経営資源には「ヒト・カネ・モノ・情報」の4つがありますが、その中で最も重要だと考えられているのがヒトです。
なぜなら組織は、ヒトによって成り立っているためです。
そしてヒトという経営資源を最大限活用するためには、人材育成が欠かせません。
本記事では、人材育成を成功させるための考え方や具体的な方法を紹介していきます。
人事担当者やマネージャーの方は、ぜひ最後まで読んでみてください。
目次
人材育成とは?
人材育成は、企業に貢献する人材を育成することを指します。
企業が長期的に成長するためには、人材を長期的な視点で育成していくことが欠かせません。
人材育成に似た言葉として、人材教育が挙げられます。
人材教育は、人材に対して知識やスキルを教えることです。
一方、人材育成は文字通り「教える」というよりも「育てる」という意味合いが強く、人材が自主的に育っていくようであれば、必ずしも上司が何かを教える必要はありません。
人材育成で考えた方がいいのは、どれだけ従業員が主体的に育っていくかです。
そのためには、上司が直接教えるだけでなく、自主的に成長しやすい環境を構築していく必要があります。
関連記事:人材育成におけるマネジメントとは?【成功のためのポイントも解説】
人材育成の考え方
人材育成で抑えておきたい考え方は以下の5つです。
- 短期的な視点ではなく長期目線で
- 人材育成の目的を見失わない
- 企業ではなく従業員ファースト
- 人材育成と人材評価はセット
- 個人に合わせた人材育成戦略を練る
それぞれ詳しく解説していきます。
関連記事:人材育成に必要なマネジメントの方法とは|必須スキルも徹底解説
考え方①:短期的な視点ではなく長期目線で
人材育成は、短期的な視点ではなく長期目線で考えていきましょう。
なぜなら多くの場合、人材は数年から数十年ほど企業に所属することになるためです。
また、人材を短期間で急激に成長させるのは至難の業だと言えます。
例えば「1年以内に公認会計士を取得する」という目標は、少々無理があるでしょう。
一方で「5年以内に公認会計士を取得する」であれば、かなり現実的な目標になります。
何事も、時間をかけることで成功確率がグンと高まります。
特に人材育成は、ただ特定のスキルを身に付けるわけではなく、長期的に企業の成長に寄与する人材へと育成するわけですから、ほぼ間違いなく時間がかかります。
最初から長期目線で取り組むようにするといいでしょう。
考え方②:人材育成の目的を見失わない
人材育成を実施する際は、あらかじめ目的を定めておき、それを見失わないようにするのがいいでしょう。
企業がビジョンを設定するように、人材育成でも方向性を定めておくのです。
そうしないと、何かセンセーショナルな出来事が発生した場合に、人材育成の軸がブレてしまいます。
近年だと、新型コロナウイルス拡大によるリモートワークの普及は、多くの企業を悩ませました。
人材育成の目的の例としては以下が挙げられます。
- 生産性の高い人材に育てる
- グローバルに活躍できる人材に育てる
- リーダー人材に育てる
あらかじめ目的を設定しておいて、その目的を見失わないようにすることを意識しましょう。
考え方③:企業ではなく従業員ファースト
人材育成では、企業を中心に考えるのではなく、従業員のキャリアを第一に考えた方がいいでしょう。
なぜなら、企業を中心とした人材育成だと、従業員のモチベーションが向上しづらくなるからです。
まずは、従業員との1on1ミーティングを実施して、どのような人材になりたいのかをヒアリングしましょう。
もちろん、従業員の意見を尊重しすぎると、企業が求める人材からズレすぎてしまうので、そこは上司がしっかり調整します。
日本社会では「総合職」という名目で、企業が一方的に従業員の職種を決めることがほとんどです。
しかしこれは、人材育成という観点では微妙だと言えます。
なぜならこの方法だと、従業員のモチベーションが上がりづらいからです。
企業ではなく従業員ファーストで人材育成を実施するようにしましょう。
関連記事:社員満足度、従業員満足度(ES)とは?事例や調査の方法、ES向上のための取り組みを紹介
考え方④:人材育成と人材評価はセット
人材育成と人材評価はセットで考えましょう。
どれだけ素晴らしい目標を考えても、相応のインセンティブを用意しなければ、従業員のモチベーションは高まらないものです。
