケターなどの職業は、技術や知識が陳腐化しやすい傾向にあります。社員の持っている知識が古く、顧客に提供できる価値が少ないと、顧客が離れていってしまう可能性があるので注意しましょう。
自社の人材育成方針やその内容となる求める人物像などが時代に乗り遅れていないか、都度確認し、人材育成方針を合わせていく必要があります。
現実的な方針を設定する
効果的な人材育成方針を策定するには、実現可能な内容でなければなりません。実現可能な範囲で設定しないと、部下に対して「努力が足りないからできなかったんだ」といったような根性論的な主張が蔓延する企業になりかねません。
加えて、部下が育成方針に不信感を抱くリスクがあります。
人材育成方針を設定する際は、現場社員も巻き込み、達成可能な方針を立てるようにしましょう。
記録として残す
人材育成方針が決まったら、必ず記録に残しましょう。記録として残しておけば、後のち社員が行動基準を確認するために役立ちます。
記録を残すことで、部下が方針を忘れてしまった際も自分で確認できるようになります。
社員への周知を徹底する
人材育成方針の決定後は、社員への周知を徹底し、社内へ浸透させるように促しましょう。時間をかけて方針を策定しても、社員が人材育成方針を理解していないと意味がありません。
人材育成方針の周知を社員に広げるには、まずは管理職に展開します。管理職の間で理解が深まったら、社員に対しても上司から周知させましょう。
社員に伝える際は、人事部からよりも、直属の管理職から直接コミュニケーションをとって伝えた方がわかりやすいためおすすめです。
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人材育成方針の策定順序は以下の4つです。
- 現状を把握する
- 目標を明確化する
- 経営の戦略を再確認
- 人事戦略・戦術を練る
策定順序を間違えてしまうと、効果的な人材育成方針が作成できないので注意してください。
人材育成方針の策定順序について、順番に解説します。
①現状を把握する
人材育成方針を策定するには、まずは現状把握が必要です。自社の社員のスキル感がどの程度なのかを確認しましょう。
具体的には、各個人のスキルや成長意欲の度合いを、年齢、部署ごとにリサーチします。
②目標を明確化する
現状の把握ができたら、目標を明確化します。掲げた企業理念や目標に対して、今の人材のレベルで達成できないのであれば、どのような人材が必要なのかを定めてください。
必要な人材を定めるときは、実現不可能な目標を作らないように注意しましょう。
③経営の戦略を再確認
次に、経営の戦略を再確認しましょう。「現状の把握」と「目標の明確化」を通して見えてきた長期的な目標・ビジョンを実現するためのステップとなる、中期的な目標を立てることが大切です。3〜5年後に自社がどのような状況になっていたいかを定めることで、求める人材のイメージがより明確になります。
④人事戦略・戦術を練る
最後に、中期的な経営戦略ができたら、それを達成するための短期的な人事戦略を練っていきます。人事戦略を練るときは「人事戦術」も同時に考えていきましょう。
人事戦略と人事戦術は混同されがちですが、人事戦略を叶えるための施策が人事戦術です。
具体的に解説すると、以下のようになります。
- 長期的な目標(現在の指針や企業理念):サービスで顧客の想像を超える
- 中期的な目標(経営戦略):顧客第一の組織を作る
- 短期的な目標(人事戦略):顧客目線で考え、能動的に動く人材の確保
- 短期的な目標(人事戦術):コンサルタントによる研修や書籍購入制度の導入
人事戦略だけだと、全体的なシナリオが決定しただけで、どのように実現するのかが定まっていません。人材育成方針を成功に導くために、具体的な人事戦術まで明確化しましょう。
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人材育成方針の企業事例として挙げられるのは、以下の4つです。
- パナソニック|電機メーカー
- トヨタ|自動車
- 清水建設|建築
- ANA|航空業
上記はどれも日本を代表する企業のひとつです。世界的に成功した企業の事例を知ることで、自社を成長させるヒントが見つかるかもしれません。
人材育成の企業事例について、順番に確認していきましょう。
パナソニック|電機メーカー
パナソニックでは、世界中の顧客に貢献できるサービスや商品を届けるために、グローバルで活躍できる人材の確保を目指しています。
パナソニックはグローバルな人材を育成するために、「Panasonic Global Mobility Policy」という規定を作りました。
「Panasonic Global Mobility Policy」は、地域間の移動プログラムであり、海外の社員が日本へ勤務したり、ビジネスを通して違う文化を体験するためのものです。
また、パナソニックでは多様な人材が活躍できる企業作りを指針として掲げており、ジェンダー平等推進の取り組みにも力を入れています。
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働き方改革の企業事例 | パナソニックから考える働き方改革トヨタ|自動車
