360度評価は、パフォーマンスを多角的に評価する手法です。
ただし、360度評価で出てきたコメントは、必ずしも部下を持つポジション、管理職の成長につながるとは限りません。
今回は、360度評価で得られるコメントを見て一喜一憂することなく、成長につなげるコツについて考察してみたいと思います。
【この記事の要約】
- 360度評価のコメントは参考程度に捉えるのがよい
- 360度評価で部下をマネジメントするのはおすすめしない。部下マネジメントで成功する唯一の方法は、多面観察ではなく「目標にコミットさせること」
- 部下も上司も成長したいなら、360度評価以外の「1on1面談」や「クロス面談」など本音を聞ける機会を活用する
目次
360度評価の結果を組織改善につなげる3つのポイント
マネジメント職にとって、360度評価は普段聞こえてこない部下や他部署からの評価を聞けるというのがひとつの特色でしょう。
しかし、360度評価の声を真剣に聞きすぎると、「リーダーの信念がブレる」など、マネジメントの方向性に悪い影響を与える場合があります。
組織改善に360度評価を活用したいなら、次のポイントを意識するといいでしょう。
- 「360度評価は人事査定に影響しない」確固としたルールを設ける
- 回答結果は本人に見せない
- 360度評価は、情報収集や参考データとして割り切って使用する
360度評価は人事査定に影響しないルールを設ける
360度評価を組織改善に役立てたいなら「評価コメントは人事査定に影響しない」確固たるルールを設けるようにしましょう。
「〇〇は部下から信頼を得ていない」などのコメントを人事査定に反映させてしまうと、正直な意見が得られにくくなります。
場合によっては、上司から部下へ「いいコメントをするように」圧力をかけるケースがあるかもしれません。
また、この人事ルールは360度評価に携わるメンバーや上司すべてに開示する必要があります。
一人でも「そんなルールは聞いていない」部下がいると、正当な360度評価が行えません。
人事部の責任者は、組織内でルールを浸透させる仕組みを作るようにしましょう。
回答結果は本人に見せない
360度評価の結果は、評価対象者に直接見せないようにしましょう。
例えば、マネージャーへのコメントであればマネージャーには見せず、一段階上の部長にだけ公開するのも組織運営の面では効果的な方法といえます。
部下からの否定的なコメントを直接見てしまうと、上司のマネジメント指示がブレる可能性もあり、内容次第では組織運営に影響が出る場合もあります。
本人にコメントを見せないようにすれば、評価対象者は部下からの直接的なフィードバックのプレッシャーから解放され、より客観的な視点でマネジメントに集中できるでしょう。
ただし、評価コメントを見る上席自身は、コメントの内容だけで人事評価をしてはいけません。
あくまでも俯瞰的に物事をとらえ、参考情報として留めておくようにしましょう。
情報収集や参考データとして認識する
360度評価は、時には真剣に受け止めるべきではない場合もあります。
なかには「個人的なネガティブな感情」だけが先走り、信ぴょう性の薄いコメントも見受けられます。
360度評価のコメントは、組織内の傾向や問題点を把握するための参考データとして活用することが望ましいです。
「部下の〇%が否定的な感情を持っているのか?」程度の、ざっくりとした感覚でとらえておくといいでしょう。
360度評価で部下の声を聞いてはいけない3つの理由
360度評価は多くの場合、部下の声を聞くための有効な手段とされています。
しかし、部下からの声を重視し過ぎてしまうと、いじめやパワハラを誘発するなど、別のリスクも発生します。
以下の3つに分けて、そのリスクを解説していきましょう。
【360度評価で部下の声を聞いてはいけない3つの理由】
- いじめやパワハラを誘発してしまう
- リーダーの決断が揺らいでしまう
- 定性的な評価が重視され組織の成長が止まる
いじめやパワハラを誘発してしまう
360度評価の結果がいじめやパワハラの原因となる点は、もっとも注意しなければいけません。
360度評価は、基本的に匿名性が担保された評価方法です。
しかし、システムによっては「社員のグレード」「所属部署」「年齢」など、ざっくりとした情報が提供されるため、おおよそ回答者が限定されてしまうことがあります。
誰が回答したかがわかると、回答者がいじめられたりパワハラの対象になったりするケースもあるため、注意が必要です。
組織内で「〇〇さんは上司を否定したコメントをしていた」などの噂が広まると、本人も居づらくなり、余計なストレスを抱えてしまうでしょう。
360度評価のコメントは、限定された人にのみ公開するのが基本ルールです。
リーダーの決断が揺らいでしまう
360度評価の結果を過度に重視してしまうと、リーダーの決断力を弱めてしまうかもしれません。
