企業では社内外問わずさまざまなコミュニケーションを行います。コミュニケーションを円滑に進めるためには、相手との信頼関係の構築が欠かせませんが、どのように相手との距離を縮めれば良いか分からない方も多いでしょう。
相手と信頼関係を構築する際に役立つのがペーシングです。本記事ではペーシングについて、得られる効果や実践時のポイントなどを解説します。
目次
ペーシングとは?
ペーシングとは、相手との信頼関係を構築するためのコミュニケーションスキルの一つです。ペーシングはカウンセリングの現場で使用されることが一般的でしたが、昨今ではビジネスシーンでも用いられるようになっています。
ペーシングの手法はいくつかありますが、代表的なの3つのテクニックについて紹介します。
テクニック | 内容 |
ミラーリング | 視覚情報を使ったペーシングスキル。鏡のように相手の表情やしぐさをまねる。わざとらしくならないよう、足組みや顔の傾き、呼吸のペースなどの動作をあわせる |
マッチング | 聴覚情報を使ったペーシングスキル。話すスピードや声のボリューム、トーンを相手と同じようにふるまったり、逆の反応をしたりする |
バックトラッキング | 相手の言葉を繰り返すペーシングスキル。言い回しを変えたり、キーワードだけ取り入れたりするのも有効。 |
ペーシングの具体例
ペーシングの手法について、もう少し深掘りしていきましょう。ペーシングはあくまでさりげなく行うことで、相手に好感を持ってもらえます。なかなかイメージがわかない方は、下記のような具体例から実践してみてください。
ミラーリング、マッチング、バックトラッキングのそれぞれの具体例は次のとおりです。
テクニック | 具体例 |
ミラーリング | 部下が頷いたタイミングで自分も頷く相手がコップを手に取ったタイミングで自分もコップに手を伸ばす |
マッチング | クレーム対応で相手の声に反して小さく落ち着いた声で対応する取引先の相手が話すスピードを遅くしたのに合わせて自分も遅くする |
バックトラッキング | 相手が話した内容を返答に盛り込む |
バックトラッキングの場合、相手の無意識の「そうそう」という言葉を生み出すことがポイントです。例えば、部下から次のような言葉を投げかけられたとします。
- 今日取引先で、とてもいいことがあったんですよ。
この質問に対して、バックトラッキングを用いた返答例は以下のとおりです。
- へぇ、いいことがあったんだね。何があったの?
すぐに回答するのではなく、バックトラッキングで相手の感情を繰り返せば、相手に意識がきちんと向いていることを示せるので信頼感や安心感を与えることにつながります。
ペーシングで得られる効果
ペーシングのように相手の行動に似せた行動を取ることによって、相手は無意識のうちに自分と似たような感覚を覚えます。
これは類似性の法則と呼ばれる心理作用です。類似性の法則によって自分との共通点を相手に感じることで、心が開けていき親しみを覚えやすくなります。その結果次のような効果が得られます。
ペーシングの目的はラポール形成
ペーシングの目的はラポール形成です。ラポールとは心理学用語の一つで、セラピストと被験者との相互関係を意味します。
ビジネスにおいて、相手とラポールを形成できれば初対面の相手でも緊張感なく商談が出来たり、不安や警戒を解くことができるので次回のアポイントがとりやすくなったりするのです。
ラポール形成とは?
