マネジメントに「絶対解」はありません。あなたが管理するメンバーは、一人一人が異なるからです。
アメリカの心理学者D・C・マクレランドの欲求理論(McClelland’s Theory of Motivation)によると、企業の従業員には三つの欲求があるとされています。
本記事では、その理論について述べ、筆者の体験談を交えながら、絵に描いた餅の「絶対解」ではなく、より実践的な考え方についてお伝えします。
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目次
マクレランドの欲求理論から考えるメンバーの多様性
マクレランドの欲求理論で示される欲求は三つです。
・達成欲求(nAch)
・権力欲求(nPow)
・親和欲求(nAff)
一つ目の「達成欲求」は、物事を自分の力でやり遂げたいという思いのことをいいます。達成欲求の強い人は、成功を求めて懸命に努力をする傾向にあります。その結果、他の人よりも大きな成果を出す可能性が高いとされています。これについては、優れた実績を出しやすい人に共通する行動特性について考えるコンピテンシー理論として、研究が進められています。
二つ目の「権力欲求」は、他者に対して大きな影響力を行使したいという思いのことをいいます。そのため、権力欲求の強い人は、高い地位や身分への憧れが強く、大きな責任を任されることを望みます。さらに競争環境を好む性質があるため、近くにライバルがいると成長が早いという特徴があります。
三つ目の「親和欲求」は、他者と親しい関係を作り、協調したい思いのことをいいます。親和欲求の高い人は、他者から好かれたいという願いが強く、心理的ストレスに自分だけで対処することが難しい傾向があります。そのため、和気あいあいとした環境に身を置くことを望みます。
ここまで三つの欲求について紹介しました。これを知るだけでも、チームメンバーは一人一人、異なる欲求を持ち多様であるということがわかるでしょう。例えば、権力欲求の強い人と親和欲求の強い人は、仕事に対するモチベーションの源泉がまったく違います。
メンバーの欲求を考慮し、スタイルを変える
チームメンバーの欲求がそれぞれ異なるのであれば、彼らに同じ態度をとるのではなく、一人一人の多様性を考えマネジメントのスタイルを柔軟に変えていくことが必要です。つまり、マネジメントにこれだけすれば大丈夫という「絶対解」はありません。
ここでは、マクレランドの欲求理論をマネジメントに応用する方法を考えましょう。
まず、達成欲求の強い人は、自身の能力を向上させたいと考えています。そのため、彼らには成長機会となるようなやや難しい仕事を任せることが大事です。もう一つ重要なことは、彼らの仕事に関して、迅速かつ的確なフィードバックをすることです。達成欲求の強い人は、自力でも高い成果を出すことができますが、どうしても解決できない問題に突き当たることもあります。その時に少しだけ、彼らの背中を押してあげれば、自分で問題を解決するでしょう。
次に、権力欲求の強い人には、「責任」と「権限」を与えることが大切です。彼らは、他者に影響を与えたいと考えるため、それができるような役割を任せるのです。また、彼らは「地位」や「身分」にこだわるという特徴があります。ですので、昇進や昇給をモチベーションの源泉としてもらえるように、計らう必要もあります。
最後に、親和欲求が強い人は、他者からいい評価を得たいと考えています。そのため、マネージャーは彼らに対して厳しく叱るのではなく、「ほめる」回数を多くしましょう。すると、もっとほめられたいという思いが芽生えより一層、仕事に対して打ち込むはずです。また、チームメンバー同士を競わせて生産性をあげるよりも、彼らの間におけるコミュニケーションを増やして、仲間意識を醸成するようなマネジメントが求められます。
マネジメントに絶対解はないと気づいた体験談
筆者は、大学生の時に海外インターンシップを運営するNPO法人に在籍していました。当時、国内に24ある支部のひとつで、送り出し事業局長という役職に就いていました。送り出し事業とは、日本の学生を海外の企業や団体に派遣することです。筆者が局長に就いた時、私の支部では年間約20名ほどの学生を海外に送り出していました。
年間約20名という数字は、他の支部と比べるととても少数です。筆者は原因を突き止めるため、送り出し数が多い支部にヒアリングをおこないます。
すると明らかになった事実は単純で、他の支部はNPOに参加している学生を多く海外に送り出していたのです。NPOに所属していない学生と、所属している学生では、所属している学生を送り出す方が簡単だ、ということだったのです。
そのため筆者は、送り出し事業部に所属する約40名のメンバーに対して、海外インターンシップに参加するように繰り返し訴えかけました。しかし、メンバーからの反応は今ひとつ。目標の達成が危ぶまれます。
なぜメンバーからの反応が鈍いのか。原因を考えている時に、大学の講義で学んだマクレランドの欲求理論を思い出しました。そして、メンバーの欲求には個人差があることを前提に、全体に働きかけるよりも、一人一人の欲求について理解を深め、適切なマネジメントのスタイルを選択しようと考えます。
熟慮の末、達成欲求の強いメンバーをメインのターゲットにしようと決めます。彼らは、自身を成長させる機会に積極的です。そのため、海外インターンシップに参加することによって、どのような能力が身につくのか、具体的に伝えました。
権力欲求の強い人に対しては、海外インターンシップの参加をうながすのではなく、4名をプロジェクトリーダー職に就かせ、担当するメンバーの申込数を増やす施策に参加してもらい、結果に責任をもたせました。
メンバーと話してみると、同支部には親和欲求の強い人が全体の7~8割を占めていました。ですので、最終的には彼らに海外インターンシップに参加してもらうことが事業の成果を大きく左右すると考えます。
ここから戦略を定め、実行していきます。
まずは、権力欲求のグループに、達成欲求のグループの行動をうながす施策を考えてもらい、実行しました。例えば、海外インターンシップ参加者を複数招く個別相談会は、効果的だったようです。結果、達成欲求のグループの申込数は徐々に増えていきます。
達成欲求のグループの申込数が増えてくると、親和欲求のグループが動き出します。背後には、「Aちゃんも行くのなら私も行こうかな?」という他者に協調する心理があります。そして、親和欲求のグループの申込数が増えていくと、後はどんどん協調の心理で参加者数が増えていきました。その結果、送り出し数は前年度の約20名から約50名と、大幅に数字を伸ばすことができました。
筆者は、マクレランドの欲求理論を参考にすることで、大きな成果をあげることができたのです。
まとめ マクレランドの欲求理論とは?チームメンバーが持つ3つの欲求を理解しよう!
マクレランドの欲求理論は、シンプルです。しかし、筆者の体験から考えても十分、考慮に値します。
自身のマネジメント能力に悩んでいる人は、マネジメントに「絶対解」はないと考えましょう。大事なことは、メンバーそれぞれの欲求に対して柔軟にアプローチすることです。
明日から実践していきましょう。
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