少子高齢化が進み、労働人口の減少が今後も加速し続ける日本において、企業にとって生産性アップや業務効率化は欠かせない課題となっています。
さらに、新型コロナウイルスの流行により、感染リスクを下げるための非対面化や対人接触機会を減らすことなども求められています。
このような取り組みにおいて重要な役割を果たすのがITツールです。IT導入補助金では、上記の目的のためにITツールを導入する際の経費を一部補助することができます。
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IT導入補助金とは?
IT導入補助金とは、一言でいうと「ITツール導入に使うことができる補助金制度」です。小規模事業者や中小企業が抱えるニーズや問題、課題に最適なITツールを導入する際にかかる経費の一部(最大450万円)を補助してくれるもので、下記の2点を目的としている制度です。
- 業務の生産性をあげたり、業務効率化をすること
- 感染リスクが高い仕事を非対面化にする活動をサポートすること
例えば、経理処理に課題を抱えている場合は、財務関係のシステムの導入が可能となり、顧客管理をより効率的に行いたいのであれば、対応可能なマーケティングツールを選ぶこともできます。
とはいえ、導入するITツールは自由に選択できるわけではありません。補助事業を実施する共同事業者である「IT導入支援事業者」が登録して認定されたITツールのなかから選ぶかたちとなります。
また、IT導入補助金は、上記2点の推進を目的に中小企業をサポートする「小企業生産性革命推進事業」のうちの1つで、上記2点に貢献するITツールを導入する経費を補助しています。
監修しているのは経済産業省と独立行政法人中小企業基盤整備機構で、事務局として実施してるのは一般社団法人サービスデザイン推進協議会です。
(参考:中小企業生産性革命推進事業│中小機構)
(参考:IT導入支援事業者・ITツール検索│ 一般社団法人 サービスデザイン推進協議会)
IT導入補助金の対象となる企業・事業者
IT導入補助金について概要を解説しましたが、気になるのは「補助の対象者はどのような企業・事業者なの?」という点かと思います。
IT導入補助金の対象者となるのは、「中小企業・小規模事業者」となっており、業種は「飲食、宿泊、卸・小売、運輸、医療、介護、保育等のサービス業の他、製造業や建設業等」など幅広く設定されています。
申請対象となる中小企業の定義
申請の対象となる中小企業の定義は下記のとおりです。
業種分類 | 定義 |
① 製造業、 建設業、 運輸業 | 資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社又は常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人事業主 |
② 卸売業 | 資本金の額又は出資の総額が1億円以下の会社又は常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人事業主 |
③ サービス業
( ソフト ウェア業又は情報処理サービス業、 旅館業を除く) |
資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人事業主 |
④ 小売業 | 資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は常時使用する従業員の数が50人以下の会社及び個人事業主 |
⑤ ゴム製品製造業
( 自動車又は航空機用タイヤ及びチューブ製造業並びに工場用ベルト 製造業を除く ) |
資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社又は常時使用する従業員の数が900人以下の会社及び個人事業主 |
⑥ ソフト ウェア業又は情報処理サービス業 | 資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社又は常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人事業主 |
⑦ 旅館業 | 資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は常時使用する従業員の数が200人以下の会社及び個人事業主 |
⑧ その他の業種( 上記以外) | 資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社又は常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人事業主 |
⑨ 医療法人、 社会福祉法人 | 常時使用する従業員の数が300人以下の者 |
➉ 学校法人 | 常時使用する従業員の数が300人以下の者 |
⑪ 商工会・ 都道府県商工会連合会及び商工会議所 | 常時使用する従業員の数が100人以下の者 |
