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皆さんは「ラテラルシンキング」という言葉を聞いたことがありますか?
ラテラルシンキングとは、物事を多角的に考える方法で、価値観や常識が多様化し変化していく時代において、必要なスキルといわれています。
本記事では、そんなラテラルシンキングをわかりやすく解説します。
「ラテラルシンキングって何?」「ラテラルシンキングの具体例を知りたい」
そんな方におすすめの記事になっていますので、ぜひご一読ください。
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ラテラルシンキングの意味
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ラテラル(Lateral)には、「側部にあるもの」「側面から生じるもの」という意味があり、直訳すると「側面からの考え方」を示します。
ビジネスでは転じて、正面ではなく側面から物事を捉える多角的な思考のことを指し、「水平思考」とも呼ばれます。
革新的なイノベーションを生み出すためには、このラテラルシンキングが必要になると言われています。
ラテラルシンキングの考案者
ラテラルシンキングを考案したのは、エドワード・デボノ博士です。デボノ博士は医師でありながら、同時に心理学者、作家、発明家、コンサルタントとさまざまな肩書きを持っていました。
デボノ博士の有名な逸話としては、ロサンゼルスオリンピックでの出来事が挙げられます。
1984年までのオリンピックでは、営利団体がオリンピックのスポンサーとして入ることが認められていませんでした。
しかし、講演会でのデボノ博士による「オリンピックに営利団体をスポンサーとして入れ、オリンピック開催国が豊かになるようにしよう」という提案から、その後オリンピックでは営利団体がスポンサーに入る形が出来上がったのです。
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ロジカルシンキングによる問題解決方法とは?論理的思考のための4つのプロセスを徹底解説!ロジカルシンキングとの違い
〇〇シンキングという言葉で他によく聞くものとしては、ロジカルシンキングが挙げられます。
ロジカルシンキングは「垂直思考」とも呼ばれ、既成概念を元に思考を垂直的に分析する方法であり、合理的な結論を導き出すために使用します。
ロジカルシンキングが、情報の整理や問題解決といった事実的な問題解決に強いのに対し、ラテラルシンキングは、革新的なイノベーションを生み出すための思考方法で、その思考方向に大きな違いがあります。
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クリティカルシンキングとの違い
クリティカルシンキングとは、「自身の考えは本当にあっているのか」を検証・批判(クリティカル)する思考方法のことです。
自由に物事を考えるラテラルシンキングと違って批判的な面が強い考え方ですが、ラテラルシンキング同様に常識に囚われない点では重なる部分もあるため、似た概念ともいえます。
ロジカルシンキング、クリティカルシンキング、ラテラルシンキングは相互に補完的な立ち位置にあるため、どれが正しいということはありません。
状況や目的に合わせ、どの手段を利用するかを検討する必要があります。
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Googleも採用している、部下が悪いことでも積極的に報告する「強いチーム」の作り方なぜラテラルシンキングが注目されているのか
ラテラルシンキングが注目されているのは、変わりゆく社会において、今までの前提が崩れるというシーンが散見されるからです。
ここではもう少し掘り下げて、以下の観点からラテラルシンキングを考えてみましょう。
- VUCAの時代だから
- 今後はリトルC創造性こそが大切だから
- イノベーションのジレンマを解消するため
それぞれわかりやすく解説します。
VUCAの時代だから
VUCAとは以下の4つの単語の頭文字を取ったもののことをいいます。
- Volality:変動性
- Uncertainly:不確実性
- Complexity:複雑性
- Ambiguity:曖昧性
今後の社会は先行きが不透明であり、確実なものは存在しません。そのため、従来通りの当たり前は通用しなくなります。
ビジネスモデルも同様です。例えば、タクシーの配車アプリUberは、スマホを3回タップするだけで配車ができるサービスを構築、GPS機能を利用することで今までのタクシーを呼ぶ手間を縮小しました。
