「コンピテンシーとはどのような意味なのか」「自社でどのように活用できるのか」と思ってはいませんか。
コンピテンシーとは簡単にいうと、優れた成果を出す人に共通してみられる「行動特性」です。
変化の著しい現代において、その行動特性を用いた評価基準を作成することで、評価基準が客観的にわかりやすくなります。
この記事では、コンピテンシーが注目された背景や導入のメリット・デメリットを紹介します。
無理のないスケジュールを組んで導入し、長期的に安定して利益を上げられる企業を目指しましょう。
目次
コンピテンシーとは何?
コンピテンシー(competency)とは、優れた成果を発揮する人に共通してみられる「行動特性」です。
具体的な行動そのものではなく、行動のもとになる価値観や思考、性格などの要素が重視されます。
可視化しづらい部分であるため、以下の図のように氷山に例えて説明されます。
コンピテンシーを明確にするためには、自社で活躍する優秀な人材の思考や行動を観察・分析し、共通する要素の抽出が欠かせません。
抽出した要素を模倣することで、優れた成果を発揮する人と同様の、高い成果につなげられると考えられています。
成果につながる行動が具体化されるため、人材育成や評価など、ビジネスのあらゆる場面でコンピテンシーが活用されています。
コンピテンシーの歴史について
コンピテンシーとはもともと、1950年代に心理学の用語として使われていた言葉です。
その後1970年代前半に、アメリカの心理学教授であるマクレランド氏が行った調査を機に、人事用語として注目されるようになりました。
こちらの調査では、アメリカ国務省の外交官が持つ学歴や選考時に行われた試験の成績と、在職中の業績とで、さほど相関関係がないとわかりました。
一方で、相関関係があったのは、例えば「他人に前向きな期待を抱く」「異文化における対人感受性が強い」などの思考パターンや性格と結びついた共通の行動パターンです。
日本では成果主義の浸透により、1990年代頃から、コンピテンシーの概念を導入する企業が増加しました。
その後もあらゆる研究が進められ、コンピテンシー項目の構造化や「行動の目に見える部分は氷山の一角であり、実際に氷山を動かしているのはその水面下の大きな部分だ」という「氷山モデル」の考え方が生まれました。
コンピテンシーが注目された理由
日本では戦後長らく、勤続年数や年齢の上昇にともない賃金や職位が上昇するという、年功序列の賃金制度がとられていました。
しかし、実際には社員の能力が賃金に比例していないケースが多かったため、バブル経済崩壊とともに成果主義へ変更する傾向が高まります。
それにともない人事評価制度も成果主義に対応した内容にしようという動きがあり、能力やスキルだけでなくコンピテンシーに着目した評価が注目を集めました。
現代は労働人口が減少したことで、あらゆる立場の人が労働者として組織に迎えられ、多様な背景を持つ人がひとつの企業に集まるようになりました。
スキルや能力がさまざまな人材が集まることで、容易ではなくなったのが、人事評価や人材育成です。
そのため、コンピテンシーを取り入れてパフォーマンスが高い社員の行動特性を知り、それを社内で共有することで生産性の向上や、人材育成を図ろうとする企業が増えたのです。
コンピテンシーと似た意味を持つ言葉も
コンピテンシーは個人に使われる言葉ですが、似たような意味で組織に対して使われる言葉もあります。
正しく使い分けられていないと、社内で指示する際にあいまいに聞こえてしまうため、意味の違いを覚えておきましょう。
コンピテンシーと似た意味を持つ言葉に、以下のようなものがあります。
- スキル
- アビリティ
- コア・コンピタンス
- ケイパビリティ
順に解説します。
スキル
スキルとは、経験や努力を重ねて身につけられた能力・技能です。
一方でコンピテンシーとは、スキルを持っていることを前提として、それをどのように使おうとするかという行動や思考です。
例えば営業力やデザイン力はスキルに当たり、目標達成意欲や誠実さはコンピテンシーに当たります。
企業にとって重要なのは、個人が持つスキルを活かし、それを企業の成果につなげることです。
そのため、ただスキルを持っているだけではなく、それを活かすための行動がみられるかという点で、評価がされます。
アビリティ
アビリティとは、組織に対する専門用語であり「能力」「才能」「素質」「手腕」「効率」などを意味します。
