ベースフード株式会社(以下「ベースフード社」)は、「主食をイノベーションし、健康をあたりまえに」というミッションを掲げています。
ベースフード社は「ベースフード」として、「ベースブレッド」や「ベースパスタ」というパンや麺を開発・提供しています。
これらは厚生労働省が規定している日本人の食事摂取基準をもとに、主食一食分で1日に必要な栄養素の3分の1を摂取できる「完全栄養食」です。
ベースフード社は、2021年末までに累計1,500万セットもの完全栄養食を販売しており、今注目の企業となっています。
また、ユーザーの健康への関心を掘り下げ、そこから得られた情報を商品開発に活かすだけではなく、顧客との直接的なコミュニケーションにも力を入れています。
本記事ではベースフード社に関する基本的な知識から、ベースフード社が成長した秘密や強み、そしてアメリカでの挑戦などを解説していきます。
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目次
完全栄養食「ベースフード」とは?
ベースフード社について解説する前に、まずはベースフード社が開発・提供する「ベースフード」について簡単に見ていきましょう。
「ベースフード」は雑誌・日経トレンディの企画「2021年ヒット商品ベスト30」にも選出されており、注目を集めている完全栄養食です。
完全栄養食と聞くと宇宙食のような味気ないものとか、ゼリー状の特別な食品、サプリメントといったものをイメージするかもしれません。
しかし、「ベースフード」は、パンやクッキー、パスタなどで、「日常的に、おいしく」食べられる点が特徴です。しかも、一食につき1日に必要な栄養素の3分の1をとることができます。
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遊び半分でスタートしたベースフード社
今でこそ累計販売食数が1,500万食を超えスタートアップ企業として注目されるベースフード社ですが、その始まりは「遊び半分」でした。
ベースフード社の代表取締役社長・橋本舜氏はもともとはDeNAで新規事業開発を担当していましたが、「誰でも簡単に栄養をとれる主食をつくりたい」と考え、本業の傍ら、「ベースパスタ」の開発を始めます。
もともとは好奇心から始めた完全栄養食作りですが、当初は健康志向の料理本に載っている「ビタミンCが豊富な食材ベスト10」といった情報をもとに、ランキング上位の食材をすべて麺に練り込んでみたといいます。
しかし、こうしてできた試作品はかなり不味く、成功とはいえませんでした。
100回以上の試作を重ねて商品化につなげる
橋本氏は100回以上の試作の後、ようやく商品化にこぎつけ、2016年に独立してベースフード社を創業。4日で2,500食を完売して在庫切れになるほどの人気となりました。
当初は2人体制で進めていたものの、販売を始めてから3ヶ月で6名に増え、現在の従業員数は従業員数は19名と少数精鋭で事業活動を続けています。
また、当初は1食540円での販売でしたが、今では定期購入によって1食350円で提供しています。
橋本舜氏は、値段が高いままだと一部の人にしか普及しないと考えて、値段を抑える工夫をしました。商品の値段を下げるには販売数を増やす必要があり、そのためには広く知られることが重要だと考えたのです。
メディアへの露出を増やすためにプレスリリースなどのPRに力を入れていきました。
そのおかげもあって知名度は上昇。現在は「ベースパスタ」を1食350円に抑えることに成功しました。
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ベースフード社が成功した秘密とは
このように好奇心から始まったベースフード社ですが、現在では、
- Amazonの食品人気度ランキングで1位を獲得
- シリーズ累計販売食数が1,500万食を突破
- 2019年5月にシリーズAラウンド(※)で、総額約4億円を調達
- 「スマートキッチンサミット(※)」でファイナリストにノミネートされる
など数々の実績を残しており、今注目のフードテックスタートアップ企業となっています。
驚くべきは、これらの出来事は創業からたった数年間の出来事だという点です。
なぜ、ベースフード社は数年でここまで成長できたのでしょうか?