日本の自動車業界を牽引しているトヨタでは、基本的な人材育成の理念として、昔から「モノづくりは人づくり」を掲げています。これは豊田英二最高顧問の考えである「人間がモノをつくるのだから、人をつくらねば仕事も始まらない」という思想を受け継いだものです。
したがって、トヨタでは人を第一として考え、人間を尊重するための経営として、中長期的な人材育成に力を入れています。
特に、社会へ貢献できると判断した人材に対しては、キャリアパスを提示し、自己申告制度で本人へ意思確認を行うように施策しました。
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清水建設では、グローバル・イノベーション人財育成を基本方針として掲げ、個人が本来持っている可能性や意欲を引き出す取り組みをしています。
「自己啓発支援」を施策のひとつとして掲げており、公的資格の取得を目指した講座の開設や団体割引制度を設けました。合格者に対して受験料を支給するようにしているため、自分の可能性を上げたい人にとっては大きなメリットであり、モチベーションも向上します。
参考:人財育成|清水建設
ANA|航空
ANAでは「あんしん、あったか、あかるく元気!」を目標に、ANAグループ全体で「ANA’s Way」を行動指針として掲げています。
ANA’s Wayの概要は以下の5つです。
- 安全
- お客様視点
- 社会への責任
- チームスピリット
- 努力と挑戦
上記を理解し、社会へ貢献できる人物の育成がANAの人事戦略であり「ANA’s Way Ambassador養成研修」や「ANA’s Day研修」を実施しています。
参考:人財の育成|ANA
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「戦力の逐次投入」をしなかったANAの危機回避策とは?長期戦を覚悟したコロナショックの乗り越え方を解説人材育成方針の自治体事例
本記事では、人材育成方針を取り入れている自治体の例として、以下4つの例を紹介します。
- 横浜市:神奈川県
- 池田市:大阪府
- 北九州市:福岡県
- 立川市:東京都
企業の事例だけでなく、自治体の事例を知ることで、組織作りに役立つことでしょう。それぞれの自治体の例について以下で紹介します。
横浜市:神奈川県
横浜市では「人材こそが最も重要な経営資源」という理念を基にしており、特に女性の活躍やワークライフバランスの推進に力を入れています。
2005年から2008年にかけていくつかの施策を作成し、2016年4月には今までの施策をまとめた以下のプログラムを策定しました。
「横浜市職員の女性ポテンシャル発揮・ワークライフバランス推進プログラム(通称:Wプログラム)」
主な取り組み内容は、研修や意見交換会を通した知識と理解の普及です。責任職の取り組みへの意識を強めるために研修をしたり、ライフイベントが多い女性のキャリア形成を考えるために、ロールモデルとの意見交換会を実施しています。
池田市:大阪府
池田市では、人事評価制度や研修制度の体系化など、多くの取り組みをしています。施策に乗り出した主な要因は、2014年5月に地方公務員法が改正され、人事評価制度の導入が義務づけられたことや、職員の年齢構成が変わったことです。
部分休業や育児時短勤務などで多様な働き方を支えるとともに、採用10年未満の職員に対しては、自己申告制の柔軟な人事配置を行っています。
北九州市:福岡県
北九州市では、全国の自治体に先駆けて、人材育成やワークライフバランスの実現に力を入れてきました。女性が活躍できる環境作りに取り組み「女性の輝く社会推進室」の設置をして、推進組織から構築しています。
また、男性職員の支援にも取り組んでおり、育児休業を取得した職員と市長が座談会をする場を設けたり、所属長へのマネジメント研修を取り入れています。
男性職員の育児休業取得率は12.6%まで上昇し、政令指定都市の中では上位の水準です。
参考:人材育成方針|北九州市
立川市:東京都
立川市は「自信と誇りを持って、自ら考え、市民の立場に立って、凛として行動する職員」を育成することを目指しています。目指すべき職員像の理由は「にぎわいとやすらぎの交流都市立川」という将来像を叶えるためです。
職員が獲得すべき能力を階級毎で詳細に割り出したり、人材育成のPDCAサイクルの実現に取り組んでいます。
特に、職場で直接的に育成を施す制度である「OJT」には力を入れており、人事評価制度と連携した、新しいOJT制度を策定しました。
まとめ
人材育成方針は、企業の成長には欠かせない要素のひとつです。会社が掲げる長期的な目標を達成するには、必要な人材を確認し、人材を確保するための制度や仕組み作りを行っていくことが必要になります。
人材育成方針を作成するときは、無理のない範囲で目標を定めて、社内で浸透させることが重要です。
作成の順序についても理解を深め、効果的な人材育成方針の設定をしていきましょう。
また、国内では、多くの企業や自治体で、すでに人材育成方針が取り入れられています。事例を参考にして、自社にどのような方針が必要なのか、改めて検討してみてください。
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