変化が激しく、複雑化が進む社会において組織が存続していくためには、その社会や時代に適応すべく、変化し続ける必要があります。
しかし、変化や変革をしようとすると必ずそれに反対する抵抗勢力が現れます。抵抗勢力や変革の阻害要因を無視して変わろうとしても、摩擦が生まれて組織が内から崩れていくリスクが高まるだけです。
そこでチェンジマネジメントが必要になります。
この記事を読むことで、
- チェンジマネジメントの考え方や注目される理由がわかる
- チェンジマネジメントのプロセスがわかる
- チェンジマネジメントを阻害する要因がわかる
ようになります。
チェンジマネジメントついてわかりやすく解説していきますので、ぜひ参考にしてみてください。
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目次
チェンジマネジメントとは?
チェンジマネジメントとはマネジメント手法の1つで、組織変革の効率的な成功を促すことです。
組織を存続させていくには、時代に合わせて組織もまた変化していかなければならず、その際に必要なのが組織変革です。しかし、問題となるのは組織の中にいる変化を嫌う保守的な人の存在です。変化に否定的な人が組織変革にとって邪魔な存在となり、組織内に摩擦が生じる原因になります。
したがって、ここで必要になるのが「組織の人間に変革を受け入れやすくしてあげること」であり、それを可能にする方法こそが、チェンジマネジメントなのです。
チェンジマネジメントにより企業全体の経営戦略の変革をしていくことで、市場や時代に合わせたビジネスを展開できるようになります。まさに企業の存続と成長に欠かせない、必要不可欠のマネジメント手法と言えるでしょう。
従来のマネジメント手法との違い
従来型のマネジメントは既存の経営資源を生かして最良の成果を求める手法のため、環境の変化に弱いという特徴があります。
一方でチェンジマネジメントは「会社のあるべき姿」を求めて企業の変革を行うことです。
「経営層だけでなく社員たちの協力と理解を得て、社員全員の足並みを揃えて企業の変革を行う事」がチェンジマネジメントの肝になります。
チェンジマネジメントの起源はアメリカ
チェンジマネジメントは1990年代初頭にアメリカで誕生しました。
当時のアメリカは不景気のどん底にあり、その現状を打破するために開発されたのが「BPR( Busines Process Reegineering )」と呼ばれるプログラムです。
不況のなか、従来型のマネジメントから新しいマネジメントスタイルへの変革が求められた結果、BPRを導入した企業はこれまでの経営方針を見直し、徹底したコストカットやリストラを実施。業績を改善させることに成功しました。このBPRがチェンジマネジメントの起源です。
チェンジマネジメントの必要性や注目される理由
今、チェンジマネジメントが求められ、注目されている理由は、環境が常に変わり予測がつかない時代だからです。
企業が存続し成長していくためには時代に合わせていく必要があります。しかし、現代はVUCAの時代、つまり不安定で常に変わり(Volatility)、不確実性が高く、(Uncertainty)、いくつもの要因や条件が重なり複雑な(Complexity)、曖昧で明確なことがない(Ambiguity)時代です。
このような時代において、組織が生き残るのは容易なことではありません。だからこそVUCAに対する解決策としてチェンジマネジメントが注目されているのです。
変革をする際に最も負担が大きいのは「現場で働く社員」であり、変革の目的や意義など何の説明もなく変革を押し進めると、大きな反感を買います。その結果、優秀な社員の離職などのリスクを避けられません。
そのようなリスクを下げるために用いられるのがチェンジマネジメントです。変革の目的や意味などを組織全体で共有することで、現場の社員に変革を受け入れてもらい、一緒に変革を進めることができます。
チェンジマネジメントにおける3つのレベル
チェンジマネジメントは企業の規模によって下記の3つに分けられます。
- 個人レベル
- プロジェクトレベル
- 組織レベル
これらの違いはどのような点にあるのでしょうか? ひとつずつ見ていきましょう。
個人レベルのチェンジマネジメント
個人レベルにおけるチェンジマネジメントとは、社員一人ひとりに対して変化を受け入れるようにアプローチすることです。
変化に対して抵抗を感じるのは人として当たり前の反応であり、まずはそれを理解してあげましょう。そのうえで、変革のプロセスのなかで正しくサポートしてあげることで、抵抗感が減り、変革を好意的に受け取れるようになります。
プロジェクトレベルのチェンジマネジメント
プロジェクトレベルでのチェンジマネジメントは、ある程度の人数が存在するプロジェクトレベルで変革を促すことです。
