『リーンスタートアップ』という言葉を聞いたことがあっても、その意味や導入のメリットを詳しくは知らない方もいるのではないでしょうか。
リーンスタートアップとは、分かりやすくいうと『無駄を省きながら顧客ニーズを満たすビジネスモデル』です。
しかし、その有用性が認められつつも、現代の変化には適合しない可能性も考えられてきたため、注意が必要です。
この記事では、リーンスタートアップの意味や流れ、時代遅れと言われる理由を紹介します。
最後までお読みいただき、企業に合うビジネスモデルを構築して市場でのポジションを確立しましょう。
目次
リーンスタートアップとは何か
リーンスタートアップとは、「痩せた」「細い」「効率的な」などの意味を持つリーン(lean)と、スタートアップを組み合わせた言葉です。
これらの意味により、ビジネスの場においては「無駄を省きながら顧客をより満足させる製品・サービスを開発するマネジメント手法」をリーンスタートアップと呼んでいます。
新しい製品やサービスを開発する際には、作り手の思い込みによって顧客にとっては価値を感じないような箇所に時間や労力、資源、情熱を使ってしまうことがあります。
このような無駄をなくし、スピーディで効率よく市場との適合性を探る概念として、リーンスタートアップが誕生しました。
リーンスタートアップを実現するためには、MVP(Minimum Viable Product)という概念を使います。
MVPは実用最小限の製品を指し、製品やサービスの仮説検証は、このMVPを定義・準備することでスピーディに行えるようになります。
リーンスタートアップの始まり
リーンスタートアップは、1979年生まれのアメリカの起業家であるエリック・リース氏が提唱しました。
ある時リース氏は、インターネットのコミュニケーションサイトを運営するベンチャーの立ち上げに成功しました。
その経験をもとにした起業のノウハウをまとめている際に、トヨタ生産方式を学び、共通点を見いだしたのです。
このことから、リーンスタートアップの考え方には、トヨタ生産方式の「無駄取り」の影響もあると考えられています。
リース氏が2011年に出版した書籍『The Lean Startup』はアメリカでベストセラーになり、日本でも2012年に翻訳版が出版されました。
以降、ビジネスシーンで大きなムーブメントとなり、世界中の企業でリーンスタートアップの考え方が活用されるようになりました。
リーンスタートアップの流れ
リーンスタートアップを行うには、ある程度決まった流れがあります。
ここからは、リーンスタートアップの流れを、4ステップに分けて紹介します。
ステップ1.仮説構築
リーンスタートアップの初期段階で最も大切なのは、ビジネスモデルに関する仮説の構築です。
その際に、以下のような2つの仮説を立てる必要があります。
- 価値仮説……どのような人にどういった価値を提供できるのか
- 成長仮説……製品を市場に投入することで、事業の成長が見込めるのか
これらの仮説を構築する際には、「リーンキャンバス」と「MVPキャンバス」というフレームワークを用いることが有効です。
リーンキャンバスとは、スタートアップや新規事業のビジネスモデルを可視化するためのフレームワークです。
顧客の設定や強み、課題の把握など9つの要素を1枚の用紙にまとめることで、ビジネスモデルの全体像を把握できます。
対してMVPキャンバスとは、新しい製品やサービスを開発する過程において、アイデアを明確かつ実行可能にするためのフレームワークです。
10の要素で構成され、仮説や目的、方法、リスク、コストなどを明確にします。
このような流れで仮説を構築した後は、完璧に仕上げるという考え方を脇に置き、実用最小限の製品を開発して顧客に試してもらえる状態にします。
ステップ2.計測・実験
仮説を設定したあとは製品を作成し、それを実際に市場に投入して顧客の反応を見ます。
実験では、売上や継続率など、成功の基準をあらかじめ定量的に設定します。
作成した製品は、アーリーアダプターと呼ばれる、流行に敏感で自ら情報収集を行い、判断している人々に提供して反応を見るようにしましょう。
顧客は自分にとって価値のある製品・サービスでなければお金を払ってまで導入しません。
そのため、アンケートやインタビューなどを用いて、ターゲットの声を精度高く収集することが大切です。
この際にポイントとなるのは、製品を全力で作成・PRするのではなく、まずはMVPのレベルで計測や実験を行うことです。
例えば、情報伝達のために最小限の内容で作られた「ランディングページ」や、パワーポイントのプレゼンテーションでもかまいません。
製品やサービスは仮説とは異なり、思うように顧客からの反応が得られない可能性もあります。
そのような際でも、MVPで制作しているのであれば、うまくいかなかった際の修正も容易です。
できる限り無駄をそぎ落としたMVPを市場に投入し、データを集めていきましょう。
