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経営を長いこと続けていると、業績が悪化してしまう時もあります。
一時的な業績の悪化でしたら、借入で賄うこともできますが、借入が重くなり企業経営に問題が生じかねません。
こうした課題解決のために、借入を株式と交換できるDESが用いられることがあります。
本記事では、借入を軽くできるDESについてわかりやすく解説します。
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DES(デッドエクイティスワップ)とは
まずは、DESについて以下3点に沿って解説します。
- DESって何のこと?
- DESの仕組み
- DESの意味とは
DESって何のこと?
DESとはデッドエクイティスワップ(Debt Equity Swap)の略称です。英語の名称それぞれの頭文字をとってDESと呼ばれています。
金融機関が経営不振の企業を支援する名目で利用されるケースが多かったですが、今では企業再生ファンドなどがDESを利用するケースも増えてきました。
DESの役割は、負債を株式と交換することです。
銀行からの借入などが重くなっている際に、負債を株式と交換することで、企業は支払利息から解放されます。
また、借入が軽くなるため、自己資本比率などの改善に繋がります。
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DESの仕組み
DESは債権を株式に転換する仕組みを取ります。具体的には、債権者が貸付分の現物出資をすることで、会社の資本金を増やすことです。
このため貸借対照表上では、借入金が丸々資産の部に移動する動きが発生します。
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DDSとの違い
DDSはデッドデッドスワップ(Debt Debt Swap)の略称です。それぞれの頭文字をとってDDSと呼ばれます。DDSは、借入を別の借入に変換することです。
この時、多くのケースでは借入を劣後ローンへと借り換えます。劣後ローンとは、他の債権よりも返済順位が低い借入のことです。
DESと異なる点は、DESが完全に株式と負債との交換になるため、支払い利息がなくなるのに対し、DDSはあくまでも会計上は借入のため支払利息が発生することです。
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DESの種類
ここからはDESの、現物出資と現金振込の2パターンの種類についてわかりやすく解説します。
現物出資
現物出資のDESは、現預金の動きがないことが特徴です。債務者側から見れば、貸借対照表上で今まで負債の部にあった借入金が、資本の部に移動するだけです。
債権者からすると、貸付金をそのまま有価証券に振り替えることになります。
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金銭出資によるDESは、まず企業側が増資をし、その後に債権者側が新たに金銭を債権者に払込む手続きを取ります。企業は、この際に受け取った金銭を既存借入の支払いに当てることになります。
金銭出資によるDESは、正確には借入と株式との交換を直接行ってはいません。そのため、金銭出資によるDESを擬似DESと呼ぶこともあります。
DESのメリット
DESのメリットは、債務者にとってのメリットと債権者のメリットの2つに分けられます。
それぞれわかりやすく解説します。
債務者にとってのメリット
債務者にとってのメリットは以下の2つです。
- 債務超過を解消できる
- 自己資本比率が高まる
債務超過を解消できる
1つ目の債務者にとってのメリットは、債務超過を解消できることです。
債務超過とは、借入金が資産合計を上回っていることですが、DESを利用することで、債務が資本に変わります。
債務超過になってしまうと、金融機関からの新しい融資が降りなくなってしまう可能性もあるため、企業にとっては迅速に解消すべき事態です。また、債務超過になってしまうと、新規の取引先が取りづらくなるデメリットもあります。
このようなデメリットの多い債務超過を、DESの利用で解消することが可能です。
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自己資本比率が高まる
債務者にとってのメリット2つ目は、自己資本比率が高まることです。自己資本比率とは、返済不要の自己資金が、資本全体に占める割合を算出したものです。
一般的に、自己資本比率が高い企業ほど倒産しづらいといわれています。自己資本比率が低いと、外部から受ける影響が大きくなるため、取引先との契約をする際に自己資本比率を気にする企業も存在します。
したがって、DESで他人資本を自己資本へと変換することで、自己資本比率を高めることができるのは大きなメリットになるのです。
債権者にとってのメリット
債権者にとってDESを利用するメリットは以下2つです。
- 将来収益に期待できる
- 株主として関与できる
将来収益に期待できる
債権者にとってのメリットの1つ目は、DESで債権を株式に変換することで、将来収益が期待できることです。
実際、債権のままでは債権者が得る利益はほとんどありません。例えば、売掛金などの債権は回収するまでに時間がかかるだけで、売掛金から利益が生じるわけではありません。
また、貸付金などの債権も、貸付による利子を得ることはできますが、現在は比較的低金利ということもあり、金利だけで収益をあげるのは困難です。
一方、株式であれば、企業価値が向上すれば株式の価格も上がることが期待されるため、株式の売却益や配当に期待ができます。
特に投資ファンドでは、キャピタルゲインを得るためにDESをすることがあります。
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株主として関与できる
2つ目の債権者にとってのメリットは、DESで株式を取得することで、企業に対し、株主として関与できることです。今までは口出しができなかった経営方針などについても、株主として口出しができるようになります。
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DESのデメリット
次に、DESのデメリットについてです。こちらも債務者のデメリットと債権者のデメリットに分けてわかりやすく説明します。
債務者にとってのデメリット
債務者のデメリットは以下の2つです。
- 経営に干渉される可能性がある
- 税金が発生する可能性がある
経営に干渉される可能性がある
1つ目の債務者にとってのデメリットは、経営に干渉される可能性があることです。
DESでは借入を株式に変えるため、債権者の自社に占める株式数は増えます。特に借入金が重い場合には、多くの株式を発行せざるを得ません。その結果、株主の存在感が大きくなり、自社のみで経営判断をできなくなる可能性があります。
