組織作りとは、事業活動の屋台骨である文化・組織編成・人事システムを機能させ、一人ひとりが活き活きと働けるようにする取り組みを指します。
その中でも、チーム全員が理念とビジョンを共有し、共通のゴールに向かって動いている状態を「強い組織」と呼びます。強い組織を作るため、どのような取り組みが必要なのでしょうか。
本記事では、長く続く組織作りの基本や、良い組織に共通する3つの条件、強い組織を作るための原則や作業フローを詳しく解説します。
目次
組織作りとは?
そもそも組織とは、単なる人の集まり(集団)ではありません。組織は「コミュニケーションを通じて、共通の目的を達成しようとする集団」を指す言葉です。(※1)
したがって組織作りとは、メンバーの一人ひとりが同じ方向を向き、目標達成に向けて協働できるように環境を整備する取り組みを指します。
企業における組織作りは、文化・組織編成・人事システムの3つのキーワードで語られることが一般的です。
- 企業にとって好ましい文化・風土・社風を作る
- 一人ひとりの持ち味を活かす組織編成を作る
- 社員のモチベーションが高まる人事システムを作る
企業の文化は、社員一人ひとりの行動規範に影響を与えます。また、適切な人事システムを構築し公正な人事評価を行えば、社員の貢献意欲やモチベーションを高めることができます。
つまり、文化・組織編成・人事システムの3つの仕組みを活用し、企業の目標達成のために人を動かすのが組織作りの基本的な考え方です。
今後少子高齢化の進行により、日本国内の労働力はどんどん不足します。総務省の令和4年版情報通信白書によると、生産年齢人口(15~64歳)は1995年をピークに減少を続けており、2050年には5,275万人(2021年から29.2%減)に減少すると見込まれています。(※2)
限られた労働力を有効活用し、企業を継続的に発展させていく上で、その屋台骨となる組織作りは必要不可欠です。
(※1)参考:東京都中小企業振興公社. 「組織マネジメント」
組織作りの目的
組織作りの目的は、企業が達成すべき目標に向けて、社員を一つの方向に動かすことにあります。社員が全社一丸となって、同じ理念やビジョンを共有できている状態が組織作りのゴールです。
組織作りをさらに分解すると、以下の3点の目的が見えてきます。
- 共通の価値観や行動規範を作ること
- メンバーの一人ひとりの役割を明確化すること
- 全員のモチベーションを高い水準で保つこと
社員が価値観や行動規範を全く共有していない場合、そのチームは単なる人の集まり(集団)に過ぎず、共通の目的を持つ人の集まり(組織)ではありません。
成熟した組織は、社員が同じような雰囲気や空気感を漂わせていたり、他の企業にはない共通言語を持っていたりします。
組織作りの目的は、社員の考え方や物の見方の土台となる企業文化を導入し、まとまりのない集団を団結した組織に作り変えることにあります。
また、組織の内部構造や指揮命令系統を決めて、メンバーの役割を明確化するのも組織作りの目的です。
組織編成の一例として、営業、物流、製造、総務、経理などの機能(職能)ごとに部署を編成し、社員を配置する職能別組織が挙げられます。自社に合った組織編成の決め方については、後の項目で詳しく解説します。
さらには、社員全員のモチベーションを高い水準で保つことも、組織づくりには欠かせません。社員のやる気を維持できれば、仕事に対する持続的な熱量やエネルギーが生まれ、組織全体の生産性が高まります。
そのため、組織作りでは公正な人事システムの構築や、風通しの良い職場環境の整備などにより、社員のモチベーションを維持するための仕組みを導入します。
人材育成との違い
人材育成には、組織作りとよく似た部分もありますが、両者のアプローチは大きく異なります。
人材育成は、組織にとって必要な人材を育てるため、社員一人ひとり(個人)に働きかけるアプローチです。OJT、集合研修、自己啓発などの教育機会を通じて、個人のパフォーマンスを最大化することを目指します。
一方、組織作りは文化・組織編成・人事システムの仕組みを通じて、社員全体(集団)に働きかけます。個人のパフォーマンスというよりも、社内のコミュニケーションの円滑化や、組織の生産性を向上させるのが組織作りの狙いです。
良い組織の条件とは?