⑫ 中小企業支援法第2条第1項第4号に規定される中小企業団体 | 上記①~⑧の業種分類に基づき、 その主たる業種に記載の従業員規模以下の者 |
⑬ 特別の法律によって設立された組合又はその連合会 | 上記①~⑧の業種分類に基づき、 その主たる業種に記載の従業員規模以下の者 |
⑭ 財団法人( 一般・ 公益) 、 社団法人( 一般・ 公益) | 上記①~⑧の業種分類に基づき、 その主たる業種に記載の従業員規模以下の者 |
⑮ 特定非営利活動法人 | 上記①~⑧の業種分類に基づき、 その主たる業種に記載の従業員規模以下の者 |
申請対象となる小規模事業者の定義
申請の対象となる小規模事業者の定義は下記のとおりです。
業種分類 | 定義 |
商業・サービス業(宿泊業・娯楽業除く) | 常時使用する従業員の数が5人以下の会社及び個人事業主 |
サービス業のうち宿泊業・娯楽業 | 常時使用する従業員の数が20人以下の会社及び個人事業主 |
製造業その他 | 常時使用する従業員の数が20人以下の会社及び個人事業主 |
(引用:IT導入補助金2021 公募要領)
このように、従業員数や資本金・出資総額の条件が業種ごとに異なるため、自社が当てはまるかどうかはしっかり確認しましょう。
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事業承継補助金とは? 対象者や申請方法などを分かりやすく解説IT導入補助金の対象となるITツール
上記でも解説しましたが、IT導入補助金の対象となるのはIT導入支援事業者が事務局に登録し、認定されているITツールとなります。
具体的には、日常的に繰り返す同じ作業を効率化するITツールや、情報を一括で管理できるクラウドシステムなど、汎用的なITツールが対象です。
繰り返しになりますがこの制度の目的は、それぞれの企業に最適なITツールの利用を促進することで、生産性や効率性を上げたり、感染リスクの低下につなげることです。
したがって、自社の強みや抱える課題、今置かれている環境などを分析・把握することが重要となり、それに最適なITツールを選ばなければ、生産性向上・業務効率化または感染リスクの高い仕事の非対面化につながりません。
また、対象となるITツールは、下記の3つに分けられています。
- 大分類Ⅰ ソフトウェア
- 大分類Ⅱ オプション
- 大分類Ⅲ 役務
さらにこのなかからも分類されているため、1つずつ解説していきます。
大分類Ⅰ ソフトウェア
「ソフトウェア」は、下記の2つにカテゴライズされています。
- カテゴリー1:単体ソフトウェア
- カテゴリー2:連携型ソフトウェア
大分類Ⅱ オプション
「オプション」は、下記の2つにカテゴライズされています。
- カテゴリー3:拡張機能
- カテゴリー4:データ連携ツール
- カテゴリー5:セキュリティ
大分類Ⅲ 役務
「役務」は、下記の4つにカテゴライズされています。
- カテゴリー6:導入コンサルティング
- カテゴリー7:導入設定・マニュアル作成・導入研修
- カテゴリー8:保守サポート
- カテゴリー9:ハードウェアレンタル
IT導入補助金で導入したITツールでできること
ITツールで業務効率化や生産性向上につなげられることはなんとなくイメージできるかもしれませんが、「具体的にはどのようなことができるのか?」といった点が気になる方もいるのではないでしょうか。
ITツールを利用することで、下記のようなことが可能になります。
- RPAツールによるルーティン作業の自動化
- グループウェアによる円滑な情報共有
- CRMによる収益向上
それでは1つずつ解説していきます。
RPAツールによるルーティン作業の自動化
RPAとは「ロボティック・プロセス・オートメーション(Robotic Process Automation)」の頭文字をとった言葉で、ルーティン作業や人間だけが行えると考えられてきた業務、専門的な業務を、AIやロボットを用いて自動化する取り組みのことです。
生産年齢人口が減少し続ける日本では、労働力の確保は喫緊の課題であるため、単純作業やルーティン作業までに人員を割いていると、人件費がかさみます。そこで、RPAツールを導入することによって人件費削減や業務効率化が可能になります。
グループウェアによる円滑な情報共有
企業の力の源は従業員であり、その従業員同士がスムーズに連携・協業することで企業は成り立っています。そして、従業員同士が連携するには円滑な情報共有が不可欠で、これを可能にするのがグループウェアです。
グループウェアを導入することで個々人のスケジュールを同時並行で管理できたり、会議室やプロジェクタなどの共用設備を一括で管理できるようになります。また、人事通知やお知らせを掲載できる掲示板機能の使用や、契約書の雛形などの重要文書の管理も可能です。
CRMによる収益向上
CRMは「Customer Relationship Management」の頭文字をとった言葉で「顧客関係管理」と呼ばれます。CRMツールを導入することで顧客の情報を一括管理したり、顧客の解析をすることが可能になります。