最悪の場合には、経営権を取られかねません。こうなると、経営者は退任させられる可能性がありますし、今までの経営方針が大きく変化することもあります。
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税金が発生する可能性がある
DESを実施した場合、債務者の債務消滅益に課税されてしまうケースがあることもデメリットといえます。
債務消滅益は、非適格現物出資の場合に発生し、DESでは非適格現物出資になることが多いです。
特に、会社が債務超過などに陥っている場合では、実際の債権の額(実際の借入金額)に対し、債権の時価評価が下回ってしまう可能性があります。すると、債務消滅益が発生します。
この際、債務消滅益に課税が発生し、債権を消滅させたのに税金による多額なキャッシュアウトが発生することになるため、注意が必要です。
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債権者のデメリットは以下の2つです。
- 問題の先送りになる可能性がある
- 処分が難しい
問題の先送りになる可能性がある
債権者にとってのデメリット1つ目は、DESを利用して債権を株式に転換したところで、ただの問題の先送りになってしまうケースがあることです。
どういった問題であれ、債務が重くなってしまっていることは、利益が十分に出ていないケースが想定されます。今後も同様に利益が出なければ、また借入が膨らみ、債務超過に陥りかねません。
このため、仮に株主として経営に参画できるのであれば、抜本的な経営改善策を共に検討する必要があります。また、株主として経営にアドバイスをする必要も出てくるでしょう。
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処分が難しい
特に非上場株式の場合には、処分に困る可能性があることもデメリットです。
そもそも上場株式のように、公での売却ができる市場が設けられていない非上場株式は、処分が難しいとされています。非上場株式を売却する際は、会社に自己株式として買い取ってもらうか、第三者に株式を買い取ってもらうかの2択になります。
しかし、そもそも経営がうまくいっていない会社の株式を第三者に売却するのは難しく、処分性には欠けるのが実情です。
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DESの手続き
DESの手続きでは、募集株式の発行をします。この際、新しく増資することも、自己株式を割り当てることも可能で、募集事項を決定した上で手続きを進めます。
募集事項は、募集株式の数や募集株式の払込金額、現物出資の旨、金銭の払込期間と期日、増加する資本金及び資本準備金に関する事項などです。
その後は以下のように手続きが進みます。
- 株主総会の召集
- 株主総会の開催
- 募集事項の通知
- 募集株式の割当ての決議
- 割当て数を通知
- 株式の引き渡し
- 法務局への登記申請
※現物出資の場合には、その価格の妥当性を検証するため、裁判所選任の検査役の調査を受ける必要があります。
現物出資の省略について
基本的にはDESのような現物出資にあたる場合には、原則裁判所専任の検査役による現物出資の妥当性の評価がされますが、省略が可能な場合があります。
それが以下のケースです。
- 現物出資者に割り当てる株式の総数が発行済株式総数の1/10を超えない場合
- 現物出資財産の価額が500万円を超えない場合
- 現物出資財産が有価証券である場合、その有価証券が市場価額を超えていない場合
- 現物出資する財産の価値の妥当性について弁護士・公認会計士・監査法人・税理士の証明を受けた場合
- 現物出資財産が会社の債権(返済期到来)であり、帳簿価格を超えていない場合
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(参考:会社法 | e-GOV)
DESの税務上のポイント
DESの税務上のポイントは以下2つです。
- 非適格現物出資と適格現物出資か
- 債務消滅益について
それぞれわかりやすく説明します。
非適格現物出資と適格現物出資か
非適格現物出資と適格現物出資の違いは、「負債の金額が時価評価されるのか、簿価評価のままなのか」というものです。
適格現物出資の場合は、債権が簿価評価されるため、譲渡損益への課税が実質的に繰り延べられます。
適格現物出資の条件は以下3グループに分けられ、詳細に決められています。
- 100%の持株関係がある企業グループ内における現物出資
- 50%の持株関係がある企業グループ内における現物出資
- 共同事業を行うための現物出資
金融機関・投資ファンドからの債権をDESする場合は、上記の条件に当てはまらないため、基本的には非適格現物出資となります。
債務消滅益について
非適格現物出資の場合は、債権が時価評価されてしまうため、DESを利用して消滅した債権の「時価ー簿価」分が債務消滅益として計上されます。したがって、債務消滅益に税金がかかってしまうのが一般的です。
しかし、例えば子会社の債権をDES化するなどの場合で、適格現物出資にあたる場合は、債権が簿価評価されるため、譲渡損益は繰り延べられると考えてよいでしょう。
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DESの仕訳は債務者側と債権者側の2パターンに分けられます。
以下、非適格現物出資における仕訳を紹介します。
①債務者側の仕訳
借入金 | 100,000千円 | 資本金 | 100,000千円 |
仕訳上は借入金が資本金に変わるだけなので、特別な箇所はありません。
税務上は、借入金が時価評価されるため、資本金との差分が債務消滅益として特別利益に計上されます。
②債権者側の仕訳
貸倒引当金 | 70,000千円 | 貸付金 | 100,000千円 |
株式 | 10,000千円 | ||
債権譲渡損 | 20,000千円 |
債権者側では株式を時価評価します。
そして、残った借方科目と貸方科目との差額を債権譲渡損として認識します。
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まとめ
本記事では、借入を資本に転換できるDESについてとそのメリットデメリットまでを徹底解説しました。
DESは企業の借入金を大きく減らし、自己資本比率を高めることができます。一方で、債権譲渡益に留意しなければ、キャッシュアウトも大幅に出てしまうため注意が必要です。
また、DESを検討する際、会社の売却なども視野にあるのであれば、M&Aでの売却を検討するのもいいかもしれません。
もちろん専門家に相談するのも良いですが、経営者自身が考え、判断する必要性が今後ますます増してきています。
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