リーダーが部下の意見に過度に依存すると、自身の判断力や決断力が低下し、組織の方針決定において迷いが生じます。
例えば、部下が否定的な意見をいっていることがわかり、上司がコメントを気にし過ぎてしまうと「ご機嫌取り」のマネジメントになってしまうかもしれません。
ネガティブな意見を持つ部下のサポートやフォローは、最大限行う必要があります。
しかし、部下にモチベーションを「与える」ことだけに集中し過ぎると、結局のところ組織全体のモチベーション維持は不可能となっていくでしょう。
上司は、部下の目標達成だけに焦点を絞り、部下の自己成長へのサポートに集中すべきです。
部下に自己成長を促すマネジメント方法については、下記の関連記事も参考にしてください。
関連記事:識学総研「現場の声を重視し、現場に決断させるリーダー」は本当に正しいのか?」
定性的な評価が重視され組織の成長が止まる
360度評価では、定性的な評価が重視され過ぎる傾向があります。
組織マネジメントにおいて定性的な評価を重視すると、個人の感情や主観的な意見が評価に大きく影響を与えるため、組織の成長が止まります。
定性的な評価に重きが置かれ、定量的なデータや実績に基づく評価が軽視されると、組織の意思決定が個人的な意見に左右されやすくなり、組織全体の方向性が曖昧になるのです。
部下の定性的な部分は把握しておくべきです。
しかし、組織運営で重要なのは、あくまでも「定量的な目標にコミットさせること」である点は忘れないようにしましょう。
360度評価に代わる情報収集や評価の手段
360度評価は効果的な組織マネジメントのツールのひとつですが、人事評価やマネジメントツールとして使うには限界があります。
理想的な組織運営をするには、次のような360度評価に代わる手段と平行しながらマネジメントしていくといいでしょう。
- 1on1面談によるヒアリング
- クロス面談
- テーマを決めたグループミーティング
- コンサルティングによる外部評価
1on1面談によるヒアリング
1on1面談は、部下と直接的なコミュニケーションを取るための効果的な方法です。
1on1面談の目的は「部下の能動的な考えをサポートすること」です。
1on1面談に対して、「普段いえないようなプライベートな悩みを相談する機会」と認識している人も多いです。
たしかに、この考えは間違ってはいません。
しかし、1on1面談は部下自身がテーマを考え、話す内容を決めて面談に臨む「部下が主役の面談方法」です。
自分でテーマを決めることで部下自身が真剣に考え、新たな気づきを得てもらうのが1on1面談の目的ともいえます。
上司は360度評価でのコメントばかりを重視するのではなく、1on1面談でわかる部下の本音もバランスよく聞きながらマネジメントするといいでしょう。
クロス面談
クロス面談とは、異なる部門やチーム間での面談のことを指します。
例えば「管理部門の管理者が、営業部門のメンバーの面談を行う」のがクロス面談です。
クロス面談をすれば、直属の上司にはいえない本音を聞き出せるかもしれません。
ただし、他部署のメンバーの本音を聞きたいなら「守秘義務」をコミットしておくことが大切です。
面談前には約束事として「いまから聞くことは口外しません」「あくまでも組織運営の参考にします」と明言してから面談に臨みましょう。
テーマを決めたグループミーティング
特定のテーマに焦点を当てたグループミーティングは、部下の意見や感情を引き出すのに役立ちます。
ただし、グループミーティングには、管理職などの一定の職責以上の管理者は同席しないほうがいいでしょう。
「現場の声を聞きたい」と思い、上席が参加してしまうと萎縮してしまい、いいたい意見も出せないようになってしまいます。
どんな意見が出ていたのか知りたいなら、参加メンバーのファシリテーター的な存在のメンバーと事前に打ち合わせをおこない、ミーティング時に出てきた意見をフィードバックしてもらうように依頼しておきましょう。
コンサルティングによる外部評価
組織の課題が見えないないなら、コンサルタント会社などに相談し、組織の課題を外部評価してもらうよう依頼するのも効果的な手段です。
外部のコンサルティング会社は、さまざまな組織を見てきており、多角的に物事を評価するのに長けています。
「外部から見てどうなのか?」「他社と比較して改善すべき点は?」などを指摘してもらい、真摯に受け止めて改善するのがおすすめです
まとめ
360度評価は、多角的なフィードバックを提供する有効なツールですが、コメント内容を気にし過ぎたり人事評価に活用したりするのは危険です。
あくまでも、参考情報として俯瞰的にとらえるようにしましょう。
また、部下からの意見だけを尊重してマネジメントする方法もおすすめできません。
あくまでも部下には「目標達成」を前提としたマネジメントが理想です。
目標達成ができる・できないを部下自身が受け止め、能動的に改善していく方向でサポートしていくと組織もいい方向に向かうでしょう。