これには、気付きや努力から身につけた後天的な才能や能力以外にも、もとから持っている先天的なものも例外ではありません。
スキルと似ていますが、スキルはマネジメントスキルやデータ分析力など高度なレベルであるのに対し、アビリティは仕事に向かう姿勢や効率化しようと考える力など、総合的な能力を指します。
アビリティは能力や才能そのものを指す一方で、コンピテンシーは思考や能力をアウトプットするための行動特性という点で違いがあります。
コア・コンピタンス
コア・コンピタンスとは、企業が持つ独自の強みを指し、他社が真似できない技術や製品特性などが、こちらに当たります。
Apple製品が持つデザイン性の高さや、ホンダの自動車やバイクが持つ「高性能エンジンの製造技術」がその例です。
これらはともに質が高く、模倣可能性が低いとされています。
一方で、コンピテンシーとは、個人がどのようにスキルを組織に対して使うかといった行動特性です。
コンピテンシーが個人に対して使われるのに対し、コア・コンピタンスは企業に対して使われる点で異なります。
ケイパビリティ
ケイパビリティとは、ビジネスにおいて「組織的な能力や強み」を意味する言葉で「組織力」に言い換えられます。
先ほど上げたコア・コンピテンスと似た意味を持つ言葉ですが、ケイパビリティは競争力や組織力など、組織成長の原動力となる力であるのに対し、コア・コンピタンスは技術力や製品力といった、部分的な強みという点で異なります。
他方で、コンピテンシーは組織に在籍するパフォーマンスが高い人に共通してみられる行動特性です。
ケイパビリティを高めるために必要な要素として、コンピテンシーがあるのだといえます。
コンピテンシーの活用シーン
コンピテンシーは企業において、あらゆるシーンで活用できます。
例えば、以下の場面で使うと、企業の成長にとってよい方向に作用するでしょう。
- 人事評価
- 人材育成
- 採用
順に解説します。
1.人事評価
コンピテンシー評価では、今まで明確な判断基準を提示することが難しかった業務プロセスに対し、客観的な判断を可能にします。
具体的な項目として、例えば顧客志向性や他者への支援、業務遂行力などが挙げられます。
評価の基準が明確になることで、客観的な評価が可能になり、評価を受ける側の納得感につながるでしょう。
従来、主観により評価が行われてしまう例もありましたが、コンピテンシー評価が導入されると、誰が評価しても結果がブレなくなる点がメリットです。
評価基準として使えるコンピテンシーを知りたい方は、以下の記事をお読みください。
関連記事:リーダーシップに重要な6つのコンピテンシーとは?スキルや能力との違いやコンピテンシーの活用方法も併せて解説
2.人材育成
社員に求める行動を企業が評価項目として明示すると、自社が求める人材を明確にできます。
どのような行動を行えば企業から評価されるのかをわかってもらえるため、社員の意識を高められるでしょう。
具体的な評価により、社員は自分自身の短所・長所を把握できるため、これから何に対して力を注いだらよいのかがわかる点がメリットです。
研修や通信教育と組み合わせることで、効率的な人材育成ができるようになると期待できます。
3.採用
コンピテンシーは、自社で活躍する人材に対する共通の行動特性を把握したうえで、その行動特性を持つ人材を採用することにも役立ちます。
コンピテンシーを把握するためには、現在活躍する優秀な社員を分析したりヒアリングしたりして、情報を詳細にまとめておくことが大切です。
スキルが同じ人材がいたとしても、その力を企業で発揮するために行動する人と、そうでない人とでは、企業での活躍具合が変わります。
コンピテンシー採用を導入して行動特性を見極めることで、企業の成長をうながしてくれる人材を見極めて採用しやすくなります。
コンピテンシー活用による4つのメリット
コンピテンシーを活用すると、以下のようなメリットがあります。
- 生産性が向上する
- 公平に評価できる
- 人材育成をしやすくなる
- 人材配置に活用できる
順に解説します。
1.生産性が向上する
コンピテンシー評価では、それぞれのコンピテンシーがレベル別で表されるため、社員が自分の弱みを把握できます。
例えばリーダーシップを発揮するのが苦手な場合、研修を受けたり日々経験を積んだりすることで、組織として必要なコミュニケーションを滞りなくとれるようになるでしょう。
