2020年、業績連動賞与を導入する企業の割合は初めて60%を上回り、年々増加傾向にあります。なぜ今、業績連動賞与が注目されているのでしょうか?
本記事では、業績連動賞与に関する基本的な知識から求められる理由、導入するメリット・デメリット、導入する際の注意点や実際に企業事例を解説していきます。
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業績連動賞与の前に「賞与(ボーナス)」を理解しておこう
業績連動賞与について理解を深めるためにも、まずは「賞与」を正確に理解しておきましょう。
そもそも賞与は給与の1つではありますが、普段貰っている定期給与(月給)とは別のかたちで支給される臨時の給料を指しています。
賞与は「ボーナス」とも言いますが、どちらも意味に違いはありません。日本においては、一般的には夏(6月)と冬(12月)に二度、「夏季賞与」と「冬季賞与」として支給されます。
しかし、あくまで「臨時」の給料なので、その額は決まっておらず、また支給は会社の義務でもありません。
したがって、会社の就業規則には「賞与が支給されることもある」とだけしか説明されていない場合もあり、場合によっては賞与に関する規定がそもそもないこともあります。
そして、この賞与(ボーナス)には、今回解説する「業績連動賞与」や「決算賞与」という種類があります。これらは一般的な賞与とはどのように異なるのか、ひとつづつ解説していきます。
決算賞与とは
まず、決算賞与について軽く解説していきます。
決算賞与は、「決算」と付いているように、決算後に支給される賞与を指しています。しかし、決算の際に出た利益から支給されるので、毎年決まって支給されるわけではありません。
また、会社によっては「特別賞与」や「臨時ボーナス」と呼ばれることもあります。
決算賞与を支給することで、会社の利益を従業員に還元し、意欲やモチベーションを引き出すことができますが、決算賞与を支給する主な狙いは会社の内部留保を減らし、節税することです。
決算賞与の支給は企業にとっても従業員にとってもうまみがありますが、支給の有無は景気や業績に左右され、その支給額も経営陣次第となります。
支給されたことで従業員が一時的にモチベーションが上がるのはよいですが、次の決算賞与がなくなったり支給額が下がると逆にモチベーションの低下につながるでしょう。
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一般的に「賞与」や「ボーナス」と聞いてイメージするのが「給料連動型」の賞与です。これは、「あの会社のボーナスは給料◯ヶ月分」というような言い方をされるように、「基本給×◯ヶ月分」といったかたちで支給額が算出されます。
このように、従来では賞与やボーナスは業績や個人の評価を参考にすることなく支払われており、第二の給与のような扱いでした。対して、賞与の額を決める際に企業業績や個人の評価と連動させる仕組みの賞与が「業績連動賞与」です。
業績連動賞与を導入している企業は2020年に初めて6割を超えた
しかし、2000年代に入ると業績連動賞与を導入する企業が増え始めました。その背景には、景気の先行きが怪しくなってきたことが要因として挙げられます。
経団連の「2020年 夏季・冬季 賞与・一時金調査結果」によると、業績連動賞与を導入している企業の割合は60.1%で、1987年以降の最高値を2年連続で更新しています。
連動させる基準の指標は「営業利益」が57.1%で最も多く、次に「経常利益」が35.7%です。
とはいえ、この調査で回答した357社のうち、75%以上が従業員が500人以上の企業であるため、中小企業ではまだあまり導入されていないと考えられています。
また、賞与・一時金の水準をみてみると、非管理職は夏季はおよそ74万円で、冬季はおよそ68万円ほど。管理職は夏季はおよそ151万円で、冬季はおよそ134万円ほど。
どちらも前年と比較して減っています。原因としては新型コロナウイルスの流行が挙げられ、リーマンショック後の2009年に次ぐ減少率となっています。
(参考:2020年「夏季・冬季 賞与・一時金調査結果」の概要│日本経済団体連合会)
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2020年、初めて業績連動賞与を導入する企業が60%を超えて、調査をはじめて以来最も高い水準になっています。なぜ今、業績連動賞与を導入する企業が増えているのでしょうか?
