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クレドという言葉の意味を、詳しくは知らない方も多いのではないでしょうか。
クレドは企業の具体的な行動基準や指針を指す概念であり、作成して社内に浸透させることでその意味が発揮されます。
本記事ではクレドの意味や類語との違い、導入するメリット、導入方法を紹介します。
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クレドとは
経営者
クレド(Credo)とは、ラテン語で「信条」や「自身を信じる」といった意味の言葉です。
転じてビジネスにおいては、「企業活動の根本にある、従業員全体の行動基準や指針」といった意味を持ちます。
世界的な医薬品メーカーである「ジョンソン・エンド・ジョンソン」にて考案されて以降、クレドは各国企業へ普及し、日本においても導入事例が増えつつあります。
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クレドの歴史
クレドの歴史は古く、ジョンソン・エンド・ジョンソンが1943年に「我が信条(Our Credo)」として策定したのが始まりといわれています。
日本では、坂本龍馬が中心となり結成した貿易結社「海援隊(かいえんたい)」に慶応3(1867)年4月に定められた「海援隊約規」がクレドといえるでしょう。
この約規は龍馬の精神が大いに反映されたクレドであり、入隊資格や隊の目的、隊長の権限や隊士の義務などが定められています。
海援隊は日本初の株式会社のような組織だといわれています。
「クレド」という言葉が伝わる以前、組織において古くから信条のようなものが設定され、機能していたことがうかがえます。
クレドと誤解しがちな言葉
クレドは、以下のような言葉の意味と誤解、混同されることがあります。
- クレドと「経営理念」
- クレドと「ビジョン」
- クレドと「マニュアル」
- クレドと「バリュー」
- クレドと「MVV」
しかし、上記の言葉が持つ意味とクレドの定義は異なるものであり、この違いを理解することは、クレドの導入において重要です。
下記でそれぞれの言葉との違いを解説します。
クレドと経営理念
「経営理念」は、特にクレドと混同されやすい言葉です。
経営理念は「企業の経営層や創業者が持つべき、経営活動の根幹となる価値観、思想」を示します。
つまり経営理念は、クレドほど従業員へ浸透・実践されることを前提としません。
一方でクレドとは、従業員全体で共有すべき、具体的な行動基準や指針を意味します。
クレドと経営理念では、抽象度も、その対象も異なるのです。
クレドとビジョン
クレドとビジョンの混同にも注意が必要です。
ビジョンは「企業全体が目指している理想形」といった意味合いを持ちます。
つまり、企業の最終的な目標や方向性、あるいは未来像を示すものです。
ビジョンを従業員全体で共有することで、企業はより統一された行動を取れるようになります。
ただしビジョンは、クレドのように具体的に何をすべきかまで提示するものではありません。
クレドとマニュアル
マニュアルとは、一言で言えば企業がおこなう業務の進め方を示すものです。
マニュアルを用意することで、均一化された業務が実施され、誰しもが想定した成果を出せるようになります。
一方クレドは、業務の進め方を示すものではありません。
業務に当たる従業員として、「どのような姿であるべきか」を示すものです。
また、クレドとマニュアルの間には「受動的か能動的か」という違いもあります。
マニュアルはすでに提示されているものであり、その内容を受動的に受け止め、業務へと落としこみます。
一方でクレドは、能動的に「どうあるべきか」を考え、その都度あるべき姿に応じた行動を選択する、というきっかけになるものです。
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バリューとは組織としての共通の価値観であり、企業が果たすべき使命や目的に対して、どのように達成するのかを示す指針・判断基準です。
ビジョンやミッションを達成するための行動指針になるため、より具体的に表されている必要があります。
企業が設定するバリューの例は、以下のとおりです。
- 誠実さと透明性の追求
- 徹底した品質へのこだわり
- 持続可能性と環境への配慮
クレドは似ている概念ですが、バリューが抽象的で言及する対象の範囲が広いのに対し、クレドは、より具体的で実践的な指針である点で異なっています。
要するにクレドは、バリューを実践するための「具体的な方法」を提供する役割を果たすのです。
クレドとMVVの関係性について
MVVとは、ミッション(Mission)、ビジョン(Vision)、バリュー(Value)を略した言葉です。
MVVは経営学者ピーター・F・ドラッカー氏が提唱した企業の経営方針を指し、それぞれを日本語にすると、使命、理念、行動指針です。
