【デザイン経営とは?】 デザイン経営を実現するデザイン思考の考え方

はじめに: デザイン思考からデザイン経営へ 

 デザイン経営とは、デザインを経営の根幹に据えた経営手法のことです。デザイナーの「手法」や「思考の方法」をブランドの構築やイノベーションの創出に活用し、企業競争力の向上を目指すのが、デザイン経営の本質です。現代の経営において、デザインを事業プロセスのなかに組み込むことは極めて重要な意味を持っています。

 

 それでは、デザイン経営につながる企業のブランドの構築やイノベーションの創出に役立つデザイナーの手法や思考の方法とは一体どのようなものなのでしょうか。この記事では、デザイン経営に役立つ思考の方法(デザイン思考)についてわかりやすく解説していきます。

デザイン経営の具体例

 デザイン経営を実践していることで有名なダイソンやアップルは、一つ一つの製品の「デザイン」を重視しているわけではありません。

 

 「デザイン」を重要な経営資源として活用することで、企業のブランドイメージを構築し、イノベーション(創造的破壊)を起こし続けているのです。ダイソンとアップルに共通しているのは、経営プロセスのなかに、デザインを創造するという考え方を組み込んだことです。これによって、唯一無二のブランドイメージを築くことに成功しました。

デザイン経営の実践

 アップルがデザインという言葉を使うとき、端に商品の外観や機能のデザインするということにとどまりません。「あらゆる顧客との接点をデザインする」ことが、アップルにおけるデザインなのです。

 その代表ともいえるのが、アップルストアやアップルミュージックのデザイン。

 

 すなわち、デザイン経営とは、製品開発部門だけでなく、会社全体の経営プロセスに埋め込まれるモノだといえます。つまり、複雑な人と人、組織と組織の関係性の中で、時間をかけて構築されていくものなのです。

デザイン経営の効果

 デザイン思考を事業プロセスに組み込んでいる米国の上場企業16社のポートフォリオにおいて、過去10年間でS&P500を累積211%上回る結果が出ています。また、Design Management Instituteが2016年に発表したレポートによれば、このインデックスは、3年連続でS&P500を200%上回る結果を示しています[https://www.dmi.org/page/2015DVIandOTW/2015-dmiDesign-Value-Index-Results-and-Commentary.htm]。

デザイン思考の誕生

 米デザイン・コンサルティング会社 IDEO がイノベーションを生み出し続ける仕組みとして「デザイン思考」を提唱し始めて以来、デザイン思考は世界中に知られるようになりました。このIDEOという会社は、Apple社の最初のマウスをデザインした会社としてよく知られています。

 デザイン思考を提唱したことで知られるIDEOのティム・ブラウンは、デザイン思考を次のように定義しています。

 

「デザイナーツールキットによって人々のニーズ、テクノロジーの可能性、そして、ビジネスの成功という3つを統合する人間中心のイノベーションに対するアプローチ」

デザイン思考は新しい考え方ではない!

 デザイン思考という考え方が注目されるようになったのは2000年代。ですが、デザイン思考そのものは、決して新しい概念や実践ではありません。意識的であれ、無意識的であれ、デザイン思考そのものは、デザインが存在して以来、私たちの周りに存在してきたのです。

デザイン思考は決まりきったものではない!

 このように、デザイン思考そのものは、IDEOの創業者によって提唱されたものですが、その後、様々な国の企業や組織に普及していくにあたって、多様な解釈がされるようになっています。そのため、一口に「デザイン思考」と言っても同じものを指しているとは限らない点には注意が必要です。以下では、日本ではデザイン思考がどのように受容され、その後、デザイン経営へとつながったのかについて説明していきます。

