総合職の採用が一般的だった従来では、何でもできる「ジェネラリスト」が求められていました。
しかし現代は転職が当たり前になり、特定のスキルを持つ「スペシャリスト」が求められるようになっています。
それでは今後、ジェネラリストは必要なくなっていくのでしょうか。また、ビジネスパーソンはどのようなキャリアプランを構築すべきなのでしょうか。
本記事では、ジェネラリストについて徹底的に解説していきます。ぜひ最後まで読んでみてください。
目次
ジェネラリストとスペシャリストの違い
まずは、ジェネラリストとスペシャリストの違いをわかりやすく解説します。
本来は職業によってジェネラリストとスペシャリストの表現は変わってくるのですが、ここではわかりやすく概念的な話として進めていきましょう。
ジェネラリストとは
ジェネラリストとは「総合的に幅広く知識を持っている人」のことです。
ビジネス分野においては、1つの知識を専門的に有しているのではなく、幅広い知識で人をまとめあげる力を持っている人のことをいいます。
したがって、非常に汎用性が高く、何事にも対応できるため、管理職や経営陣に多いのがジェネラリストだと表現されることがよくあります。
スペシャリストとは
スペシャリストは「専門的な知識を持っていて、その道に精通している人」です。
ビジネス分野では、医者や税理士、エンジニアなどがスペシャリストとして呼ばれることが多いのが問題です。
ジェネラリストと比べると、狭い分野で深い知識を持っている人のことをスペシャリストと呼ぶことが多く、CFOやCIOなどの役職を目指すキャリアパスがあります。
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ジェネラリストを採用するメリット
ジェネラリストを採用するメリットとしては以下が挙げられます。
- 部門を横断した人材配置が可能になる
- マネージャー候補人材が増える
- さまざまなプロジェクトを立ち上げやすい
それぞれ詳しく解説していきます。
メリット1. 部門を横断した人材配置が可能になる
ジェネラリストを採用するメリットとして、部門を横断した人材配置が可能になることが挙げられます。
例えば、もし専門家だけでチームを結成した場合、財務に強い人材を営業部に配属したり、テクノロジーに強い人材を経理に回したりすることが出来なくなります。
一方でジェネラリストでチームを構成することで、高い自由度での人材配置が可能になります。
この場合、部門を横断した人材配置が可能になる点がポイントです。
例えば経理ソフトを販売する場合は、財務の専門家ではなく、一般的な人材よりも財務に強い人材を営業部に配属すべきだと考えられます。
このような場面では、各部署を調整できるジェネラリストを配属することで、部門を横断したワークフローを構築できるようになります。
メリット2.マネージャー候補人材が増える
ジェネラリストを採用するメリットとして、マネージャー候補人材が増えることが挙げられます。
ジェネラリストはスペシャリストに比べて幅広い知識を持っているため、さまざさまざまな人材とコミュニケーションを取ることができます。
さらに近年は、プロジェクト形式で仕事を進めるケースが増えており、各部署で選抜されたメンバーでチームを結成することも珍しくありません。
このような場面では、ジェネラリスト人材のマネージャーがチームリーダーに適していると考えられます。
マネージャー候補人材が不足している企業が増えているため、ジェネラリストを採用するメリットは、想像以上に大きいかもしれません。
メリット3.さまざまなプロジェクトを立ち上げやすい
ジェネラリストを採用することで、さまざまなプロジェクトを立ち上げやすくなります。
先ほども述べた通り、ジェネラリストは幅広い知識を有しているため、多様な専門家と協力することができます。
例えば、新規事業でWebサービスを立ち上げる際に必要なのはエンジニアだけではありません。
プロジェクトを円滑に進めるための制作進行、集客を担うマーケター、資金調達を手掛ける財務責任者など、さまざまな職種の人と連携する必要があります。
このような場合に、ジェネラリストは非常に役に立つ人材です。
ジェネラリストは各専門家とコミュニケーションが取れるため、プロジェクトの立ち上げメンバーの中の調整役に適しています。
ジェネラリストを採用するデメリット
ジェネラリストを採用するデメリットとしては、以下が挙げられます。
- 組織の成長力が低下する可能性がある