その他の要素にも同様にアプローチすることで業務がスムーズに進むようになり、組織としての生産性の向上が期待できます。
2.公平に評価できる
コンピテンシー評価では評価基準が明確に提示されているため、評価者ごとのブレをなくした客観的な評価をしやすくなります。
評価基準が明確にないままだと、人間関係や評価を受ける側のモチベーションを考慮して評価を甘めにつけてしまうシーンがあるでしょう。
評価を受ける側も納得感を持てるような正当な評価ができるのが、コンピテンシーを活用するメリットです。
3.人材育成をしやすくなる
企業が求める人物像をコンピテンシー評価に反映させることによって、どのような行動をしたら評価されるのかがわかりやすくなります。
評価基準を社員に意識させてその項目を満たすための行動をうながせるため、人材育成がしやすくなる点もメリットです。
求める人物像が若干変化した際にもそれを評価基準に入れ込むことで、社内に評価される人物像を浸透でき、経営層と社員との目線を合わせられることが期待できます。
4.人材配置に活用できる
コンピテンシー評価のように、客観的で具体性のある評価基準を設けると「人材はどのような特性を持つのか」「どの人材が何に強い・弱いのか」を経営層が把握しやすくなります。
人材配置を決定する際には、現在のチームに足りない行動特性を持っている人をメンバーに迎えることで、チームの成長を促進できるでしょう。
チームの環境と人材とのミスマッチも防ぎやすくなり、離職の防止にもつながると期待できます。
コンピテンシーの活用にはデメリットも
コンピテンシー評価が導入されるとメリットがたくさんがありますが、時間と労力がどのくらいかかるのかを慎重に検討する必要があります。
例えば以下のようなデメリットがある点には、注意が必要です。
- 導入までのハードルが高い
- 環境変化に対応しなければならない
順に解説します。
1.導入までのハードルが高い
コンピテンシーを導入するまでに行うべきことはたくさんあり、時間と労力がかかる点に注意が必要です。
例えば、以下のようなことが必要です。
- 優秀な人材の選定
- 行動の抽出
- 分析・ヒアリング
- 評価項目の設定・レベル分け
- 人事施策へ盛り込み
導入するまでに経営層や人事だけでなく、現場で活躍する社員まで巻き込む必要があり、思い立ったらすぐにできるものではありません。
作成時はある程度組織に負荷がかかってしまう点に、留意しておきましょう。
2.環境変化に対応しなければならない
AIの登場や競争の激化、グローバル化と、企業を取り囲む環境は激化しています。
市場の変化に対して柔軟に対応するため、例えば、多様性の推進やAI技術の活用など、社員に対して新しいスキルの獲得や具体的な行動をうながす必要があります。
市場の変化が激しくなるほど、評価基準を見直す頻度も高くなり、その都度組織に時間や業務の負担がかかってしまうかもしれない点が、デメリットです。
コンピテンシーの導入を成功させるポイントとは?
優秀な人材に関する行動特性を絞りこみ、評価基準に落とし込む際に、どの要素を入れるべきか迷ってしまうケースがあるでしょう。
そのような事態を避けるため、作成者間であらかじめ導入の目的を共有しておくと、目的に沿った評価基準に優先順位をつけて適切に設定しやすくなります。
コンピテンシー評価を導入するのは短期では難しく、時間がかかってしまう点も心に留めておきましょう。
導入後も、社員が実際に評価を受け、成果を発揮するまでは時間がかかることを見込んだうえで計画を策定することが欠かせません。
中長期経営目標と照らし合わせてコンピテンシー評価を繰り返し行うと、企業の最終目標に掲げた理想と実際の組織や達成具合との乖離を解消できます。
関連記事:【導入方法】コンピテンシー評価とは?メリット・デメリットと人事評価への導入方法や注意点について解説
まとめ
時代の変化により、コンピテンシーを用いた評価基準が注目されるようになりました。
コンピテンシー評価を導入すると、企業が持続的に成長するための要素を客観的に提示でき、企業を成長させるために社員が取り組むべき内容が明確になります。
その結果、変化の速い時代でも企業として安定的な成長を遂げられるでしょう。
評価基準を作成するのに時間がかかる点は避けられませんが、今回紹介したデメリットを把握したうえで作成計画を立て、自社の安定的な利益確保につなげましょう。