日本におけるデザイン思考の普及とデザイン経営の誕生

 日本における「デザイン思考」は、 2000 年前半から、主に書籍などを通じてそのコンセプトが導入されてきました。IDEO 社から出版されたさまざまな書籍、トム・ケリーとジョナサン・リットマンの『発想する会社!』(2002 年)、『イノベーションの達人!』(2006 年)、ティム・ブラウンの『デザイン思考が世界を変える』(2014 年) などが多くのメディアに取り上げられたことで、一般に広く「デザイン思考」の考え方が普及していきました。

 実務で広がった考え方がアカデミックの世界へ

 その後、2012 年 3 月に慶応義塾大学 SFC デザイン思考研究会が設立され、その研究会メンバーを中心に 2013 年 7 月には一般社団法人デザイン思考研究所(現:アイリーニ・デザイン思考センター)が設立され、デザイン思考を活用したイノベーション・マネジメントの研修が提供されるようになりました。

 

 さらに、博報堂もデザイン思考を推進していることで有名です。2003 年にデザインによるブランディングの専門会社 HAKUHODO DESIGN を立ち上げるなど精力的に活動を行っています。2006 年に設立されたTBWA博報堂では「人間を中心としたイノベーション事業」としてデザイン思考を推進しています。

 日本ではデザイン経営の標準化も進んでいる!

 このようなデザイン思考の高まりを受けて、経済産業省と特許庁は、 2018 年 5 月に「デザイン経営宣言」を発表しています。そこでは、企業競争力の向上には、「ブランド構築に資するデザイン」と「イノベーションに資するデザイン」の両軸が不可欠であるとされていて、デザインを活用した経営手法を広めています。この宣言が、日本におけるデザイン経営の基礎となり、現在に至っています。

 

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デザイン経営におけるデザイン思考の本質

 デザイン思考とは、いわゆる「カッコいいデザイン」を生み出す力のことを言うわけではありません。デザイン経営におけるデザイン思考とは、市場ニーズを適切にとらえ、必要な製品・体験を考案する力のことをいうのです。

 デザイン思考は、定義されていない問題や未知の問題に取り組む際に最も有効な方法です。デザインの優れた製品やサービスを市場に展開し、さらに顧客からのフィードバックを受け止めながら改良を重ねることで、ブランド力の向上やイノベーションを創出できるということに、デザイン経営におけるデザイン思考の本質があります。

 デザイン思考とは「デザイナーのように考える」ということ

 デザインをするという行為は、デザイン思考のなかの一部に過ぎないもの。デザイン経営におけるデザインで最も重要なのは、デザインをするときに行っているような思考方法で、組織が直面する経営課題を解決しようとする考え方です。そして、デザイン思考は、どんな種類の事業にも活用可能で、どんな部署、どんな役職においても活用することができ、従業員の全てが思考プロセスに参加可能でなければなりません。

 デザイン思考の定義

 ここで述べるデザイン思考とは、「デザイナーが一定の制作物を生み出すときに行っている思考プロセス」のことを指しています。思考というと、日本人は頭で考えることを想像してしまいがちですが、デザイン思考は、頭で考えるものではありません。全身で体感して「気づく」ものなのです。端的に定義すれば、デザイン思考とは「新しい機会を見つける為の問題解決プロセス」といえるでしょう。

 デザイン思考を事業プロセスに役立てる!

 実際に実務においても、デザイン思考は、新製品の開発において、満たされていない顧客のニーズを理解することから始まるという点で、非常に強力なアプローチです。つまり、デザイン思考は、ユーザーのニーズを理解することで問題解決に取り組む、人間中心のデザインプロセスともいえるでしょう。

 デザイン思考のアプローチをビジネスに適用すると、イノベーションの成功率が大幅に向上することが確認されています。では次に、デザイン経営を実行可能にするための5つのステップについて明らかにしていきます。

 

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デザイン経営を実行可能にする5つのステップ

 デザイン経営を実行可能とするためには、事業プロセスのなかにデザイン思考を組み込むことが重要です。事業プロセスのなかにデザイン思考を組み込むためには、以下のようなプロセスを事業プロセスに組み込まなければなりません。

