PMP(プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル)は、ビジネス関連の資格のひとつです。この資格は、約20年の歴史があるPMI日本支部(東京都中央区)が行っているPMP試験に合格し、プロジェクトマネジメント(PM)のスキルがあると認定された人に与えられます[1]。
プロジェクトマネジメント(PM)はアメリカの軍事開発の現場で開発され、ビジネスに転用されました。PMを身につけると、プロジェクトの進行スピードを上げて早期に結果を出すことができます。
PMを解説するとともに、PMの考え方を積極的に取り入れている日本企業を紹介します。
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目次
PMはアメリカの軍事開発から生まれた
まずはPMの誕生秘話から紹介します[2][3]。
1950年代の宇宙開発は、旧ソ連がアメリカを圧倒していました。旧ソ連は有人ロケットの打ち上げを成功させましたが、アメリカの技術はそこまで達していませんでした。
このことに危機感を覚えた米国防省は、軍事プロジェクトの進行スピードを上げる必要があると考えました。
その方法として浮かんだのが、「プロセスの体系化」と「プロセスの整理」でした。
プロセスとは、過程や工程という意味です。体系化とは、ばらばらだったものを1つにまとめることです。整理とは、雑然としている状態を整った状態に変えることです。
理解を助けるために、プロジェクトを「仕事」として、プロセスを「仕事のやり方」として考えてみると、PMとは「仕事のやり方を体系化したり整理したりして仕事を完成させるまでのスピードを上げるスキル」と言い換えることができます。
このように理解すると、「当たり前のこと」のように感じるかもしれません。また、どの企業でも、新人研修や管理職研修のなかで、業務の体系化と業務の整理は、大きなテーマになっていることでしょう。
しかし1950年代にはまだ、PM方式で仕事を進める考えがなかったのです。
アメリカ軍の力もアメリカの宇宙開発もダントツの世界一なったことで、米国防省が導入したPM方式の効果は実証されました。そしてPM方式を導入した企業も業績を伸ばしていきました。
こうした実績から、ビジネスをPM方式で進めることが一般的になったのです。「仕事のやり方を体系化したり整理したりして仕事を完成させるまでのスピードを上げること」が当たり前なことだとしたら、それはそれだけPMの考え方が浸透している、ということなのです。
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PMBOKとは、PMIとは
PMの考え方がビジネスに役立つことがわかると、これを研究、普及、発展させようという団体が現れました。それがアメリカのPMI(プロジェクトマネジメント・インスティテュート、PM協会)です[4]。
日本には1998年にPMI日本支部が設立されました。PMI日本支部のミッションは、PMの適用基盤の整備、PMの標準化、PMの活用の普及などとなっています[5]。
さて、先ほどPMを「仕事のやり方を体系化したり整理したりして仕事を完成させるまでのスピードを上げること」と紹介しましたが、これは理解を助けるために単純化した表現です。「本物」のPMは、学問のひとつになるほど高度な概念で、千葉工業大学にはプロジェクトマネジメント学科があるほどです[6]。
そしてPMには「教科書」もあります。それがPMBOK(プロジェクトマネジメント・ボディ・オブ・ナリッジ)です[7]。PMBOKはPMIがPMのノウハウをまとめたガイドブックのような存在で、これが世界標準になっています。
それではPMBOKの内容をみながら、PMの本質に迫っていきましょう。
PMの本質とは~PMBOKに書かれてあることとは
PMBOKには、PM(プロジェクトマネージメント)の進め方が記されています。
10の管理エリアと5つのプロセスと3つのパートを「軸」にする
「プロジェクトを管理する」とひと口にいっても、その言葉からイメージする具体的な業務は人それぞれです。ある人にとってのプロジェクト管理はスケジュール管理であり、別の人にとってのプロジェクト管理はコスト管理だったりします。プロジェクトはビジネスパーソンごとに異なるので、「軸」がなければ、プロジェクト管理のイメージがバラバラになるのは当然です。
しかし、このままでは社内の各部署のプロジェクトの管理状況を一元的に管理することができません。
そこでPMBOKでは、「軸」として、10の管理エリアと5つのプロセスと3つのパートに整理しました[7]。以下のとおりです。
<10の管理エリア>
総合管理 | スコープ管理 | スケジュール管理 | コスト管理 | 品質管理 |
組織管理 | コミュニケーション管理 | リスク管理 | 調達管理 | ステークホルダー管理 |
(スコープ管理とは、目標、作業、成果物を定義して、承認、検収を行うこと)
<5つのプロセス>