従来であれば、ビジネス環境は安定的で変化があまり起こらず、比較的社員の安心感と納得感がある賞与を支給することができていました。
しかし、近年では業界が同じだとしても「重要な成功要因」と呼ばれるKSFの存在次第で、事業が成功するか失敗するかが決まってしまうことも少なくありません。
さらに現代は環境の変化が激しく、このような環境下で安定的な人件費の支給をしていくためには、賞与を業績と連動させることが求められるようになったのです。
業績連動賞与を導入するメリット
このように、変化が激しい現代のビジネス環境に適応するために、業績連動賞与を導入する企業が増えています。
しかし、これ以外にも導入するメリットがあります。それが下記の2つです。
- 支給額の不公平感を緩和できる
- 人件費を変動費化できる
それでは1つずつ解説していきます。
支給額の不公平感を緩和できる
能力がなく成果もあまり出していないにも関わらず、ベテランで基本給が高いという理由だけで高額の賞与やボーナスが支給される一方で、能力があり成果を出しているにも関わらず、新入社員で基本給が少ないという理由だけで賞与やボーナスの額が少なければ、不公平感がありモチベーションが下がる可能性があります。
このような不公平感を緩和して、モチベーションの低下を防げる点が業績連動賞与のメリットです。
さらに、企業にとっても成績が奮わない従業員に対してムダに高い賞与を支払わずに済むため、お互いにとってメリットがあります。
しかし、給料連動型であればもらえる賞与・ボーナスの支給額をおおよそ予想できますが、業績連動賞与の場合は予想することが困難であるため、家計のやりくりや計画を立てにくい、また業績や評価によって支給額が変わるため、年収が不安定になるという、従業員側が抱えることになるリスクも存在します。
人件費を変動費化できる
従来は「基本給×◯ヶ月分」という給料連動型賞与が一般的でしたが、この方法で賞与・ボーナスを支給すると人件費が固定費になってしまい、経営を圧迫するリスクを抱えていました。
しかし、業績連動賞与は企業業績や個人の評価と連動して賞与やボーナスの支給額が決まる仕組みであるため、人件費を変動費にすることができるようになるのです。
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業績連動賞与を導入するメリットはわかりましたが、その一方で下記のようなリスクやデメリットもあるため把握しておく必要があります。
- 賞与の変動によるモチベーションの低下
- 業績次第で賞与が支給されない
- 個人の評価と賞与のギャップ
- 個人主義の増大
それでは1つずつ解説していきます。
賞与の変動によるモチベーションの低下
まず1つ目のデメリットは、賞与額が変動することによってモチベーションが低下する可能性があることです。
業績連動賞与は企業業績によって賞与やボーナスの支給額が変動するので、会社の景気が良いときは多く貰えますが、景気が悪いときは少なくなります。
したがって、「前回は支給額が多かったのに今回は支給額が減らされている」と感じて、従業員のモチベーションが下がるかもしれません。
業績次第で賞与が支給されない
1つ目のデメリットとして、支給額が上下する可能性があると解説しましたが、上下するだけではなく従業員の中には賞与が支給されない人物も出てくる可能性があります。
賞与がなければ従業員の家計にも影響があるので、不満を抱くことにもつながるでしょう。
個人の評価と賞与のギャップ
業績連動賞与で課題になりやすいのは、自身で判断する業績の評価と、その反映結果となる賞与額とのギャップです。
例えば、「私はノルマも達成し評価は前回よりも上がっているはず。だがなぜか賞与額が前回よりも減っている」というような疑問をもつ従業員が出てくるでしょう。
個人主義の増大
個人の評価を重要視しすぎると、従業員は「組織の目標よりも、個人的な目標を優先したほうが評価が上がる」と考えるようになり、個人主義的なプレーが目立ちチームワークが乱れるリスクがあります。
しかし、こういったリスクを避けるために組織の業績を重視して連動させると、今度は上記で解説したように個人的な評価とその反映結果である賞与額とのギャップを強く感じやすくなることがあるため、そのバランスには細心の注意を払う必要があるでしょう。