ステージ1:共感 – ユーザーのニーズを調査する

 このステージでは、ユーザーリサーチを通して、解決しようとしている問題を共感的に理解する必要があります。共感は、デザイン思考のような人間中心のデザインプロセスにおいて、非常に重要です。それは、世界に対する自分の思い込みを捨てて、ユーザーとそのニーズに対する真の洞察を得ることができるからです。

 ステージ1を実践する際の重要ポイント

 デザイン思考プロセスの最初のステージは、解決しようとしている問題を共感をもって理解することから始まります。では、どのようにして共感をもって理解するのでしょうか。そのために必要なことは3つあります。

 

1.専門家に相談し、問題となっている領域を観察して詳しく調査する。

2.人々と関わりその経験や動機を理解し、物理的な環境に身を置く。

3.2を行ったうえで、問題に対する個人的な理解を深める。

 共感は、デザイン思考のような人間中心のデザインプロセスに必要不可欠。共感を得ることで、デザイン思考者は、世界に対する自分の思い込みを捨てて、ユーザーとそのニーズを洞察することができるのです。

 

 時間的な制約にもよりますが、この段階では、次の段階で使用するための相当量の情報が収集され、ユーザーとそのニーズ、そしてその製品の開発の背景にある問題を可能な限り理解することができます。

ステージ2:ユーザーのニーズと問題点を明確にする

 ステージ2は、「共感」の段階で得た情報を蓄積していく段階です。そして、観察結果を分析し、それらを総合して、あなたとあなたのチームが特定した中核的な問題を定義します。この定義を「問題提起」と呼びます。また、ペルソナを作成することで、人間を中心とした活動を行うことができ、アイデア出しにも役立てます。

 ステージ2を実践する際の重要ポイント

 ステージ2の段階はステージ1(「共感」の段階)で、作成・収集した情報をまとめていきます。ここでは、あなたやあなたのチームがこの時点までに特定した中核的な問題を定義するため、あなたやチームの観察を分析して、それらを総合して問題点を明確にしていきます。

 デザイン思考でユーザーの真のニーズを捉える!

 たとえば、「10代の若い女の子の間で、当社の食品製品の市場シェアを5%向上させる必要がある」という課題設定があったとしましょう。これをデザイン思考として定義しなおすと、「10代の女の子が成長し、健康になり、成長するためには、栄養価の高い食品を食べる必要がある」という課題設定になります。

 このように、自分の希望や会社のニーズとして問題を定義するのではなく、相手の立場に則って問題を定義し、課題を設定することがデザイン経営にとって重要なのです。

 このステージでは、チーム内のデザイナーが素晴らしいアイデアを集めて、機能や特徴、その他の要素を確立していきます。少なくともユーザーが最小限の困難さで問題を自分で解決できるように修正を施していくことが重要です。解決策のアイデアを探すのに役立つ質問をすることで、第3段階であるIdeateへと進んでいきます。

 

ステージ3:アイデア出し – 前提条件の見直しとアイデアの創出

 ステージ2までのプロセスを経ていよいよ、アイデアを生み出す準備が整いました。最初の2つのステージで得た知識をもとに、「既成概念にとらわれない」発想をして、問題を解決するための別の方法を探し、作成した問題文に対する革新的な解決策を見出すことができます。

 ステージ3を実践する際の重要ポイント

 ここでは特にブレインストーミングが有効です。アイデア出しの最初の段階では、できるだけ多くのアイデアや問題解決策を得ることが重要です。

 

 問題を解決するため、あるいは問題を回避するために必要な要素を提供するための最良の方法を見つけるために、アイデア出しのフェーズの終わりまでに他のアイデア出しのテクニックを選択して、アイデアの調査とテストを行う必要があります。

ステージ4:プロトタイピング – ソリューションの作成開始

 このステージは、実験的な段階です。発見された問題に対して、可能な限り最善の解決策を見出すことがこのステージの目的となります。チームは、生成されたアイデアを調査するために、製品(または製品内の特定の機能)の安価なスケールダウンバージョンをいくつか作成する必要があります。