立ち上げ | 計画 | 実行 | 監視・管理 | 終結 |
<3つのパート>
入力 | ツールと実践技法 | 出力 |
1つの部署には10の管理エリアがあり、1つの管理エリアには5つのプロセスがあり、1つのプロセスには3つのパートがある、という考え方です。
このことを概念図で示すとこうなります。
管理エリア | プロセス | パート |
総合管理 | 立ち上げ | 入力、ツールと実践技法、出力 |
計画 | 入力、ツールと実践技法、出力 | |
実行 | 入力、ツールと実践技法、出力 | |
監視・管理 | 入力、ツールと実践技法、出力 | |
終結 | 入力、ツールと実践技法、出力 |
この概念図は、「ある部署で総合管理に着手するとき、やることは5つ(立ち上げ、計画、実行、監視・管理、終結)あり、それぞれ3つのこと(入力、ツールと実践技法、出力)を実施する」という意味になります。
従来のプロジェクト管理との比較
まだPMBOKによるPMを実行していない企業では、従来のプロジェクト管理術によって社内管理を行っていることと思います。
従来型のプロジェクト管理で有名なのはQCDではないでしょうか。QCDによるプロジェクト管理とは、品質(クオリティ)と原価(コスト)と納期(デリバリー)を管理すれば「会社が回る」という考え方です。
PMBOKはQCDを否定していません。PMBOKの10の管理エリアは、以下のとおりでした。
総合管理 | スコープ管理 | スケジュール管理 | コスト管理 | 品質管理 |
組織管理 | コミュニケーション管理 | リスク管理 | 調達管理 | ステークホルダー管理 |
このうち、Qは品質管理として、Cはコスト管理として、Dはスケジュール管理として残っています。
つまりこれまでQCDによるプロジェクト管理を推進してきた企業がPM方式に移行する場合でも、これまでの取り組みを否定する必要はないのです。
QCDに残りの7つ(総合管理、スコープ管理、組織管理、コミュニケーション管理、リスク管理、調達管理、ステークホルダー管理)を加えればいいだけです。
世界的な「工場づくり企業」日揮株式会社のPM活用法
PMを活用している企業のひとつに、日揮株式会社があります。同社の活用例を知れば、さらにPMの理解が深まるでしょう。
日揮株式会社とは
日揮株式会社がどのような会社なのか紹介します[8]。
日揮は1928年に設立された、各種プラント施設のコンサルテーションや事業計画づくりなどを行う会社です。同社はこのビジネスを「工場づくり」といっています[9]。
連結の従業員数は約8千人で、拠点は国内だけでなく、アメリカ、イギリス、中国、オーストラリア、UAE、ロシア、アルジェリアなどにもあります(海外子会社含む)。イラクのバクダッドにも事務所を持っています。
「各種プラント施設」の「各種」は本当にさまざまで、原油、ガス、LNG、火力発電、原子力発電、再生可能エネルギー発電、医薬品・研究所、アグリカルチャー、空港などとなっています。
地域も業務内容も多岐にわたっていて、まさに「プロジェクトにあふれかえっている」会社といえます。だからこそ、PMの考え方を使ってビジネスを整理しているわけです。
日揮のPM
日揮がプラント施設(工場)をつくるときに、PMをどのように活用しているのかみていきましょう。PMI(PM協会)のPMをそのまま使っているのではなく、いわば「PM日揮バージョン」になっているところに注目していください。
日揮ではプラント施設づくりを、大体次のように進めています。
A工程 | B工程 | C工程 | D工程 | E工程 | ||
プロセス設計
5カ月 |
配管設計
8カ月 |
配管材料調達
12カ月 |
機器配管工事
12カ月 |
試運転
3カ月 |
完成 | |
機器設計
5カ月 |
土木設計
5カ月 |
土木工事
12カ月 |
||||
電気・計装設計
4カ月 |
機器類調達
15カ月 |
|||||
5カ月 | 8カ月 | 17カ月 | 12カ月 | 3カ月 |
この概念図は、プロセス設計(A工程)が終わらないと、配管設計・機器設計・電気・計装設計(B工程)に着手できず、配管設計・機器設計・電気・計装設計(B工程)が終わらないと配管材料調達・土木設計・機器類調達(C工程)に着手できない、ということを示しています。
概念図の最下段にある工程はそれぞれの工程(工程)に必要な最長期間です。
例えば、配管材料調達・土木設計・機器類調達(C工程)の各工程は同時に進めることができますが、それぞれの作業が終了する時期はまちまちです。しかしこれらすべてが終了しないと次の機器配管工事(D工程)に取りかかることができません。
それで配管材料調達・土木設計・機器類調達(C工程)は、最長17カ月(=土木設計5カ月+土木工事12カ月)かかるわけです。
したがってこのプラントづくりプロジェクトの全期間は45カ月(=5+8+17+12+3)になるわけです。
この概念図からは、ある工程の期間が最長期間を超えてしまったら、最終納期が遅れることがわかります。C工程で19カ月かかってしまったら、その遅れをD工程やE工程で取り戻すことはできず、納期はそのまま2カ月遅れます。
