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雇用調整助成金は、事業者が雇用を維持するために要する休業手当などを助成する制度です。
経済的な理由で事業活動の縮小を実施し雇用調整を行った場合、その際にかかる費用は助成対象となり、一定額の受給が可能です。
雇用調整助成金は支給要件を満たし、適切に手続きを実施することが求められます。
本記事では、申請手続きやよくある質問などを徹底解説します。
目次
雇用調整助成金とは
経営者
雇用調整助成金とは事業活動の縮小が必要とされた事業主が、休業などの雇用調整を実施する際に受けられる助成金です。受給する上ではさまざまな要件を満たす必要がありますが、基本的には申請が通れば受給できます。
まずは雇用調整助成金の具体的な内容や、似たような制度との違いについて解説します。
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雇用調整助成金は事業縮小の間に支払う、休業手当などの雇用維持にかかる費用を助成する制度です。解雇などの人員整理は、経営の非効率化や事業回復後の人材確保が困難になる 恐れがあります。
また人員整理は対象となる企業だけでなく、社会全体の雇用不安を拡大させ、日本の市場全体を更なる不景気に導くきっかけとなります。
休業や教育訓練などによる雇用維持は、以下のようなメリットがあると考えられています。
- 労働者と事業主の信頼関係維持・向上につながる
- 景気回復後すぐに事業を再開しやすい
- (教育訓練の場合)労働者の能力向上を実現できる
このように労働者と事業主それぞれにメリットがあると認められている制度のため、まさにこれから事業を縮小しようと考えている事業者の方は、利用を検討してみましょう。
休業支援金との違い
雇用調整助成金と似た制度として、休業支援金があります。ここでは休業支援金との違いを解説します。
休業支援金と呼ばれている制度の正式名称は「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金休業支援金・給付金」です。
新型コロナウイルス感染症の影響で休業を余儀なくされた労働者のうち、休業手当を受給できなかった労働者を対象とします。
雇用調整助成金は休業手当などの費用を助成する制度であり、受給対象は事業主です。一方で休業支援金は新型コロナウイルス感染症の影響による事業縮小で休業させられたものの、休業手当を受けられなかった労働者が対象です。
雇用調整助成金の要件・対象
経営者
雇用調整助成金を受給するには、厚生労働省が指定する要件を全て満たす必要があります。
要件の概要だけでなく、支給対象となる事業主や、助成対象となる労働者についても正しい理解が大切です。
雇用調整助成金の受給にあたって満たす必要のある要件や、押さえておくべき情報をわかりやすく解説します。
受給要件
雇用調整助成金の受給要件は以下の5点で、全てを満たす必要があります。
- 雇用保険の適用事業主である
- 売上高や生産量などの最近3ヶ月間の月平均が前年同期比で10%以上減少している
- 雇用量を示す指標の最近3ヶ月間の月平均が一定基準を満たす
- 実施する雇用調整の内容が一定基準を満たす
- 雇用調整助成金の受給歴がある場合、直前の対象期間の満了の日の翌日から起算して一年を超えている
上記以外にも雇用関係助成金全体に共通する要件も満たす必要があり、要件に該当しない場合は受給できません。
非常に細かく要件が設定されているため、入念な確認が必要です。
参考:厚生労働省|「雇用調整助成金」「各雇用関係助成金に共通の要件等」
支給対象となる事業主
雇用調整助成金の支給対象となる事業主は、以下の要件をいずれも満たす必要があります。
- 景気の変動や産業構造の変化など、経済・市場における都合により事業縮小を余儀なくされ、労使間の協定に基づいて雇用維持を実施する
- 雇用保険適用事業主であり、受給に必要な書類を過不足なく用意し、実施調査を受け入れる
- 不支給要件に該当しない
支給対象となる事業縮小には、季節的変動や事故または災害、行政処分による事業の一時停止などは含まれません。
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参考:厚生労働省 | 雇用調整助成金ガイドブック
助成対象となる労働者
続いて助成対象となる労働者の紹介です。
雇用調整助成金の対象者となるのは、支給対象となる事業主に雇用されており、雇用調整の対象となった労働者です。
