職場でのコミュニケーション不足は、人間関係や業務遂行に悪影響を及ぼします。
コミュニケーションが活発でない職場は、従業員にとって仕事に集中できる環境とは言えません。
このように適切なコミュニケーションは組織において必要不可欠ですが、特に近年、テレワークの拡大や人材のグローバル化、ダイバーシティなどによって「アサーティブコミュニケーション」が注目されています。
本記事では、コミュニケーション能力の向上につながるアサーティブコミュニケーションの意味と、活用するメリット・デメリット、トレーニング方法について詳しく解説します。
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目次
アサーティブコミュニケーションとは
アサーティブコミュニケーションとは、相手を尊重しながら、自分の気持ちや意見を表現するコミュニケーションスキルの一種です。
「アサーティブ」は英語でAssertiveと綴り、意味は「断言的な」「言い張る」などの形容詞です。
「アサーティブな態度」「アサーティブな伝え方」などもアサーションコミュニケーションと同じ意味で使われています。
アサーティブコミュニケーションは、4つの柱に支えられています。
- 誠実:自分自身に正直になることで、相手にも誠実になれる
- 率直:遠回しではなくストレートに、相手に“伝わる”言葉にする
- 対等:上から目線でも卑屈でもなく、態度も心の中も対等に向き合う
- 自己責任:言った責任、言わなかった責任は、自分が引き受ける
アサーティブコミュニケーションは、企業における個人のコミュニケーション能力向上になるだけではなく、企業全体の生産性の向上にもつながる、理想的なコミュニケーションスキルです。
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アサーティブコミュニケーション以外の自己表現スタイル
自己表現法には、さまざまなスタイルが存在します。
本章では、アサーティブコミュニケーション以外の自己表現スタイルとして以下の3つを解説します。
- アグレッシブ(攻撃的)
- パッシブアグレッシブ(作為的)
- ノンアサーティブ(受動的)
1.アグレッシブ(攻撃的)
アグレッシブなコミュニケーションは、自分の考えや感情を相手に強く押し付けるような自己表現スタイルです。
相手の気持ちや意見を尊重できない会話になることが多く、会話を支配する傾向にあります。
相手が話しているのに割り込んできたり、態度が威圧的だったりする場合はアグレッシブなコミュニケーションである可能性が高いです。
アグレッシブなコミュニケーションを取る相手には、威圧を感じずに冷静的に対処したり、会話を終えるタイミングを見極めたりするのが効果的です。
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2.パッシブアグレッシブ(作為的)
パッシブアグレッシブなコミュニケーションは、遠回しに自分の気持ちや意見を伝え、相手をコントロールしようとする自己表現スタイルです。
表面は納得しているように見えても内面では攻撃的な意見や気持ちを持っていて、不貞腐れた態度を取るなど、言葉ではなく行動で示す自己表現をします。
パッシブアグレッシブなコミュニケーションを取る相手には、要望を明確に伝えたり、相手の行動や態度について面と向かって言ったりするのが効果的です。
3.ノンアサーティブ(受動的)
ノンアサーティブなコミュニケーションは、自分の考えや気持ちを相手に伝えないで、相手に従ってしまうような自己表現スタイルです。
相手の気持ちを尊重し気遣うことができますが、自己表現をしないことからストレスが溜まりやすい傾向にあります。
ノンアサーティブなコミュニケーションを取る相手には、率直な意見を求めたり、こちらの表現を改めたりしてコミュニケーションを図るのが効果的です。
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アサーティブコミュニケーションのメリット3つ
企業や組織でアサーティブコミュニケーションを活用するメリットは多数あります。
その中でも、特に経営陣、従業員に共通するメリットを3つ解説します。
- コミュニケーションが活性化する
- ストレスが原因となる離職を防げる
- 職場環境が改善できる
1.コミュニケーションが活性化する
従業員の働きやすさのためにも、アサーティブコミュニケーションは重要です。
アサーティブコミュニケーションによって社内のコミュニケーションが活発となれば、情報共有がスムーズになり、業務の効率化につながったり、良好な人間関係が築けたりします。
コミュニケーションが活性化するとチームワークも強化され、最終的には生産性の向上にもつながるでしょう。
2.ストレスが原因となる離職を防げる
アサーティブコミュニケーションが根付き、経営陣や従業員のコミュニケーション能力が向上すれば、ストレスが原因の離職を未然に防げます。
特に受動的なコミュニケーションスタイルの従業員がいる場合、思うように自己表現ができずにストレスが溜まりやすくなっているかもしれません。
アサーティブコミュニケーションができれば、こういった課題の解消につながります。
アサーティブコミュニケーションを身に着けるためには、全従業員に対して研修やトレーニングを行うことが大切です。
3.職場環境が改善できる
アサーティブコミュニケーションによって改善が見込まれる職場環境というのは、組織や人事、仕事上の人間関係、物理的なレイアウトや労働時間、作業方法などが含まれます。
特に上司と部下の双方がアサーティブコミュニケーションを身に着けている状態であれば、遠慮なく上司に意見が言えたり、部下の意見を尊重して指示が出せたりできるでしょう。
アサーティブコミュニケーションによって職場環境がよりよいものになれば、ハラスメントの防止にもつながり、従業員にとっても働きやすい職場へ変わっていくはずです。
アサーティブコミュニケーションのデメリット3つ
相手を尊重した自己表現スタイルであるアサーティブコミュニケーションは、一見してメリットばかりのようですが、そうではありません。
