業務改善は、企業の成長と発展に不可欠なプロセスです。
しかし、業務改善に取り組もうとしても、部下から改善アイデアが出てこないなど、苦慮するケースも多いでしょう。
今回は、業務改善の基本的な考え方と、改善に向けたアイデアを引き出す方法について考察します。
業務改善は、生産性向上だけではなく、従業員のエンゲージメント向上や顧客満足度の向上にもつながる取り組みです。
現場に近い部下から良いアイデアを引き出せるヒントなどについて、参考になる情報をお届けします。
【この記事の要約】
- 業務改善は、生産性向上だけではなくエンゲージメント向上やコスト削減に大きく寄与する取り組み
- 業務改善のアイデアを引き出すには、意見を言いやすい仕組みを作ること。AIやビッグデータを活用して、顧客の声を集めることがポイント
- 業務改善が進まないのは、従業員の目標に改善提案と実行が織り込まれていないのが原因。リーダシップに原因があるケースも多い
目次
業務改善の重要性と目的
業務改善は、企業の持続的な成長と競争力を維持するために重要なプロセスです。
業務改善を進めるには、生産性向上のほかに次の4つの目的があります。
- 顧客満足度の向上
- 品質向上
- エンゲージメント向上
- コスト削減
それぞれについて、業務改善を実施した場合のメリットと、実施しなかった場合のリスクについて簡単に触れていきたいと思います。
顧客満足度の向上
業務改善の大きな目的のひとつに、顧客満足度の向上があります。顧客の期待に応え、ロイヤルティを高めるには、サービスや製品の質を常に見直し、改善しなければいけません。
競合や市場環境が激しい現代において、新規顧客の獲得難易度はますます高まっています。
そのようななかで企業が利益をあげ続けるには、顧客単価(ARPU)を上げたり、顧客の生涯価値(LTV)を上げたりといったことが必要であり、そのための業務改善は必須課題ともいえるでしょう。
一方、業務改善を行わない場合は、顧客満足度が低下し、顧客の流出や売上減少が発生します。
さらに、顧客満足度が低くなるとSNSなどで悪評が広がり、企業価値そのものを下げるリスクも上がります。
ちなみに、業務改善をしながら組織を運営するうえでは、「顧客満足度を重視するか?」それとも「メンバー目標を重視するか?」について悩む管理者も多いでしょう。
顧客満足度にはゴールはないため「どこまで追求すべきなのか?」といった声も聞こえてきます。
下記関連記事では、チームマネジメントにおける顧客満足度の考え方について考察しています。ぜひ参考にしてください。
関連記事:【顧客満足は必要ない】チームマネジメントのビジョンがチームやメンバーの成長であるべき理由と具体例な職場例を紹介!
品質向上
業務改善を通じて品質を向上させることは、顧客の信頼を獲得し、ブランド価値を高めるうえで極めて重要です。
品質向上は、顧客満足度を高めるだけではなく、製造業であれば返品率の低減やアフターサービスコストの削減など、企業全体の利益向上に直結します。
一方で、業務改善に取り組まずに品質低下を招いた企業は、顧客離れやブランドイメージ低下などが発生し、信頼回復に多額のコストと時間を費やさなければいけません。
エンゲージメント向上
業務改善は、従業員のエンゲージメント向上にも直結します。
現場の意見をもとに業務改善に成功した場合は、従業員のモチベーションもアップするでしょう。
また、改善提案→業務改善→利益改善→報酬アップといった一連の流れを作れば、さらに従業員のエンゲージメントは上がります。
一方、業務改善に関する意見を集めず、組織としても改善に取り組まなかった場合は、生産性の低下だけではなく離職率が上がるなどのリスクが発生します。
従業員が「自分の仕事が業務改善につながっていない」と感じると、創造性やイノベーションが阻害され、組織全体の成長も鈍化するかもしれません。
従業員のエンゲージメント向上は、個々の従業員だけでなく、組織全体の成功に不可欠な要素です。
業務改善を通じて従業員のモチベーションを高め、仕事に価値を感じる環境を作ることが、企業の持続的な成長につながります。
コスト削減
業務改善は、企業のコスト削減にもつながる取り組みです。
無駄を省き、リソースを最適化すれば、企業の財務健全性を高め、競争力を強化できるでしょう。
オフィス環境においては、ペーパレス化やアナログ管理からの脱却などの改善を進めることにより、諸経費の削減はもちろん、人件費の削減も可能です。
一方、コスト削減に取り組まない企業は、利益率が下がるのはもちろん、新しい投資やイノベーションに費やすコストがなくなり、結果として成長が止まる可能性が出てきます。