 

 まず不完全であってもアウトプットを行い、それを起点として対話したり、内省したりを繰り返していくことが重要です。デザインの世界では、試作品のことをプロトタイプと呼びますが、デザイン思考においては、不完全でも、手を動かしながら試行錯誤を繰り返して試作品を作っていく行為を「プロトタイピング」と呼んでいます。

 ステージ4を実践する際の重要ポイント

 デザイン思考の重要な要素の一つがこのプロトタイピングです。プロトタイピングは、アイデアをすぐにテストして、状況に適した手法で改善するプロセスそのものです。このプロトタイピングのプロセスは遊びに近いものとなります。

 

 プロトタイピングのプロセスでは、工作や積み木に近いプロセスで、手を実際に動かしたり、できたものに触ってみたり、壊したり見たりします。このように、プロトタイピングは、デザイン思考のステップの中でも重要なプロセスです。早い段階で、プロトタイプをユーザに試してもらい、素早く失敗することで、すぐ改善したりまた別のアイディアを考え試すことができるなど、経営プロセスにおいて、プロトタイピングというプロセスは非常に重要です。

 遊びながら学ぶということ

 デザイン思考でいうプロトタイピングは、遊びながら学ぶという位置付けです。遊びながら学ぶという行為には、最終的な目標というものがありません。意図せず手を動かしながら遊んでいるうちに、何かができたり、できたものを壊したりということを繰り返していきます。このプロセスを、デザイン思考ではプロトタイピングと呼んでいるのです。

 

 たとえば、小さな子どもの粘土遊びを横で見ていると、誰でも気づくことではありますが、明確なプランや計画のないままに手を動かして、そのプロセスのなかでアウトプット(プロトタイプ)に修正を加えていきます。彼らは、手を動かし遊びながら考えているのです。

 事業の現場に遊びを取り入れる

 ビジネスの現場においても、ブレーンストーミングをしてアイデアを出し、プロトタイピングとしてアイデアをかたちにしていきますが、このステージにおいては遊びながら学ぶという要素が極めて重要な意味を持っています。

 

 一緒に働く人からメモや整理されていない箇条書きを見せられたとしても、私たちはそこからその人が何を考えているのかを読み取ることは難しいと思います。しかし、プロトライプが目の前にあれば、少なくともそこには対話の場が生まれ、新しいアイデアや発見によってプロトタイプ(試作品)が完成するのです。

ステージ5:テスト-ソリューションを試す

 ステージ5では、試作品を評価者が厳密にテストします。これは最終段階ですが、デザイン思考は繰り返し行われます。チームはこの結果をもとに、さらに1つ以上の問題を再定義するケースが多いです。

 

ステージ5を実践する際の重要ポイント

ステージ5まできても、前の段階に戻って、さらに反復、変更、改良を行い、代替のソリューションを見つけたり除外したりしていきます。

 

5つのステップのまとめ

 5つのステージを通じて、これらのステージは連続したステップではありません。企業プロセスのなかには、デザインプロジェクト全体に貢献するさまざまなモードがあることを理解する必要があります。デザイン経営におけるデザイン思考が目指すのは、ユーザーとその理想的なソリューションや製品を最も深く理解することです。

 

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おわりに

 デザイン経営は、デザイン思考を事業プロセスのなかに組み入れた経営手法です。したがって、デザイン経営を実現するためには、事業プロセスの担い手である従業員に「デザイン思考」の考え方をきちんと理解してもらわなければなりません。

 デザイン経営はどんな事業を展開している企業であっても、どんな業界に属する企業であっても取り入れることができる経営手法です。デザイン思考を事業プロセスのなかに組み入れるということは、単にデザインの良いプロダクトを作ろうということではありません。それは、事業プロセスに関わるすべての従業員がデザイナーのように考えながらプロダクトを作っていくというプロセスなのです。

 

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