MVVはクレドとともにビジネスの現場で使われる言葉ではありますが、頭文字それぞれの要素が異なるレベルの抽象度を持ちます。
MVVそれぞれの例は以下のとおりです。
- Mission:「イノベーションで人々の生活を豊かにする」
- Vision:「2030年までに、当社の製品が全世界の半数の企業で使用されている」
- Values:「顧客第一、革新、誠実さ、チームワーク、環境への配慮」
クレドは、このうちのバリューを具体化した概念です。
意味の違いをしっかりと把握し、それぞれの要素を考えましょう。
クレドは宗教ではない
経営者
クレドの導入を検討する際に注意したいのは「クレドは宗教ではない」ということです。
ラテン語としてのクレドには「ある宗教を深く信仰する、宣言する」といった意味合いがありますが、ビジネスにおけるクレドには、宗教的な観念は存在しません。
あくまでも「行動における基準、指針」という意味合いにとどまります。
しかし、クレドは、全従業員に対しての行動指針というその役割から、時として従業員を縛りつけ、負担を与えることがあります。
そうなると従業員や外部からの「宗教じみている」という批判にもつながるでしょう。
クレドを導入する際には「クレドが絶対的に信仰すべき宗教ではない」ということに注意しなければいけません。
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クレドが必要とされている理由
クレドが注目される背景には、2000年代に起きた、あらゆる企業の不祥事があります。
例えば、2001年に電気・ガス業者を営むアメリカのエンロン社が、巨額の不正取引・不正経理をしていたことが明るみに出ました。
その他にも、日本では大手食品会社の偽装や食中毒事件、金融不祥事事件などが立て続けに起こったのです。
それらの事件により、2004年には内部告発を保護する日本の法律「公益通報者保護法」、2006年には校正な取引や価格を維持するための「金融商品取引法」が施行されました。
不祥事をきっかけに企業のモラルが求められるようになり、それに対する従業員の主体的な行動をうながすための指針として、クレドができたのです。
クレドを導入するメリット
冒頭でも触れたとおり、クレドを導入することにはさまざまなメリットがあります。
具体的には、以下4点が挙げられます。
- 従業員の意識が変わる
- 顧客対応が変わる
- 会社の売上を向上させる
- 経営理念やゴールの明確化
それぞれについて、下記で詳しく解説します。
1.従業員の意識が変わる
クレドを導入する最大のメリットは、従業員の意識が変わるというところにあります。
クレドという明確な基準や指針が提示されていることで、従業員の意識が変化し、企業にとって合理的な行動を取りやすくなります。
また、「クレドから逆算して、何をすべきなのかを主体的に考えて実行する」という能動的な姿勢を持たせることも可能です。
主体的に考えることは、従業員自身にやりがいを持たせることにもつながり、従業員エンゲージメントといった部分にも反映されます。
クレドという指針が提示されることで、看過しがたい個人プレーに走ることもある程度予防できるでしょう。
経営者
2.顧客対応が変わる
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クレドを導入すれば、従業員の顧客対応も大きく変化すると考えられます。
従業員がクレドを強く意識していれば、顧客に対してクレドが反映された対応がなされるからです。
クレドがない場合と比較して、企業活動における顧客対応の質がより高まります。
企業の求める、いわゆる「顧客ファースト」と呼べるような、優れた形に近づいていくといえるでしょう。
顧客対応という重要なファクターにおいて、競合他社と差別化することも可能となります。
3.クレドは会社の売上に関わる
最終的にクレドは、会社の売上を向上させうるものです。
なぜならクレドを導入すれば、上記含め、さまざまな変化が企業活動にもたらされるからです。
たとえば顧客対応が変わったなら、顧客は企業に対してよい印象を持ちます。
すると、顧客は企業のプロダクトやサービスを購入する方向に動いていくでしょう。
クレドによって他社と差別化され、顧客のファーストチョイスの位置付けを獲得するといったことも可能です。
したがって、クレドのもたらすさまざまな効果は、最終的には会社の売上へ反映されると考えられるのです。
経営者
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各企業は経営理念を掲げていますが、そのほとんどが抽象的であり、従業員や顧客にとって具体的な意味がわかりづらくなっています。
一方で、クレドを導入する際には具体的な行動基準や指針を言語化する必要があり、それにより経営理念やゴールが明確化されます。