こうした従来通りのやり方を刷新したサービスを破壊的イノベーションと呼びますが、デジタルが進歩した現在ではこうしたことが頻繁に起こります。
つまり、従来通りの考え方をしていてはイノベーションに対応できないということです。
したがって、VUCAの時代においては、従来的なロジカルシンキングよりもラテラルシンキングが必要になると言えます。
専門家
今後はリトルC創造性こそが大切だから
「ビッグC」と「リトルC」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
創造性は数値として算出されるものではないため、その可視化が難しいといわれています。
しかし、レオナルド・ダ・ヴィンチやスティーブ・ジョブズのような天才たちが生み出した、世界を変えるほどの創造性と、日々の生活をちょっとだけ豊かにする創造性の2種類に分けることができます。
前者をビッグC創造性とよび、後者をリトルC創造性と呼びます。
このうち、世の中をよりよくするのは、リトルC創造性がほとんどです。小さな創造性を集め、改善し、昇華することで世の中を豊かにするイノベーションが出来上がるのです。
こうしたリトルC創造性を育むためには、ラテラルシンキングが欠かせません。
イノベーションのジレンマを解消するため
イノベーションのジレンマとは、ある業界でシェアを多く獲得した企業が、その後の時代変化についていけず、衰退することをいいます。
高いイノベーションを生み出し、業界シェアを獲得したにもかかわらず、新しいイノベーションについていけなくなることをジレンマと表現しています。
イノベーションのジレンマの例として、アナログカメラがスマホ含むデジタルカメラに敗北した例が挙げられます。
スマホカメラの台頭により、今までのガラパゴス携帯ではなし得なかった高品質な写真の撮影がスマホで可能になり、撤退して行く会社も存在しました。
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システム思考ラテラルシンキングのメリット、特徴
ラテラルシンキングのメリットと特徴は以下3つです。
- 失敗が成功へ変わる
- 前提条件を壊せる
- 最短ルートが見つかる
それぞれわかりやすく解説します。
失敗が成功へ変わる
ラテラルシンキングを身に着けることで、失敗の概念が覆ります。
例えば、付箋でお馴染みのポスト・イットは当初から貼ったり剥がしたりできる付箋として商品企画をして完成したものではありません。
接着剤の開発にあたって、たまたま弱い粘着性のノリが生まれてしまいました。この際に、粘着性の弱いノリを失敗として考えるのではなく、他に活用できないかと考えることでポスト・イットが生まれたのです。
専門家
前提条件を壊せる
例えば、以下のような質問を考えてみましょう。
「5つのりんごを2人で分けあう場合にはどうすればいいでしょうか。」
ロジカルに考えると、この答えは2つずつりんごを分け合い、残りの1つを半分に分けるというのが答えになります。
しかし、必ずしもこの例が成功ではないはずです。
他の方法として、りんごを全てすり潰してジュースにし、その後2人で分ける方法もあります。
このように、「5という数字を2つで割る」という考え方から、「りんごそのもの」の性質に注目することで、前提条件を崩すことができます。
最短ルートが見つかる
ラテラルシンキングを利用することで最短ルートが見つかります。
ロジカルシンキングの場合、そもそもの決められた前提内で思考をする必要があるので、合理的ではありますが時間がかかる結論にたどり着くことがあります。
しかし、ラテラルシンキングを利用することで最短ルートの抜け道を見つけることが可能になります。
例えば、お祭りの射的で命中率を上げる方法を考えてみましょう。命中率を上げるためには、努力を積み重ねることでその精度を上げることが考えられますが、この考え方は実にロジカルシンキング的です。
ラテラルシンキングを活用すると、「そもそもの的の大きさを大きくすればいい」「銃の長さを長くすればいい」などの方法が考えられます。
経営者
ラテラルシンキングの鍛え方
経営者
ラテラルシンキングを鍛えるためには、以下を活用するのがおすすめです。
- 6色シンキングハットを利用する
- 吹き出しに入るものを考える
- オズボーンのチェックリストを利用する
それぞれわかりやすく解説します。
6色シンキングハットを利用する
ラテラルシンキングの考案者、デボノ博士が考案したのが6色シンキングハットを利用する方法です。
6種類の思考タイプを色ごとに分け、グループでディスカッションすることで水平思考が可能になるとデボノ博士はいいます。
シンキングハットの色と思考は以下の通りです。
- 客観的な思考:白色
- 否定的な思考:黒色
- 肯定的な思考:黄色
- 創造的な思考:緑色
- 感情的な思考:赤色
- 管理的な思考:青色