組織作りに取り組む上で、どのような組織が「良い組織」といえるのでしょうか。良い組織かどうかを判断する基準は3つあります。
- 長く残り続ける
- 世間に新しい価値を提供し続ける
- 社員が働きやすいと感じている
長く残り続ける
2020年のコロナショックや、国家間の紛争問題、AIやIoTといった新しいテクノロジーの登場など、ビジネス環境は日々目まぐるしく変化しています。良い組織は、社員一人ひとりが同じ方向を向いており、困難に直面しても互いに協働します。
そのため、ビジネス環境の急激な変化に直面しても、臨機応変に対応することが可能です。先行きが読めない時代の中でもしぶとく生き残り、長く残り続けるのが良い組織の特長です。
世間に新しい価値を提供し続ける
本当に良い組織は、自社の都合だけを考えません。2000年以降にCSR(企業の社会的責任)が再度注目を集め、本業を通じて利益を追求するだけでなく、いかに社会的課題の解決に貢献するかがテーマとなりました。(※)
例えば、自然環境に配慮した商品開発や、地域社会の暮らしと密接につながったプロジェクトなど、世間に新しい価値を提供し続ける企業は良い組織とみなされます。
※参考:ニッセイ基礎研究所.「日本におけるCSRの系譜と現状」
社員が働きやすいと感じている
良い組織に共通しているのは、社員の働きやすさです。社員が働きやすいと感じている組織は、モチベーションが高い水準で保たれ、生産性の高い組織作りにつながります。
例えば、以下のような組織は社員が心地よく働くことができるため、良い組織の特長に当てはまります。
- 労働環境が良く、ワークライフバランスが考慮されている
- 失敗を恐れず、チャレンジする風土が根付いている
- 年齢やキャリアにかかわらず、良い意見はどんどん採用される
- 社内の風通しが良く、上司と部下が本音で話すことができる
組織作りにおける5つの原則
優秀な人材がなかなか定着しない場合や社員のモチベーションが低い場合、組織作りの方法に問題があるかもしれません。組織作りがうまくいかない場合は、以下の5つの基本原則に立ち返ってみましょう。
権限・責任一致の原則
権限・責任一致の原則とは、「与えられた役割(職務)には、それに相応した権限が与えられるとともに、その権限と責任は同じ大きさで一致させること」を意味します。(※)
つまり、社員に与える権限とその責任を一致させ、アンバランスにならないよう調整するのが権限・責任一致の原則です。
例えば、与えられた権限に対して責任(義務)が重すぎると、社員が重圧を感じてモチベーションの低下を招く恐れがあります。一方、権限の大きさに比べて責任が軽すぎると、今度は権限の濫用や腐敗につながります。
社員に与えた権限に対して責任が重すぎないか、軽すぎないかをチェックしましょう。なお、若手社員に経験を積ませたい場合は、権限のみを社員に付与し、責任は上司が負うケースもあります。
命令統一性の原則
命令統一性の原則は、命令一元化の原則とも呼ばれ、指揮命令系統を一本化することを指します。
つまり、経営者が管理職を飛び越えて指示を出すといったことを禁じ、誰が誰に指示を出すのかを明確に決める考え方です。ほとんどの場合、直属の上司に指揮命令をさせる企業が一般的です。
組織形態によっては、一人の社員に複数の上司がつくことがあります。もし複数の上司が異なる命令を下した場合、社員は混乱してしまい、誰の指示を受ければよいか分かりません。
また、指揮命令系統が一本化された組織に比べて、管理職が育ちにくいという弊害もあります。現場の混乱を防ぐためにも、指揮命令系統は一本化するのが組織作りの基本原則です。
統制範囲の原則(スパン・オブ・コントロール)
統制範囲の原則(スパン・オブ・コントロール)とは、「一人の上司が有効に指揮監督できる部下の数」を適正化することを指します。(※)上司のキャパシティよりも部下の数が多すぎれば管理が行き届かなくなり、さまざまなトラブルの原因となります。
一方、部下の数が少なすぎる場合は上司の管理監督が過剰になるため、こちらも効率的な組織体制ではありません。
