変革型リーダーシップとは、従業員にマインドの面から影響を与え、感情を揺さぶり、信念と価値観を与えることで行動を変えようとすることです。それゆえ、メンバーに強い影響力を与えるカリスマ性が求められます。
状況が目まぐるしく変化する時代、組織も社会の需要に合わせて変革を迫られるようになりました。
そのような背景から変革型リーダーシップ論がにわかに注目を集めており、実践している管理職や経営者の方も多いのではないでしょうか。
しかし、メジャーなリーダーシップ理論はアメリカを中心とした欧米社会が基準となっています。日本の組織に当てはめるには、その性質の違いを考慮することが大切です
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目次
変革型リーダーシップとは?
そもそもリーダーシップには、大きく分けて「交換型リーダーシップ」と「変革型リーダーシップ」の2種類があります[1]。交換型リーダーシップとは、チームメンバーの成功や失敗に応じて報償や懲罰を与えることで、個々人の能力やモチベーションを引き出そうとするリーダーシップです。一般的な上司と部下、あるいは雇用者と従業員の関係性を表すものと言って良いでしょう。
一方、変革型リーダーシップとは交換型のようなギブ&テイクの関係に頼りません。従業員にマインドの面から影響を与え、感情を揺さぶり、信念と価値観を与えることで行動を変えようとするアプローチを取ります。それゆえ、変革型のリーダーシップにはメンバーに強い影響力を与えるカリスマ性が求められると考えられることが一般的です。
代表的な2人の変革型リーダーシップ論
変革型リーダーシップ論は数々の学者によって論じられてきましたが、とりわけ有名な研究者として、
・ハーバードビジネススクールの名誉教授を務めたジョン・P・コッター
・ミシガン大学ビジネススクール教授を務めたノール・M・ティシー
以上の2人がいます。彼ら2人の理論は現代の経営者にも広く影響を与えており、変革型リーダーシップ論を理解する上では欠かすことはできません。
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コッターの変革型リーダーシップ論
コッターの変革型リーダーシップ論には2つの特徴があります。
・リーダーシップとマネジメントの役割を明確に区別する
・リーダーの役割はビジョンの周知にある
リーダーとマネジメントを区別する
ジョン・コッターは、管理職には「リーダーシップ」と「マネジメント」という明確に異なる2つの役割が求められると論じています[2]。リーダーシップは、行く先が見えない中で進むべき未来と方向性を定め、ビジョンと戦略を描くことがリーダーシップの役割です。ビジョン策定したり人を動かしたりするためには、冷静さよりも情熱が求められるでしょう。
一方マネジメントは、既存のシステムを動かし続ける、あるいは複雑な問題に対処する際に必要とされます。リーダーシップよりもデータに落とし込みやすい仕事が主なものとなり、業務に当たる際には冷静さが求められます。
リーダーの役割はビジョンの周知
コッターが論じるリーダーシップの基本にして最大の役割は、組織に危機感を持たせ、課題の解決をもたらすための戦略を策定し、組織が向かう先のビジョンを提示し根付かせることにあります。具体的には、ビジョンを根付かせるためのチームを編成し、チームを通して、あるいは自身が表舞台に立ってビジョンの周知活動を展開することが必要です。そのためには、社内報や会議などあらゆる手段をビジョン周知の媒体として生かし、また日常的な従業員とのコミュニケーションが不可欠となります。
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ティシーの現状変革リーダーシップ論
ティシーもコッターと同じようにリーダーシップの機能をマネジメントと区別し、リーダーが自身の考えによってメンバーに影響を与えることを役割だと語っています。
リーダーシップエンジンによってリーダーを生み出す
ティシーは、組織内のあらゆる階層にリーダーが存在し、リーダーが次世代のリーダーを生み出していく「リーダーシップエンジン」という概念を強調しました。変化の早い時代において組織がスピーディーに動くには各階層に適切かつ迅速に意思決定ができる存在が必要だと考えたのです。
アイディアと価値観で人を動かす
リーダーがリーダーとして機能し、そして新たなリーダーを生み出すには以下の4つの領域を育成すべきだとティシーは論じています[3]。
・アイディア:事業に付加価値を与える明確なアイディアを持つ
・価値観:組織に根付かせる厳格な価値観を持つ
・エネルギー:迅速に行動するためのエネルギーを持ち、従業員にも決断力を与える
