営業組織の評価制度は、一見設計が簡単であるかのように思われがちですが、実は注意点が多々あり、意外とそれを認識せずにいる会社も少なくありません。
組織の成長につながり、従業員の生活にも大きく影響する評価制度。この機会に一度見直してみましょう。
目次
人事評価制度の目的とは
人事評価制度の本来の目的は、「組織の構成員(従業員)を組織が目指す方向に進ませること」であり、言い換えれば、「組織の成長と個人の成長をひもづけること」です。
人事評価制度は、組織を運営していく上で最も重要な機能と言っても過言ではありません。
人事評価制度が構築されていない、または人事評価制度の目的が不明確なまま運用されているようであれば、一度見直しをお勧めします。
人事評価制度は、大きく三つの機能に分類されます。
- 等級制度
- 評価制度
- 報酬制度
上記のうち、本記事では①と②のについて触れていきます。
シンプルに考えれば、評価の項目を決め、その項目に対して出た結果を等級表や賃金テーブルを使って査定していくというのが評価の流れです。
そもそも人は、何のために会社に来ているのでしょうか。何のために仕事をしているのでしょうか。
やりがい、楽しいから、自分のやりたいことだったからなど、さまざまな価値観があるでしょうが、ボランティアではないはずですから、人は糧を得るために仕事をしています。
ということは、何をすれば、自分はどれだけの報酬を得られるのかを評価の仕組みとして表現できれば、従業員は仕事に集中できるでしょう。
ここで重要になるのが評価の項目です。よく耳にするのが、期初に部下から「自分はこの期間何を目標に設定し取り組んでいくのか」を考えさせた上で1on1ミーティングの場で発表させ、それを評価項目にする。
期日が来たら自己評価させ、上司の見解をフィードバックし、評価を決めていくという評価の仕組みです。
もし、このような評価の仕組みを取り入れているのであれば、直ちに是正してください。
なぜならば、本人の出してきている目標と会社の果たしてほしい事実が、必ずしもリンクしているとは限らないからです。
また、個人個人に目標を決めさせているため、例えば年収600万円のAさんと400万円のBさんとで評価項目の難易度がそろわないということが起きてしまいます。
営業部門で重視される評価項目
営業組織では、評価項目の設定が比較的しやすいと言えるでしょう。
「売り上げ」「粗利」「新規顧客獲得数」「既存顧客売り上げの伸び率」「成約数」などから、重視すべきものを選べばよいわけです。
よく、「数値化できる項目のみを評価に入れてしまうと、達成できなかったときにモチベーションが下がり、離職してしまう可能性がある」という懸念から、数値目標プラス曖昧な評価項目を設定している会社を見かけます。
例えば、「積極性」「素直さ」「責任感」「協調性」といったものですね。
このような定性部分を残し、営業成績がよくなかった場合に「君は積極的に新規顧客を獲得すべく架電していたから、今回はこの部分を評価するよ」と部下への説明の材料にしようと考えているかもしれませんが、今すぐやめましょう。
営業成績が出なくても、頑張っている姿をアピールしていれば評価してもらえると部下が考えるようになってしまうのではないでしょうか。
その結果、部下は事実(営業成績)に向き合うことをせず、成長できなくなってしまいます。
定性評価は、個人の主観が入りやすく、上司から頑張っているように見えなくても、部下は頑張っていると思うはずです。
このような認識のずれを発生させないようにするためにも全て数値化していくことをお勧めします。
このような話をすると、「新人層はどのように評価したらよいのか」という疑問を抱く人が多いかもしれません。
確かに、まだ営業経験もなく、いきなり「1カ月で1件契約してきなさい」と言っても無理があります。
そこで、どこまでは新人のうちにクリアしてほしいのかを定め、数値設定してみてください。
例えば、「アポイント30件獲得すること」などです。
また、「営業組織のなかでも人によって経験や能力の差があり、毎月の売上金額も異なるからなかなか評価を設計するのが難しい」という声もあります。
このときに必要なのが等級制度です。等級とは、過去から現在までの貢献度を測る指標であり、支払っている報酬とのバランスを取るためにも重要な機能です。
入社2年目のAさんに支払っている給与は400万円。入社5年目のBさんの給与は600万円だとして、この2人が同じ目標値であってはいけませんよね。
ここでバランスを取とるために等級表の出番です。
仮に、5段階の等級表を設定しているとします。Aさんは等級Ⅰ。Bさんは等級Ⅲとします。
この場合、おおよそ支払っている報酬と等級のランクがひもづく形に設計することで、Aさんには月の売り上げ300万円。Bさんには700万円などと設定が可能となり、報酬と果たしてほしい事実がバランスされ、平等な環境設定が可能です。
数値化しやすい職種だからこそ、曖昧な定性評価は入れず、数値設定のみにする。ぜひ、試してみてください。
関連記事:人事評価の書き方のポイント!評価の基準と記入例もあわせて解説
インセンティブ制度の弊害
営業組織でインセンティブ制度を用いている会社は少なくないでしょう。
個人の業績に連動して報酬が決まるインセンティブ制度は、目標が明確になりやすいことや、組織内で競争が生まれるという優位点があります。
しかし、長期的に見ていくと弊害もあるため注意して取り扱う必要があります。
インセンティブ制度があると目先の利益にとらわれ、気持ちは期ごとに区切られ、帰属意識が少なくなります。
また、営業成績に連動する形で報酬が決まるため、調子のよい月ばかりであればよいのですが、悪い月も発生する可能性は考えられます。
すると、成績と給与が乱高下するようになってしまいます。
直近のコロナ渦で、とある保険の営業マンが前年度の年収の3分の1になってしまったなどという話も耳にしました。
「今月は駄目だから来月頑張ろう」など、期日まで諦めずに活動を続けてもらいたい会社側の意向とは裏腹に、従業員の意識は諦めになってしまいやすいのかもしれません。
この諦め癖がついてしまうと、その先に待っているのが離職です。
インセンティブ制度を取り入れている会社は、評価の連動性がある会社と比較して離職が多い傾向にあります。
そうならないためにも評価の「連続性」が重要です。
定性評価を用いていたり、報酬と目標値のバランスが取れていなかったりするためにインセンティブ制度を導入した結果、離職で悩むことになってしまった会社を見かけます。
人事評価制度の目的を理解し、シンプルに設計することで、大半の悩みは解消されます。
その答えを持っているコンサルタントにぜひ一度話を聞いてみてください。