GE社が開発した人事評価ツール「9ブロック」をご存じでしょうか。
多くのトップ企業が導入していましたが、9ブロックを開発したGE社が、2016年にその利用を廃止して以降、「9ブロックは時代遅れ」と言われるようになってきています。
本記事では9ブロックがどのような評価制度なのか、メリットと注意点について解説していきます。
また、GE社が9ブロックを廃止した理由も取り上げているので、9ブロックの導入を検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
9ブロックとは?GE社が開発した人事評価式
9ブロックは、米国のGeneral Electric社(以下、GE社)が開発した人事評価方法のことを指します。
この方法はスタック・ランキングと呼ばれており、社員を相対的に比較することで、従業員の善し悪しを意図的に区別することが可能です。
GE社は9ブロックを導入することで、社員間の競争やモチベーションを生み出していました。
ほかに画期的な人事評価ツールがほとんどなかった当時、さまざまな企業が9ブロックを取り入れるようになり、現在も日本国内含め世界中の企業が9ブロックによる人事評価を行っています。
ちなみにGE社は、電気事業をルーツとする多国籍コングロマリット企業です。
1892年設立の老舗企業で、1956年に世界で初めての企業内ビジネススクール「ジョン・F・ウェルチ・リーダーシップ開発研究所」を設立していることで知られています。
関連記事:評価管理システムとは?選び方や機能、導入後の注意点などを解説
9ブロックの評価基準
9ブロックの評価基準は、企業バリューとの合致度(ポテンシャル)と業績の2つのみです。
業績が良く企業バリューに合致している従業員は、スター社員として扱われ、待遇が良くなります。
一方で、業績が悪く企業バリューにも合致していない従業員は、ミスマッチ社員ということで、解雇の対象になるのです。
また、業績が良くてバリューに合致しない従業員には企業理念の指導、逆に業績が悪くてバリューに合致している従業員には技術的な指導を行うなど、効率的な育成にも繋がります。
この9ブロックの評価は、1年に1度の人事評価面談で決定されるのが主流です。
9ブロックを導入するメリット
9ブロックを導入するメリットは、主に3つあります。以下の通りです。
- 企業内人材の合理的な可視化
- 企業理念へのマッチ具合が判断可能
- 優秀人材の流出を防ぐ
それぞれ詳しくみていきましょう。
企業内人材の合理的な可視化
9ブロックを導入することで、企業内人材を合理的に可視化できます。
これにより、人事担当者は従業員を感覚的に評価でき、従業員も自らの立ち位置を把握することが可能です。
従来の評価制度では、従業員一人一人のスキルや意識を数値として組み込む必要があり、評価担当者にとってかなりの負担になりました。
しかし9ブロックでは従業員を相対評価するだけです。
また、1年経過した後の評価も容易になるでしょう。
企業理念へのマッチ具合が判断可能
9ブロックは、従業員と企業理念のマッチ具合の判断が可能です。
従来の人事評価は、どうしても業績にフォーカスしてしまう傾向がありました。
しかし9ブロックでは、企業理念のマッチ具合と業績を同程度に評価します。
そのため従業員は企業理解を深めるようになり、結果的に企業と従業員の結びつきが強化されるのです。
企業の成長に向けて努力する従業員も増えるでしょう。
これらのことから、9ブロックを導入することで、従業員の企業に対するエンゲージメントを高めることが可能になります。
関連記事:エンゲージメントの高い会社とは?特徴・測定方法・向上策を解説!
優秀人材の流出を防ぐ
9ブロックでは優秀人材の流出を防ぐことが可能です。
従来の人事評価は業績を重視する傾向があったため、ポテンシャルがありながらも業績が悪い従業員はどうしても低評価となってしまいがちでした。
しかし9ブロックでは、伸びしろのある従業員を可視化することができます。
これにより、成長の見込みがある従業員を確保することが可能になったのです。
このように優秀人材を早期発見する環境が整うことで、従業員も自らの存在意義を認識するようになります。
結果的に、優秀人材の流出を防ぐことができるのです。
9ブロックを導入する際の注意点
9ブロックを導入する際の注意点は以下の通りです。
- 定量的な評価はしない
- 頻繁なコミュニケーションが必要
- 達成目標の共有は別途必要
それぞれ詳しく解説してみます。
定量的な評価はしない
9ブロックを導入する際は、定量的な評価を行わないようにするのが大切です。
点数で評価してしまうと、従業員が納得しない可能性があるからです。
9ブロックはあくまで相対的に評価する方式です。
例えば「AさんよりBさんの方が企業バリューに合致している」や「仕事効率は悪いけど、取引先や上司からの信頼がある」というように、数字を用いない評価をするのが望ましいでしょう。
関連記事:定量評価とは?定性評価との違いやメリット、注意点から効果的な運用方法を解説
頻繁なコミュニヶーションが必要
9ブロックを導入する際は、上司と部下のコミュニケーションの機会を増やすべきでしょう。
9ブロックは基本的に、1年に1度のペースで人事評価面談を行います。
面談の時期になると必然的にコミュニケーションが増えるのですが、それ以外の時期のコミュニケーション量が落ちやすいというデメリットがあるのです。
そのため、数ヶ月に1度のペースで面談を設けるなど、意図的にコミュニケーションを増やす必要があります。
一年を通してコミュニケーション量を増やすことで、人事評価の精度も高まるでしょう。
達成目標の共有は別途必要
9ブロックは、今までの成果やスキルについて上司と面談することがほとんどです。
その代わり、これからのことについて面談することはほとんどありません。
そのため、9ブロック導入と同時に、達成目標の共有の機会を別途で設ける必要があります。
9ブロックを活用することで、これからどのように指導すべきか、その方針を決定しやすくなっているはずです。
今後の目標やゴールイメージをハッキリさせて指導できれば、効果はより高まるでしょう。
9ブロック廃止の理由は?