特に人材育成は長期的なものなので、ついつい短期的な利益に目が眩んでしまいます。
そこで、定期的に人材評価を実施することで、従業員にインセンティブを与えていきましょう。
その際は、人材評価の内容次第で給与を変動させると、よりモチベーション高く、主体性をもって従業員も取り組めるはずです。
長期的な視点が必要になる人材育成に、短期目線の人材評価を組み合わせることで、従業員のモチベーションを維持するようにするといいでしょう。
考え方⑤:個人に合わせた人材育成戦略を練る
人材育成を実施する際は、個人に合わせたオーダーメイド型の人材育成戦略を練るようにしましょう。
なぜなら人は千差万別で、それぞれの従業員で強み・弱み・性格が異なるからです。
例えば、男性と女性とでは間違いなく戦略内容が異なってくるはずです。
女性従業員の場合は、産休でのサポートを考慮する必要があります。
あらかじめ、産休を踏まえた上で育成戦略を練ることができれば、計画通りに人材育成を進められる上、従業員も安心して産育休を取れます。
オーダーメイド型の人材育成は、1on1で対応する必要があるため、時間がかかるのがデメリットです。
しかし逆の見方をすると、1on1で対応できないのは、マネージャーの管理範囲が広すぎるということでもあります。
1on1で対応できるように人事配置を変更するのも検討するといいでしょう。
関連記事:1on1ミーティングの目的とは?成果のあがる1on1にするポイントを解説
人材育成を成功させるポイント
人材育成を成功させるポイントは以下の3つです。
- 組織の現状を見つめ直す
- 流行りの手法に惑わされない
- 人材育成計画を策定しておく
それぞれ詳しく解説していきます。
ポイント①:組織の現状を見つめ直す
人材育成を実施する前に、まずは組織の現状を見つめ直しましょう。
組織の強みと弱み、そしてこれからの方向性を考慮した上で、自社が求める人材を明確にするのです。
現状を見つめ直す際はSWOT分析を用いるといいでしょう。
- S:Strength(強み)
- W:Weakness(弱み)
- O:Opportunity(機会)
- T:Threat(脅威)
以下の4つの要素で、自社の外部環境と内部環境の現状を分析するのがSWOT分析です。
SWOT分析を実施すれば、伸ばすべきポイントと補うべきポイントを明確にでき、そのために必要な人材を洗い出すことができます。
関連記事:自社の「強み弱み」を知るならSWOT分析で【分析後の行動も解説】
ポイント②:流行りの手法に惑わされない
人材育成を実施する際は、流行りの手法に惑わされないようにしましょう。
人材育成に限らず、近年はユニークな経営手法が注目を浴びるようになっています。
しかしそれらの手法が、自社の人材育成にマッチするとは限りません。
このような経営手法は、あくまでも道具なので、目的であってはならないのです。
先ほども述べた通り、まずは人材育成の目的を明らかにする。
そして、そのために必要な人材育成の手法を選択していくのがいいでしょう。
ポイント③:人材育成計画を策定しておく
人材育成を確実に成功させたいのであれば、人材育成計画を策定しておくのがいいでしょう。
計画を策定する際は、可能な限り悲観的になった方がいいかもしれません。
京セラ創業者の稲盛和夫は、新しいことを成し遂げる際に「楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する」ということが大切だとしています。
つまり、自分のなりたい人物像を楽観的に考えた後、計画を策定する際は悲観的になることで、あらゆるリスクを排除するということです。
計画を策定する際は、あらゆるリスクに対応できるようにバッファを設けるようにするといいでしょう。
関連記事:人材育成計画の作成方法とは?理想の人材が育つ計画の立て方やポイントを解説
人材育成の5ステップ
人材育成を進める際は以下の5つのステップを踏んでいきます。
- 現状分析
- ビジョン策定
- 計画策定
- 運用
- 振り返り
それぞれ詳しく解説していきます。
ステップ①:現状分析
まずは自社の現状を分析します。
先ほど紹介したSWOT分析などを活用して、自社の強み・弱みや、何がチャンスになり得るのかをしっかり分析します。