そこでそれぞれの作業を「しっかり納期通りに終わらせること」が重要になってきます。
日揮では「プロセス設計」や「配管設計」「機器設計」などのそれぞれの作業のことを「要素作業(アクティビティ)」と呼んでいます。
つまりプラントづくりプロジェクトの全期間45カ月は、アクティビティの期間の総計になります。
全行程をアクティビティごとにわけて納期管理する日揮の手法は、プロジェクト全体を「10の管理エリア」や「5つのプロセス」に細切れにしていくPMBOKのPMの考え方と似ています。
そして日揮方式には、PMBOKの「3つのパート」も使われています。
ちなみにPMBOKの「3つのパート」とは、このような内容でした。
再掲
<PMBOKの3つのパート>
|
日揮ではこの「3つのパート」の考え方を応用し、アクティビティを次のように構成しています。
インプット | ↓指示 | 報告↑ | アウトプット | ||
材料や情報 | → | アクティビティ | → | 成果物 | |
↑資源(人、道具、場所など) |
アクティビティ(要素作業)を実行するには、材料や情報をインプットして、人や道具や場所などの資源を投入します。そしてアクティビティのゴールは、成果物としてのアウトプットです。その途中で、上層部からの指示を受けたり、上層部に報告したりします。
ここまで作業を細切れにすれば、アクティビティが納期に終わらない(成果物が出ない)場合、どこに原因があるのかすぐに突き止めることができます。
材料が足りていないのか、資源が届いていないのか、指示が不十分なのか、報告が上がってくるのが遅いのか、といったことをチェックしていけばいいわけです。
さて、プラントづくりという45カ月に及ぶプロジェクトを「3つのパート」にまで細切れにすることができました。大きくて複雑なプロジェクトほど作業を細かく分解し、それぞれの作業を管理(マネジメント)していったほうが効率的に仕事を進めることができます。
ただ日揮では、作業をあまりに細かくしすぎないようにもしているそうです。
アクティビティを小さくして「3つのパート」の数が増えすぎてしまうと、管理の量が膨大になりすぎてしまい、管理のために管理という本末転倒な結果に陥ってしまうからです。
まとめ~大きな仕事は小さな仕事の集まり
社内でプロジェクトが立ち上がり、その参加メンバーの募集が行われたら、積極的に手を挙げていきましょう。自信があればプロジェクトリーダーに立候補してもいいでしょう。
プロジェクトを推進するには広い視野が必要ですが、そのスキルは簡単には獲得できません。そのスキル獲得をするためにも、新プロジェクトに携わったほうがいいのです。そのとき大きな仕事は小さな仕事の集まりであると考えれば、「自分でもなんとかなるかもしれない」と思えるのではないでしょうか。
PMは理論なので、机のうえでシミュレーションしても仕事の成果はあがりません。PMの理論を学んだら、すぐに実践で試しましょう。それには大きなプロジェクトに参加して(できれば牽引して)確かめていくしかないのです。
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参照
[1]PMP試験・資格についてhttps://www.pmi-japan.org/pmp_license/
[2]プロジェクトマネジメント【project management】PMhttp://e-words.jp/w/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%82%AF%E3%83%88%E3%83%9E%E3%83%8D%E3%82%B8%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%88.html
[3]プロジェクトマネジメントhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%82%AF%E3%83%88%E3%83%9E%E3%83%8D%E3%82%B8%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%88
[4]PMIhttps://www.pmi.org/
[5]PMI日本支部とはhttps://www.pmi-japan.org/branch_office/about.php
[6]プロジェクトマネジメント学科(千葉工業大学)https://www.it-chiba.ac.jp/faculty/social/pm/
[7]PMBOKとはhttps://products.sint.co.jp/obpm/blog/serial-umeda01
[8]日揮株式会社http://www.jgc.com/jp/
[9]海外プロジェクト・マネジメントへのシステムズ・アプローチ~理論・技法・展望〜http://scsr.jp/document/20160616_SCSR_sato.pdf