もし、現在の人事評価制度に不満があるなら「360度評価」の導入を検討した方がいいかもしれません。
現在、360度評価は国内で非常に注目されており、最新の調査結果によれば約6割の企業が360度評価を導入しているようです。
ただし、360度評価は従来の評価制度とは異なる手法なので、入念にリサーチした上で、導入する必要があります。
本記事では360度評価について徹底解説しているので、ぜひ最後まで読んでみてください。
目次
そもそも360度評価とは?背景やメリットなどをおさらい
360度評価は、上司、部下、同僚などの複数の従業員が対象者を評価する手法です。
従来の人事評価制度では、上司が部下を評価するのが一般的でした。しかし、この方法では上司の意向によって公平な評価ができなくなる可能性があります。
一方で360度評価であれば、複数の視点で評価が下されるため、公平な評価内容になりやすく、評価対象者が納得しやすくなると考えられています。
また、360度評価は「公平な評価」だけでなく、複数人のフィードバックが得られることから、人材育成でもメリットが多く存在します。
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《2024年10月》360度評価の導入状況
株式会社シーベースが2024年10月に発表した「データでわかる!360度フィードバック導入状況」によると、調査対象全体(約1.5万)の約6割で360度評価が導入されているようです。
本調査によれば従業員が多いほど導入率が高まり、5,000人以上の企業の68%が360度評価を導入しています。
運用方法について見ると、もっとも多いのが「個人別結果のフィードバック」で、次点で「フォローアップ面談」「説明会の実施」「結果の読み解きフォロー」と続いています。
360度評価の実施目的
360度評価の実施目的としては、以下が挙げられます。
- 公平な評価
- 人材開発への活用
- 組織開発への活用
- 目標管理制度への活用
- 自社社員向け調査との連動
- ハラスメントの対応
- 昇格・降格制度の参考
360度評価の実施目的として、まず挙げられるのが「公平な評価」です。
従来の評価制度に比べて、360度評価は複数の視点で評価が決定されるため、評価対象者が納得しやすくなります。
一方的で不公平な人事評価は、従業員のモチベーションを大きく落としてしまうことがあります。
逆に言えば360度評価を導入することで、従業員のモチベーションを回復させることも可能です。
また、360度評価のフィードバックを元にした人材開発・組織開発への活用も実施目的として挙げられます。
360度評価では、さまざまな視点でフィードバックを受けられるため、それが人材育成で活用できるようです。
同時に、自社向け調査との連動やハラスメント対応など、自社の実態を探る上で、360度評価は有効だと考えられています。
なぜなら、マネージャーや経営者には見えなかったものが、360度評価で浮き彫りになることがあるためです。
このように360度評価は、さまざまな課題を解決できるポテンシャルがあります。
360度評価の活用メリット
360度評価の活用メリットは以下の4つです。
- 客観的に評価できる
- 評価に納得しやすくなる
- 改善点を発見しやすくなる
- エンゲージメントが向上する
それぞれ詳しく見ていきましょう。
活用メリット1.客観的に評価できる
360度評価のメリットとして、客観的に評価できることが挙げられます。
従来の評価制度では、上司1人によって評価が決定されるため、どうしても上司の主観が入りやすい現状がありました。
しかし360度評価では、複数人によって評価内容が決定されるため、客観的に評価できるようになります。
一般的に人事評価では、評価基準を均一化するために、主観的な意見を可能な限り取り除くことが大切です。
その点で360度評価は、主観的な意見を取り除きやすい評価制度といえるでしょう。
活用メリット2.評価に納得しやすくなる
360度評価のメリットとして、評価に納得しやすくなることも挙げられます。
従来の評価制度では上司1人の裁量で評価が決定されるため、評価対象者は「上司の好き嫌いで判断されているのでは?」というように評価内容に対して不信感を感じることがありました。
一方で360度評価では、複数人の評価が反映されるため、公平性が強くなり、評価対象者も評価内容に納得しやすくなります。
活用メリット3.改善点を発見しやすくなる
改善点を発見しやすくなるのも、360度評価のメリットです。
360度評価では直属の上司だけでなく、同僚、部下、他部署の上司など、多様な視点からフィードバックが得られるため、これまでになかった改善点を発見しやすくなります。
