1on1というと、バスケットボールの1対1対決のように、スポーツの場面を連想する方も多いのではないでしょうか?
ビジネスシーンにおける1on1はスポーツとは異なり勝敗を競うものではありませんが、「通常、集団で行う行為を二人きりで行う」という意味では共通しています。
この記事では、企業などで1on1のミーティングを行う目的やメリット、仕事上の成果につながる実りある会話にするためのポイントなどについてお話ししていきます。
目次
1on1ミーティングとは何?実施の目的について
1on1ミーティングとは、上司と部下の間で行われるマンツーマンのミーティングです。
「上司と部下が1対1で話すことは日常的にあるけど、それも全部1on1ミーティングなの?」と感じられるかもしれません。
ですが、1on1はただ単に上司と部下が1対1で話すことを指すわけではありません。
以下、「1on1ミーティングの目的」と「人事評価面談との違い」についてお話しします。
1.1on1ミーティングの目的
一番の目的は、上司と部下との間で信頼関係を構築することです。
1対1のコミュニケーションの中で、普段の業務の中では打ち明けられない内容を話してもらうことで、上司と部下の間の絆を深めます。
また、1on1ミーティングは部下の成長とキャリア開発をサポートする重要なツールでもあります。
面談を通じて部下の隠れた能力やポテンシャルを発掘し、それらを引き出して仕事の成果につなげられるようにするにはどうしたらよいか、考えるきっかけとなるのです。
2.人事評価面談との違い〜「指導」というより「コーチング」に近い
人事評価面談と1on1ミーティングは、その目的と進行方法において異なります。
人事評価面談は、部下の業績を評価し、将来の昇進や報酬に影響を与えるためのもので、上司が評価者となり部下が評価対象となる形です。
一方、1on1ミーティングは「指導」よりも「コーチング」に近いアプローチを取ります。
上司は部下の意見や感想を引き出し、その思考を深め、新たな視点やアイデアを生み出すための手助けをします。
あくまでも「能力開発」や「メンタルのケア」を目的としていることを理解しましょう。
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1on1ミーティングを導入するメリット
1on1ミーティングを導入する主なメリットとして、以下の3点があげられます。
- 部下との信頼関係強化
- 部下の成長促進
- 部下のモチベーション・ロイヤリティ向上
以下、順番に説明します。
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1.部下との信頼関係強化
個室の中で1対1で話すことを通じて、ふだんの業務中だとなかなか話せない部下自身の考えや感情、心配事を素直に話せる場を提供します。
そして、このような心情を打ち明ける部下に対して、上司がそれを真剣に聴き、理解しようとする姿を見せることが、部下からの信頼を築くことにつながります。
2.部下の成長促進
1on1ミーティングは部下の成長を促します。
部下にとって、業務の最中だとなかなか聞く機会のない業務上の疑問について、上司とのミーティングを通してじっくりと質問し、疑問を解消することができます。
そして、それを通して業務のスキルを高め、定着させることが可能です。
また、業務上のスキルよりももっと根本的な潜在能力の開発にも役立ちます。
上司は部下自身も気付いていないポテンシャルを見つけ出し、本人に「キミにはこんな面があるよ」と教えてあげることで、部下本人が自らの隠れた資質に気付き、伸ばそうとするきっかけを与えることができるのです。
3.部下のモチベーション・ロイヤリティ向上
1on1ミーティングは、業務へのモチベーションと組織へのロイヤリティ(忠誠心)を向上させるのに役立ちます。
スポーツの世界でも「One for all, All for one(一人は皆のために、皆は一人のために)」という言葉があります。
人間は「自分を気遣ってくれる人がいる」という実感がもてる時、組織やコミュニティへの帰属意識が高まり、貢献したい、何か役に立つことをしたい、という気持ちを持つことができます。
1on1ミーティングを通じて、「自分の意見が尊重されている」「自分の成長を願ってくれる人がいる」と実感してもらうことで、モチベーションやロイヤリティを引き出すことができるのです。
1on1ミーティングが注目される理由
1on1ミーティングは、まさに現在のビジネス環境だからこそ注目を集めています。
具体的には、以下の2つが挙げられます。
- より激しさを増す環境変化のスピード〜VUCAと呼ばれる時代背景〜
- 年々高まる人材確保の必要性
順番に見ていきましょう。
1.より激しさを増す環境変化のスピード〜VUCAと呼ばれる時代背景〜
現代社会はVUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)という4拍子が揃った環境下にあります。
これらは元々、ビジネス環境というより東西冷戦後の複雑化した国際関係の特徴を表す、地政学分野の用語だったようです。
ですが、現在はビジネス環境においても、かつてと違って「消費者の好みの多様化」「“規模の経済”による大量生産の優位性の消失」「情報技術の急速な進化による環境変化」などが重なり、複雑性を増し、変化が加速しています。
このように変化の激しい状況では、従来のような「“頭の良い人”が皆をリードする」というようなトップダウン式の組織での対応は、どうしても環境変化への対応の遅れにつながってしまうのです。
いち早く変化に適応するためには、現場の一人ひとりが「自分が変化の予兆を見つけるんだ」というスタンスを持ち、そして変化に気づいた人からの報告は役職や立場を問わず尊重されるという「ボトムアップ式」の組織である必要があります。
上司と部下の間で定期的に行われる1on1ミーティングは、現場の社員が感じている課題を共有し、未来の不確実性に対応するための戦略を立てる場となるのです。
2.年々高まる人材確保の必要性
現代の経済状況では、優秀な人材を確保し、その人材を組織内に留めることが企業の成功にとってますます重要です。
人材が企業の最も重要な資源であるとされる現在、そのスキルや能力、モチベーションを最大限に活用することが求められています。
社員が自分自身の成長を実感し、自分の意見が重視され、自分の仕事に価値を見出すことができる環境を提供することは、社員の帰属性やモチベーションを高め、離職率の低下にも寄与するのです。
1on1ミーティングは、そのような環境を構築するうえで最適なツールとして活用されています。
1on1ミーティングで話すべき内容は?
