いまの日本には「リスクをゼロにする」信仰がはびこっています。
最近だと「感染者数がゼロじゃないとダメだ」という風潮。これ、はたして妥当なのでしょうか?
生きるうえでも、ビジネスの世界でも、リスクはつきものです。リスクとの付き合い方が、人生や企業の勝敗を分けるといっても過言ではないでしょう。
私は感染症対策の専門家ではありませんが、経営者として「会社のリスク」を厳しく管理する立場にいます。
今回は、そんな私なりの「リスク」についての考え方をまとめました。
目次
「今」に視点を置いてしまう人間
まず、はっきりいって「リスクをゼロにしなければならない」というのは、人間の「錯覚」のひとつです。
あたりまえですが、社会ではつねに時間が流れています。しかし人間は、意識しないとつい「今」だけに視点をおいてしまうのです。
すると、どういうことが起こるでしょうか?
この世に存在するのは「今の利益を失うリスク」だけではありません。「未来の利益を失うリスク」も同時に存在しています。
「今」しか見えていない人は、それが理解できないのです。
ある程度ウイルスを抑え込んでも、「感染者ゼロ」にこだわって制限をし続ける。それが長引けば長引くほど、今後5〜10年の経済の回復は遅れていくでしょう。
それによって発生する失業者や、成長機会の損失は「未来のリスク」です。
「未来のリスク」が「今のリスク」よりも重要でない気がしてしまうのは、錯覚です。未来は、いずれ「今」になる。時間は地続きで流れているのです。
だから「今のリスク」と同じように「未来のリスク」を捉えたうえで、判断しなければいけません。
時間の流れを正しくよめた人が、リスクを制するのです。
今の利益を優先する人は、未来で損をする
すべてにおいて「時間の流れ」を正しく理解することは重要です。
さらに「今」の利益を優先すると、「未来」の利益は反転することが多いのです。
「今」ダイエット中の人が目の前のケーキを食べたら、「未来」では太ってしまいます。
「今」勉強をがんばりたくない、しんどい、遊びたい。そういう人は「未来」では受験に失敗します。
「今」この瞬間の部下にとって、厳しい上司はイヤな存在でしょう。しかしそこから逃げてしまえば「未来」ではいつまでも成長できません。
「今」この瞬間、部下の仕事を奪って自分でやると早く終わります。しかし「未来」においては部下は成長せず、自らの評価も上がりません。
「今」採用で優秀な人を採れば、多少コストがかかるかもしれません。しかし、そのリスクを恐れて採用を見送れば、その人が入社して得られるかもしれなかった「未来の利益」を失うことになります。
もうおわかりでしょう。
多くの人は「今この瞬間の欲求」を優先します。だからこそ「今」ではなく「未来」に視点を置ける人が勝つようになっているのです。
モチベーションを重視しすぎる会社は負ける
私が「識学」を始めたばかりのころは「モチベーション」という言葉が流行っていました。
しかし、モチベーションというのは「今」この瞬間の感情です。そこにフォーカスしすぎて「未来」の利益をないがしろにしては、会社はどんどん弱くなっていきます。
世の中のHR系のサービスを見ていると、ほとんどは今この瞬間の「切り取り」の効果しかありません。
サービスを売る側は「たのしい、モチベーションが上がる」みたいな「短期的な成果」があればいいわけです。それでクライアントが喜べば、導入も増えますから。
でも長期的にみると、どんどん会社が弱くなる可能性があります。指揮系統が崩れ、未来の業績が落ちるリスクがある。
そこに気づかなければいけないのです。
「今」を優先したくなるのは、動物の本能
「今」を優先する気持ちに打ち勝つには、どうすればいいか?
端的にいえば「時間は流れてるんだ」と、その都度、意識するしかありません。
人がつい「今」を優先してしまうのは、動物的な「本能」に近いからです。
文明が発展する前は、いつ敵に襲われたり、餓えたりして死ぬかわかりませんでした。「今」の欲求を優先するのが、原始的な世界での生きる術だったわけです。
しかし現代の日本において「今」を優先して生きていては、犬や猫などの動物と一緒です。人間的な社会において「本能」は、理性でコントロールしなければいけません。
社会的・人間的システムであるビジネスの世界では、何十年、何百年のスパンで「未来」を見通せた人が勝ちます。だから、アマゾンみたいな会社が成功しているわけです。
「今」この瞬間の楽しさや不安に惑わされそうになったら、ぜひ一度立ち止まって、考えてみてもらえるとうれしいです。
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引用元:安藤広大/株式会社識学 代表取締役社長note「「リスクゼロ」を目指す人が失敗する理由」