企業にとって、離職は労働力が減少するだけでなく、穴埋めのための採用活動コストの発生、離職率が高くなることで企業のイメージダウンにも繋がるなど、さまざまなマイナスな影響があります。
そのため、企業としては可能な限り、退職者を出したくないものです。
しかし、人事評価が原因で従業員が退職するケースがあることをご存じでしょうか?
ここを見逃してしまうと、いつまで経っても離職率率を低下させることはできません。
本記事では、人事評価が原因で従業員が退職する理由や、それに対する解決策を紹介していきます。ぜひ参考にしてみてください。
目次
人事評価が原因で従業員が退職する理由
2009年3月11日に厚生労働省が発表した『第6回21世紀成年者縦断調査』によると、正規雇用者の転職理由として男女ともに「能力・実績が評価されなかったから」といった趣旨の回答が多く、その割合は21%を越えます。
以上のことから、人事評価が原因で退職する従業員は一定数いると言えます。
では、具体的にどのような理由で退職していくのでしょうか。考えられる理由は以下の通りです。
- 人事評価に納得がいかないから
- 人事評価に見合った報酬・待遇が提示されないから
- 人事評価を受けて企業とのミスマッチを感じるようになったから
- 厳しい評価を下されてモチベーションが低下したから
それぞれ解説していきます。
人事評価に納得がいかないから
まずは、人事評価に納得がいかないことが挙げられるでしょう。
例えば、自身の売上が他の人よりも優れているのにもかかわらず、それが正しく評価されなければ、当然納得がいきません。
人事評価に納得が行かない理由の大半は、不公平な人事評価にあるのです。
不公平な人事評価が実施される原因としては、評価者の主観が介入していたり、人事評価項目が不透明だったりすることが挙げられます。
当然、従業員は不公平な人事評価をする職場に長く居続けたくありません。
なぜなら、どんなに頑張っても評価されない環境で出世することは厳しいからです。
関連記事:社員への人事評価制度の問題点は?導入・見直し方法を解説!
人事評価に見合った報酬・待遇が提示されないから
人事評価に見合った報酬・待遇が提示されないのも、退職理由の一つとして考えられます。
仮に、公平な人事評価が実施されていたとしましょう。これが事実であれば、業績や頑張りに応じて評価が上がっていくのが妥当です。
しかし、それが報酬や待遇で還元されないと、従業員としては「頑張りが無駄になった」と感じてしまうことでしょう。
どれだけ公平な人事評価を実施できても、評価に連動した報酬システムでなければ意味がありません。
優秀な従業員であればあるほど、評価と報酬が連動した職場に転職したいと考えるようになります。
結果として、優秀な人材がどんどん流出してしまうことになるのです。
人事評価を受けて企業とのミスマッチを感じるようになったから
人事評価を受けて企業とのミスマッチを感じるようになることも、人事評価による退職理由の一つとして考えられます。
例えば、従業員Aが成果主義の報酬システムを望みながら入社してきたとします。
しかし実際に人事評価を受けてみると、結果よりもプロセスを重点的に見る評価システムであることが判明しました。
実力主義の組織で自らを成長させようと考えていた従業員Aは、企業とのミスマッチを感じるようになり、より実力主義を強めた職場への転職を検討するはずです。
以上のように、人事評価を受けてみてから自分と企業とのミスマッチを実感してしまい、それが結果的に退職に繋がる可能性があります。
厳しい評価を下されてモチベーションが低下したから
人事評価は、ポジティブな評価もあればネガティブな評価もあります。
そして100%ポジティブな評価になることはほとんどありません。
何かしらのネガティブな評価があるからこそ、改善点が生まれるのです。
しかし、あまりにもネガティブな評価が多い場合はどうでしょうか。
従業員としては「自分は足手まといだ」と感じたり、「この組織に自分は必要ない」と考えるようになるかもしれません。
こうしてやる気やモチベーションがどんどん低下し、結果的に退職してしまう可能性が考えられます。
人事評価による退職を防ぐ方法
人事評価による退職を防ぐ方法は以下の通りです。
- 公平な人事評価を行う
- 人事評価に見合った報酬を提供する
- 1on1の人事評価面談で従業員のモチベーションを管理する
- 評価の低い従業員のフォローを手厚くする
それぞれ解説していきます。