業務改善によるコストダウンは、企業の経済的な安定性を確保し、市場での競争力強化に直結します。
職場内で業務改善のアイデアを引き出す4つのコツ
業務改善はメリットが大きいとわかっていても、職場内で業務改善のアイデアを引き出すのは難しいものです。
「改善アイデア募集」と声をかけても、意見が集まらなかったり、ありきたりな意見しか出なかったりするのは、どの職場でもよくある話です。
職場における業務改善のアイデアを引き出したいなら、次のステップを踏むといいでしょう。
- 現状分析と問題点を特定する
- 意見を出しやすい仕組みを作る
- 顧客からの声を分析する
- AIやビッグデータを活用する
現状分析と問題点を特定する
業務改善のアイデアを引き出したいなら、まずは現在の業務プロセスを分析し、改善点を特定することに集中しましょう。
漠然と改善アイデアを考えるのではなく、問題点を徹底的に書き出すことが大切です。
問題点が明確になれば、それに対する具体的な改善策は容易に引き出せます。
例えば「残業が増える」などの問題を抱えているなら、不必要な会議や重複する業務プロセスがないか洗い出し、具体的な問題点を明確にしましょう。
そのうえで「会議時間短縮のアイデア募集」など、具体化していけば意見も集まりやすくなります。
意見を出しやすい仕組みを作る
従業員からの意見を集める場合は、意見を出しやすい仕組みを作りましょう。
例えば、つぎのような方法がおすすめです。
- 匿名でも意見を出せるようにする
- データ入力や紙での提出など、さまざまな意見の提出方法を用意する
- 定期的なミーティング機会を設け、意見を集める
このほかにも、良いアイデアに報奨金を出すなどの面白い仕組みを作れば、良い改善アイデアも集まりやすくなるでしょう。
ただし、改善アイデアを募集したり、ミーティングを行ったりする場合は「その場限り」にならないよう注意が必要です。
1回や2回の機会で意見が集まらなかったとしても、根気強く続けるようにしましょう。
定期的に続けることで「いまは意見がないけど、次回の機会には出せるようにしよう」と、常に問題意識をもって業務に取り組めるようになります。
また、ミーティングで意見を集める際は「絶対に意見を否定しない」など、ルールを決めておくのもおすすめです。
顧客からの声を分析する
顧客からの声を分析するのは、業務改善の近道といえます。
Webサイトに書き込まれた顧客からの口コミや顧客アンケートなどは、サービス改善のための重要な情報源です。
最近ではSNSを運用している企業も多く、SNS上で呟かれたコメントに対しても、きめ細やかな対応をしているケースも増えてきました。
顧客からの意見は、定性的なコメントと定量的なデータに分け、それぞれどのような傾向があるのか分析しましょう。
業務改善においては、顧客の声を真摯に受け止めるだけではなく、意見を改善に結びつける実行力がポイントとなります。
AIやビッグデータを活用する
AIやビッグデータなどを活用し、効率的な業務改善を行う方法もおすすめです。
小売業界であれば、AI分析ツールで顧客行動を分析し、在庫管理を最適化するなどの業務改善が可能です。
また、AIやビッグデータを使って過去の販売データを分析し、将来的なトレンド予測や、顧客離れを想定した業務改善に取り組むこともできるでしょう。
例えばコールセンターなどでは、AIを活用したチャットボットで問い合わせを自動化すれば、従業員はより重要なタスクに集中できるようになります。
業務改善の事例を業種別で紹介
ここからは、実際に業務改善に取り組み、成果を上げた事例をご紹介します。
製造業や物流業など業務改善に至った背景や取り組み内容、成果に至るまで簡単にまとめていますので、ぜひ自組織の参考にしてください。
製造業|工場IOTで商品力の改善に成功したトヨタ自動車の事例
トヨタ自動車は、以前より試作時の特性データなどのデジタル化には取り組んでいたものの、顧客から得たデータを技術開発に活かすことに苦戦していました。
そこで、工場横断できる共有のプラットフォームを2~3年かけて開発。
ボトムアップの取り組みとして、各社員が小規模なテーマを立案し、実行して成果を出す取り組みを行い、同時に人材育成も進めていきました。
このような取組により、現場からの改善意見も集まるようになり、工場IoTで得られたデータをもとにした品質改善が実現しています。
物流業|OCRの導入で時間効率向上に成功したアサヒロジ株式会社の事例
