事業を正式に進める前に、まずはリスクを検証したいもの。そんなときに用いられるのが、実現可能性を評価するフィージビリティ・スタディです。
フィージビリティ・スタディは、一般的なリスク評価に比べて非常に調査範囲が広く、多角的にリスクを評価できるのが特徴です。
本記事では、フィージビリティ・スタディのメリットや手順について解説していきます。ぜひ最後まで読んでみてください。
目次
フィージビリティ・スタディとは何か
フィージビリティ(feasibility)は「実現可能性」を意味する単語であり、フィージビリティ・スタディとは、事業の実現可能性を調査・評価することを指します。
ビジネスシーンでは、新規事業の実現可能性を調査する際に用いられることが多いです。
また、リスクを測定する方法であることから、調査範囲も広く、財務・技術・市場動向・運用・自社のブランドなど、さまざまな視点から実現可能性が検討されます。
このように、実現可能性について徹底的に調査することで、リスクを回避し、資金調達にも応用できるようになるのです。
フィージビリティ・スタディが重要視されている理由
フィージビリティ・スタディが重要視されている理由として、市場の不確実性が高まったことが挙げられます。
現在、テクノロジーが急速に進化したことに伴い、社会情勢の変動リスクが急激に高まっています。
そのため、新規事業を実施する前にフィージビリティ・スタディで、実現可能性を徹底的に調査するようになったのです。
また、資本主義が成熟した現代社会では、1兆円規模で新規事業を立案することも珍しくありません。
国内市場ではなくグローバルを想定しなければならないため、一定の規模で事業に取り組む必要があり、フィージビリティ・スタディを実施することで、投資精度が高まるのではないかと考えられているようです。
それと同時に、フィージビリティ・スタディで法律面や規制面での実現可能性を調査することで、今後もロビー活動の計画を立てやすくなるのも理由として大きいでしょう。
このようにフィージビリティ・スタディは、変化の激しい現代社会で大規模事業に取り組む際に有効な手法です。
フィージビリティ・スタディの始まり
フィージビリティ・スタディの始まりだとされているのが、1933年に設立されたテネシー川流域開発公社(TVA)です。
当時、アメリカの大統領だったルーズベルトは、ニューディール制作の一環として、テネシー川流域のダム建設を提案します。
その際の実現可能性の調査のために、テネシー川流域開発公社が設立されました。
結果として、テネシー川流域のダム建設は成功し、電力の供給や水質向上などの恩恵をもたらしました。
これ以来、国家レベルの巨大事業において、フィージビリティ・スタディが採用されるようになりました。
フィージビリティ・スタディのメリットとは
フィージビリティ・スタディのメリットは以下の通りです。
- 市場リスクを事前に確認できる
- プレゼンや文書作成に役立つ
- 事業の選択肢を絞り込める
フィージビリティ・スタディの最大のメリットは、リスクを事前に検証できることです。
事業の実現可能性を多角的に調査できるので、考えうるリスクを抽出できます。
そして、フィージビリティ・スタディで得られたデータは、そのままプレゼン・文書の作成に使えるため、ステークホルダーへの説明や、資金調達のためのプレゼンが効率的に進められるようになるのです。
また、フィージビリティ・スタディで事業を選別することで、事業の「選択と集中」にも繋がります。
フィージビリティ・スタディの流れ
一般的に、フィージビリティ・スタディは以下の通りに進められます。
- 新規事業の課題と目標を明確にする
- リスクを評価する
- 代替案を明確にして評価する
- フィージビリティを明確にする
それぞれ詳しく解説していきます。
①:新規事業の課題と目標を明確にする
まずは新規事業の課題と目標を明確にします。
その新規事業がどのような課題を解決し、何を目標にするのかを明確にすることで、リターンがハッキリと見えてきます。
例えば、1兆円の投資が必要だとしても、リターンが10兆円になるのであれば、ある程度のリスクを許容できるようになるでしょう。
また、フィージビリティ・スタディが実施されるような事業は、いずれも規模が大きいため、新たな利権や中抜きが発生する可能性があります。