その結果、人材育成やキャリアプランの選択肢も増え、これまで以上の成長が見込めるようになるのです。
また、部下からのフィードバックを活かすことで、将来的に管理職に就くための心構えを養うこともできます。
活用メリット4.エンゲージメントが向上する
エンゲージメントが向上することも、360度評価のメリットとして挙げられます。
360度評価では従業員が評価内容に納得しやすくなるため、評価制度に不満を持つことが少なくなります。
また、上司だけでなく同僚や部下の意見を聞くにつれて、組織やチームに対する考え方も変わっていくでしょう。
その結果、自社に対する帰属意識が強まり、エンゲージメントが向上するようになります。
一般的に、エンゲージメントの高い従業員はパフォーマンスが高くなる傾向があるため、360度評価を取り入れることで組織全体の生産性向上も期待できるでしょう。
360度評価を導入・活用する際の注意点・ポイント
マネジメント職にとって、360度評価は普段聞こえてこない部下や他部署からの評価を聞けるというのがひとつの特色でしょう。
しかし、360度評価の声を真剣に聞きすぎると、「リーダーの信念がブレる」など、マネジメントの方向性に悪い影響を与える場合があります。
組織改善に360度評価を活用したいなら、次のポイントを意識するといいでしょう。
- 「360度評価は人事査定に影響しない」確固としたルールを設ける
- 回答結果は本人に見せない
- 360度評価は、情報収集や参考データとして割り切って使用する
360度評価は人事査定に影響しないルールを設ける
360度評価を組織改善に役立てたいなら「評価コメントは人事査定に影響しない」確固たるルールを設けるようにしましょう。
「〇〇は部下から信頼を得ていない」などのコメントを人事査定に反映させてしまうと、正直な意見が得られにくくなります。
場合によっては、上司から部下へ「いいコメントをするように」圧力をかけるケースがあるかもしれません。
また、この人事ルールは360度評価に携わるメンバーや上司すべてに開示する必要があります。
一人でも「そんなルールは聞いていない」部下がいると、正当な360度評価が行えません。
人事部の責任者は、組織内でルールを浸透させる仕組みを作るようにしましょう。
回答結果は本人に見せない
360度評価の結果は、評価対象者に直接見せないようにしましょう。
例えば、マネージャーへのコメントであればマネージャーには見せず、一段階上の部長にだけ公開するのも組織運営の面では効果的な方法といえます。
部下からの否定的なコメントを直接見てしまうと、上司のマネジメント指示がブレる可能性もあり、内容次第では組織運営に影響が出る場合もあります。
本人にコメントを見せないようにすれば、評価対象者は部下からの直接的なフィードバックのプレッシャーから解放され、より客観的な視点でマネジメントに集中できるでしょう。
ただし、評価コメントを見る上席自身は、コメントの内容だけで人事評価をしてはいけません。
あくまでも俯瞰的に物事をとらえ、参考情報として留めておくようにしましょう。
情報収集や参考データとして認識する
360度評価は、時には真剣に受け止めるべきではない場合もあります。
なかには「個人的なネガティブな感情」だけが先走り、信ぴょう性の薄いコメントも見受けられます。
360度評価のコメントは、組織内の傾向や問題点を把握するための参考データとして活用することが望ましいです。
「部下の〇%が否定的な感情を持っているのか?」程度の、ざっくりとした感覚でとらえておくといいでしょう。
360度評価のサーベイ・アセスメントツールの選定ポイント
360度評価を実施する際は、サーベイ・アセスメントツールが欠かせません。
サーベイ・アセスメントツールの選定ポイントとしては、以下の3つが挙げられます。
- 測定内容
- 調査結果の品質・精度
- 施策設計力・サポート体制
それぞれ詳しく見ていきましょう。
ポイント1.測定内容
サーベイ・アセスメントツールを選定する際に、まず検討したいのが測定内容です。
人事評価を実施する上で、どの評価項目を取り入れるべきかが鍵になります。
もし「この評価項目は、どうしても取り入れたい」というものがあったら、その評価項目が含まれるサーベイ・アセスメントツールを選ぶといいでしょう。
一方で、もし360度評価に対する知見がなく、特に評価項目も決まっていないのであれば、他の条件から適したサーベイ・アセスメントツールを選び、どのような評価項目を採用するかも含めてツールにおかませしてみるのも手です。
ポイント2.調査結果の品質・精度
サーベイ・アセスメントツールを選定する際は、調査結果の品質・精度にも注目しましょう。具体的には、以下の項目を確かめます。
- ストレスなく回答できるかどうか