関連記事:離職防止とは?注目される背景やリスク、原因や対策を解説
公平な人事評価を行う
人事評価による退職を防ぎたいのであれば、まずは公平な人事評価を心がけましょう。
この際、評価エラーが発生しないように工夫する必要があります。評価エラーの例は以下の通りです。
- ハロー効果
- 中心化・極大化傾向
- 寛大化・厳格化傾向
- 論理誤差
ハロー効果とは、被評価者の目立った特徴に注目してしまい、他の項目の評価でも、その特徴の影響を受けてしまうことを指します。
例えば、非常にコミュニケーション能力が高い従業員がいるとしましょう。
そしてこの特徴に注目し過ぎてしまうと、少しニュアンスが異なる「交渉力」の項目も高く評価してしまうケースが考えられます。
これがハロー効果です。もちろん、ハロー効果は「低く評価してしまう」というパターンもあります。
次に中心化・極大化傾向です。
中心化傾向は評価者自身が自信を持てないという理由で、5段階評価のうち「3」を選び続ける傾向があることを指します。
逆に極大化傾向は被評価者の優劣を極端に判断し「1」や「5」ばかりを選び続けてしまう評価エラーです。
また、寛大化傾向は評価が優しくなること、逆に厳格化傾向は必要以上に評価が厳しくなる評価エラーを指します。
そして論理誤差は、評価者の中の論理的な思考で評価してしまうことです。
例えば評価者が「東大出身は仕事ができるだろう」という具合に、評価者の中にだけ存在する論理で評価してしまうのが論理誤差です。
公平な人事評価を実施したいのであれば、上記の評価エラーを防ぐための指導が必要です。
評価者の教育プログラムにこれらの対策を組み込んで、公平な人事評価を実施できるようにしましょう。
人事評価に見合った報酬を提供する
人事評価に見合った報酬を提供するのも大切です。
公平な人事評価が実施されており、かつ評価が報酬・待遇に反映されれば、従業員は高いモチベーションを維持し続けるようになるでしょう。
なぜなら、頑張ったら頑張った分、報酬や待遇が良くなるためです。
やはり人事評価だけをやりがいにできる従業員は少ないように思えます。
特に、高待遇を求める野望に溢れた従業員は、仕事にコミットする傾向があります。
そのことからも、やはり見合った待遇というのはより高いパフォーマンスを発揮させるのに有効だと言えます。
優秀な人材の流出を防ぐためにも、人事評価に見合った報酬を提供することは大切です。
1on1の人事評価面談で従業員のモチベーションを管理する
人事評価で実施される1on1の面談で、従業員のモチベーションを管理するのがいいでしょう。
仮に、どんな評価に対しても真摯に受け止め、それを次に繋げられる従業員であれば、フォローアップは必要ないかもしれません。
しかし、ネガティブな評価を真に受けてしまい、どんどんやる気を落としていく従業員に対してはフォローアップが必要です。
具体的には、ネガティブな評価をしたあとに、次に繋がるようなアドバイスを提示するのがおすすめです。
また、「人事評価はあくまでも従業員の取り組みを評価しただけであり、人間性を否定しているものではない」というようなフォローも適度に取り入れましょう。
ただし、弊社識学ではこうした1on1は推奨していません。
詳しくは識学式の人事評価の記事をご覧ください。
関連記事:人事評価と自己評価のズレとは?なぜズレが生じるのか、その理由を解説
退職リスクのある従業員を見つけ出す
可能な限り、退職リスクのある従業員を見つけ出すのも大切です。
「退職します」と言われてしまっては手遅れになるので、その前に退職リスクのある従業員を特定できれば、何かしらの方法で改善させることができます。
退職リスクのある従業員の特徴は以下の通りです。
- コミュニケーションが減った
- 仕事関係の愚痴・不満が増えた
- 遅刻や欠席が増えた
退職リスクのある従業員が特定できたら、上司からコミュニケーションを取るのが望ましいです。
最初は日常的な会話から始めて、少しずつ核心に迫っていくのがいいでしょう。
人事評価における1on1面談は絶好のチャンスです。
この面談で、どのようなキャリアプランを描いているのかを聞き出すことで、ヒントが得られるかもしれません。
もちろん、退職リスクの高い従業員だからといって、緩い人事評価を実施してはなりません。
公平な人事評価は継続して実施していきましょう。
退職を防ぐ人事評価制度の手法
退職を防ぐ人事評価制度の手法は以下の通りです。
- MBO(目標管理制度)