物流業のアサヒロジ株式会社は、社内で「K2 改革・改善チャレンジ」に取り組んでいる会社です。
日本ロジスティクスシステム協会主催の全日本物流改善事例大会では、2022年度に優秀物流改善賞を受賞するなど成果をあげています。
同社は、物流工程で発生する「伝票読取率の低さ」に注目。OCR(光学式文字読取装置)の導入や伝票入力業務の動画手順書などを作成し、業務改善に取り組みました。
その結果、年間で420時間の時間短縮を実現し、業務習熟期間の大幅短縮にも成功しています。
参考:公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会公式サイト「物流現場改善事例集
飲食店|メニューブックの改善だけで来客数アップと売上向上に成功した飲食店の事例
次は小規模飲食店の事例です。地元の特産物などを利用した店舗を経営する飲食店A。
このお店では、オーダー履歴データを見て「本日のお薦め」からのオーダーが多いと分析しました。
そこで業務改善の取り組みとして、「本日のお薦め」に記載するメニューを倍に増やすようにし、メニューの内容を従来の「絵」から「写真」へ変更。
また、どんなメニューなのかわかるように注釈を入れるなど、表示方法にも改善を加えたそうです。
その結果、客数は前年同月比で108%、売上高の前年同月比も113%と伸長し、客単価も上がるなど改善の成果が出ています。
小売業|情報共有の課題改善に取り組んだ小売店の事例
小売店のA社は、繁華街で3店舗を運営する企業。
店舗責任者は2名いましたが、接客や納品作業などに追われ、情報共有のための会議も不定期になるなど多くの課題を抱えていました。
そこで、同社では勤務シフト表を全店舗共通のものにし、店舗間でスタッフ同士の応援ができる仕組みを構築。
さらに、各店舗の課題も全員で共有し、メリハリのある業務改善活動を実施しました。
その結果、人材不足は解消され、売上向上や費用削減などの面で改善効果が出はじめたのです。
参考:大阪中小企業診断士会公式サイト「小売業における店舗運営の改善事例」
業務改善が進まない原因と対策
業務改善に取り組む企業は多いものの、なかには「自社の業務改善が進まない」と頭を抱えている管理者もいるかもしれません。
業務改善が進まないのには、次の原因が考えられます。
- 従業員の目標に改善提案と実行が織り込まれていない
- 組織内のコミュニケーションが悪い
- リーダシップの欠如
従業員の目標に改善提案に関する内容が織り込まれていない
業務改善が進まない大きな原因のひとつに、「部下の目標に改善提案に関する内容が組み込まれていない」という点があげられます。
「上司が指示しなくても能動的に改善提案すべき」などの考えは捨て、部下の目標には業務改善の提案や実行に関する目標を織り込んでおきましょう。
例えば「1年に最低5件の改善提案をする」など明確な件数を設定したり、具体的な改善項目を指定したりするのもおすすめです。
組織内のコミュニケーションが悪い
組織内のコミュニケーション不足も、業務改善が進まない原因のひとつです。
普段から言いたいことが言えないような組織だと、改善策を思いついても「言っても無駄」「余計な仕事が増えるから言わないでおこう」など、ネガティブな思考がはたらきます。
組織内のコミュニケーション不足を解消するには、定期的なチームミーティングに加え、1on1ミーティングのような1対1の面談を頻繁に行うのがおすすめです。
リーダシップの欠如
リーダシップが欠如していると、業務改善は進みません。
組織によっては、従来からの業務内容を大幅に変更したり、慣れないITツールを導入したりすると、組織内の一部のメンバーからは不平不満が出るケースが多々あります。
そのような状況下で管理者が強いリーダシップを発揮できないでいると、いつまで経っても業務改善は進みません。
業務改善を進めたいなら、部下のモチベーション維持にも配慮しながら、強い信念をもって改善を推し進めることが重要です。
自分ひとりで推進していくのが難しいなら、経営層にサポートをお願いしたり、自部署内に強い協力者を2~3名確保したりするといいかもしれません。
まとめ
業務改善は、顧客満足度の向上や品質の向上、エンゲージメントの向上・コスト削減といった多くのメリットをもたらします。
ただ、業務改善の推進においては「部下から改善アイデアをいかに引き出すか」が大きなポイントです。
普段から良好なコミュニケーションを維持し、現場に近いメンバー層からの意見を集約するように努めましょう。
組織内の全員が「自分ごと」として捉えられるよう、改善に取り組むと確実に成果は見えてきます。