すると、投資家や求職者など、外部からのイメージ向上につながる可能性があるでしょう。
従業員や顧客のみならず、広く企業の具体的な行動が見えやすくなった結果、危機管理体制や行動基準がわかり、どのような企業であるのかを外部が判断しやすくなるのです。
クレドを導入する方法
経営者
クレドを導入するには、慎重な計画が必要です。
- メンバーを選出する
- フレームワークを利用して計画・目的を明確にする
- 従業員に調査する
- クレドを明文化する
- クレドカードを作成/朝礼に取り入れる
1.メンバーを選出する
クレドを導入する際、まずは作成メンバーを選出します。
メンバーの選出にあたっては、企業にはふたつの選択肢があります。
- 経営陣から選出する
- 経営陣と従業員、両方から選出する
しかし、クレドの導入に当たっては「経営陣と従業員、両方から選出する」ことが推奨されます。
なぜなら従業員が参加するには、以下のような利点があるからです。
- 現場の状況をクレドに反映させられる
- 現場で実現可能なクレドを設定できる
- 従業員が受け入れやすいクレドを考案できる
つまり、できる限り従業員を加えたほうがボトムアップに裏打ちされ、企業にとって合理的かつ実現可能なクレドが作成できます。
また従業員を参加させるなら、できる限り多彩な部門から選出することも重要です。
2.フレームワークを利用して計画・目的を明確にする
続いて、クレドの導入における計画と目的を明確にします。
計画においては、作成メンバーで以下のような点を考えることが必要です。
- 何のために、クレドを導入するのか
- クレドがあれば、一体何が変わるのか
- どのようにして、クレドを作成するのか
- いつまでにクレドを作成し、導入するか
- どのようにして、クレドを従業員へ根付かせるのか
上記のように計画と目的を明確にし、適切なフローでのクレド作成を目指します。
計画と目的を考案する際には、以下のようなフレームワークが有効です。
- ブレインストーミング
- 5W1H
また、作成メンバーが独断的なクレドを作成しないように、計画と目的については経営者にも確認・同意してもらうことも重要です。
3.従業員への調査を行う
クレド作成と目的が明確化されたら、従業員への調査を実施します。
調査するべきポイントは以下3つです。
- 会社にとって従業員のあるべき姿とは何か
- 自分はどのような従業員でいたいか
- どのようなクレドなら実行可能か
先ほども触れたとおり、クレドはボトムアップによって作りあげられるものです。
ボトムアップで意見を吸いあげることによって、より実践的で影響力の強いクレドが作成されます。
また、従業員への調査に基づいて作成されたクレドなら、実際に導入された場合にも受け入れられやすくなるはずです。
4.クレドを明文化する
続いて、クレドを明文化します。
ここまでクレドを作成するにあたって、さまざまな情報が集約されているはずです。
- 経営陣の意見
- 作成メンバーに入っている従業員の意見
- 従業員への調査
- 経営者の意見
- 既存の経営理念やビジョン、ミッション
上記の情報から総合的に判断し、ひとつのクレドとして明文化します。
明文化されたクレドは、全従業員が理解し、実践できるものでなければいけません。
つまり、基本的には難解ではなく、簡潔でシンプルなものであることが推奨されます。
5.クレドカードを作成/朝礼を取り入れる
最後に、作成したクレドを全従業員へ共有します。
共有するうえでは、基本的には「クレドカード」の配布という方法が用いられます。
また、朝礼にクレドの読み上げを実施するなどの施策もあるでしょう。
「カードを持たせて朝礼に取り入れるほど、徹底する必要はあるのか?」と感じた方もいるはずです。
しかし、実際にクレド導入の成功事例の筆頭であるザ・リッツ・カールトンなどでは上記のような施策を取っていました。
クレドを浸透させたいなら、それだけ強く施策を打ち出していく必要があります。
しかしクレドの存在が大きすぎると、先ほど触れた「クレドの宗教化」が懸念されるでしょう。
従業員がクレドに対し、看過できない強度の抵抗感を感じるかもしれません。
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従業員エンゲージメントとは?向上のポイントやメリットをご紹介クレド導入の際の注意点
専門家
クレドを導入するうえでは、2つの注意点があります。
- トップダウンにしない
- 時代に応じて変える
それぞれについて解説します。
トップダウンにしない
クレドを導入する際は、「トップダウンにしないこと」が重要です。
トップダウンでクレドが作成された場合、経営陣にとって好都合な内容になってしまいがちです。
仮にそうでなくとも、トップダウンの時点で、従業員が抵抗感を感じやすくなります。
実際に業務に反映させ、またそのために従業員に納得してもらい根付かせるためにも、先ほど触れたとおり、クレドを導入する際にはボトムアップが推奨されています。