- OKR(目標管理手法)
- 360度評価
それぞれ解説していきます。
MBO(目標管理制度)
MBOとは、期初面談で被評価者に個人目標を定めてもらい、その達成度の具合によって人事評価を決定する制度のことを指します。
現代経営学の礎を築いたピーター・ドラッカーが提唱した制度で、「Management By Objective(目標管理制度)」の略でMBOです。
MBOが日本で浸透した背景には1990年代のバブル崩壊があります。
従来の日本社会は社会全体が成長し続けていたため、年功序列で報酬を決定しても全く問題ありませんでした。
しかしバブル崩壊によって、年功序列による人件費の増大が課題として挙げられるようになったのです。
その中で登場したのがMBOでした。MBOであれば目標達成度と報酬を連動させることができるため、事実上の成果主義の評価システムが成立します。
これにより、年配だけど業績を出さない従業員の人件費を削減することが可能になりました。
以上のようにMBOであれば、高業績を叩き出す優秀な従業員を高く評価することができます。
実力主義の組織におすすめの人事評価制度です。
関連記事:MBOとは?目標管理制度のメリットや効果的な運用方法、OKRとの違いを解説
コンピテンシー評価
コンピテンシー評価は、優秀な従業員の行動特性(コンピテンシー)を基に評価基準を設定した人事評価のことです。
メリットとしては、人材育成の効率化や、評価に対する納得感が得られることが挙げられます。
行動特性が基になっているため、評価基準が明確になっているケースがほとんどだといえるでしょう。
一方デメリットとしては、評価モデル構築の難しさにあります。実際、優秀な従業員の定義が難しく、社会や経営状況などの環境変化によって、求められる能力や行動が変化します。
そのため、たくさんの職種を必要とする大企業での導入が難しい人事評価制度だといえます。
360度評価
360度評価は、上司だけでなく、同僚や部下からも評価を受ける制度のことです。
上司からのみの評価に比べて、公平で客観的な人事評価を実施できるのがメリットとなっています。
また、従来の人事評価制度よりも、被評価者が同僚や部下との人間関係にも気を配るようになるため、職場の雰囲気が良くなる傾向にあるのもメリットです。
その一方で、評価者が増え過ぎて主観が入ってしまう可能性があります。
なぜなら、評価者が増えると、人事評価における教育が疎かになってしまうからです。
また、社員同士で高評価を送り合うようになってしまい、厳しい評価が下せなくなる可能性もあります。
しかし、これらの問題を踏まえても360度が注目されているのは間違いありません。
2020年のリクルートの調査によると、調査対象全体の31.4%が360度評価を導入しており、50.4%が「今後も継続して実施/今後実施してみたい」と考えているようです。
ただし、識学では責任が分散し、部下が上司を評価できると錯覚してしまうこの360°評価を推奨していません。
詳しくは、下記の記事をご覧になってください。
関連記事:【管理職が人気取りに?】本当は怖い「360度評価」
人事評価の低い従業員はどうやってフォローすべき?
人事評価の低い従業員に対してはフォローすべきであることを、先ほど紹介させていただきました。
では実際に、どのようなフォローを実施すべきなのでしょうか。
まずは、1on1面談のときに、建設的なフィードバックを心がけるようにします。
ただ厳しい評価をするだけでなく、次に繋がるようなアドバイスが必要です。
また、上司の方から定期的にコミュニケーションを取るようにしましょう。
これによって、「自分は組織で必要な存在である」ということを、従業員が自覚できるようになります。
改めて研修を実施してみるのも悪くありません。特に、まだ自信が持てていない新入社員には研修が効果的です。
まずは基礎をしっかり教育することで、従業員の土台を構築するようにしましょう。
まとめ
それでは本記事をまとめていきます。
- 人事評価が原因で退職者が発生することがある
- 不公平な人事評価や、評価が報酬に反映されない等の理由で退職する
- 人事評価の低い従業員にはフォローアップが必要
人事評価が原因で退職する従業員が一定数いるのは間違いありません。
ヒトは貴重な経営資源です。企業理念にもよりますが、多くの場合、そう簡単に手放すべきものではないでしょう。
無駄に退職させないようにするためにも、人事評価制度の見直しを検討してみてはいかがでしょうか。