そのような非効率的な運用を防ぐためにも、あらかじめ新規事業の課題と目標を明確にして、つけいる隙を与えないことが大切です。
フィージビリティ・スタディを実施する前に、まずは新規事業の課題と目標を明確にしましょう。
②:リスクを評価する
実際にフィージビリティ・スタディを実施する際は、以下の4つのフィージビリティを評価するのがいいでしょう。
- 技術的フィージビリティ
- 財務的フィージビリティ
- 市場でのフィージビリティ
- 運用面でのフィージビリティ
技術的フィージビリティでは、新規事業を成功させるための技術開発が間に合うのかどうかを検証します。
財務的フィージビリティでは、コストとリターンが見合ったもので、資金が枯渇する可能性がないかを評価します。
そして市場でのフィージビリティでは競合他社の動きや国際情勢を推測し、運用面でのフィージビリティでは現場目線でのリソースが足りるかどうかを検証するのです。
このように多角的にリスクを評価することで、考えられる全てのリスクを抽出できます。
③:代替案を明確にして評価する
新規事業を開始する前にフィージビリティ・スタディでリスクを評価できたとしても、実際に事業を進めていく上で、想定外の事態に陥ることもあります。
そこで、あらゆる事態に対応できる代替案を明確にして、評価することが大切です。
例えば、エコエネルギー事業のリスクを評価する際は、技術開発がどれくらい想定から遅れたら事業を停止するかをあらかじめ決めておきます。
また、バックアップとして原子力や化石燃料での発電を再開させるなど、リスクを補える代替案はいくつか考えられるはずです。
このようにバックアップ案を出した後に、それについてもリスクを評価することで、新規事業の対応力が強化されます。
④:フィージビリティを明確にする
あらゆるアプローチでリスクを評価したあとは、フィージビリティを明確にします。
具体的には以下の評価項目が考えられます。
- 技術
- 予算
- 適法性
- 運用面での実行可能性
- 期間
これらの評価項目を明確にした後は、それに基づいてサマリーを作成し、関係者や公式ホームページに共有します。
この際、リスクだけを評価するのではなく、それに見合ったリターンが得られるかどうかもサマリーに盛り込んだ方がいいでしょう。
事業は資金が枯渇しない範囲で、リターンがコストを上回れば充分に意義があります。それを表すため、リスクとリターンを明確にすべきです。
なお、サマリーはステークホルダーへの共有や投資判断に用いられるので、可能な限り分かりやすくするのがベターといえます。
難解なリスク評価も表やグラフなどで視覚化して、誰にでもわかるようにするといいでしょう。
フィージビリティ・スタディの成功事例
フィージビリティ・スタディの成功事例としては、営利企業に比べて規模が大きい政府関連の事業を参照するのがいいでしょう。
その一例として、文部科学省の「科学技術の社会実装教育エコシステム拠点形成事業」のフィージビリティ・スタディが挙げられます。
本事業は、Society5.0の実現に向けた高度技術人材の育成が目的で、そのためにフィージビリティ・スタディを実施する大学を公募で募集しました。
その結果、北海道大学・金沢工業大学・名古屋工業大学・埼玉大学の4大学が選ばれ、半年間に渡ってフィージビリティ・スタディを実施。
本事業のように、大規模事業を実施する前に小規模でテストを行い、そこから得られる知見を元にリスクを評価してみるのは、実践的なアプローチだといえます。
まとめ
本記事では、フィージビリティ・スタディについて解説してきました。
フィージビリティ・スタディは、事業の実現可能性を検証する調査のことです。
一般的には、大規模事業を開始する前に実施され、リスクを評価し、それを基にサマリーが作成されます。
サマリーは、ステークホルダーへの共有や投資判断に応用できるため、フィージビリティ・スタディを実施するメリットは、リスク評価に限りません。
そしてフィージビリティ・スタディの精度を高める方法として、ある程度の期間を設けて、テスト事業を実施することが挙げられます。
机上で終わらせるのではなく、実際に試してみることで、より実践的なリスク評価が可能になるでしょう。