本人とメンターが合わなかったり、メンターと直属の上司が合わなかったりと、人と人の関係が密接になるメンター制度の運用は難しいものです。
「指導や相談役にあたる人間が直属の上司だけでは部下の逃げ場がなくなるからと、メンター制度を設けてはみたものの、なかなかうまくいかない」と頭を悩ませているマネージャーも多いのではないでしょうか。
ここではそんなメンター制度の悩みを解決するためのヒントを、3つの視点から紹介します。
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目次
メンターのあり方を「職場学習論」に学ぶ
東京大学教授の中原淳氏は、社会人にとっての職場は新たな知識や経験によって行動や認知の変化が起きる学習の場であるとして「職場学習論」を提唱しています。この理論では個人は他者との関わり合いの中で学習し成長していくとされます。中原教授が人材育成に効果のある、他者による職場内の学びのサポートの形として挙げているのは以下の3つです。
1. 精神支援:励ましたり、リラックスさせたりする。
2. 内省支援:仕事について客観的なフィードバックを与え、反省を促す。
3. 業務支援:仕事のやり方を教える。
このうちより高い成長を促進するのが以下のサポートです。
・ 「上司」による「精神支援」
・ 「上司」「上位者・先輩」「同僚・同期」による「内省支援」
・ 「同僚・同期」による「業務支援」
「上司」「上位者・先輩」「同僚・同期」のうちメンターに該当するのは「上位者・先輩」です。したがってメンターの役割というのは「内省支援」なのです。メンター制度が思ったような成果を上げていない組織は、メンターに精神支援や業務支援まで求めている可能性があります。もちろんメンターが精神支援や業務支援をやるべきではないというわけではありません。しかし職場学習理論よればメンターの最も重要な役割は、あくまで仕事について客観的なフィードバックを与え、反省を促すことなのです。メンターが優先的に時間や労力を注ぐのは、常にこの内省支援であるべきです。
また制度を効果的に運用するには、メンター自身がこの役割について理解するだけでなく、「上司」「同僚・同期」といった他者も自分自身の役割とメンターの役割を理解しておく必要があります。個人を取り巻く他者が、それぞれの役割を果たして初めて職場は適切な学びの場となり、メンター制度も「メンタル面のフォロー」「メンター自身の成長」「人を育てる企業風土の醸成」といった成果を上げるといえるでしょう。
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「タレント・マネジメント理論」から制度運用を見直してみる
2001年に米国マッキンゼー・アンド・カンパニーのチームが刊行した「The War for Talent」で有名になった「タレント・マネジメント理論」(日本では2002年刊行)は、組織は人材の「タレント」を把握し、そのパフォーマンスを最大化するような戦略的な教育や人事などを行うべきだとする理論です。
この場合のタレントとは才能、スキル、知識、知性、判断力、意識、性格、意欲を総合した技量だとされています。タレント・マネジメント理論からメンター制度を考えると、次のような問いが立てられます。
・ 上司はメンターとメンティ(メンターに指導を受け、相談をする人間)のタレントを把握できているか?
・ 上司とメンターは、メンティのタレントに関しての共通認識を持っているか?
・ メンターの指導力は十分であるか?
・ メンターはメンティのタレントを把握したうえで対応できているか?
こうした問いに一つずつ自答してみて問題があるようならば、上司はメンターとメンティのタレントを改めて確認する必要があるでしょうし、上司とメンターとの間でメンティのタレントについての共通認識を作る場を設けるべきかもしれません。メンターの適性を再確認し、別の人材と入れ替える可能性を検討するのもひとつです。
このようにして「タレント」という視点から制度運用を見直してみると、制度が機能不全に陥っている原因が見えてくるかもしれません。
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まとめ メンター制度は「廃止」が正解
「識学」というマネジメント理論に基づいて考えると、「そもそもメンター制度は廃止した方が良い」という結論になります。その理由は大きく2つあります。
ひとつは得てしてメンター制度はメンティにとって、直属の上司とメンターの両方から指示や指導がされる、いわゆる「2人上司状態」になりやすいからです。すると、どちらの指示を優先し、どちらの指導に耳を傾けるべきかという迷いが生まれ、混乱してしまいます。
もうひとつは本来の「上司」「部下」の機能が損なわれてしまうからです。仮にメンターがメンティから直属の上司の愚痴や不満を聞き、「君の言う通りだね」や「それは確かに上司が良くないな」などメンティへの同調やその上司の評価を行ったとしましょう。するとこのときメンティは「自分は上司を評価していいんだ」「上司の指示や指導を聞かなくてもいいんだ」と錯覚してしまいます。これは「上司の指示に従って結果を出すという役割を果たさなくていいんだ」という結論を出してしまうことにつながります。
本来「上司」の機能は「部下に指示や目標を与え、結果を評価すること」であり、「部下」の機能は「上司の指示や目標にしたがって、結果を出すこと」です。しかしメンター制度が引き起こす錯覚は、こうした組織の基本となる機能を損なうリスクを抱えています。したがって「そもそもメンター制度は廃止した方が良い」のです。
メンター制度には度々「教育・指導を手厚くして、部下の成長を促進する」「部下の逃げ場を用意して、離職を防ぐ」といった目的が設定されますが、メンティが「部下」としての機能を果たさなくなれば部下に上司の指示、指導を必ずしも聞かなくてよい環境を生み出し免責を与えることとなり、成長を妨げてしまい、離職の原因になります。
「上司」「部下」が本来の機能を果たすためにそれぞれの役割をしっかり理解させ、責任を正しく認識させる。「識学」というマネジメント理論によれば、それこそが部下の成長促進と離職防止に本当に有効な施策なのです。
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