また、従業員にヒアリングして、具体的にどのような人材が不足しているのかを明確にしておくのもいいでしょう。
ステップ②:ビジョン策定
現状を分析した後は、ビジョンを策定します。
10年後、15年後の長期的な目標を設定し、そのために必要な要素を明らかにするのです。
そうすることで、自社が求める人材を明確にできます。
また、自社の将来の理想像と現場のギャップを理解しておくことも大切です。
ステップ③:計画策定
ビジョンを策定したら、実際にそのビジョンを達成するための計画を策定します。
先ほども述べた通り、あえて悲観的になることで、あらゆるリスクを想定しておくことが大切です。
特に人材育成においては、途中で転職・退職・休養する可能性も考えられます。
1人1人の従業員に対して計画を策定するのはもちろんのこと、マクロ目線での人材育成計画も策定しておくと、さらに安定感が高まります。
ステップ④:運用
計画を策定したら、実際に運用してみます。
先ほども述べた通り、実際に運用する際は、楽観的になるのがいいでしょう。
余計なことを考えずに、人材育成の運用に集中できます。
また、人材育成のプログラムを自動化するために、従業員に浸透させることも大切です。
あらかじめスケジュールやマニュアルを作成しておき、人材育成計画をスムーズに運用できるようにしましょう。
ステップ⑤:振り返り
実際に運用した後は、振り返りを実施します。
やはり、実践してみないとわからないことはいくつもあります。
途中で課題が浮かび上がることもあるでしょう。
定期的に振り返りを実施して、何が良くて何がダメだったのかを整理します。
また、現場の従業員にもしっかりヒアリングするのがいいでしょう。
人材育成の成功事例3選
ここでは、以下の3つの企業の成功事例を紹介していきます。
- スターバックスコーヒー
- 北上信用金庫
- ユニ・チャーム
それぞれ詳しく見ていきましょう。
事例①:スターバックスコーヒー
世界中にチェーン店を構えるスターバックスコーヒーは、人材育成において3つのステージがあるとしています。
それは「自己存在の証明→自分に対する期待感→他者への影響」です。
そして従業員のエンゲージメントを高めるために、以下の4つのOJTを段階的に実施しています。
- ミッションへの共鳴
- ビジョニング&ロールモデル
- コーチング&フィードバック
- 内発的動機の醸成
また、具体的な手法を見ていくと「パフォーマンスマネジメントシート」と呼ばれるものに「個人の成長目標」と「パフォーマンスに関する目標設定」を従業員に記入してもらうそうです。
こうすることで、自分がなりたい人物像を明確にし、かつ企業にも貢献できるような人材育成を実施することが可能になります。
事例②:北上信用金庫
岩手県にある北上信用金庫は、地域社会に寄り添う人材を育成するために、新入職員に対して手厚い研修を実施しています。
具体的には、まず入庫前に研修を実施して社会人としての教養を身に付け、入庫4年目までに金融の基本知識・技術を習得させます。
そのうえ、通信講座、書籍、資格取得のサポートも充実させているようです。
2023年6月には、全役職員を対象にDX人材の育成に乗り出しました。
以上のように、手厚いサポートを提供することで、従業員の自主的な成長を促しているのがわかります。
事例③:ユニ・チャーム
ウェルネス商品を販売するユニ・チャームは、人材育成を経営課題のナンバーワンに挙げ、「共振の経営」という独自の経営手法を実施しています。
共振の経営とは、経営層と現場の従業員の意見が振り子のように飛び交う経営スタイルのことで、これを可能にできる人材を「共振人材」と呼んでいます。
また、様々な働き方を模索する過程で、2017年の時点でリモートワークにも取り組んでいました。
そのため、2020年の新型コロナ禍でもスムーズにリモートワークに移行できたそうです。
まとめ
それでは本記事をまとめていきます。
- 人材育成は企業に貢献できる人材を育成すること
- 企業ファーストではなく従業員第一の人材育成を実施した方がいい
- 流行りの手法に惑わされず、長期目線で人材育成に取り組んだ方がいい
人材育成は、考え方次第で内容も結果も大きく変わってきます。
特に、時間をかけて長期目線で実施していくことが大切です。
目先の利益に惑わされず、辛抱強く人材育成に取り組めるかどうかで、10年後に大きな差ができてくるでしょう。