ステップ3.学習
次に、収集したデータを分析し、仮説の検証結果を評価する段階へと移ります。
ここでの学習は、数値の確認に留まらず、その背景にある顧客の行動や心理を理解することを指します。
定量的なデータだけでなく、先に取得したアンケートや顧客インタビューなどの定性的なデータも重要な学習材料となるため、まとめておきましょう。
これらのデータを当初の仮説と照らし合わせ、MVPに改善を加えることで、より良いビジネスモデルを構築します。
特に、当初の予測と異なる結果が出た部分に注目し、以下のような内容を検討しましょう。
- なぜそのような結果になったのか
- どのような要因が影響しているのか
- 顧客はどこに不満を感じているのか
- 新たに求められる機能やサービスは何か
同時に、成功した施策についてもなぜ成功したのかを考え、次回に応用できるようにしましょう。
プロダクト以外のマネジメント手法やマーケティング施策に問題が潜んでいる可能性もあります。
学習の段階ではチームで事業の全体像を俯瞰しながら学びを共有し、次のアクションを成功させるための議論を行います。
ステップ4.再構築
次に、学習段階で得られた知見をもとに、ビジネスモデルや製品の再構築を行います。
この際、場合によってはビジネスモデルの根本的な見直し(ピボット)が必要になるケースもあるでしょう。
仮説、検証、学習とサイクルを回すと、製品やサービスをより顧客のニーズに近づけられます。
顧客から良い評価を得られるようになり、改良する部分が見当たらなくなれば、本格的に組織開発を始動させ、営業やプロモーションを行います。
リーンスタートアップは、再構築を行うことを前提としているため、あえてMVPを用いているのが特徴です。
大きな労力やコストをかけていないぶん、早期に何度もやり直しができるうえ、これまでのサイクルで得られた情報を全面的に活かして再構築できます。
サイクルを回すたびに優れた製品やサービスを作成できるようになるでしょう。
再構築の過程では大幅に方向転換する可能性があるため、チームのモチベーション管理も重要です。
失敗から学び、改善していくというマインドセットをチーム全体で共有すると、持続的な組織の成長につながります。
リーンスタートアップはどのようなビジネスモデルか
リーンスタートアップは、最低限の製品・サービスとなる「MVP」でコストを削減し、市場の反応を確認しつつ、損失がでないように事業を進めていくビジネスモデルです。
無駄を省いてリスク管理を行うとともに、経験や学習で優れたプランを構築し、成功を目指します。
このビジネスモデルでは、MVPで製品やサービスが市場に受け入れられるのかを判断し、改良を行うサイクルを短期間に繰り返します。
このような流れでスタートアップの成功率を高められるようになることから、注目されている考え方です。
リーンスタートアップとMVPのメリット
リーンスタートアップの活用を検討する際には、そのメリットを把握しておくとよいでしょう。
ここからは、リーンスタートアップのメリットを紹介します。
時間やコストを節約できる
リーンスタートアップとMVPによるアプローチを採用すると、開発コストを大幅に削減できます。
従来の製品開発では、完成度の高い製品を作り上げてから市場に投入するため、多大な初期費用や時間が必要になっていました。
その一方で、MVPでは必要最小限の機能に絞った開発を行うため、初期投資を抑えられます。
市場の反応を見ながら段階的に機能やサービスを追加していくため、結果として、開発コストや人件費、マーケティングコストなど、あらゆる面でコスト効率が向上します。
顧客の声を素早く反映できる
リーンスタートアップでは、MVPを通じて早期に実際の顧客からフィードバックを得られます。
そのため、顧客が本当に必要としている機能や改善点を直接把握し、それらを迅速に製品に反映できる点がメリットです。
それだけでなく、実際の使用状況やユーザーの行動データを収集すると、より正確なニーズ分析ができるようになるでしょう。
こうしたリアルタイムのフィードバックを繰り返すと、製品が顧客のニーズに合うようになります。
市場適合性を高めることにつながり、企業の利益やブランド力が向上します。
製品やサービスを素早く市場に提供できる
MVPを使ったアプローチでは、必要最小限の機能を備えた製品やサービスを作成することで、市場に投入するまでの時間を大幅に短縮できます。
こうした素早い市場投入により、ビジネスモデルの検証や市場ニーズの確認を早期に行えるようになり、必要に応じて方向転換もできます。
競争が激化している現代では、迅速に市場環境に適応し続けなければなりません。
MVPを活用するとスピーディに事業を回せるようになる結果、競合他社に対して優位なポジションを取れる可能性が高まります。
リーンスタートアップのデメリットとは何か
リーンスタートアップは導入することであらゆるメリットがもたらされる反面、デメリットもあるので注意が必要です。