自分の業務と部下の管理を兼ねるプレイングマネージャーの場合、統制範囲が狭くなる傾向にあります。統制範囲の狭い管理職に対しては、業務負担の一部を軽減するための仕組みや、部下の育成力を高める管理職研修を受けさせるといった施策が効果的です。
専門化の原則
専門化は「仕事の分業化」と同義で、社員一人ひとりの能力に合った役割を与える組織作りです。社員は自分の役割に専念できるため、能力やスキルを効率よく成長させることができます。
また担当する業務の習熟度が上がるにつれて、ミスやトラブルが減ったり創意工夫によってブレイクスルーが生まれたりする効果も期待できます。組織の生産性を高めたい企業は、専門化の原則に基づいて組織作りをしましょう。
一方、人員に限りがある中小企業の場合、一人の社員が複数の役割を担うことが多く、専門化を進めると業務負担が増大します。中小企業が専門化に取り組む場合は、なるべく業務を簡素化し、複数の役割を同時並行で進められるような仕組み作りが求められます。
権限委譲の原則
権限委譲の原則は、管理職が自分の業務の一部を部下に任せることを指します。権限委譲の原則を採用する場合、業務のうち定型的なものを部下に任せ、例外的な業務は管理職が担当することが一般的です。
部下の特性に合った業務を割り振ることで、成長やスキルアップの機会を得られます。
一方、部下の同意を得ずに仕事を任せたり仕事の責任を一方的に追求したりすると、部下の不信を招く恐れがあります。優秀な人材の流出につながる可能性もあるため、権限委譲を行う前は部下と対話を重ね、本人の意志を確認しましょう。
組織作りのフロー
これから組織作りを始める場合は、以下の5つの流れで取り組みましょう。
- 組織の文化を作る
- 組織編成を決める
- 組織に合った人事システムを作る
- 改良を重ねる
- 社員たちに浸透させる
組織作りの第一歩は、社員の行動規範を決める組織文化作りです。その後、自社に合った組織編成や人事システムを構築し、社員を動かす仕組みを作りましょう。
組織作りは一度で完了する仕事ではありません。PDCAサイクルを回しながら、文化・組織編成・人事システムの3つを継続的に改良していくことが大切です。
また、全社一丸となって動く強い組織を作るには、社員とのコミュニケーションの機会を増やす必要があります。社員との対話を通じて、自社の理念や行動規範をしっかりと浸透させましょう。
1. 組織の文化を作る
まずは社員全員で同じ価値観や行動規範を共有し、組織の文化を作りましょう。組織の文化の例としてよく知られているのが、Googleが会社設立から数年後に策定した「Googleが掲げる10の事実」です。(※)
- ユーザーに焦点を絞れば、他のものはみな後からついてくる。
- 1つのことをとことん極めてうまくやるのが一番。
- 遅いより速い方がいい。
- Web上の民主主義は機能する。
- 情報を探したくなるのはパソコンの前にいるときだけではない。
- 悪事を働かなくてもお金は稼げる。
- 世の中にはまだまだ情報があふれている。
- 情報のニーズはすべての国境を越える。
- スーツがなくても真剣に仕事はできる。
- 「すばらしい」では足りない。
「Googleが掲げる10の事実」には、Googleの事業の一つである検索エンジンについての考え方だけでなく、社員一人ひとりが共有すべき行動指針が含まれています。
組織を立ち上げたばかりで、文化や企業風土が育っていない場合は、Googleの例のように行動指針のリストを策定してみましょう。その際は、以下の3点に留意することが大切です。
- 自社の経営理念と矛盾していないか
- 自社の目指すべきゴールの実現につながるか
- 社員が共感できる行動指針になっているか
2. 組織編成を決める
次に組織の構造を見直し、組織編成を決めていきます。主な組織編成には、職能別組織(ファンクショナル組織)、事業部制組織、チーム制組織(チーム型組織)の3種類があります。人員や社員の特性などを見ながら、自社に適した種類を選びましょう。
職能別組織
職能別組織とは、「製造、営業、総務などの機能を単位化した組織」を指します。部署が機能(職能)ごとに分かれるため、組織構造がシンプルで分かりやすいのが特長です。特に事業規模が大きい企業の場合、一つの部署が担当する業務内容が拡大します。
