嫌な上司や苦手な同僚、困らせてくる取引先ーー嫌な相手がいると気が重くなるものです。とはいえ、仕事上で、どうしても避けられないのが、苦手な人との衝突ではないでしょうか。たいていの職場には、どうしても1人や2人は困った人がいるものです。
サラリーパーソンでもフリーランスでも自営業でも、仕事は1人では完結しません。どんな人でも、必ず苦手な人とコミュニケーションを取らざるをえないシーンは出てきます。そしてプロジェクトが大きければ大きいほど、相手も巨大になってきて、敵も多くなっていきます。
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目次
他人に動いてもらう大原則とは
部下が動いてくれない、上司の考えが理解できない、そんな風に悩んでいる人は少なくありません。では、どうしたら、相手が変わってくれるのでしょうか。
自己啓発では古典的なD・カーネギーに「人を動かす」という名著があります。
彼の「こうすれば必ず人は動く」によれば、他人を動かすルールは
・他人を非難しないこと
・相手を褒めること
・自分の非を認めること
・相手の欲しがるものを与えること
・相手に敬意を表すこと
などです。[1]
そうは言っても、上司は嫌いだし、取引先も許せない。
どうしてあいつの言うことを非難しちゃダメなんだ、と納得いかない人もいるでしょう。
しかし、それなりのテクニックを使えば、案外相手を味方に引き込むことができ、仕事が楽になることもあるのです。
ここからは、具体的に「人たらし」たちが使っている極意を見てみましょう。
クレームの手紙は感謝から書け、という華人
筆者の知り合いに、マレーシア華人のお金持ちの方がいます。その方と一緒にマレーシアを旅行していたときのこと。旅行会社に依頼したバス会社の運転手が、帰りの高速道路で、うとうとと居眠りしたことがありました。何度か起こしたのですが、また寝てしまい、生きた心地がしません。
「これはクレームを入れよう」と言うことになり、華人の方が書いたメールを見せてもらったのです。そして一切、文句や不満が書かれていないのに驚いたのです。
「あなたとあなたのバス会社にはいつも感謝しています。けれど、先日、運転手は帰りの道で居眠りしていました。もしかして疲れているのではないでしょうか。彼をよく休ませてください。どうぞ今後もよろしくお願いします」というような内容でした。
ところが、バス会社からは丁重なお詫びが返ってきました。
これがクレームであることに気づいたのです。
私が最初にマレーシアのビジネス英語のクラスで「水道会社へのクレームを書く」という課題をしたときも同じでした。
中華系の先生が、「どんなクレームの手紙でも尊敬から書きなさい」というのです。相手に動いてもらおうと思ったら、最初に感謝を書きなさい、と。それから、言いたいことを絶対に怒りを見せずに続けなさい、ってことです。
このアドバイスは東南アジアのビジネスシーンで非常に有効でした。何か他人にやってもらいたいとき、最初に文句をいうのではなく、感謝を書く。その上で、「一つお願いしたいことがある」と切り出すと、相手は気持ちよく動いてくれます。
カーネギーが紹介しているエピソードと同じです。例えば、米国大統領だったリンカーンなども、厳しい叱責や断罪は、まったく無意味だということを知っていたので、怒りを使わず、相手に常に尊敬を持っていたそうです。[2]
でも日本では、どうなの。みんな怒りをぶつけていない? と思われる方も多いでしょう。元政治家で、現在、国立シンガポール大学リークワンユー公共政策大学院で兼任教授をしている田村こうたろうさんも、実現させたい制作がある場合には、理屈よりも感情を重視しろと言っています[3] 。
人は正しさよりも感情で動く、と。
苦手な人にこそリスペクトを
書籍によれば、日本の政治の世界でも、相手の気持ちを損ねないことは重要です。
田村さんは、苦手な人がいるときは、さらに丁寧に接するべきだと言います。永田町では一旦敵を作ると、その挽回はなかなか難しく、後々まで尾を引くのだと。
「アホ相手でも全く同じで、苦手な人間にはさらに丁寧に接するべきだ。絶対に批判したり、嫌いオーラを出したりしてはいけない。そしてリスペクトしているところを強調する。最後に相手の欲するものを相手の立場で考えて見つけ、それと自分の利害を共通のものとする。」[4]
要らぬところで敵を作ると、後々まで尾を引き、どこかで足を引っ張られる可能性があるのです。一時の議論に勝って相手をやり込めても、相手は後々までそれを恨んでいて、すっかり忘れた頃にやり返してくる可能性があるかもしれません。特にプライドが高い人は、いつまでもやられたことを根に持つかもしれません。
むしろ、共通の利害を見つけることが、最大のポイントになるというのです。
私にも失敗談があるのです。
これは仕事ではないのですが、地域の会合で、議論が紛糾した末に感情的な物言いをしてしまい、住民の1人(Aさんとします)と徹底的に対立してしまったことがあります。すると、その後、会議でどんなにまともな提案をしても、Aさんが意地になって反論してくるのです。
逆にAさんがどんなに建設的な提案をしても、感情的に、受け入れられなかったのです。こうなると、もう泥沼です。議論の内容はもはやどうでもよくなり「相手に勝つ」が目的になってしまうので。どちらかが賛成すれば、相手は反対する、と意地の張り合いになってしまいます。相手が嫌いなので、どんなに良い提案だなと内心思っていても受け入れられないのです。
いったん、この勝ち負けの状態に入ると、もうお互いが倒れるまで戦うことになってしまい、不毛です。本当は同じように社会に価値を出そうと思っているのに、ただの戦いで時間が不毛に使われます。
自分の思いは闊達に主張しない方がいい
「お客さんに良い品物を届けたい」「世の中の人をハッピーにする手伝いをしたい」など、集まりやビジネスにはたいてい、共通の目的があるものです。その共通目的を見つければ、相手との妥協点は見つかります。
自分の方が正しいのに、と思うと、相手をやり込めればいいと思うかもしれません。しかし、それでは実際に相手の気持ちを動かして、自分の思いを達成することができません。カーネギーは同様に「議論に勝って、全てを失うこともある」と警告しているくらいです。[4]
それには、胆力や自己の感情をコントロールする冷静さも必要です。感情というのは、一度火を付けると、どんどん暴走していくことがあります。このコントロール方法、残念ながら、日本の学校では教えてもらえません。
苦手な相手の欲するところを見つけ、相手が欲しいものを与えつつ、共通の目的を達成する。これを覚えておくと、職場でカッとなることも減っていくかもしれません。
まとめ
ビジネスには、経験や能力、目標に向かう強い力も必要ですが、同時に他人と協力する力も見逃せません。最後はどうやって何を達成するかが、結局はビジネスの究極の目的です。そして協力するためには自分の感情をコントロールして、相手を動かす力が重要になってくるのです。
参照
[1]出典:D・カーネギー。「こうすれば必ず人は動く」(Amazon Services International, Inc.)
[2]出典:D・カーネギー。「こうすれば必ず人は動く」(Amazon Services International, Inc.)
[3]出典:田村こうたろう「頭に来てもアホとは戦うな」(朝日新聞出版)
[4]出典:D・カーネギー。「こうすれば必ず人は動く」(Amazon Services International, Inc.)