ここでは、その理由や要因を解説していきます。
※シリーズAラウンド…企業が最初の重要なベンチャーキャピタル出資を受ける段階を指す
※スマートキッチンサミット…北米を代表するフードテックイベント
「完全栄養食」という新市場の創造
今でこそ「完全栄養食」といった触れ込みで販売される食品を目にする機会が増えてきましたが、ベースフードが世に出るまでは、日本でそのような言葉が出ることはほとんどありませんでした。
従来では「全粒粉を使うことで低GI食品にする」や、「こんにゃくを使うことで糖質の量を減らす」といった志向のダイエット目的のパスタが多数販売されており、ヘルシーパスタ市場は飽和状態にありました。
しかし、ベースフード社はヘルシー食材を用いたヘルシーパスタ市場に参入するのではなく、栄養素に焦点を当て、1日に必要な栄養素をとれるパスタをつくることでライバルがいない「完全栄養食パスタ市場」という新たなマーケットを創造したのです。
これがベースフード社がたった数年で大きな成長を遂げた1つ目の秘密です。
商品を実際に試してもらう
ベースフード社は商品を広く普及するために、とにかく消費者の目に触れる場所に赴いて、実際に商品を試してもらう取り組みを行っています。
これは、店舗を持っていないD2C(消費者直接取引)ブランドのベースフード社にとっては非常に重要です。
例えば、ベースフード社はブランド初期のうちから、健康系イベントや暗闇ボクササイズジム「B-monster」で商品を配るなど、ターゲットとなる健康への意識が高い消費者が集まる場所に行って、商品の無償配布を繰り返していました。
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自社で店舗を持たずに商品を提供する場を創ることに成功
このような取り組みを続けていくうちにベースフード社の商品は少しずつ人気となり、全国展開のカフェ「プロント」とのコラボ商品が実現しました。
また、首都圏にあるファミリーマートとナチュラルローソン合計およそ1,450店舗にて、「ベースクッキー」を販売。
さらにファミリーマートでは「ベースブレッド」の販売に成功しています。
このように自社で店舗を持たずとも商品を提供できる場所を創ることができたのは、地道な活動や取り組みが功を奏したからと言えるでしょう。
継続的な商品の改善
ベースフード社初となる商品「ベースパスタ」は2017年2月に販売が開始されてから、およそ5年。2019年3月に「ベースブレッド」が発売されてからおよそ3年が経過しています。
そしてどちらも繰り返し商品改善がされてきました。その数は「ベースパスタ」が発売から4年で18回、「ベースブレッド」で発売から1年10ヶ月で13回にものぼります。
改善に改善を重ねた「ベースパスタ」は、2021年2月時点ですでに6代目となっているのです。
なぜ、ベースフード社はこれほどまでに迅速な商品改善を実現できるのでしょうか? その理由は下記の2つが挙げられます。
- D2Cサブスクと最適化された在庫管理オペレーション
- 最初から最後まで担当する開発体制
それでは一つずつ解説していきます。
D2Cサブスクと最適化された在庫管理オペレーション
商品をバージョンアップすると、それまで販売していたバージョンの在庫を販売できなくなります。
卸販売がメインで流通在庫が多くある状態だと、旧バージョンの在庫が新バージョンと切り替わるタイミングでバラツキがでてしまったり、一斉に切り替えようとすると返品や廃棄が生じる点が問題です。
しかしベースフード社はD2Cブランドであり、サブスクリプションビジネスを行っているため、こうした問題を回避できます。
毎週の生産量を予測して在庫を数日分しか抱えずに済み、また、商品を切り替える際も廃棄が生じないオペレーションを組むことで、新しいバージョンに迅速に切り替えることができるのです。
最初から最後まで担当する開発体制
ベースフード社の開発メンバーは4人いますが、新商品開発や改善プロジェクトを進める際は、プロセスごとに分業することなく一人の担当者が最初から最後まで担当します。
つまり、
- コンセプト企画段階から原材料・製法の決定
- 工場での試作
- 栄養成分や安全性の検査
- パッケージ表記確認
- 発売前試食の実施
- 発売後の改善ポイントの決定
