これまでの労働の区分は、ブルーカラーと呼ばれる「肉体労働」と、ホワイトカラーと呼ばれる「頭脳労働」の2種類だと考えられていました。
しかし近年は新たに「感情労働」が注目されています。
感情労働は、メンタルヘルスに大きな影響を及ぼすことが言及されており、マネージャーや経営層が感情労働を理解して、部下をマネジメントする必要があります。
そこで本記事では、マネージャー向けに感情労働について解説していきます。ぜひ最後まで読んでみてください。
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目次
感情労働とは一体何?
感情労働とは、自分自身の感情コントロールが必要とされる労働全般のことです。
アメリカの社会学者であるA・R・ホックシールドが、自著『The Managed Heart』で提唱しました。
感情労働に当てはまる業務では、顧客の精神を特別な状態に導くために、自分自身の感情を誘発または抑制しなければなりません。
感情労働に当てはまる職業としては、教師や看護師が挙げられます。
また、常に笑顔であることが求められる接客業やアイドルも感情労働です。
そう考えると、感情労働に該当する職種は想像以上に多いかもしれません。
また、感情労働は気分が落ち込んでいるときでも笑顔を保ったり、嫌な感情を押し殺してでも業務に取り組んだりする必要があるため、メンタルヘルスに大きな負担がかかります。
過度な感情労働はうつ病や燃え尽き症候群の原因になるため、従業員自らが感情をマネジメントするのはもちろんのこと、会社単位でマネジメントする必要があります。
感情労働と頭脳労働・肉体労働の違い
労働は大きく分けて感情労働、頭脳労働、肉体労働の3つに分類されます。
先ほども述べた通り、感情労働は自らの感情をコントロールし、相手に良い印象を与えることで報酬を得る労働活動です。
一方で頭脳労働は、知識や発想を駆使して成果を生み出し、報酬を得る労働を指します。
税理士などの士業や、小説家・デザイナーなどのクリエイティブ職が頭脳労働の典型例です。
以前は感情のコントロールが必要な業務も頭脳労働とされていましたが、現在は感情労働と頭脳労働で明確に区別されています。
これに対し、肉体労働は身体を使って成果を出す労働のことで、農業・建築・工場作業などが代表例です。
身体的な疲労が伴い、身体への影響が大きい点が特徴として挙げられます。
また、頭を使わない単純作業も肉体労働に分類されるようです。
たとえデスクワークであっても、知識や発想を必要としない単純業務は肉体労働になります。
感情労働が注目される背景
感情労働が注目される背景として、「コミュニケーションによる付加価値」が挙げられます。
現代は似たようなモノやサービスで溢れ、消費者に多くの選択肢が存在するようになりました。
そのため企業は、競合他社との差別化を図る必要がありますが、機能や性能だけで差をつけるのは簡単ではありません。
そこで重要になるのが、コミュニケーションによる付加価値です。消費者は合理的な判断だけでなく、感情を重視してモノやサービスを選ぶようになっています。
そのため、多くの企業が「営業」や「接客」などのコミュニケーションで差別化するようになりました。
また、感情は些細なことで受け取り方に大きな違いが出るため、消費者の商品選択においても大きな影響を与えます。
企業は営業や接客を細かくマニュアル化することで、安定して適切なコミュニケーションを取れるようにしました。これが感情労働です。
自らの感情を適切にコントロールする感情労働は、顧客の感情をポジティブに誘導できるため、現代社会では必須スキルになりつつあります。
感情労働が必要な職種
現代社会では、あらゆる職種において感情労働が求められています。
例えば、エレベーターで案内・対応を行うスタッフは、表情や態度によって顧客が受ける印象が大きく変わるため、常に笑顔でいることが求められます。
また、広報のようにメディア受けが必要な職種でも、感情のコントロールは必要不可欠です。
より広い範囲で見れば、営業やエンジニアなど、コミュニケーションが発生する全ての職種で、感情コントロールが求められると言えます。
一方で、どんなときでも感情労働が求められる職種も存在します。以下の通りです。
- 客室乗務員
- 看護師・介護士
- コールセンター
- 受付・店舗の販売員
- 保育士・教師
それぞれ詳しく見ていきましょう。
客室乗務員
客室乗務員は感情労働が求められる職種の代表例です。