- 育成コストが発生する
- 役割を明確にできない
それぞれ詳しく解説していきます。
デメリット1.組織の成長力が低下する可能性がある
ジェネラリストを採用するデメリットとして、組織の成長力が低下する可能性が挙げられます。
ジェネラリストは幅広い知識を有しているものの、スペシャリストのような専門的な知識は有していません。
特に、最先端の知識はジェネラリストに理解できないものも多くあります。
そのためジェネラリストが多い企業では、新しい事業にチャレンジしづらくなり、組織が成長できなくなる可能性があるのです。
特に近年はテクノロジーの進化が著しいため、エンジニアやWebマーケターなど、IT関連の専門家は必須人材になっています。
「マネジメントの父」と称されたドラッカーも「イノベーション」を重要視していました。
イノベーションを起こし続けるためにも、一定のスペシャリスト人材が求められます。
デメリット2.育成コストが発生する
ジェネラリストのデメリットとして、育成コストが発生することが挙げられます。
現在、多くの大手企業で導入されている「新卒一括採用」は総合職採用であり、ジェネラリスト候補人材を採用しているということです。
新人従業員が1人前になるまで3年かかるとしたら、3年分の給与を「育成コスト」として支払う必要があります。
それに加えて、ジェネラリストはコミュニケーション能力、組織力、問題解決能力など、育成すべき能力が多岐に渡ります。
これらの能力を一度に開発することは難しいので、中長期的な視点で育成する必要があるでしょう。
ジェネラリストを採用する際は、育成コストも考慮して、本当にリターンが得られるのかを検討することをおすすめします。
デメリット3.役割を明確にできない
役割を明確にできないこともジェネラリストを採用するデメリットとして挙げられます。
組織内で役割を明確にできないと、責任の所在が曖昧になったり、タスクの割り振りでスピーディーに意思決定できなかったりなど、多くのデメリットが生じてしまいます。
また、従業員自らのキャリアプランも曖昧になってしまい、専門的な教育を受けられないのもデメリットの1つです。
上司としても、従業員に対して適切なフィードバックができなくなる可能性があります。
ジェネラリストは幅広い知識を持っているため、何者にでもなれる反面、役割を明確にできないのがデメリットです。
ジェネラリストを採用・育成する際は、タスクや定義を明確にすることが重要になります。
ジェネラリストに必要なスキルとは?
ジェネラリストに必要なスキルとしては、以下の6つが挙げられます。
- コミュニケーション能力
- プロジェクトマネジメントスキル
- データ分析力
- 問題解決能力
- 幅広い知識
- 独学力
スキル1.コミュニケーション能力
ジェネラリストに必要なスキルとして、まず挙げられるのがコミュニケーション能力です。
ジェネラリストはスペシャリストのように1人で黙々と仕事する機会は少なく、基本的にはさまざまな従業員とコミュニケーションを取りながら、仕事を進めていきます。
また、ジェネラリストはマネージャーや営業職に携わることが多くなると考えられますが、どちらも高度なコミュニケーションスキルが求められる職種です。
各スペシャリストを束ねて新規事業を始める際も、ミーティングでのファシリテーター役として抜擢されることも珍しくないでしょう。
このような点から、ジェネラリストはコミュニケーション能力が常に求められます。
スキル2.プロジェクトマネジメントスキル
ジェネラリストに必要なスキルとして、プロジェクトマネジメントスキルが挙げられます。
プログラミング、マーケティング戦略の策定などの業務は、基本的にはスペシャリストが担当します。
その上でジェネラリストは、各スペシャリストとコミュニケーションを取り、プロジェクトのスピードと品質を保つ役割があります。
プロジェクトマネジメントは、プロジェクトの成否を大きく左右するため、極めて重要度の高い役割です。
ジェネラリストがプロジェクトマネジメントスキルを有することは、企業だけでなく、従業員のキャリアにおいても大きなプラスになるでしょう。
ジェネラリストとしてキャリアを重ねたいのであれば、プロジェクトマネジメントスキルを身につけるのがいいでしょう。
スキル3.データ分析力
ジェネラリストに求められるスキルとして、データ分析力が挙げられます。
まず前提として、近年はテクノロジーが進化していることから、財務データ、顧客データ、市場データなど、さまざまなデータが可視化されています。