といった一連の流れをすべて一人の担当者が行うのです。
これにより、引き継ぎにかかる時間を短縮し、同時並行で複数のプロジェクトに取り組むことができます。
さらに、改善する前提で商品を発売するため、一定の基準を満たした段階ですぐにバージョンアップできるのです。
ユーザーとの密なコミュニケーション
ベースフード社はユーザーと密なコミュニケーションをとることにリソースを割いています。
例えば、
- 消費者のレビューに一つずつ返信する
- 定期購入者にインタビューを行いニュースレターで紹介する
- お客様感謝イベントを開催する
といった取り組みを行うことで、ベースフード社に関わる人が「仲間」になるようなマーケティングを行っています。
また、独自のオウンドメディアの構築と運用にも注力しています。
ベースフードのユーザーはリテラシーが高い人が多く、企業からの一方的な公告メッセージでは刺さる人が少なく効果があまりありません。
より自然に、ユーザーの役に立つ形で健康や課題についての問題を解消するためのオウンドメディアを構築することで、ユーザーとベースフード社との接点をつくっています。
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アメリカ進出を目指す
日本で活躍を続けるベースフード社ですが、今後は海外市場の開拓にも乗り出す考えで、まずはアメリカ進出を成功させることが大きな目標となっています。
なぜ、初となる海外進出先をアメリカにしたのでしょうか?
アメリカは市場規模が大きく、健康意識が高い消費者が多いこともありますが、これ以外にも理由があります。
フードテック領域が盛り上がるアメリカ
アメリカでは、シリコンバレーのRosa Labs, LLCが「Soylent(ソイレント)」という完全栄養食を販売してから、完全栄養食ブームが起きています。
また、アメリカはフードテック領域が盛り上がっており、食物由来の肉代替品を生産する「Beyond Meat(ビヨンド・ミート)」社は時価総額1兆円に迫る勢いの企業です。
さらに、Beyond Meat社のライバル企業であり代替肉製造会社の「Impossible Foods(インポッシブル・フーズ)」は、2020年3月に13億ドル(およそ537億円)の資金調達をしています。
2011年の創業からこれまでに同社が調達した資金は、13億ドル(約1,395億円)にのぼりました。
このように、勢いのあるフードテック企業がアメリカで増えているのです。
海外で高い評価を得るベースフード社
対してベースフード社が資金調達した額は4億円と、アメリカのフードテック企業と比べるとまだまだ少ないことがわかります。
しかし、ベースフード社の代表取締役社長・橋本舜氏は次のように語っています。
「『ベースブレッド』はグローバルで見てもビヨンド・ミート並みに高い評価を得ています。プロダクトとしての品質は世界でもトップクラスなので、もし僕らがアメリカで創業していたらとんでもない時価総額になっているはず」
このように、ベースフード社はグローバルスタートアップとして成長することが期待されているようです。
アメリカにおけるベースフードの可能性
アメリカにはビーガンの人やフレキシタリアンの人たちが多く存在し、代替肉を求める市場が大きいことも特徴です。
ベースフード社は、このような人たちをターゲットにすることでアメリカ市場でも勝負ができると考えています。
また、アメリカでは「Soylent」や「Huel(ヒュエル)」といったドリンクタイプの完全栄養食が普及しつつあります。一方、ベースフード社の商品はパンやパスタですから、調理をすることでアレンジの幅が広がるのです。
また、素材には自然のものを使っているため、こうした点でもアメリカで高く評価される可能性があります。
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まとめ
ここまでベースフード社に関する基本的な知識から、ベースフード社が成功した理由、また今後の展望について解説してきました。
ベースフード社は新たな市場を創造し、ブランド初期から地道な努力を積み重ねてきたからこそ今の成功があります。
完全栄養食は徐々にですが確実に日本社会においても普及してきているため、今後の成長に目が離せません。