感情労働の提唱者、A・R・ホックシールドは感情労働が必要な職種の例として、著書内で客室乗務員を挙げています。
客室乗務員の仕事は飛行機など交通機関内での接客サービス提供です。
顧客は拘束時間が長く活動においても制限が多くなりますが、その中で満足度を高めるためには「快適さ」を感じてもらう必要があります。
したがって客室乗務員には、笑顔の維持や明るく丁寧な対応、すなわち感情労働が求められます。
看護師・介護士
看護師や介護士の仕事は幅広いですが、主な業務は、顧客と直接関わることです。
治療や補助などに付随する業務であるため、自身の感情に関係なく、真心のある丁寧なサービスが求められます。
また、顧客すなわち患者や利用者と近い距離で接するため、顧客に与える影響も大きいといえるでしょう。
その上多くの顧客は、病気やケガなどのトラブルにより精神が不安定な状態です。
顧客に悪い影響を与えない、そして自身が影響を受けないよう、感情を強くコントロールすることが必要とされます。
コールセンター
コールセンターは対面ではないとはいえ、顧客と直接コミュニケーションをとる職種です。
したがって顧客との物理的な距離は遠いものの、感情労働が求められます。
コールセンター業務の中でも、クレーム対応は特に感情のコントロールが必要です。
顧客から非常にネガティブな感情を受けますが、どのような場面でも真摯な対応をしなければなりません。
表情や身振りなどを使った表現ができないため、対面での接客より難しいケースもあります。
受付・店舗の販売員
受付・店舗の販売員は、顧客と直接コミュニケーションを取る職種です。
適切な対応のために感情のコントロールが求められるため、感情労働の一種と考えられます。
また、こういった職種はモノやサービスの選択を取ろうとしている顧客と近い位置にいます。
すなわち受付・販売員の接客によって、顧客の選択が変わる可能性が高いのです。
「感情労働が注目される背景」で取り上げた、付加価値としてのコミュニケーションと密接に関係する職種です。
保育士・教師
保育士・教師は人を指導する立場であるため、感情に関わらず常に適切な行動・態度が求められます。
模範的な存在となるため、感情の高度なコントロールが必要です。
常に一定の態度ではなく、その場に合わせて適切な変化が求められます。
例えば褒める場面では喜びを表現し、叱る場面では冷静ながらも毅然とした態度が必要です。
一定の感情を保つわけではありませんが、その場に合わせた感情の表現が必要という意味で、感情労働に当てはまります。
感情労働によって引き起こされやすい問題
感情労働では本来の感情を抑制する必要があるため、以下のような問題が懸念されます。
- ストレス過多によるバーンアウト
- うつ病をはじめとする精神疾患
- 労働に対するモチベーション・充実感の低下
具体的な内容について解説します。
ストレス過多によるバーンアウト(燃え尽き症候群)
感情のコントロールは精神的な消耗が非常に大きいです。
したがってストレス過多になりやすく、結果としてバーンアウト(燃え尽き症候群)につながる恐れがあります。
バーンアウトとはエネルギーが消耗し、無気力となった状態を意味します。
本来の自分を抑制しなければならない感情労働は、精神的なエネルギーの消費が多いので、
疲れが溜まった状態ながらも回復させずにいると、いつのまにかエネルギーが完全に枯渇するという事態に陥ります。
そうして「働きたくない」「やりがいがない」といった無気力状態、バーンアウトが起きてしまうのです。
うつ病をはじめとする精神疾患
うつ病をはじめとする精神疾患も、感情労働の現場でよく見られる問題です。
精神疾患の多くは大きなストレス、もしくは長時間のストレス状態などによって引き起こされます。
自身の感情を抑圧しなければならない感情労働は、当然強いストレスを感じやすく、適切に対応せずにいると精神疾患を招いてしまいます。
精神疾患の治療中は、業務時間の短縮もしくは完全な休養が必要です。
業務が精神疾患の原因となっていることが認められた場合、企業には該当従業員への手当の支給や休職などの対応が求められます。
労働に対するモチベーション・充実感の低下
バーンアウトや精神疾患まではいかない場合でも、モチベーションや充実感の低下は大きな問題です。
感情労働は性質上、実施して当然という雰囲気が存在します。