組織変革において大切なことは、変化が必要なプロジェクトを把握し、どのような変化をさせるべきかを明らかにすることです。そして、そのプロジェクトメンバーに「変化のために何が必要なのか」という気づきをもたらし、変革のアプローチをします。
組織レベルチェンジマネジメント
組織レベルのチェンジマネジメントでは、社会や市場の変化への対応方法を明らかにし、組織全体で経営戦略を変革させていきます。
個人レベルやプロジェクトレベルよりも規模が大きくなるので、個人・組織レベルで同時にチェンジマネジメントを行い、変革への抵抗を減らしておくことが重要です。
チェンジマネジメントを成功させるための8つの要因とは
チェンジマネジメントをうまく行うために注目されているのが下記の「チェンジマネジメントを成功させるための8段階のプロセス」です。
- 社員全員で危機意識を共有する
- 社内に業務改革チームを編成する
- 社内改革のゴールを明確にする
- 社員全員で共有する
- 社員の自発性を高める環境を作る
- 短期目標を達成させて成功を実感させる
- 達成した短期目標を次の業務改革に活用する
- 成功したという実感を定着させる
これは、リーダシップマネジメントで有名なハーバード大学ビジネススクール教授のジョン・コッター氏が提唱しているプロセスです。
それでは1つずつ解説していきましょう。
社員全員で危機意識を共有する
チェンジマネジメントを成功させるためには、社員全員で危機意識を共有する事が重要です。
なぜなら、危機意識を共有できれば、会社が変革しなくてはならない必要性を理解してもらえるからです。
そのためには、競合他社の脅威や市場のニーズの変化などを分析した上で、会社が変革しなくてはならない理由を社員全員が納得できるよう、説明する必要があります。
社内に業務改革チームを編成する
社員全員で危機意識を共有できたら、次は会社が改革に取り組むためのチームを編成するのが効果的です。
チームを編成する際は社内の優秀な人を選ぶとよいでしょう。
具体的には「人望があり、変革をリードできる人」「社員に対する影響力が強い人」などです。会社の変革に携わる人たちなので慎重に選ばなければなりません。
社内改革のゴールを明確にする
業務改革チームを編成した後は、会社の変革のゴールを明確にします。
「業務改革の後、どうなりたいか」を明確にすることで、変革に向けた戦略が立てることが可能です。戦略を立てる際は下記の条件を満たしていることが推奨されます。
- 会社の将来が可視化できる
- 実現可能な目標を立てる
- 意志の方向を明確にする
- 変革のメリットがある
- 簡潔に説明できる
- 柔軟に対応できる
社員全員で共有する
会社の変革のゴールと戦略が決定したら、その内容を社員全員で共有します。
大きな会議やメールで一斉に一方的に知らせるだけでなく、各部署で一人ひとりにきちんと伝えて、個人レベルでの意識変革の重要性を社員に理解してもらいましょう。
社員の自発性を高める環境を作る
社員の自発性を高めるには、まずその環境づくりが重要になります。そのためにも自発性を邪魔するような環境や要因をなくしていかなければなりません。
せっかく社員が変革に対して前向きになったとしても、以前までの構造や仕組みといった環境が阻害要因になってしまっては元の木阿弥です。改革に向かう社員が自発的にアイデアを出したり行動できるようにするためにも、社員にとって動きやすい環境づくりが重要です。
短期目標を達成させて成功を実感させる
チェンジマネジメントは組織を変革させることがゴールなので、達成までしばらく時間がかかります。したがって、社員のモチベーションが保てなくなる恐れがあります。
そのような事態を避けるためにも、社員に成果を実感させることが重要です。方法としては、短期目標を立てて、それを達成させるなども良いでしょう。目標までの進捗状況を可視化することでさらに実感しやすくなるはずです。
具体的には下記のような短期的な目標があるので、ご参考ください。
- 新しいビジネスツールを導入して成果を出す
- 部署ごとに持っているデータをまとめる
このような短期の目標を達成させて成功を実感させることで、社員のモチベーション維持につながります。
達成した短期目標を次の業務改革に活用する
短期目標を達成し続けていくと、組織変革の成果が少しずつ実感できるようになっていきます。達成した成果を次々と業務に取り入れていく事で、組織変革が徐々に実践されていくのです。
成功したという実感を定着させる
改革された業務や社内の制度が定着すれば、『チェンジマネジメントは達成された』ということになります。
社員が「改革は成功した」と実感できれば会社の変革へのモチベーションが上がり、更なる変革へとつながるでしょう。
チェンジマネジメントが阻害されてしまう要因とは
しかし、このようなプロセスで取り組んでも、チェンジマネジメントによる企業の変革は必ずしも順調に進むとは限りません。
