女性の活躍を促進するための「女性活躍推進法」が改正され、令和元年6月に公布されました。
今後は、自社の女性活躍の状態について、一定の事項に対して情報を公表する義務が生じます。
そのためこのコラムでは、女性を採用しマネジメントして行くにあたり、知っておきたいことについてご紹介を進めていきます。
目次
女性活躍推進への意識
2019年12月にWEF(世界経済フォーラム)が発表した「グローバル・ジェンダー・ギャップ報告書」で、男女格差を測る「ジェンダー・ギャップ指数」ランキングを公表しました。
男女格差の少なさでは、世界153位のうち日本は121位で、G7の中で最低という結果でした。[1]
この「ジェンダー・ギャップ」については年々指摘されることも多く、日本が国際的に低い水準にあることが取り沙汰されます。
実際、エン・ジャパンが実施したアンケート調査では、女性社員の定着・活躍に取り組んでいる企業は全体の51%で、半数程度にとどまっていることが明らかになっています。[2]
また実際に取り組んでいる企業の、その理由(複数回答可)としては、
・現在いる女性社員が優秀だから 59%
・女性社員が望んでいるから 34%
・世の中の流れだから 33%
といった具合です。
やはり優秀な女性社員には残ってもらいたい、という意識は強くあるようです。
一方、取り組みが進んでいない企業があげる理由としては、
・女性社員に限定した取り組みの必要性を感じないから 73%
・企業規模が小さいから 70%
・手が回らないから 23%
・成功するイメージが持てないから 23%
・女性社員が特に望んでいないから 23%
といった具合です。
女性の場合、結婚、出産、育児中の勤務への配慮が必要になるため、場合によっては生産性にデメリットを感じる企業も少なくないでしょう。
また、このような調査結果もあります。
外資系の人材紹介会社、ヘイズ・スペシャリスト・リクルートメント・ジャパンが男性を対象に行った意識調査では、優秀な人材獲得に繋がる、といった面で約7割の男性が女性の登用にメリットを感じているものの、「能力が伴わない登用」には不公平感を抱いていています。[3]
具体的には、以下のような理由が挙げられています。
・女性だからというだけで登用され能力が伴っていない 41%
・結婚育児などで離脱するリスクがあり必要な仕事を任せづらい 31%
・育児中の女性は重要な仕事を任せられない 30%
やはり、女性の場合、結婚、出産、育児による離脱が「リスク」ととらえられています。
また、セクハラへに配慮し、コミュニケーションを難しく感じる人も少なくありません。
改正女性活躍推進法の概要
こうした中、令和元(2019)年6月5日に、改正女性活躍推進法が公布されました。
改正の大きなポイントは、女性登用に関する行動計画の策定義務の対象が広がったほか、女性の活躍に関する企業の情報公表についてです。[4]
まず、
・女性活躍に関する一般事業主行動計画の策定・届出義務および自社の女性活躍に関する情報公開の義務の対象が、常時雇用する労働者が301人以上から101人以上の事業主に拡大されたこと、
・労働者が301人以上の事業主の場合、
①「職業生活に関する機会の提供に関する実績」
②「職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備に関する実績」
の2項目について、定められた区分のいずれかの実績を公表する必要があります。
また、女性活躍に関する取組が特に優良な事業主に関しては、特定認定制度を創設する、というものです。
自主的な努力だけではなく、数値化して透明性を持たせることが重要になっています。
取組を始めている企業も少なくありません。
女性の仕事に関する意識
一方で、女性側のキャリア形成に対する意識はこのようなものです。
ソニー生命が女性を対象に実施した「女性の活躍に関する意識調査」では、有職女性の約4割に「バリバリとキャリアを積んでいきたい」という志向があり、かつ、約3割は管理職の打診があれば受けたいと答えています。[5]
他の調査を見ても、自己の成長、キャリアを積むことへの女性の意識は全体的に高い状況にあります。
出産、育児、復帰に関して不安を抱えるのは女性も同じですが、このような流れの中で、優秀な女性を採用しそこねるのももったいないと言えるでしょう。
むしろ最近では、女性の方が優秀と言われるくらいです。
優秀な女性を採用し、その能力を最大限引き出すためには、男女間の認識のギャップをソフト面で埋めていくことがまず必要です。
キャリア形成を「共に考える」姿勢
女性採用のメリットに目を向けてみましょう
むしろ、女性にしかできないことに目を向け、優秀な人材を戦略的に確保するのもひとつの方法です。
一番デメリットと考えられがちな部分を、逆にメリットと捉える可能です。
女性の場合、特有のライフイベントは出産・育児ですが、職場復帰後、労働時間以上にメリットになるのが、「子供を持つ母親」にしか理解できない価値観や生活感覚です。
これは、机上の研修ではどれだけ頑張っても身につかない「肌感覚」でもあります。
実際、商品やサービスの消費は、その多くが女性によるもの、という現実があります。
直接消費する場合でなくても、財布を握っているのは女性、ということが多くあります。消費行動にもっとも近いところにいるのです。
この強みを最大限に活かすには、女性は「出産し、育児をするものだ」という当たり前のことを早い段階から意識することです。
何も、「いくつになったら結婚するの?」なんていうことは聞く必要はありません。
ただ、「数年後の自分はこうありたい」ということを定期的に聞き取り、数年単位での女性のキャリアを想定し続けることが必要です。
定期的にヒアリングすることで、結婚や出産を考えている女性は、「数年後」のこととしてならイメージが湧きやすくなります。
会社側も、数年スパンで人事計画を立て、柔軟に対応していくと良いでしょう。
「突然離脱された」という形になるから困るのであって、ある程度想定ができていれば計画的に対処できるはずです。
「世の中の流れだから」という消極的な考えではなく、女性社員に「何を求めるのか」をあらかじめ決めておけば、その能力を最大限引き出せるでしょう。
特別扱いは悪いことなのか
さて、よく議論に登るのが、「女性だけ特別扱いするわけにいかない」という議論です。
しかし、それは本当に悪いことなのでしょうか。
ここ最近、女性の「生理」について語ろう、という風潮があります。
堂々としよう、という急な開き直りのようなキャンペーンはあまり上手な方法には見えませんが、そもそも体の構造が違うものを、同じように扱おうとすることに無理があるのではないでしょうか。
女性のキャリア形成研修を実施する企業も多くありますが、同時に男性社員に対して妊娠、育児体験といった教育も取り入れて、認識のギャップを埋めるという根本から始めることも必要になってくるでしょう。
[adrotate group=”15″]参照
[1]Global GenderGap Report 2020
http://www3.weforum.org/docs/WEF_GGGR_2020.pdf p9
[2[「アンケート集計結果レポート『女性活用について』」(エン・ジャパン、2014年)
https://partners.en-japan.com/enquetereport/old/092/
[3]「 ヘイズ 女性の活躍推進に関する男性の本音調査」(ヘイズ・スペシャリスト・リクルートメント・ジャパン、2017年調査)
https://www.hays.co.jp/press-releases/HAYS_1828150JP
[4] 「女性活躍推進法の改正リーフレット」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000517780.pdf
[5]「女性の活躍に関する意識調査 2019」(ソニー生命保険株式会社)
https://www.sonylife.co.jp/company/news/2019/files/190424_newsletter.pdf p5