ラポールはフランス語で「橋をかける」という意味で、相手と心が通じ合い、相手を受け入れている状態を指します。
つまり、ラポール形成とは自分と相手との心の距離が縮まり通じ合っている状態を指します。ペーシングを駆使して相手と信頼関係を築くことは、仕事だけでなく親子関係や夫婦関係などプライベートのさまざまな場面でも役に立つでしょう。
ラポール形成ではペーシングだけなく、尊重、類似性が欠かせません。尊重とは相手の気持ちを理解し、価値観に共感するというスタンスです。
また、類似性とは相手との共通点を見つけることです。互いに共通点が見つかることで、一体感や親近感が生まれます。
ペーシングの4つのポイント
ペーシングを実施する際は次の4つのポイントを意識しましょう。全てを対応しようと思うと不自然になってしまいがちなので、一つずつ取り入れるのがおすすめです。
1. しぐさ・表情
相手のしぐさや表情を真似るミラーリングは、見たまま対応するので取り入れやすいポイントの一つです。ただし、露骨に真似をしてしまうと安心感を与えるどころか、反対に不快感を与えかねません。
すべてのしぐさを真似るのではなく、腕を組んだり首を傾げたりするなどのちょっとしたしぐさや表情を真似るようにしましょう。
また、ミラーリングを行うタイミングは相手とピッタリ一緒でなくとも問題ありません。相手より少し遅いタイミングで行っても効果は期待できます。
2. 声
自分の声の大きさを意識せずに打ち合わせや面談、商談をしてしまうと、話をしっかり聞いてもらえない可能性があります。そのため、ペーシングにおけるマッチングスキルを活用して、相手に応じて声の大きさに変化をつけましょう。
例えば、面談の場面で決まった質問文を投げかける場合であっても、声の大きさやトーンによって相手が受ける印象が変わってきます。結果として相手の返答内容にも差が出てしまうかもしれません。
声の大きさを相手に応じて変化させるというのは、コールセンターのように電話を介した仕事では重要なスキルとして知られています。
3. 言葉
相手が発した言葉を返答や自身の発言に盛り込むことで、相手は自分が受け入れられていると感じてくれます。このようなバックトラッキングのポイントは、なるべく感情を込めて返事をするという点です。
また、相手の言葉を発言に盛り込んでしまうと、くどくなってしまう上に、人によっては不快に感じてしまうかもしれません。そのため、相手の発した言葉の中から、キーワードと思われる言葉を抜き出すようにしましょう。
4. スピード
ペーシングでは話す声の大きさ、トーンだけでなくスピードも意識しましょう。例えばゆっくり話している相手に対して早口で話してしまうと、会話のテンポがずれて居心地の悪さを感じさせたりイライラさせてしまったりするかもしれません。
そのため、ペーシングでは話すスピードを意識することが必要です。
いざ本番になって相手の話すスピードに合わせるのは難しいでしょう。本番で相手の話すスピードに合わせられるよう、普段からゆっくり話したり早く話したりする練習をしておくのがおすすめです。
部下とのコミュニケーションで活用できるペーシング
ペーシングは部下とのコミュニケーションでも活用可能です。例えば、部下との面談であれば話すペースや表現、ジェスチャー、姿勢などを真似ることで、安心感を与えられます。
また、部下が発した言葉を自分の発言に盛り込むことで、しっかりと話を聞いているということを伝えられます。
ペーシングを活用することで、話しやすい環境が整えられるため、部下の本音を引き出しやすくなるでしょう。
次のような課題を抱えている上司、管理者はペーシングを積極的に活用しましょう。
- 部下との会話で自分が話す割合が多い
- 部下の話を最後まで聞かずに自分の話をしてしまう
- 部下に細かい指示を出す
- 部下に意見を求めても、途中で答えを出してしまう
- 会話での沈黙が苦手意識を感じてしまう
ペーシングによって組織内の信頼関係が高まることで、生産性の向上が期待できます。組織内でコミュニケーションが円滑になるため、従業員間の情報共有が進み、業務における連携が取りやすくなります。
また、より良い結果につなげるため、建設的な議論が促されるというのもメリットです。
ペーシングをする際のコツ
ペーシングをする際のコツは次の2つです。
- 自分と相手でギャップがあるものをペーシングする
- 相手にとって大切な要素をペーシングする
それぞれのポイントについて解説します。
自分と相手でギャップがあるものをペーシングする
ペーシングにおいてポイントとなるのは、自分と相手とでギャップがあるものに着目するという点です。自分と相手とで似通っているところを真似しても、大きな効果は期待できません。
相手の様子を確認して、自分と異なる点を見つけましょう。ギャップがある点をペーシングすることで、相手は親近感を感じてこれまでよりも話しやすいと感じてくれます。
相手にとって大切な要素をペーシングする
相手が会話やコミュニケーションにおいて大切にしている要素をペーシングしましょう。例えば、表情の変化を気にかける相手であれば、会話に合わせて感情を表情に出すことで相手に安心感を与えられます。
また、相手が大切にしている価値観を理解しておくことも大切です。仕事、家庭、人間関係など、相手が大切にしている価値観に理解を示すことで、相手は親近感を覚えてくれます。
ペーシングを活用して部下と円滑なコミュニケーションを行おう
ペーシングとは相手との信頼関係を築くためのコミュニケーションスキルの一つです。具体的には相手のしぐさや表情を真似る、相手に応じて声の大きさやトーンを調整する、相手の発した言葉を自分の発言に盛り込むといった方法で、相手の警戒心を解きます。
ペーシングはカウンセリングで用いられる技術ですが、部下や取引先とのコミュニケーションといったビジネスシーンでも活用可能です。
部下とのコミュニケーションでペーシングを活用することで、話しやすい環境が生まれるため、部下の本音を引き出せる可能性があります。
部下よりも自分が話してしまう、部下の話を聞き終わる前に自分が話してしまうといった課題を抱えている方は、積極的にペーシングを活用するようにしましょう。