感情労働ができていない場合は叱責を受けるものの、上手くできている場合の称賛は特にないのが一般的なため、精神的な負担のわりに、やりがいや満足感などを得にくいのです。
業務を通じて明るい気持ちが得られないと、自然とマイナスな考えに移ってしまいます。
このような理由から、感情労働は労働に対するモチベーション・充実感の低下が起こりやすいのです。
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感情労働におけるトラブルを防ぐ方法
感情労働が求められる現場では、上記のような労働者の精神的トラブルが多く見られます。
トラブルを防ぐためには適切な対策が必要です。その方法として、以下の3つが挙げられます。
- 労働環境の管理・改善
- 定期的なストレスチェック
- 雇用側と従業員との適度なコミュニケーション・面談
それぞれの方法について解説します。
労働環境の管理・改善
労働環境は労働者のストレスに大きく影響する部分です。
したがって快適に業務ができるよう、労働環境の管理・改善が求められます。
具体的なポイントは以下の通りです。
- 労働時間:長時間労働の是正、残業が必要ない環境の整備など
- 人間関係:労働者同士・上司との関係におけるトラブルの防止や迅速な対処など
- 物理的な環境:職場における清潔感の維持や適切な備品の用意など
特に労働時間については、精神的な疲れを軽減させるために必ずチェックするべきポイントです。
定期的なストレスチェック
人がどれほどのストレスを抱えているかは、外部はもちろん当人自身もなかなか認識できません。
知らないうちにかなりのストレスが溜まっており、気づいた時にはバーンアウトや精神疾患が起きているケースも散見されます。
ストレス状態が明らかになれば、早いうちから適切な対策が可能になるため、労働者に対する定期的なストレスチェックが有用です。
参考:ストレスチェック制度 | 厚生労働省
雇用側と従業員との適度なコミュニケーション・面談
感情労働でストレスが溜まりやすい理由として、感情の抑制が日常化してしまいやすい点が挙げられます。
業務時間という1日の大半で感情をコントロールしていると、日常的に自分の本音や本来の感情を表現しにくくなってしまいます。
自覚のないままストレスが溜まり、結果としてトラブルを引き起こしてしまうのです。
従業員自身の感情を表現できる場を作るには、雇用側と従業員の適度なコミュニケーションや面談が効果的です。
従業員の感情に寄り添うだけでも、感情労働による従業員のストレスは軽減されます。
感情労働で必要なスキル
感情労働では本来の感情を抑制し、その場に適した振る舞いが求められます。
このような対応のためには、以下のようなスキルが必要です。
- 高度な自己コントロール
- 自己と他者の分離
それぞれ詳しい内容について解説します。
高度な自己コントロール
感情労働における高度な自己コントロールとは、自身の感情に関わらず、求められる感情表現を実施することを意味します。
理不尽な要求やクレームを受けると腹が立つのは自然な現象です。
疲れが溜まっている状態では、明るい気持ちになれないのも仕方ありません。
しかし感情労働が必要な場においては、その場に適した感情を出す必要があります。
自己と他者の分離
自己と他者を分離するスキルも、感情労働が求められる職種に必要不可欠です。
ここでは教師を例に解説していきます。
教師は生徒を導く立場であるため、多くの場面で相談を受けます。
相談相手である生徒は多くの場合、悩みによる悲しみや怒りの感情を抱えています。
こうした状況下で、自己と他者が上手く分離できていないと、自身までマイナスの感情にとらわれてしまう恐れがあるのです。
人と深く接する職種では、他者の感情を理解するスキルが欠かせません。
しかし相手に傾倒しすぎてしまうと、今度は相手の感情から強い影響を受けてしまいます。
まとめ:感情労働の実行には適切なケアが必要不可欠
本記事では感情労働について解説してきました。
感情労働は、現代社会において必要不可欠なスキルになっている一方で、メンタルヘルスに強い負荷がかかると考えられています。
感情労働によってストレスを抱えている労働者は想像以上に多いでしょう。
経営層やマネージャーは、トラブルを防ぐための環境管理やストレスチェックを実施する必要があります。
感情労働について正しく理解し、適切な職場環境を構築するようにしましょう。
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