この結果、顧客を中心に据えたビジネスが可能になり、利益を最大化できるでしょう。
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CRMとは?いま必要な理由とSFAとの違い、メリットデメリットを解説IT導入補助金:2つの枠の違いとは
補助内容を見てみると「通常枠(A・B類型)」と「低感染リスク型ビシネス枠(C・D類型)」の2種類があることがわかりますが、この2つは下記のような違いがあります。
区分 | 内容 |
通常枠(A・B類型) | 抱える課題を解決して生産性向上や業務効率化を目的にITツールを導入する経費の一部を補助する |
低感染リスク型ビシネス枠(C・D類型) | 中小企業や小規模事業者が新型コロナウイルスのリスク感染が高い業務を減らすことを目的に、非対面化をしたり対人接触を極力減らす取り組みのためにITツールを導入する経費の一部を補助する |
それでは、1つずつ詳しく解説していきます。
通常枠(A・B類型)
通常枠は従来のIT導入補助金にも存在した類型です。
A類型とB類型でそれぞれ補助内容が違い、B類型のほうが充実しています。
A類型 | B類型 | |
補助率 | 2/1以内 | 2/1以内 |
補助の上限額 | 150万円 | 450万円 |
補助の下限額 | 30万円未満 | 150万円未満 |
低感染リスク型ビジネス枠(C・D類型)
低感染リスク型ビジネス枠(C・D類型)は上記で解説したように、新型コロナウイルスの感染リスクを下げることと、生産性の向上を目的として新しく追加された特別枠です。こちらの特徴はソフトウェアを導入する費用だけではなく、ハードウェアのレンタル費用も補助の対象となっている点です。
上記のA・B類型の条件を満たしている必要があり、さらに下記の3つのうちどれかを満たすITツールであることが条件となります。
- インボイス制度に対応しているITツールであること
- クラウド対応しているITツールであること
- 非対面化を可能にするITツールであること
IT導入補助金の申請・手続きの流れ
IT導入補助金に申請するには、いくつかやることと用意しなければならないものがあるため、しっかりと手続きの流れを確認しておきましょう。
- 制度を理解し、ITツールを選ぶ
- 「gBizIDプライム」の取得
- 必要書類の準備
- 交付申請
- 事業実績報告
- 補助金確定通知後、交付
それでは1つずつ解説していきます。
制度を理解し、ITツールを選ぶ
まず、IT導入補助金の制度を理解し、自社が抱える課題や状況に応じたITツールを選びます。
「gBizIDプライム」の取得
さまざまな補助金の申請に欠かせないのが「gBizID」です。これは、1つのIDでいくつもの行政サービスにログインできるもので、IT導入補助金の手続きにも必要なIDです。
アカウントが発行されるまでおよそ2週間から3週間以上かかるため、計画的に申請を行いましょう。
必要書類の用意
法人の交付申請には、下記の書類を用意しておかなければなりません。
- 履歴事項全部証明書
- 法人税の納税証明書
こちらも計画的に用意しておきましょう。
交付申請
実際に交付申請を進めていきますが、この際に申請者ごとに開設が可能な「申請マイページ」に必要事項を入力していきます。この「申請マイページ」をつくるために上記のgBizIDプライムのアカウントが必須となります。
事業実績報告
「申請マイページ」から、事業実績報告をつくります。ID導入支援事業者でも内容を確認してもらい、必要事項の入力をしてもらいます。これらをチェックしたら、事務局に報告を行います。
補助金確定通知後、交付
事業実績報告が終わったら補助金額が確定し、「申請マイページ」に通知が届き、その後に補助金が交付されます。
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補助の対象となっているITツールを調べるときは、下記のサイトで自社の課題を解決できるものがないかを探してみましょう。
最低でも30万円というハードルは高いかもしれませんが、この機会にITツールをまとめて導入し、業務効率化や生産性向上につなげるためには、IT導入補助金は非常に便利な制度ではないでしょうか。
まとめ
ここまで、IT導入補助金について解説しました。業務効率化・生産性向上といった課題は企業の課題であるのはもちろん、今後さらに労働人口が減っていくことが予測されている日本全体の課題でもあります。
また、昨今の新型コロナウイルスの流行もあり、人々の働き方や企業の営業・運営方法の変化も求められており、よりITツール導入の必要性は増しています。こういった制度を利用して、今一度、自社の抱える課題が解決できないか検討してみるとよいでしょう。
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