社会人として企業の中で働く人々にとって、セルフマネジメントの能力はきわめて重要です。
特に近年はリモートワークが普及し、自宅やカフェなど、オフィス以外の場所で働く機会が増えています。
そういった環境下で、自分自身の時間やタスクを自己管理することが求められるとともに、セルフマネジメントの重要性も一段と高まっています。
「いわゆる“根性”や“やる気”とは何が違うの?」と思われるかもしれません。
この記事では、セルフマネジメントの意味や、従来から言われていた“根性”との違いから、社員がセルフマネジメントの能力を備えるメリットと習得のためのトレーニング法などについて説明していきます。
目次
セルフマネジメントとは?
セルフマネジメントとは、一人ひとりが自身の時間、エネルギー、リソースを自己管理すること、あるいはそのスキルを指します。
これには、時間管理、タスク管理、ストレス管理、自身の言動の客観視などが含まれています。
セルフマネジメントは、一人ひとりが自分の仕事にどのように取り組むか、どのように時間を適切に使うか、どのようにリソースを効果的に活用するかという決定に深く関わるものです。
そのため、セルフマネジメントを極めることにより、社員としてのパフォーマンスを最大化し、自身の仕事に責任を持つことができます。
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セルフマネジメントと“根性”の違い
セルフマネジメントは、「自分を律する」能力を指します。
具体的には、自分の時間やエネルギー、リソースを最適に管理し、目標達成のための計画から実行まではもちろん、結果を自分自身で客観視して改善・修正するという、いわゆるPDCAのサイクルを自己完結する能力です。
PDCAを回す過程では、時間管理能力、タスク管理能力、ストレス管理能力、自己を客観視する能力などが必要になります。
もちろん、くわえて自律性と責任感も重要でしょう。
一方で“根性”は、いわゆる精神的なタフさや持続力を表現する言葉であり、個人が直面する困難や挑戦に対する意志力と抵抗力を意味します。
上記のような要素はセルフマネジメントにも含まれていますが、一方で「根性があればセルフマネジメントなんて意識しなくてもいいのか」というわけではありません。
というのも、“根性”には「適切な自己管理」や「自己評価の技術」は必ずしも含まれていないからです。
つまり、日本の会社や組織、学校教育の中で強調されてきた“根性”という美徳には、どちらかというと「受動的に困難に耐える能力」という側面が強く、主体的に計画を立てたり、自分の行いを客観視して修正するという要素は強調されてきませんでした。
セルフマネジメントの概念で重要視されているのは、まさにこの「主体性」や「自省する力」なのです。
企業が競争力を持つためには、「ただ言われたことしかできない」社員よりも、「主体的に考え、自己を律して軌道修正しながら成長する」社員が必要という認識が普及してきています。
そういった社員を育成するには、“根性”よりも“セルフマネジメント”を重視するのは自然な流れでしょう。
これに伴って、社員教育の方法にもアップデートが求められます。
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社員がセルフマネジメントを習得するメリット
セルフマネジメントの習得は、組織全体はもちろん、個々の社員にとってもさまざまなメリットをもたらします。
以下が主なメリットです。
- 生産性の向上
- 組織の柔軟性
- リーダーシップの強化
- リモートワークの質の向上
ここからは、それぞれについて説明していきましょう。
1.生産性の向上
社員がセルフマネジメントのスキルを備えることで、自分自身のタスクを効率的に管理できるようになります。
それにより、目標に向かって一貫した努力を行うようになるでしょう。
こういった社員の能力の向上は、組織全体の生産性向上につながります。
社員が自身の時間とリソースを有効活用する能力を持つことで、仕事のこなすスピードとクオリティの両面が向上し、より大きな成果を期待できます。
関連記事:生産性向上の成功事例集5選|必要性と具体的な施策を解説
2.組織の柔軟性
組織がセルフマネジメントスキルを備えた社員を多く抱えることで、「トップダウン型」の組織から「ボトムアップ型」の柔軟な組織への変革を果たすことができます。
柔軟性に優れた組織であれば、環境の変化や予期せぬ問題があった場合でも、トップの命令を待たずとも、社員が自律的に対応するようになるでしょう。
3.リーダーシップの強化
セルフマネジメントの能力は、リーダーシップスキルの基礎でもあります。
そもそも同僚や部下や後輩など、他の人々を導くためには、まず自分自身を律する力を持ち、「背中で語る」姿を見せることがとても重要です。
また、他者へ的確なアドバイスをするためには、自分自身が感情に左右されない冷静さ、客観的判断力を持つことが求められます。