そのため職能別組織を採用し、一つの部署に一つの機能を割り振ることで、効率的な組織運営が可能です。また仕事の分業化により、社員が専門性を高めやすいというメリットもあります。
事業部制組織
事業部制組織は、多くの企業で採用されている組織編成です。例えば、自社の組織を「A事業部」「B事業部」「C事業部」などに分け、それぞれの事業部に独立して仕事を任せます。
事業部ごとに意思決定が行われるため、スピーディーな対応が可能で、責任の所在も明確になります。
ただし各事業部が独立しているため、部署の垣根を超えた協働が生まれにくいのがデメリットです。部署間の分断が進むと、セクショナリズム(縄張り意識)に発展する恐れもあります。
チーム制組織
チーム制組織は、必要に応じてチームを作ってプロジェクトを進行する組織編成のことです。例えば、Aプロジェクトを遂行する場合は「Aプロジェクトチーム」、B製品の開発が必要な場合は「B開発チーム」を作り、それぞれのチームが職務を遂行します。
一般的なチーム制組織の場合、目標を達成したら解散し新しくチームを編成するため、部署内の新陳代謝が活発になるのが特長です。組織編成が非常に柔軟なため、ビジネス環境の変化に強く臨機応変に問題を対処することができます。
一方、部署内に複数のチームが乱立するため、指揮命令系統が分かりにくいというデメリットもあります。
3. 組織に合った人事システムを作る
人事システムといっても、社員の自己統制が必要なMBO(目標管理制度)や、挑戦的なストレッチゴールを設定するOKR(目標と成果指標)、社員の行動特性を評価するコンピテンシー評価、上司以外に部下や同僚が評価者となる360度評価など、さまざまな種類があります。
人事システム(人事評価制度)を構築するときは、その組織の土壌に合った仕組みを導入することが大切です。
また、人事システムを新しく導入する場合は以下の3点に注意しましょう。
- 評価基準を曖昧にせず、定量的な評価も取り入れる
- 部署や役職ごとの業務内容を考慮して評価基準を変える
- 人事システムを導入する前に社員の意見をヒアリングする
4. 改良を重ねる
組織作りは一度の取り組みだけでは終わりません。組織作りの結果を分析し、継続的に改良を重ねていくことが大切です。また、その時々のビジネス環境によって、求められる組織のあり方は目まぐるしく変化します。
長く続く組織を作るには、PDCAサイクルを絶えず回して現状の組織作りの課題や対策を考えなければなりません。
組織作りの効果測定方法として、投下した資本に対する利益率を表すROI(Return on investment)を用いた方法や、組織作り前後の社員の離職率を比較した方法などが挙げられます。
5. 社員たちに浸透させる
組織作りを行っていく過程で、自社の理念やビジョン、行動指針を社内に浸透させることが大切です。例えば、以下のような取り組み例があります。
- 朝礼やミーティングで発信する
- 社内ポータルサイトに掲載する
- 人事評価の基準に反映させる
- サンクスカードを導入し、自社の理念に合った行動を褒める
文化・組織編成・人事システムの仕組みを構築して組織を作り変えるには、社員の理解を得る必要があります。社員の意見に耳を傾け、組織作りについての問題点をヒアリングする取り組みも効果的です。
長く続く強い組織作りを目指そう
優れた組織は、ビジネス環境の変化に直面しても、全社一丸となって乗り切ることができます。「100年企業」と呼ばれるほど長く続く企業を目指すには、文化・組織編成・人事システムの3点を整備し、組織作りに取り組む必要があります。
また強い組織を作るには、権限・責任一致の原則、命令統一性の原則、統制範囲の原則、専門化の原則、権限委譲の原則の5つの基本原則を守ることが大切です。
まずは文化の醸成に成功した企業などを参考にしながら、社員の価値観や行動規範の基となる組織文化の形成に取り組みましょう。
また、自社に合った組織編成や人事システムを導入し、PDCAサイクルを回して継続的に改善していくことも大切です。
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