プロジェクト管理ツールも進化しており、リアルタイムで進捗を確認することが可能です。
このような時代では、データを正しく分析して、プロジェクトマネジメントや資料作成に活用できる人材が求められます。
その点でジェネラリストがさまざまなデータを分析できるようになれば、大きな人材価値が生まれるはずです。
特にジェネラリストは幅広い知識を身につけているからこそ、多様な領域からデータを抽出するアナリストとしても活躍しやすいと考えられます。
スキル4.問題解決能力
問題解決能力もジェネラリストに求められるスキルとして挙げられます。
例えばプロジェクトマネジメントにおいては、進捗の遅れが発生した際に解決策を早急に打つ必要があります。
しかし、各メンバーには決められた役割があるため、専門外のタスクを割り振れない可能性があり、非常に複雑な問題です。
このようなケースでは高度な問題解決能力が求められます。
また、問題解決能力は人間関係のトラブル解決にも大いに役立つでしょう。
以上の点から、ジェネラリストが問題解決能力を有しておくことは、一定のメリットがあると考えられます。
何よりも問題解決能力は、全ビジネスパーソンで求められるスキルです。学んでおいて損はありません。
スキル5.幅広い知識
ジェネラリストには幅広い知識が求められます。
例えばビジネスシーンであれば、以下の知識は必要不可欠です。
- 経営知識
- マネジメント
- マーケティング
- 営業
- 人事
- ITツール
一見すると「経営知識」や「マネジメント」は、多くのジェネラリストにとって必要ない知識かもしれません。
しかし、経営者やマネージャーとやりとりする上で、これらの知識は欠かせません。
また、ビジネスシーン以外にも、社会を深く理解するために、以下の学問の基礎知識を抑えておくのがいいでしょう。
- 政治
- 経済
- 法律
- 哲学
- 歴史
- 科学
いずれも高校生までで学ぶ基礎知識で十分です。
このように幅広い知識を持つことは、他の従業員やスペシャリスト人材とコミュニケーションを取る上で、大いに役立ちます。
まずは読書を習慣化したり、経済新聞を読んだりすることから始めるといいでしょう。
スキル6.独学力
現代社会では社会情勢が常に変化するため、ジェネラリストには独学力が求められます。
例えば「書類作成ツール」と言えば、従来であればWord一択だったかもしれません。
しかしインターネットが高速化した現代では、クラウドを前提にしたGoogleドキュメントや、複数の機能を組み合わせたNotionなど、次世代ツールが多くあります。
同じように経営手法、マーケティング、業界のトレンドなどは常に変化するため、常に学び続ける必要があります。
そこで重要になるのが独学力です。上司からの教えに頼らず、自分の力だけで物事を学ぶ力が、現代のジェネラリストには求められるのです。
独学力が身につけばリスキリングも可能になるので、キャリアの可能性も大きく広がるでしょう。
ジェネラリストのキャリアパス
ジェネラリストのキャリアパスとして考えられるのは以下3つです。
- 管理職
- プロジェクトマネージャー
- 人事部
それぞれわかりやすく解説します。
管理職
まずは、管理職が最もわかりやすいキャリアパスです。
管理職で必要となる能力は以下の通りです。
- 目標を設定し部下と共に遂行する
- 部下の強みを理解し、適切に仕事を振る
- 部下の話に耳を傾ける
- 職場をより働きやすいよう改善する
- 何か問題が発生した時は表に立って対処する
- 役員・経営陣と従業員の間に立って調整をする
基本的には人と人の間に立って仕事を遂行する能力が必要とされます。
したがって、ジェネラリストの強みと重なる部分が多いため、キャリアパスとして第一に考えられます。
プロジェクトマネージャー
ジェネラリストのキャリアパスとしてプロジェクトマネージャーもあります。
ここではタスクの優先事項を割り出し、適切な人に仕事を割り振り、進捗管理を行うという面で、ジェネラリストとしての能力が必要とされます。
今まで直面したことのない問題に対しても前向きに取り組む姿勢と、「なんとかする能力」が必要になるのがプロジェクトマネージャーです。
人事部
実は人事部もジェネラリストに合った職種だといわれています。
採用のスケジュールを組み、企画をし、面談日を調整する能力が必要です。
また、社内のさまざまな部署と連絡を取り合い、人を見極め適材適所で配置を行う面も、ジェネラリストが向いているといわれる理由です。