以下の3つの観点から、アサーティブコミュニケーションのデメリットを3つ解説します。
- 自分の感情や思考の整理に時間や労力がかかる
- 相手に不快感を与えたり反感を買ったりする可能性がある
- 自分の要望が満たないことがある
1.自分の感情や思考の整理に時間や労力がかかる
アサーティブコミュニケーションが身についていても、感情や思考を整理して意見にするまでには時間がかかる可能性があります。
特にアサーティブコミュニケーションに対する理解が浅い場合や、今までの自己主張スタイルと大きく異なる場合などは、スムーズにアサーティブなコミュニケーションを取るのは難しいでしょう。
自身の中で一度感情や思考を整理し、どういった伝え方をすべきか、考える時間が必要となります。
研修や勉強会を行ってアサーティブコミュニケーションに対する理解を深めたり、人前で練習してもらったりと、アサーティブコミュニケーションを習慣づけるのをおすすめします。
2.相手に不快感を与えたり反感を買ったりする可能性がある
アサーティブコミュニケーションは、相手を尊重しながら自分の意見や気持ちを表現したり提案したりするコミュニケーションスキルです。
他のコミュニケーションスタイルにおいても同様のことが言えますが、自分の意見や提案が相手にとっては不快だったり、反感を買ってしまったりすることもあります。
もちろん、相手の反応によって自分が傷ついてしまう可能性もあります。
アサーティブなコミュニケーションを実践した上で、その結果についての責任は自分が取るということも大切です。
3.自分の要望が満たないことがある
アサーティブコミュニケーションでは、自分の意見や気持ちを率直に表現しますが、相手を尊重することも必要です。
そのため、自分の要望が通らない可能性もあります。
相手の反応や気持ちはコントロールできません。
相手のありのままを受け入れ、あくまでも自分は「アサーティブコミュニケーションを意識している」「アサーティブコミュニケーションを実践している」という姿勢でいることが大切です。
アサーティブコミュニケーションのトレーニング方法
主なアサーティブコミュニケーションのトレーニング法には、以下の2つがあります。
- DESC(デスク)法
- アイメッセージ
DESC法・アイメッセージは、ともにアメリカの心理学者が提唱した主張やコミュニケーションのトレーニング法です。
ぜひ参考にしてみてください。
DESC法
DESC(デスク)法は、自分の要望を4つの段階に分けてコミュニケーションを取る「問題解決のアサーション(アサーティブなコミュニケーション)」です。
日常のコミュニケーションのほか、たくさん仕事を頼まれてしまった時や、相手との予定がどうしても合わない時などにも応用できます。
「DESC」は、4つの段階を表す英単語の頭文字を取った言葉です。
4段階それぞれにあてはめた英単語の意味を簡単に解説します。
- D=Describe
- E=Express
- S=Specify
- C=Choose
Describe(描写する)
「Describe」の段階で、相手の言動や現在の問題の状況を客観的に「描写」します。
たとえば、相手と予定がどうしても合わない時。
「その日は無理かも」と断るだけではなく「その日は○○があり、都合がつかないです。」と自分が置かれている状況を描写します。
○○に入るのは仕事かもしれませんし、私用かもしれません。
相手に先約があると認識してもらうことで、自分と相手の双方で共通の認識が得られます。
Express(表現する)
「Express」の段階では、Dで明らかとなった客観的な描写に対し、自分の気持ちや意見を「表現」します。
表現の段階で「私」を主語に残念だ、物足りない、嬉しいなどといった感情を率直に伝えます。
相手の気持ちや感情を考えて、伝えてみるのもよいでしょう。
「せっかく候補日を挙げてくれたのに、予定が合わなくて残念です。」というように、感情的にならずにパーソナルな想いを伝えることが大切です。
Specify(提案する)
「Specify」は、問題解決のために「提案」するフェーズです。
「○月○日はいかがですか」「他に候補日を挙げてもらえれば、予定を合わせます」などと具体的で現実的な提案をします。
「できるだけ」や「なるべく」などの曖昧な表現は避け、何をどうして欲しいのか、どうしたいのかをフラットに伝えるのがポイントです。
依頼や妥協案となる場合もあるでしょう。
Choose(選択する)
「Choose」の段階では、Sで提案が通らなかった場合に新たな「選択肢」を提示します。
Sの段階で提案が通れば、問題ありません。提案が通らなかったとき、たとえば「その日は都合がつかない」や「先の予定はまだわからない」などの「ノー」に対して選択肢を用意します。
相手を脅したり、言いくるめたりせず、相手が選択できる判断材料を渡すことを考えましょう。
アイメッセージ
アサーティブコミュニケーションは、アイメッセージというトレーニング法でもトレーニングが可能です。
アイメッセージでは、自分の気持ちや感想を「私は〜」(Iamの意)という形で伝えます。
この時、自分は気持ちや感情を伝えるだけで、判断や選択は相手が行うというのが、アイメッセージの特徴です。
アイメッセージの反対はユー(You)メッセージです。
ユーメッセージでは、自分の気持ちや感情を「あなたは〜」の形で伝えるので、相手に選択肢が残らず「責められた」「命令された」と受け取られてしまいます。
アイメッセージの注意点は、感情をぶつけるために使ったり、指示を付け加えて伝えたりしないことです。
アイメッセージによるトレーニングは、職場だけではなく、家庭や子どもに対してもアサーティブなコミュニケーションが取れるようになります。
アサーティブコミュニケーションはトレーニングで身につく
本記事では、アサーティブコミュニケーションの意味やメリットとデメリット、トレーニング方法を解説しました。
企業や組織でのアサーティブコミュニケーションの実現には、アサーティブコミュニケーションを学ぶ機会や実践の機会を設けることが大切です。
アサーティブコミュニケーションスキルを身に着け、人間関係や職場環境の改善、従業員の生産性向上のために活用していきましょう。