これまで、人事評価のための面談や業務関連の話し合い以外の目的でマンツーマンの話し合いをしたことがないと、「部下との1on1ミーティングでは一体何を話せばいいんだ?」という疑問が生じるかもしれません。
ここでは、1on1ミーティングで話した方がよい内容として、以下の4つをご提案します。
- プライベートの話〜深入りはせず、アイスブレイクとして〜
- 将来的な目標
- 心身の健康状態について
- 業務上の悩み
以下、順番にお話しします。
関連記事:1on1ミーティングの注意点
1. プライベートの話〜深入りはせず、アイスブレイクとして〜
1on1ミーティングでプライベートな話題に触れることは、相手を理解し、信頼関係を築く上で重要な要素です。
例えば、趣味や家族についての軽い話題は、1on1ミーティングの冒頭に取り入れると、緊張をほぐし、よりオープンな雰囲気を作ることができます。
しかし、あくまでプライバシーを尊重し、あまりに深く掘り下げることは避けるようにしましょう。
これは一種のエチケットでもあります。
2.将来的な目標
将来的な目標について話すことは、部下のキャリア成長に直結する重要なトピックです。
部下が自分自身をどのように見て、将来何を成し遂げたいと思っているのかを理解することで、上司はその人に適した役割や成長機会を提供できます。
また、業績に関わる話だけでなく、組織が自分自身の未来を応援してくれようとしていることを実感することで、組織へのロイヤリティが高まる効果を期待できます。
3.心身の健康状態について
部下の心身の健康は、その人のパフォーマンスに直結します。
ストレスや過度なプレッシャーは生産性を下げ、長期的にはモチベーションを損なう可能性があるため、なるべくとりのぞくべきです。
そのため、上司としては部下の心身の健康状態を定期的に確認し、必要に応じてサポートを提供することが求められます。
4.業務上の悩み
部下が業務上で抱えている課題や悩みは、仕事の効率性や成果に直接影響します。
問題点を把握し、解決に向けて一緒に考えることで、部下のメンタル面をサポートすることにつながります。
また、業務上の課題を解決するプロセスを通して、部下自身が「困難を克服する」という成功体験を積むことも重要です。
これにより、自己効力感を向上させる手助けをすることができます。
1on1ミーティング導入の具体的な方法
1on1ミーティングの導入方法に迷ったら、以下のステップで進めていきましょう。
- 実施目的の明確化・周囲への告知
- 「傾聴」を意識した質問項目の設定
- 面談担当者のトレーニング
- ミーティング内容の記録化
1.実施目的の明確化・周囲への告知
まずは1on1ミーティング導入にあたって、実施する意義やメリットを組織全体に理解してもらいましょう。
そのために、実施の目的を明確化し、ミーティング相手の部下だけでなく、組織全体に周知することが重要です。
目的が明確であれば、新しい試みとして1on1ミーティングを導入することへの理解が得られるはずです。
2.「傾聴」を意識した質問項目の設定
「傾聴」は1on1ミーティングにおける最も重要なスキルの一つです。
これは、単に相手の話を聞くだけでなく、相手の意見や感情を理解し、尊重する態度を示すことを指します。
1on1ミーティングを担当する上司側が「傾聴」の重要性を十分理解していないと、面談中に業務上の注意を始めてしまったり、ノルマの達成状況などについて問い質してしまう可能性があるので、くれぐれも「傾聴」のスタンスを徹底させることが大切です。
とはいえ、それまでの人事評価面談に慣れた上司にとってみれば、「いきなり傾聴を心がけてくれと言われても難しい…」と感じるかもしれません。
そこで、事前に「傾聴」を意識した質問項目を考えてから1on1ミーティングに望むようにするといいでしょう。
3.面談担当者のトレーニング
1on1ミーティングを効果的に行うためには、面談を担当する上司自身が必要なスキルを持っていることが求められます。
傾聴スキルはもちろん、フィードバックの与え方などを身につけることで、1on1ミーティングの成果を高めることが可能です。
定期的なトレーニングや研修を実施し、これらのスキルを向上させることをおすすめします。
4.ミーティング内容の記録化
1on1ミーティングを実施して、「いい雰囲気で話せたなあ」で終わってしまうのではなく、部下が話してくれた内容を記録し、必要に応じて後から振り返ったり、役職者間で共有できるようにしましょう。
記録を残しておくことで、その後の部下の成長を追跡したり、以後の指導へと活かすためのヒントとなり得ます。
まとめ
1on1ミーティングは、上司と部下の信頼関係を深めるための手段であり、部下の成長やキャリア開発をサポートする重要なツールです。
人事評価面談とは異なり、「コーチング」に近いアプローチを採用し、部下の能力開発やメンタルケアを目的としています。
1on1ミーティングの導入を通じて、部下との信頼関係強化、部下の成長促進、そして部下のモチベーションとロイヤリティの向上が可能です。
特に、変化の激しい現代の環境や、人材確保の必要性の観点からも、1on1ミーティングの導入には多大なメリットが期待できるでしょう。