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業種によって異なるジェネラリスト
一口にジェネラリストと言っても、業種によってジェネラリストが変わってくるパターンがほとんどです。
したがって、以下2種類のジェネラリストをここでは説明します。
- 医療におけるジェネラリスト
- ITにおけるジェネラリスト
医療業界におけるジェネラリスト
医療におけるジェネラリストの例として、看護師の例が挙げられます。
看護師のジェネラリストについて日本看護協会は以下のように定義しています。
経験と継続教育によって習得した暗黙知に基づき、その場に応じた知識・技術・能力が発揮できる者
したがって、その場に応じて適切な処置を施せる看護師をジェネラリストと呼んでいることがわかります。
この他にも、看護の現場と患者の家族とのパイプ役として期待されていることから、調整役としての機能をジェネラリストが有していることがわかります。
対して看護師のスペシャリストとは「専門的な臨床実践能力を有している看護師」のことです。
どちらも役割がありますが、日本看護協会がスペシャリストもジェネラリスト視点を持つよう努めるべきとコメントをしていることから、ジェネラリスト的視点は医療の現場においても重視されているといえます。
IT業界におけるジェネラリスト
IT分野では、幅広い知見をもっており、さまざまな場面で活躍できる人のことをジェネラリストと呼んでいます。
特にIT部門では、プロジェクトマネジャー・プログラマー・コーディングエンジニアなど役割が細かく分担されているのが特徴ですが、それらを横断して活躍できる人材のことをジェネラリストと呼んでいます。
一方でスペシャリストとは、エンジニアの中でも特に一定のプログラムの仕事のみをしている人、コーディングのみを請け負っている人を指します。
スペシャリストであることは強みにはなりますが、一方でその精通している言語が使われなくなったら活躍できなくなるという危険性もあります。
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ジェネラリストの育成方法とは?
ジェネラリストの育成方法としては、以下の2つが挙げられます。
- ジョブローテーション
- 研修制度の充実化
それぞれ詳しく解説していきます。
育成方法1.ジョブローテーション
ジェネラリストの育成方法として、まず挙げられるのがジョブローテーションです。
ジョブローテーションとは、従業員の能力開発のために実施される戦略的人事異動のことです。
例えば、新卒で入社した従業員に対しては、1年目は営業、2年目からは人事、3年目からマーケティングというように、比較的短期間・高い頻度で部署異動を実施することで、幅広い経験を積ませます。
ジョブローテーションであれば、ビジネスパーソンに必須の普遍的なスキルを養いながら、幅広い知識を獲得することが可能になります。
また、会社全体の業務を把握できるようになるため、管理職候補人材におすすめの人事戦略だと言えるでしょう。
育成方法2.研修制度の充実化
研修制度の充実化もジェネラリストの育成方法として挙げられます。
ジェネラリストに求められるスキルは、ジョブローテーションによるOJTで養うことも可能ですが、より修得速度を高めるためにはセミナーなどのOff-JTも必要になります。
実際、社会は私たちの想像を超えるスピードで変化し続けています。研修制度を充実化させることで、あらゆるアプローチで学べる環境を構築しておくことは、非常に大切なことです。
研修制度を充実化させる際は、社内で研修プログラムを用意するだけでなく、資格取得に必要な費用や書籍代などを直接支援する制度を導入するのもいいでしょう。
この方法であれば、従業員が学びたいことに対して支援することが可能になります。
まとめ
本記事ではジェネラリストについて解説していきました。
ジェネラリストは総合的に幅広い知識を有している人材のことですが、近年はスペシャリスト人材の方が注目されるようになっています。
とは言え、ジェネラリストもビジネスシーンで非常に重要な存在です。
幅広い知識を有するジェネラリストは、社内の調整役としてのマネージャーに適しています。
ただし、そのためには「確かな知識量」が求められるのは言うまでもありません。
ジェネラリストを採用・育成する際は、幅広い知識を習得できる環境を構築しておくことが大切です。