- 似たような評価項目がないか
- 対象によって点数が異なるようになっているか
調査結果の品質は、PDCAサイクルを回し続けることで、改善されていく傾向があります。
そのため、導入実績が多いツールは、PDCAサイクルを多く回せている可能性が高いと言えるでしょう。
ポイント3.施策設計力・サポート体制
360度評価を作り込みたい場合は、施策設計力とサポート体制もポイントになります。
先ほども述べた通り、360度評価はPDCAサイクルを回すことによって、より品質が向上します。
そのため、360度評価は一度導入して終わりではなく、その都度で改善していく必要があるということです。
その際に、評価制度を新たに作り替える施策設計力や、豊富なコミュニケーションに基づくサポート体制が重要になります。
効果的な360度評価の導入・運用のポイント
360度評価を効果的に導入・運用するためのポイントとして、以下の5つが挙げられます。
- 導入目的を周知する
- テスト版を導入する
- 適切な回答者・回答人数を決定する
- 面談や1on1ミーティングでフィードバックする
- 評価項目は情意評価を中心にする
それぞれ詳しく見ていきましょう。
ポイント1.導入目的を周知する
360度評価を効果的に導入するために、まずは導入目的を周知するようにしましょう。
待遇や報酬が決定される評価制度は、従業員にとって非常に重要なイベントです。
その評価制度が大きく変更されるわけなので、導入目的を従業員全体にしっかり周知する必要があります。
周知の際は社内メールや説明会を実施するのがいいでしょう。
先に導入目的を周知するようにすれば、従業員に納得感を与えることができるので、トラブルを避けられるようになります。
ポイント2.テスト版を導入する
360度評価を本格的に導入する前に、まずはテスト版を導入するようにしましょう。
360度評価に限らず、新しい施策を社内で実施する場合は、一度テスト版を実施して、フィードバックを集めるのが得策です。
自社独自の課題や不満が顕在化することがあるため、本格導入する前に対策できます。
また、テスト版を導入することで、従業員の不安を解消できるメリットもあります。
360度評価の実施目的を周知している時点で、従業員から不満の声が上がった際は、テスト版を導入して不安を取り除くといいでしょう。
ポイント3.適切な回答者・回答人数を決定する
360度評価を運用する際は、適切な回答者・回答人数をあらかじめ決めておきましょう。
評価対象者を適切に評価できるのは、普段から関わりのある人に限られます。
一般的に6人から9人でチームを構成した方がいいと考えられていますが、無理に回答人数を制限する必要はありません。
企業環境やチームの状況によって、適切な回答者や回答人数は異なります。
それぞれのケースに合わせた回答者・回答人数を決定するといいでしょう。
ポイント4.面談や1on1ミーティングでフィードバックする
360度評価で算出された結果は、面談や1on1ミーティングでフィードバックするのがいいでしょう。
360度評価に限らず、人事評価制度の評価結果は、ただ受け取るだけでは意味がありません。
評価内容をさらなる成長のための足がかりにする必要があります。
そのために、評価対象者との面談の機会を設けて、建設的なフィードバックを実施するのがいいでしょう。
また、1on1ミーティングだけでなく、評価対象者を集めたミーティングを実施すると、新たな視点でフィードバックが得られることがあります。
ポイント5.評価項目は情意評価を中心にする
360度評価の評価項目は「情意評価」を中心にするといいでしょう。
一般的に、人事評価における評価項目は「成果評価」「能力評価」「情意評価」の3種類があります。
このうち成果評価と能力評価は、ある程度客観的な視点で評価可能です。
一方で情意評価は、評価者の主観が入りやすい領域となります。
360度評価であれば、上司だけでなく同僚や部下も評価に加わるため、評価対象者の勤務態度をより正確に評価できます。
360度評価を実施する際は情意評価を中心にするのがいいでしょう。
まとめ
本記事では360度評価について解説してきました。360度評価は、上司だけでなく同僚や部下が対象者を評価する制度です。
従来の人事評価制度に比べて、複数の視点で評価できるため、上司目線では見えなかった部分が評価できるようになります。
フィードバックを多く受け取れるなど、メリットが多い評価制度ですが、その一方で「工数が増える」などのデメリットも見受けられます。
360度評価を導入する際は、テスト版を実施するなど、入念に準備してから本格導入するといいでしょう。
そして、導入して終わりではなく、PDCAサイクルを回して改善し続けることが重要です。