ただし以下の要件に当てはまる場合は、助成対象となりません。
- 判定基礎期間の初日の前日または出向開始日の前日まで、同一の事業主に引き続き雇用保険の被保険者として雇用された期間が6ヶ月未満
- 解雇や退職など、離職予定が明確
- 雇用保険被保険者のうち、日雇労働者
- 特定就職困難者雇用開発助成金等の支給対象
上記に該当せず、休業・教育訓練・出向といった雇用調整の対象となった労働者が助成対象です。
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「IT導入補助金」とは?テレワーク普及にも使いたい(最大450万円)雇用調整助成金の対象となる期間・日数
雇用調整助成金は、雇用調整にかかった費用をもとに支給額が計算されます。
期間や日数の決定方法は難しくはありませんが、やや複雑なため整理した上での確認が必要です。
続いて、雇用調整助成金の対象となる期間と日数について解説します。
1年の期間内
雇用調整助成金は、1年の期間内に実施する雇用調整が支給対象です。
どの期間からを1年とするかは、実施する雇用調整の内容について異なります。具体的な決定方法は以下のとおりです。
- 休業・教育訓練の実施:事業主による任意の期間
(雇用調整実施の初日から1年、都合の良い賃金締切日翌日から1年など) - 出向の実施:出向開始の日から1年
雇用調整助成金の申請手続きを行う際は、期間について明確に決定する必要があります。出向の場合は出向開始の日から1年と決まっていますが、休業・教育訓練の場合は事業主による指定が可能です。
引き続き受給するには、1年のクーリング期間が必要
雇用調整が長引くなどの理由により、対象期間を終えてから再び受給申請を実施したいと考えるケースもあるでしょう。しかし雇用調整助成金を引き続き受給するには、1年のクーリング期間が必要です。
クーリング期間は前回の支給対象期間満了の翌日から1年間です。すなわち一度雇用調整助成金の支給を受ける場合、その後1年間は対象期間としての設定ができません。
もし雇用調整を3年にわたって実施する場合、最初の1年は支給対象として設定可能ですが、その翌年はクーリング期間となります。
クーリング期間空け、今回の例でいうと最後の1年を再び支給対象期間として設定できます。
支給限度日数とは
雇用調整助成金には支給限度日数が存在し、1年間で100日分、3年間で150日分が上限です。
雇用調整助成金は雇用調整にかかった1日あたりの負担額で支給額が決まりますが、その際に使用できる日数には上限があります。
支給日数の計算は休業などの延べ日数を、対象となる労働者の人数で除して算出されます。
対象となる労働者が15人いる事務所において、そのうち9人が5日ずつ休業した場合、支給日数の計算式は以下のとおりです。
9人×5日=45人日、45人日÷15人=3日
すなわち支給日数は3日となります。雇用調整を実施した単純な日数とは異なるため注意が必要です。
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経営者
計算の基準となる金額は以下のとおりです。
- 休業 :休業手当の額
- 教育訓練:教育訓練実施時における賃金相当額
- 出向 :出向元となる事業主の負担額
上記の金額に中小企業であれば2/3、中小企業以外の場合は1/2の助成率を乗じて金額を算出します。
教育訓練を実施した場合は、算出された金額に1人1日あたり1,200円が加算されます。
なお受給額は1人あたり1日につき8,265円が上限です。
算出された金額が8,265円を下回っていればその金額、上回っていれば8,265円が受給金額となります。
参考:厚生労働省 | 雇用調整助成金
雇用調整助成金の申請方法
雇用調整助成金は対象となる事業主が自動で受給できるわけではなく、受給にあたって申請手続きが必要です。
作成しなければならない書類が複数あり、細かな規定も存在するため、申請手続きについて事前にしっかり確認しましょう。
雇用調整の計画届の作成・提出
まずは実施する雇用調整について、具体的な内容を記載した計画を行います。
計画を行う際の主な留意点は以下のとおりです。
- 休業:実施期間や対象部門・人数や対象者の選定方法の決定や偏りの有無に関する検討
- 教育訓練:カリキュラムの作成や期間の設定における問題点の有無、事業外訓練の場合は十分な情報収集ができているかの検討
- 出向:出向元と出向先の事業所間で情報共有が適切に実施されているか、労働者からの同意に問題ないかの検討
雇用調整の計画が進んだら、計画届の作成・提出を行います。