とはいえ、組織と個人のバランスに正しい答えがあるわけではなく、業界や企業によってそれぞれ最適解があると言えます。
業績連動賞与を導入する際の注意点やポイント
実際に業績連動賞与を導入する際のポイントや注意するべき点には下記のようなものがあります。
- 導入する目的を明らかにする
- なにを指標にするかを決める
- 受け入れてもらえるように工夫する
- 業績の指標や個人の評価方法を公開する
それでは1つずつ解説していきます。
導入する目的を明らかにする
まず、上記で解説した業績連動賞与導入のメリットやリスク、デメリットを理解したうえで、なぜ導入するのか、導入する目的を明らかにしましょう。
そのためにも、現時点で抱えている課題や、その課題をどのように解決していくのかを整理しておく必要があります。
なにを指標にするかを決める
次に、支給額と連動する指標を決めます。業績指標は下記のようなものがあります。
- 売上高基準:生産高や売上高など
- 付加価値基準:付加価値
- 利益基準:当期利益や営業利益、経常利益、EBIT、RBITDAなど
- キャッシュフロー:営業キャッシュフローなど
- 株主価値基準:ROI、ROA、EVA、ROEなど
これらのうち、自社の状況や環境と合致するものを選びましょう。
上記でも解説しましたが、経団連での調査によれば最も採用されているのが「営業利益(57.1%)」で、次が「経常利益(35.7%)」です。
しかし、「じゃあうちも経常利益でいいかな」と他社の真似をしても、自社に合致していなければ意味がありません。
受け入れてもらえるように工夫する
今まで賞与やボーナスを固定的・安定的に支払ってきた会社が、いきなり「業績によっては支給はない」という仕組みに変えるとなると、現場の反対や混乱を招く恐れがあります。
なにより、従業員のモチベーションが大きく損なわれるかもしれません。
したがって、そのような混乱や意欲の低下を避けて、業績連動賞与を受け入れてもらうための工夫が必要です。
例えば、今までの賞与やボーナスの支給額より減ることはなく、成果を出した従業員に対して加算して支給する仕組みにする工夫などが求められます。
業績の指標や個人の評価方法を公開する
業績や個人の評価に連動させるには、どのような方法で支給額を算出しているのか、そのプロセスや方法を従業員に公開することが重要です。
なぜなら、そのプロセスが明かされないままでは不公平感や不信感のもとになってしまうからです。
業績が大赤字の場合、もしくは考えていたよりも業績が良かった場合は、協議を設けることをあらかじめ決めておいたり、賞与の100%を業績によって算出するのではなく、固定給に基づいて業績と連動した賞与を加えるなどの方法をとる企業が一般的です。
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実際に業績連動賞与を導入した企業について見ていきましょう。ここでは下記の2社について見ていきます。
- 関西電力株式会社
- 日本航空株式会社
それでは1つずつ見ていきましょう。
関西電力株式会社
2019年、関西電力は2020年度以降に業績連動賞与を導入することを決めました。この制度を導入したのは大手電力会社では関西電力が初めてです。
電力小売りの自由化により顧客獲得競争が激しくなるなかで、従業員のモチベーションを高めることを目的としています。
(参考:関電、賞与を業績連動に 大手電力で初│日本経済新聞)
日本航空株式会社
日本航空では、2017年度から業績連動賞与を導入しています。一般的な従業員が対象ではなく、7人の社内取締役が対象となっており、企業価値を高めることを目的に導入されました。
しかし、2020年には新型コロナウイルスによる経営不振で、業績連動型株式報酬の支給をしないことを決めています。
(参考:JAL、業績連動型株式報酬を不支給 新型コロナで経営厳しく│日本経済新聞)
まとめ
ここまで業績連動賞与について見てきました。
従業員のモチベーション向上や人件費の変動費化につなげることができますが、その一方で賞与の変動があり業績によってはゼロもありうるという課題もあります。
したがって、メリット・デメリットを把握して、導入の際の注意点を意識したうえで運用していくことが重要です。
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