社内には少なからず変化に反対的な社員がいます。彼らの存在そのものがチェンジマネジメントが阻害される要因です。
ボストンコンサルティングのDaniel Jeanie氏は著書の中で、反対する社員達をモンスターに例えて下記の4つに分けています。
- タコツボドン
- ウチムキング
- ノラクラ
- カイケツゼロ
それでは1つずつ解説していきます。
タコツボドンとは
タコツボドンとは組織の縦割りのタコツボに籠り、他部署の業務に興味を示さない人を指します。
所属する部署の自分の担当外の業務は一切受け付けず、「それはウチには関係ない」という態度をとるため、社内の部署間の連携を阻害する要因となっています。
ウチムキングとは
ウチムキングとは、会社や所属する部署の評判ばかりを気にして、顧客や市場に対して全く関心を持たない社員のことです。
市場のニーズなど外部の情報に疎いため、会社が変革しなければならない理由を理解することができません。企業が変革しようとする動きに反発する傾向があります。
ノラクラとは
ノラクラとは、組織がチェンジマネジメントしなくてはならない理由を説明されても、できない理由ばかりを述べて、まったく行動しない社員のことです。
会社の変革に対してマイナスな意見しか言わないので、周りの社員の変革に対するモチベーションも下げてしまいます。
カイケツゼロとは
カイケツゼロとは、会社や事業内容の問題点を指摘するだけで自分自身で解決しようとしない社員の事です。
このタイプの人は会社が変革しなくてはならない事を説明しても、まったく動こうとしません。
チェンジマネジメントにおける成功事例
実際にチェンジマネジメントが行われた成功事例について、下記の4社について解説していきます。
- 富士フィルム
- 日産自動車
- アドビシステムズ日本法人
富士フィルムにおけるチェンジマネジメントの成功事例
富士フィルムは事業の変革をするために、まずは課長クラスの役職者の意識改革に臨みました。
対象者は約1,200名に及び、自分自身のリーダーとしての特性を客観視し、あるべきリーダーシップ象を再構築するという取り組みでした。
参加者の多くはリーダーシップ象の再構築に成功し、「リーダーだけでなく、部署の部下全員と一緒に問題解決に向けた努力をする」等の次のプロセスへの足がかりとなりました。その結果、チェンジマネジメントへの意識を部署内の社員全員と共有することに成功したのです。
日産自動車におけるチェンジマネジメントの成功事例
日産自動車の業績が低迷していた1990年代、社長に就任したカルロス・ゴーン氏により断行されたチェンジマネジメントで、社長就任から間もなくして業績はV字回復しました。
ゴーン氏はコストカットを徹底して、大規模なリストラを行い、1兆円規模のコスト削減に成功したのです。
しかし、このような大胆な改革を実行すると、社内の大きな反発を招いてしまう可能性が高くなります。したがって、ゴーン氏は社内のミーティングやマスコミを利用して、「なぜ日産自動車は変わらなければならないのか」「どのように変わるのか」などのメッセージを社員に届けていました。
ゴーン氏が語る組織変革のビジョンは明確だったため、社員の理解を得るために貢献したと考えられています。
アドビシステムズ日本法人におけるチェンジマネジメントの成功事例
アドビシステムズ日本法人は2017年にソフトウェアの提供方法を、従来のモデルであった「パッケージ販売」から「定額制モデル(サブスクリプション)」へと変えました。
この変革プロジェクトでは様々なチェンジモンスターが現れ、変革に対する阻害要因となりましたが、2年半かけて克服することに成功。社内でミーティングを重ね「なぜ会社の方針を変える必要があるのか」というメッセージを繰り返し社員に届けたことで、少しずつ社員の理解を得られるようになっていきました。
Google Cloudにおけるチェンジマネジメントの成功事例
Googleは社内インフラに依存してましたが、メールやカレンダーなどの機能をクラウド化するためにチェンジマネジメントを行いました。
Googleはクラウド化する理由を「簡潔で明確な表現」で社員に繰り返し伝え、変革の重要性を社員に理解してもらいました。結果的にGoogleはクラウド化に成功しています。
まとめ
この記事ではチェンジマネジメントについて解説しました。
組織変革をする際は必ず阻害要因が生じるため、一つ一つ対処しながらチェンジマネジメントをしていく必要があります。数年にわたる期間が必要になる場合もあるので、長い目で計画を立てていくことも重要です。
また、チェンジマネジメントのプロセスを解説しましたが、チェンジマネジメントでは「こうしなければならない」という決まりはありません。したがって、最も良いのは自社の状態や社員の状態を踏まえた最適なチェンジマネジメントを探り、実践していくことです。
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