たとえMVPといえども、開発に関するコストが高い場合は、検証や改善のサイクルを回す過程でコストが高くなってしまう可能性があります。
そのほか、顧客のニーズが素早く移り変わるようなサービスの場合も、改良を重ねていてもニーズに追いつくことは難しくなるでしょう。
リーンスタートアップは顧客からの声を製品やサービスに反映させていくビジネスモデルです。
顧客の声を意識しすぎるあまり、ブランドイメージと離れた製品やサービスを作成してしまうだけでなく、当初の目的から外れてしまうこともあるでしょう。
すると、長期的な成長を見込めなくなってしまう可能性があります。
このように、リーンスタートアップはどのような企業でも等しく使えるような万能性はありません。
これらのデメリットを把握したうえで、自社の戦略と照らし合わせ、企業に導入するとよいでしょう。
リーンスタートアップの成功事例
ここでは、リーンスタートアップの成功事例を紹介します。
株式会社オプティマインド
株式会社オプティマインドは、名古屋発の物流スタートアップ企業です。
ドライバー不足が深刻な問題となっている物流業界に対して、配送ドライバーの属人化を解消し、業務をサポートする新規サービスを開発しました。
同社はキックオフから約3ヵ月という短い期間で、ベータ版の配送業者向けドライバーアプリを開発。
実際のドライバーを対象として実証実験をおこない、操作性やデザインの課題を克服しました。
このようなアクションにより、プロジェクトの開始からわずか6ヵ月間という短い期間で、ネイティブアプリを完成させるに至りました。
メタ・プラットフォームズ
Instagramを運営するメタ・プラットフォームズ。今や人気のSNSであるInstagramは、「Burbn(バーブン)」という位置情報アプリがその前身でした。
当時は豊富な機能がありましたが、そのなかでモバイルにフォーカスしてブラッシュアップされていった結果、現在のInstagramができあがりました。
「Meta Marketing Summit Japan 2023」では、2019年には3,300万人であった国内の月間アクティブアカウント数が、4年のうちに利用者が著しく伸び、2023年にはその倍以上になっていると説明されています。
リーンスタートアップが時代遅れといわれる理由
リーンスタートアップは市場から素早くフィードバックをもらえるビジネスモデルですが、その一方で、時代遅れだと言われてしまうケースもあります。
ここでは、その理由を紹介します。
SNSによる拡散力や効率には敵わないため
昨今はSNSへの登録者数が伸びています。
リーンスタートアップは製品やサービスを素早く市場にマッチできるとはいえ、SNSを活用したインフルエンサーによる拡散や、キャンペーンでのPR効果には敵いません。
特に、Z世代やミレニアム世代をターゲットとする製品やサービスでは、SNSでの盛り上がりが市場投入の成否を決定する重要な要素となっています。
現在は顧客が製品やサービスを試し、気軽にSNSに書き込める時代です。
SNSに上げられた利用者の口コミをその場で評価し、改良を重ねたほうが精度が高まるという考えがあります。
また、SNSはアルゴリズムが変化しやすく、トレンドがすぐに移り変わるものです。
MVPの概念を用いた開発サイクルではSNSマーケティングが追いつかないという課題も指摘されており、リーンスタートアップが時代遅れだと言われているのです。
よりスピーディなモデルには敵わないため
リーンスタートアップは2011年に提唱されたビジネスモデルです。
現在に至るまでにビジネスの環境は変化し、昨今ではAI技術の発展により製品開発やマーケティングの効率が飛躍的に向上しました。
そのため、従来のMVPアプローチでは想定していなかったレベルでの迅速な製品改善や、市場投入が可能になっています。
また、現在では「ブリッツスケーリング」と呼ばれるような、スタートアップ企業が大規模な資金調達と積極的な投資によって、非常に速いスピードで事業を成長させ、市場をリードする経営手法が注目されています。
リーンスタートアップでアプローチをしている間に、ほかのビジネスモデルによって積極的な競合企業に市場を奪われてしまう可能性がある点に注意しなければなりません。
まとめ
時間やコストを抑えて顧客のニーズを満たす方法を探り、事業の成長を見込めるのがリーンスタートアップのメリットです。
仮説や検証、学習の過程で得られた情報を積極的に活用することで、継続した事業の成長を見込めるでしょう。
その一方で、現代はリーンスタートアップが提唱された時よりも、市場環境が複雑になっています。
こちらのビジネスモデルのみを導入していると、ほかの企業から後れを取ってしまう可能性があります。
環境や業界の動きを見ながら対応策を検討し、リーンスタートアップやSNSマーケティングなど、ビジネスモデルを柔軟に選択して活用しましょう。