・エッジ:勇気を持って決断する力を育てる
変革型リーダーシップ論の問題点
メジャーな変革型リーダーシップ論に共通するのは、明確な価値観とビジョンを持って組織を導いていくという点です。しかし、この点だけにフォーカスするとリーダーとメンバーの間で軋轢が生じてしまう可能性があります。特に、アメリカと異なる日本の風土ではその危険性が一層大きいといえるでしょう。
リーダーに新風を求めるアメリカ組織
アメリカでは、「古い体制を引き継いでいる会社は時代に取り残されて滅びてしまう」という意識が企業に根付いています。つまり、組織として新しい考えや新しいやり方を受け入れる土壌がすでに出来上がっていることが多いのです。特に変化の激しいハイテク業界においては、「前任者からの引継ぎなどあり得ない」という価値観を持つ会社もあるほどです[4]。このような気風では、組織を刷新するほどカリスマ性のある変革型のリーダーは歓迎されやすいでしょう。
カリスマを求めない日本組織
一方で、日本の組織は本質的には大きな変化を受け入れにくい風潮があります。なぜなら日本人の持つ伝統的な価値観として、自身や自身が属するグループの既得権益、つまり「悪くない現状」を維持しようという意識が強い傾向にあるからです[5]。したがって、救世主となりうる革命的なカリスマリーダーであっても、それが現状を壊しうる存在なら十分に排斥の対象となりえます。
もちろん、すべてのアメリカ人が革新的で、すべての日本人が保守的であるとステレオタイプに語るつもりはありません。しかし、固有の価値観を考慮せず、表面的な変革型リーダーシップ論をなぞるだけでは組織変革はなしえないでしょう。
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日本人が求める変革型リーダーシップとは?
変革とは、現状を打ち壊すこと、いわゆるコンフォートゾーンから抜け出すことであり、多大な労力とリスクが必要です。とりわけ現状維持を優先する傾向のある日本人では、革新的なビジョンが手放しで受け入れられることは難しいと考えられます。
ビジョンだけでは人は動かない
変革型リーダーシップ論の「ビジョン」というワードを強く意識してひたすら変革の必要性を訴えるだけでは、従業員が行動に移す可能性は極めて低いと言わざるを得ません。むしろ、従業員からの反発が強くなり、信頼を失うことにもなりかねないでしょう。現状維持を重視する組織にいかに変革に向かって行動してもらうか。それには人が行動する動機について理解しなければなりません。
行動力の最大の源は人間関係にある
協調性や同調性の強い日本人にとって、人間関係にまつわることが最も行動力に影響すると考えられます。自身にとってメリットをもたらす人間に対しては、良好な人間関係を保つことで既得権益を維持しようという意識が働きやすくなるでしょう。心理学用語にも「返報性の原理」という言葉があります。他者から何かを与えてもらった際には、その恩に報いないと収まりが悪いという心理状態になるのです[7]。
変革の前に必要なのは信頼の蓄積
アメリカの組織においては、新たな風を吹き込むことが信頼につながりますが、日本においては自身の既得権益を守ってくれる人間が信頼の対象となります。したがって、まず大切となるのは危機感の周知ビジョンの提示ではなく、マネージャーとして現場の課題解決に対して大きく貢献し、従業員の既得権益を守ることなのです。たとえば
・部下のミスに対して率先して顧客の前に立ち謝罪をする
・部下の悩みや質問に対して真摯に対応する
・上司や顧客に対して部下の功績をしっかりと報告する
このような細かくとも重要な対応を積み重ねることで、メンバー一人一人にとって有益な存在となる必要があります。これらの経験を通して、
「現状の利益を維持するには、マネージャーの期待に応えねばならない」
とメンバーが感じるようになる状況を作り出すことで、初めて変革のためのビジョンが受け入れられるようになります。これは、変革型リーダーシップよりも冒頭で論じた交換型リーダーシップの性質に近いものと言えるでしょう。基礎的な関係構築があってこそ、リーダーの変革に対する姿勢が伝わるのです。
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マネジメントとリーダーシップの両輪で変革は実現する
変化の時代において、マネジメントよりもリーダーの役割が大きくなることは確かでしょう。一方で、リーダーシップを下支えするマネジメントの役割をしっかり果たさない限り、リーダーとしての影響力を十分に行使することは難しくなります。両輪がしっかり回ってこそ、組織も変革に向かって歩み出すことができるのです。