自分自身の仕事と時間を管理する能力を持つ社員であれば、リーダーシップポジションに就いた際、チームやプロジェクトを適切な方向へ導いてくれるはずです。
4.リモートワークの質の向上
リモートワークが普及する中、セルフマネジメントのスキルは仕事の質を維持、向上させる上で不可欠です。
リモートワークという働き方は、通勤による時間的・精神的負担のカットや、感染症がオフィス内で蔓延するリスクの防止につながります。
また、会社の所在地に縛られず日本中・世界中の優秀な人材に参加してもらえることなどもメリットでしょう。
しかし一方で、自立心がある社員でないと集中力やコミットを維持するのが難しいというというのは、大きな問題となっています。
新型コロナウイルスの流行時にリモートワークを実施し、そのメリットを実感した企業の中にも、社員のコミットを維持するという課題を克服できず、通常出社へ戻すことを検討している会社は少なくありません。
そこでやはり、社員がセルフマネジメントの資質を備えているかという点が重要となります。
セルフマネジメントスキルは、ただ仕事においてコミットを維持するだけでなく、仕事とプライベートのバランスを保つことを助け、長期的に働きやすい環境を作り出すことにも寄与します。
セルフマネジメントをトレーニングする方法
次に、社員にセルフマネジメントを習得させるための具体的なトレーニング法について見ていきましょう。
トレーニングは、以下のステップで進めていきます。
- 目標設定のトレーニング
- 時間管理スキルの強化
- フィードバック・自己反省のトレーニング
- ストレスマネジメントのトレーニング
順番に見ていきましょう。
1.目標設定のトレーニング
目標設定のための手法としてはさまざまな種類のフレームワークが存在しますが、その中でもセルフマネジメントにつながる方法として有効なのが「SMART」です。
SMARTは「Specific(具体性)、 Measurable(測定可能性) Achievable(実現可能性)Relevant(ゴールとの関連性)、 Time-bound(時間との関連性)という要素からなります。
社員が目標を設定する際、この5つの要素に則った目標を設定するよう指導することで、適切な目標設定を行う習慣を身につけさせることができます。
2.時間管理スキルの強化
時間管理に役立つテクニックとして、ポモドーロテクニック(タイマーを用いて集中する時間と休憩時間を交互に設ける時間管理術)やタイムブロッキング(一日の活動時間を細かくスケジューリング時間管理術)などの方法が挙げられます。
社員に対して、こういった有用な時間管理法を教え、「タイムマネジメント研修」のような形でそれらを適用する練習を行いましょう。
これにより、社員は効率的に時間を使い、必要なタスクを計画して、一日の生産性を最大化する方法を学ぶことが可能になります。
関連記事:「時間管理のマトリックス」の本質とは?コンサルの的外れなアドバイスを事例に解説
3.フィードバック・自己反省のトレーニング
このプロセスでは、自己評価と自己改善のスキルを養うことを目指しています。
まずは、社員が自分自身のパフォーマンスを客観的に評価するスキルを学びます。
自己評価のためのフレームワークやツールを使用して、自分の行動、成果、そして挑戦を考察するのです。
その上で、社員同士で一定期間の活動にフィードバックを与えあう機会をセッティングします。
社員は他の人々からフィードバックを受け取ることで、自分の視点だけでは気づくことのない見方を補完し、見識を広げることが可能となるでしょう。
「自己の行動を正当化する思考バイアス」は多くの人にあるものです。
しかし、客観的なフィードバックを受け入れる訓練を通して思考のバイアスを少しずつ修正していくことで、他者の視点に基づいて行動を改善できるようになるでしょう。
これらの訓練は、社員が自己評価と自己改善のスキルを習得し、成熟したプロフェッショナルとして自己管理の能力を高めるための機会となります。
4.ストレス耐性のトレーニング
ストレスへの耐性を高めるための訓練方法には、犯罪者の更生プログラムとしても活用されている認知行動療法などが効果的です。
このようなトレーニングを通してストレス耐性を社員に身につけさせることで、社員は仕事のストレスを軽減し、困難な状況の中でも精神衛生を保って行動できるようになります。
まとめ
セルフマネジメントは、個々の人が自身の時間やエネルギー、リソースを効果的に管理する能力を指します。
セルフマネジメントのスキルを習得することで、各個人の仕事のパフォーマンスを高めるだけでなく、組織全体の業務効率や生産性、また不確実な事象への対処能力を向上させるなど、さまざまなメリットが期待できます。
また、今日の多くの職場で必要とされるリモートワーク時の集中力やコミットメントの強化にも効果的です。
セルフマネジメントスキルのトレーニングを行うことで、社員は成熟したプロフェッショナルとしての自己管理能力を高め、困難な状況にも適応し、持続可能な働き方を実現することができるでしょう。