上記の帽子を被りそれぞれの役を演じて討論した後に、再度帽子を入れ替えて討論をすることで思考の切り替えが可能になり、水平思考だけではなく、ロジカルシンキングやクリティカルシンキングも身に付けることができます。
吹き出しに入るものを考える
神戸大学が考案したのは、吹き出しの中に入るものを考える思考法です。
ラテラルシンキングでは、ロジカルな思考には入りえないユーモラスな思考が重視されています。ロジックをあえて壊滅的に破壊することで面白いと思わせ、ユーモアを重視する思考法は、ラテラルシンキングにつながるのです。
まだ開発中の思考法ですが、ユーモアや創造性を育む例として活用できそうです。
オズボーンのチェックリストを利用する
ブレインストーミングを活用した発想方法、オズボーンのチェックリストを活用するのもひとつの手です。
ブレインストーミングは、会議の参加者が自由に発想を出し合う方法で、革新的なアイデアを発見することに効果的です。
しかし、これを行ってもアイデアが出てこない時があるため、オズボーンはアイデア出しの方法としてチェックリストを作成しました。それが下記の9つです。
- 転用
- 応用
- 変更
- 拡大
- 縮小
- 代用
- 置換
- 逆転
- 結論
9つの観点でアイデア出しをすることで、議論が活発化するとされており、今までには無かった革新的なアイデアを生み出すことができます。
ラテラルシンキングの例題:ポール・スローンのウミガメのスープ
専門家
ラテラルシンキングの例題はいくつもありますが、その中でもよく引用されるウミガメのスープという例題を考えてみましょう。
ある男が、とある海の見えるレストランで「ウミガメのスープ」を注文した。
スープを一口飲んだ男は、それが本物の「ウミガメのスープ」であることを確認し、勘定を済ませて帰宅した後、自殺した。一体、なぜ?
参照:ポール・スローンのウミガメのスープ
前提条件は何もないので、ロジカルなシンキングだけでは正解に辿り着くことはできません。
したがって、この問題の正解に辿り着くためには創造性が必要です。この問題の答えを知るために、回答者は、設問者に対して質問ができます。
回答者の質問に対し、質問者は「はい」「いいえ」「関係ありません」の3つの返答ができます。
この問題の答えはなんなのでしょうか?
男はかつて数人の仲間と海で遭難し、とある島に漂着した。食料はなく、仲間たちは生き延びるために力尽きて死んだ者の肉を食べ始めたが、男はかたくなに拒否していた。見かねた仲間の一人が、「これはウミガメのスープだから」と嘘をつき、男に人肉のスープを飲ませ、救助が来るまで生き延びさせた。男はレストランで飲んだ「本物のウミガメのスープ」とかつて自分が飲んだスープの味が違うことから真相を悟り、絶望のあまり自ら命を絶った。
参照:ポール・スローンのウミガメのスープ
上記がこの問題の答えです。この問題が水平思考的なのは、前提条件がなく、答えを自身で想像して見つけ出さなければならないからです。
『ポール・スローンのウミガメのスープ』にはこのようなラテラル思考を育む問題が掲載されています。ラテラルシンキングの例題をもっと知りたいと思った方は一度目を通してみるのもよいでしょう。
参考:ポール・スローンのウミガメのスープ | エクスナレッジ(2004)
ラテラルシンキングで生まれた商品
ラテラルシンキングから生まれた商品には以下の商品が挙げられます。
- AppleのiPhone
- ダイソンの扇風機
AppleのiPhone
iPhoneはラテラルシンキングによって生み出された商品です。
考案者のスティーブ・ジョブズは既存製品にはボタンがあるのが当たり前だったのに対し、「いっそボタンをなくせばいい」と考えました。
前提条件として「ボタンが必要」であった携帯の常識を覆し、新たな製品の開発を進めたのです。
ダイソンの扇風機
「吸引力の変わらないただひとつの掃除機」というキャッチフレーズで有名なダイソンは、掃除機だけではなく他の電化製品も開発しています。
例えば、ダイソンの羽のない扇風機は「羽があるのが前提」という考え方を180°ひっくり返しました。
専門家
まとめ
本記事では、ラテラルシンキングをわかりやすく解説しました。
ラテラルシンキングが今後重要になるのは以下3つの理由です。
- VUCAの時代だから
- 今後はリトルC創造性こそが大切だから
- イノベーションのジレンマを解消するため
今後は既存概念に囚われないクリエイティブな考え方がビジネスマンに必要になることでしょう。思考法と言うのは一朝一夕で身に着けられるものではありません。
今回記事内で紹介した方法を参考にしながら、ラテラルシンキングを鍛え、自身に取り入れてみてください。
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