日本国内の多くの企業で9ブロックによる人事評価が普及しましたが、2016年にGE社は9ブロックを廃止しています。
その理由は以下の通りです。
- レイティングの廃止
- 正規分布の廃止
それぞれ解説していきます。
レイティングの廃止
まず、GE社はレイティング(等級分け・数値分け)を廃止しました。
9ブロック含め、従来の人事評価制度は処遇を決定するために行われてきました。
これはつまり、従業員の間で優劣を付けることで報酬を増やしたり解雇したりしていたのですが、「これが本当に生産的な人事評価制度なのか」という問題が浮上しました。
そこでGE社は、9ブロックに変わってノーレイティングによる人事評価制度を採用。
これは処遇決定ではなく事業推進と人材育成を目的とした人事評価制度です。
従業員の間で優劣を付けることはなく、人材育成のための1on1ミーティングをタイムリーに行うことで、個人に合わせたフィードバックを提供します。
1年ごとではなくリアルタイムで面談が実施されるので、従業員の成長機会を増やすことが可能になりました。
正規分布の廃止
GE社は9ブロックを用いて人事評価する際、正規分布に収まるように調整しながら報酬額を決定していました。
しかしGE社は正規分布を廃止し、プライオリティを重視するようになります。
結局のところ、従業員が最も優先すべきことは、顧客に価値を提供することです。
また、ビジネス環境の変化によって、顧客が求める価値は変動します。
それなのに1年に1度のペースで面談していては、変化に追いつけないのです。
上司は部下と月に2度の面談を行い、ここでのタッチポイント・サマリーのみで報酬額を決定するようにしました。
新たにGEが開発した人事評価ツール「PD」とは?
GEが9ブロックの代わりに、導入したのが、PD(パーフェクト・デベロップメント)です。
レイティングと正規分布を廃止し、第三者によるデータではなく、1on1ミーティングによるコミュニケーションを重視するようになったのです。
また、9ブロックに比べてタイムリーなツールなので、変化の激しい現代社会に対応した人事評価制度だといえます。
人材育成を目的としているため、従業員がなりたい将来像を会社が支援する形で、企業戦略や人事戦略が組み立てられるようになりました。
関連記事:中小企業が導入するべき人事評価制度とは?活用ポイントを解説
9ブロックのFAQ
最後に、9ブロックの導入に関するポイントをFAQ形式で紹介していきます。
そもそも企業バリューってなに?
企業バリューとは、その企業にとっての価値基準のことを指します。
例えばGE社は、自らの企業バリューをGrowth Valuesとしてまとめていました。
Growth Valuesの概要は以下の通りです。
- 外部志向
- 明確でわかりやすい思考
- 想像力と勇気
- 包容力
- 専門性
このように企業バリューが決定されていることで、9ブロックによる人事評価が実施できるようになります。
9ブロックを導入する際には、まずは企業バリューを明確にすることが必須です。
そうでなければ、従業員が何を軸にするべきかが分からなくなってしまいます。
また、成功者に共通する行動特性を企業バリューに組み込むことも可能です。
これにより、リーダーモデル構築ができるようになるでしょう。
スター社員はどのように扱うべき?
9ブロックにおいて、業績が良く、かつ企業バリューとの合致度が高い従業員は、スター社員として扱うことになります。
基本的には、報酬を高めに設定し、次期リーダーの候補者として昇格の対象にするべきでしょう。
ただし、部門によるスター社員の囲い込みはあまりするべきではありません。
GE社では、リーダー候補人材にチャレンジングな経験を積ませることをルールとしていました。つまり、積極的に異動を促していたのです。
こうすることでリーダー候補人材に幅広い経験を積ませることが可能となり、優秀人材が抜けた時の人材育成の仕組みが育つというメリットもあります。
ミスマッチ社員はどのように扱うべき?
業績が悪く、かつ企業バリューとの合致度が低い従業員は、ミスマッチ社員として扱うことになります。
厳しい話にはなりますが、ミスマッチ社員は採用の段階で失敗した従業員です。
ここは経営のためにも、代謝を促すべきでしょう。
また、ミスマッチ社員を採用してしまった理由を探るために、採用方式を改めて見直すべきです。
9ブロックは時代遅れの人事評価制度?
少なくとも、GEやGoogleのような世界トップに君臨する企業にとって、9ブロックは時代遅れになりつつあるようです。
現在、世界トップ企業の間でノーレイティングの動きが強まっています。
これは従業員の間で優劣を付けない動きであり、処遇の決定ではなく、人材育成を主目的とした人事評価制度です。
また、9ブロックでは1年に1度というペースで面談していましたが、PDのような最先端の人事評価制度はタイムリーに面談をこなすことで変化の激しい現代社会に対応できるようになりました。
しかし、だからといって、9ブロックを導入すべきではないと結論づけるのは早計です。
ノーレイティングによる人事評価を導入する際は、今まで人事評価者が行っていた評価・処遇の決定を、全て現場マネージャーに移譲する必要があります。
しかし日本企業の現場マネージャーの多くは、既に膨大な業務を抱えていて、多忙なのです。
そこに人材マネジメント業務を加えるのは現実的ではありません。
日本企業の人事評価の課題として、企業バリューとの合致度が考慮されていない点が挙げられます。
そこで、一旦9ブロックを導入することで、企業バリューとの合致度を従業員に意識づけさせるのは賢明な判断だといえます。
ぜひ検討してみてください。