社員の帰属意識を高めようとさまざまな施策を実行しているにもかかわらず、なかなか思うような結果に結びつかないと悩む経営者から相談を受けることがよくあります。本記事ではやってしまいがちな間違いを紹介しつつ、帰属意識を高める正しい方法について解説していきます。
目次
間違った帰属意識の高め方
私が考える帰属意識とは「自らが会社に所属していることで得られる有益性を認識し、会社の価値を最大化するために、求められる自らの役割を意識して行動できている状態」です。有益性とはお金やものだけではありません。一緒にいて楽しいとか、学びにつながる刺激があるなど、さまざまなものが当てはまるでしょう。いずれにせよ、帰属意識を持った社員が増えれば、その分会社の価値も高まるはずです。
しかし、帰属意識の高め方を間違う経営者は少なくありません。特にやってしまいがちな間違った方法は、以下の3パターンです。
- 社員にやりがいを与えている
- 福利厚生や待遇をよくする
- 仲間意識を持たせるコミュニケーションの活性化
ここからは、上記①~③がなぜ間違った施策なのかを説明していきましょう。
やりがいは社員が自ら見出すもの
まずは①です。
社員がやりがいを持って仕事に取り組むこと自体は素晴らしいことです。しかし、会社が社員一人ひとりにやりがいを与えることは間違っています。
やりがいを与えることは社員の要望に耳を傾けることでもあります。「私は営業より企画の仕事にやりがいを感じるので異動したい」とか「事務の仕事は単調な作業ばかりでやりがいがない」などの要望を全て叶えることが、果たして可能でしょうか。
結局全員の要望に応えることができず、不公平だと感じる社員が増加する危険性があります。一人ひとりがやりがいを持てる会社にしたいというトップのメッセージが、かえって社員が今の役割で成長することを阻害し、不満や言い訳の多い組織を作り出す原因になってしまうわけです。こういったケースは少なくありません。
やりがいとは本来、人に与えられるものではありません。
「単調な仕事だと思っていたけれど、自ら考え改善することで作業効率が上がった」
「時間の余裕ができて、社内改善のプロジェクトにも参画できるようになった」
「つらいと思っていた営業の仕事も、お客様のニーズを分析して提案を繰り返した結果、目標をクリアでき、お客様からも信頼を勝ち得た」
このように、やりがいは成長の過程で社員が自ら見出すものです。「会社が自分のやりがいに合わせてくれる」という誤解が社員の間に生まれないようにしないといけません。ただ、今の役割で結果を残せば、自分のやりたい業務にチャレンジできる可能性が高まることは伝えてもよいでしょう。
マネジメントする側は、個人のやりがいに合わせるのではなく、今の役割で部下が成長できるように育成する必要があります。育成とは教育と管理の二つです。知識を教育によって身に付けさせ、週に一度は目標に対しての進捗管理を行い、改善策を報告させるような根本的な育成が大切です。
評価制度の見直しが先
続いては②です。
会社の福利厚生を充実させ待遇をよくすることは、優秀な人材を確保し、社員の帰属意識を高める効果があります。ただし、それをするのは会社の売り上げや利益が伸びた後にすべきです。社員が成長することで会社も成長し、その後、社員の貢献度を評価することで待遇を上げ、福利厚生を充実させるという順番でなければなりません。
経営者は、先に福利厚生や待遇を改善することで社員の帰属意識が高まると思っているかもしれませんが、社員の間に「これまで頑張ったのだから待遇がよくなるのは当たり前だ」という誤解が生じかねません。そうなると、社員たちは、自分が成長すべき存在であると認識できなくなってしまいます。
帰属意識を高める目的で福利厚生や待遇を変える前に、自社の評価制度を見直すことをお勧めします。会社と個人がどのような成長を遂げたら待遇が上がるのかを明確にしましょう。
その際、評価軸が曖昧になっていないかに注意してください。「積極的に業務に取り組んだか」や「周りと協力してコミュニケーションを取りながら業務を遂行したか」などのような観点で評価を下していませんか。こういう評価軸のある会社では、部下が、「自分は積極的にやっていたのに上司は見てくれていない」と感じる一方、上司が「それは積極的とは言えない」と考えることで両者の間にずれが生まれ、なかなか生産性が向上しません。
日本経済新聞2015年3月3日掲載 (NTTコムリサーチ と 日本経済新聞 による共同企画調査)によると、人事評価の不満理由の約70%が[評価基準が不明確]であるとのことです。誤解の生まれない明確な評価制度にすることで、自分がどのように成長すれば評価されるかを社員が認識できれば、成長スピードが上がります。
仲間意識を持たせるコミュニケーションの活性化
- ありがとうカードを導入している
- 定期的に懇親会をしている
といった方法を採用し、仲間意識を持たせることで帰属意識を高めようとする会社もあります。
ありがとうカードについては、一時的に気持ちが盛り上がることは否定しませんが、評価者以外から感謝されることで、自らの評価を誤解してしまう危険性があります。社員の評価は直属の上司だけがするものであり、それ以外の人物の評価は無関係であるべきです。
また、定期的な懇親会は、それがあるから頑張るという誤解を生みだす可能性があります。その上、会社の愚痴を言い合うだけの会になってしまうと何の効果もありません。
有益性の合致が肝
会社側の有益性とは、社員の成長により会社の業績が伸びることによって市場から評価されることです。
そのため、会社が無理をして個人のやりがいに合わせようとすると、有益性のバランスが崩れてしまうのです。会社と働く社員双方にとって有益であることは社員の成長です。帰属意識を高めたいのであれば、社員が成長するようなマネジメントを会社が実施して、それを通じて会社の価値が高まるような取り組みをすべきです。
帰属意識は、社員が自ら成長し、会社の成長のなかで自分の足跡を見出せたときに発生するものです。経営者は、部下が成長するマネジメントを追求してください。