時代に応じて変える
クレドは、時代に応じて変える必要があります。
企業活動を取り巻く状況は、こく一刻と変化するものです。
前年度は有効だったクレドが、今年度も有効であり続けるとは限りません。
もしクレドが時代にそぐわないものであれば、企業活動は間違った方向へと進みます。
したがって企業に設定すべきクレドは、時代に応じて変更すべきケースもあります。
クレドを浸透させる方法とは
時間をかけてクレドを作成しても、それが従業員に浸透して行動できなければ意味がありません。
クレドを浸透させる方法には、以下のようなものがあります。
- クレドカードを作成する
- ポータルサイトやメールなどで周知する
- 入社時のオリエンテーションで説明する
順に解説します。
クレドカードを作成する
人は、複数回目にしたものは記憶に残り、意識として定着しやすくなる傾向があります。
このことを利用し、名刺サイズのカードに企業の信条や行動指針を簡潔に示したクレドカードを作成し、配布するとよいでしょう。
小さく持ち運びやすいサイズで作成すると、社員証と一緒にネックストラップで携帯しやすくなります。
毎日携帯し、目にすることで記載されている内容が浸透しやすくなるでしょう。
ポータルサイトやメールなどで周知する
クレドを浸透させるために紙に印刷して掲示する方法もありますが、それが風景の一部のようになってしまい、近くを通ってもあまり意識できないときもあるでしょう。
そこで、業務で活用するポータルサイトやメールなどで周知するのも、ひとつの方法です。
定期的に発信すると目につきやすくなり、従業員が日々意識することで行動や価値観が定着しやすくなるでしょう。
入社時のオリエンテーションで説明する
入社後に業務にかかりだすと、繁忙により掲示やお知らせをなかなか見られない場合も考えられます。
しかし入社のタイミングであれば、企業に関する説明を聞くと、従業員にとって新規の情報となるため心に残りやすいはずです。
特に企業について学ぶ意欲が強く、時間がまだある段階の従業員に説明すると、意識のなかにクレドが浸透し、それを土台として活用してくれるようになるでしょう。
クレドの導入事例3選
専門家
今回は、以下3社の導入事例について解説します。
- 楽天
- 三井不動産ホテルマネジメント
- ANAサイエンスホールディングス
それぞれについて詳しく解説するので、ご一読ください。
楽天
楽天は、国内においてもっとも影響力があるIT企業のひとつです。
楽天では、「成功の5つのコンセプト」と名付けられたクレドが掲げられています。
- 常に改善、常に前進
- Professionalismの徹底
- 仮説→実行→検証→仕組化
- 顧客満足の最大化
- スピード!!スピード!!スピード!!
上記のクレドにより、楽天の従業員は、あるべき姿をわかりやすく認知しています。
非常にシンプルな内容ですが、常に高いパフォーマンスを発揮することへつながる、極めて意義深いクレドです。
三井不動産ホテルマネジメント
三井不動産ホテルマネジメントは、 「ザ・セレスティンホテルズ」などを展開している企業です。
三井不動産ホテルマネジメントには、6つの項目で構成されたクレドが存在します。
- 楽しむ
- 考える
- 努力する
- 行動する
- 点検する
- 一体感を持つ
非常にシンプルで、だからこそ全従業員が理解しやすく、実践的なクレドになっていると言えます。
導入に当たっては従業員と経営陣の間で活動報告書を通したコミュニケーションがとられ、従業員の報告と経営陣のフィードバックを何度も繰り返すことで従業員へとクレドを根づかせています。
ANAサイエンスホールディングス
科学機器や医療機器を扱うANAサイエンスホールディングスは、以下2項目で構成されたクレドを掲げています。
- 顧客・取引先・社員・企業の満足を実現することで社会に奉仕する
- 仕事は生き甲斐であり、職場は夢を提供する場所
ANAサイエンスホールディングスは、株式会社アオバサイエンスと株式会社ナルセの合併によって成立したグループ企業です。
両社の経営陣は、「両社がより深く融合し、新しいチャレンジをすべきだ」と考えていました。
その目的を達成するために、クレドが考案され、現在も同グループの企業活動における根幹を成しています。
まとめ
クレドを作成すると従業員の主体的な行動をうながすことができ、企業のイメージが向上するでしょう。
クレドを作成するにも従業員への調査や、周知方法を検討する必要があります。
実際に浸透し行動が変わるまでにはある程度の時間を要しますが、一度作成すると事業活動において、その効果は長きにわたって発揮されるでしょう。
本記事で紹介した導入方法や企業の成功事例をもとに、導入や周知方法を検討し、競争力の高い企業を目指しましょう。
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