近年増加していると言われる従業員のメンタルヘルス不調。
現代において避けては通れない問題ですが、事業所にとっては労働力の低下のみならず、この問題の対応に専門職の関与が必要であったりと取り組みが難しいですよね。
本記事ではメンタルヘルス不調の原因や、予防策、そして生じてしまった後の対応について、産業医紹介を行っているLiFE Investors株式会社が解説します。
目次
急激に増加する従業員のメンタルヘルス不調
近年、従業員のメンタルヘルス不調は増加していると考えられています。少し古いデータですが、2011年の事業所向け調査(1)によると、3年前と比べてメンタルヘルス不調者が「増加傾向」「やや増加傾向」と答えた事業所は32%、今後のメンタルヘルスケアの状況についても「深刻になる」「やや深刻になる」と答えた事業所が46%も存在しました。
実際、精神障害による労災請求件数は年々増加傾向にあり、認定件数はなんと10年前に比べ倍程度にまで増加しています。また、厚生労働省によると、メンタルヘルス上の理由で連続1カ月以上休業または退職した方のいる事業所は7.6%にも登ります。
働き方改革の文脈ではDXが取り上げられるケースが多いですが、事業所におけるメンタルヘルスケアの問題は依然として重要な問題なのです。
なぜあの人は、メンタル不調に。メンタルヘルス不調の原因とは?
では、メンタルヘルス不調の要因はいったい何なのでしょうか。
実は、最も重要なのは原因を単純化せずに考えることなのです。メンタルヘルス不調の原因は、ほとんどの場合、複数の要因が重なっています。
メンタルヘルス不調の要素は大きく分けると、身体・心理・環境・社会の3つ。しかし、その一つである「仕事」においても、長時間労働のみならず、人間関係や業務の満足度などもメンタルヘルスに関連します。そのため、原因が「仕事」にあったとしても細かく見極めていくことが必要なのです。
また、実際の事例においては仕事のみでメンタルヘルス不調になることもあれば、家庭や身体の要因が重なりメンタルヘルス不調になることも珍しくありません。それゆえ、単純化して考えるのではなく、本人が無自覚なものも含め、個々の要素を細かく精査していく必要があります。
メンタルヘルス不調の社員を出さないためにできること
とはいえ、社員のプライベートまですべてカバーするのは現実的ではありません。では、事業所でやるべきこととは一体何なのでしょうか?
事業所におけるメンタルケアは、厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(3)に示されており、以下の4つに分けられています。
- セルフケア
- ラインケア
- 事業場内の専門スタッフによるケア
- 事業所外資源によるケア
それぞれにおいて一次予防・二次予防・三次予防の概念があります。
一次予防とは「メンタルヘルス不調を未然に予防する」こと。
二次予防は「メンタル不調を早期に発見し、対処する」こと。
三次予防は「メンタル不調に陥った後、再度ならないように対処する」ことを指します。
メンタルヘルス不調の社員を出さないという観点から考えると、一次予防・二次予防が重要です。
一次予防・二次予防で重要な「セルフケア」と「ラインケア」とは?
そしてこの一次・二次予防において重要なのが、「セルフケア」と「ラインケア」になります。
「セルフケア」は、「労働者自身が行う健康管理」のことを指します。個人でメンタルヘルスについて学んだり、自身のストレス要因を察知し対処することが該当しますが、事業所としては教育機会を提供したり、周知することや、ストレスチェックを行う事が該当します。
「ラインケア」は、「労働者間での健康管理」のことを指します。特に部長・課長など直接的な管理監督者による日常的な健康管理を指すことが多く、相談・支援などを通じて不調を予防したり、早期に発見することが挙げられます。また普段から風通しの良い職場を形成したりといった職場環境の改善などもこれに該当し、事業所としてメンタルヘルスに取り組む際には非常に重要な行為になります。
企業には従業員が「生命、身体等の安全を確保しつつ労働できるよう、必要な配慮をする」(労働契約法第5条)義務があり、これを安全配慮義務といいますが、ラインケアは安全配慮の一環としても重要です。
こんな変化がある社員は要注意!早期発見が重要な「ラインケア」とは?
ラインケアでは特に早期発見が重要です。特に以下のような従業員の変化はメンタルヘルス不調のきざしであり、この様な変化に早期に気付き、声を掛ける・面談するなどの対応が必要です。
- 遅刻、早退、欠勤が増える
- 無断欠勤がある
- 仕事の効率や成果が悪くなる
- ミスや事故が増える
- 残業、休日出勤が異様に増加
- 表情や行動に活気がない
- 報告や連絡、職場での会話が減る
もし上司・管理者がこの様な変化に気付いた場合、まずは様子について聞いてみたり、面談を行い変化を話してもらうこと(積極的傾聴)、そして必要に応じて人事労務担当・保健師・産業医につないだりといった対処を行う事が求められます。
メンタルヘルス不調の社員が出てしまったら
セルフケアやラインケアをしっかり行っても、メンタルヘルス不調の社員を0にすることは大変難しいことです。この様な時には先程挙げた中でも、「事業所内の専門(産業保健)スタッフ」・「事業所外資源」の活用が重要になります。
「事業所内の専門スタッフ等によるケア」は、衛生管理者をはじめとし、保健師・産業医など企業内に所属する医療専門職による面談や相談窓口が該当します。
「事業所外資源によるケア」は、精神科や心療内科への通院、カウンセリング・リワークや支援機関の利用が該当します。
これらのケアはメンタルヘルス不調からの回復においても重要ですが、同時に「再発予防=三次予防」という観点でも重要です。また、産業医や保健師はメンタルヘルス不調の社員が出たら稼働するのではなく、先程挙げた一次予防・二次予防においても企業に対して貢献しています。
産業医・保健師は特に「産業保健」を専門にする医師・看護師を指します。それぞれ日本医師会や厚生労働省により認定された資格を持ち、医療的な専門性をもって従業員の健康増進に貢献します。特に産業医は労働安全衛生法にその設置が明記されており、法的義務で過重労働面談や休復職面談を行いますが、面談のみが仕事ではなく、幅広く予防からアプローチを行います。
特にメンタルヘルス不調により休職した従業員の職場復帰においては、メンタルヘルス不調の治療のみでは不十分で、職場が復帰に向けて支援できるか、再発予防のために対応できるかが重要になります。特に治療経過においては復職者の心境について特段の理解が必要であり、この様な対応についても産業医・保健師は対応し、また管理者や人事労務担当者に教育・サポートを提供します。
まとめ
今回は近年増加しているメンタルヘルス不調について、原因から予防・対処について整理しました。産業保健と言われるとどうしても産業医面談などのイメージが強いですが、事業所内でのラインケアが重要であること、そしてメンタルヘルス不調の段階から専門職である産業医・保健師が貢献できることが非常に重要です。
これを機に、事業所内のメンタルヘルス対応体制について再度見直して頂けますと幸いです。
<参考文献>
- 独立行政法人 労働政策研究・研修機構,「職場におけるメンタルヘルスケア対策に関する調査」. https://www.jil.go.jp/press/documents/20110623.pdf
- 厚生労働省労働基準局労災補償部補償課,「精神障害等に係る労災請求件数の推移」. https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_19299.html
- 厚生労働。独立行政法人 労働者健康安全機構, 「職場における心の健康づくり ~労働者の心の健康の保持増進のための指針~」. https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11300000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu/0000153859.pdf
- 改訂 心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引https://kokoro.mhlw.go.jp/guideline/files/H25_Return.pdf