計画届は実施する雇用調整の内容により規定の届出書があるため、書類を取り寄せ記入し、必要書類とあわせて提出します。
支給申請手続きの実施
計画届の内容に沿って雇用調整を実施したら、雇用調整助成金の申請手続きをします。
受給申請にあたっては、雇用調整の計画届を提出し、その上で申請手続きが必要となります。
支給申請においても規定の届出書および必要書類の提出を行います。
なお支給申請書の提出には厳格な期限があるため注意が必要です。
休業または教育訓練を実施した場合、申請期日は対象期間満了の翌日から2ヶ月以内となります。
出向の場合は支給対象期末日の翌日から2ヶ月以内です。
支給申請に必要な書類は、実施した雇用調整の内容や事業所の状況によって異なるため、事前にガイドブックで確認しましょう。
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雇用調整助成金は頻繁に申請する制度ではなく、馴染みがないため疑問や不安が発生しやすいです。そこで雇用調整助成金に関してよくある質問をまとめました。雇用調整を検討している方は事前にご確認ください。
申請すれば必ずもらえる?
雇用調整助成金は要件をすべて満たし、申請手続きに問題がなければ受け取れます。
助成金と似た響きの用語である補助金は、予算や件数が決まっており申請された数が多い場合は審査が実施されます。
そのため要件に該当し手続きに問題がない場合でも、審査に落ちてしまうと受け取れません。
一方で助成金は、支給対象に当てはまり申請手続きに不備がない場合は、原則として必ず受給されます。雇用調整助成金も同様で内容に問題がなければ、ほぼ確実に助成金をもらえます。
ただし要件に該当しない・内容に不備があるなどの場合、申請しても支給対象となりません。
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受給までにかかる時間は?
厚生労働省の公式サイトやガイドブックには、申請までの大まかなスケジュールは明記されていますが、審査にかかる期間や振り込み日については記載されていません。
雇用調整助成金の申請手続きは、ハローワークもしくは都道府県の労働局にて行います。
その後審査が実施されますが、提出先によって案件の数や進め方が異なります。また社会情勢により緊急の案件が増加している場合、通常の雇用調整助成金に関する審査は遅くなってしまいがちです。
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不正受給をしたらどうなる?
雇用調整助成金の不正受給が明らかになった場合、以下のような対応がとられます。
- 助成金の不支給または支給の取り消し、すでに支給が済んでいる場合は全額返還
(延滞金および請求金も加算) - 不支給が決定されてから一定期間にわたり、雇用保険料を財源とした助成金の受給不可能
- 重大または悪質な不正受給と認められた場合、事業主の名称や不正内容の公表
- 詐欺罪などとして刑事告訴
雇用調整助成金の不正受給は、厳しく罰せられる行為です。
特に不正受給を行ったという公表は、社会的信頼の失墜など大きな損失につながります。
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申請時に不備や漏れがあったら?
雇用調整助成金は満たす必要のある要件が多い上、申請手続きが複雑な制度です。
そのため申請時に不備や漏れが起きてしまうケースが少なくありません。
残念ながら書類に不備や漏れがあると、高確率で不支給となってしまいます。
不備のあった書類が返却され再提出もしくは補正を求められるケースもありますが、不支給として返却される恐れも大きいです。
支給対象に該当する場合でも、書類不備が原因で受給できず徒らに時間がかかってしまうと、非常に大きな損失となります。
雇用調整助成金の申請手続きを確実に実施するためには、自分だけで対応しようとせず、労働局やハローワークへ相談するのが安心です。
まとめ:雇用調整助成金の申請時は入念な準備が大切
雇用調整助成金は雇用維持に必要な費用の助成を受けられる制度で、事業主の負担を抑える上で非常に有用です。
受給するにあたっては、細かな要件すべてに該当する必要があります。
やや複雑な手続きになるので、申請書類は慎重に確認し、漏れのないように提出をしましょう。
雇用調整助成金をうまく利用し、自社の資金繰りにご活用ください。
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