新卒社員は企業の未来を担う重要な人材であり、彼らが早期に離職してしまうことは企業にとって大きなマイナスです。
追加の採用コストがかかってしまうという目先の問題だけでなく、将来の幹部候補を失うことにほかなりません。
本記事では、新卒社員の離職率について、その原因や背景を考察し、将来の幹部候補生から逃げ出されることなく、組織に定着してもらうための効果的な対策を、いくつか提案していきます。
目次
3人に1人もの新卒社員が辞めている?離職率の平均について
新卒社員の離職率の平均について、厚生労働省が2022年に公表した広報資料によると、平成31年(2019年)に就職した新卒社員が3年以内に離職した割合は、大卒社員で31.5%、高卒社員が35.9%と、3割以上が入社から3年以内に退職しているという結果が示されています。
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新卒社員の離職率が高まる背景
従来から、大学卒業後就職3年以内の新卒社員は離職率が高く、勤続年数が長くなるほど離職率が下がって定着度が高まる傾向がありました。
しかし、最近はこの傾向が特に顕著となっているようです。
背景には以下の要因があります。
- 「就社」から「就職」への意識の変化
- 労働環境の変化
- 企業文化とのミスマッチ
以下、それぞれについて解説します。
1. 「就社」から「就職」への意識の変化
近年は若い世代を中心に、一つの会社に勤めあげるのではなく、いくつもの会社で就業経験を重ねながら自分自身のキャリアを高めていく、という意識が強まっています。
自分のスキルや経験を積み重ねることを重視しているため、自己実現やキャリアアップが難しい企業では、新卒社員の離職率が高まる傾向があるのです。
ゆえに、業績が安定していて給与水準も比較的高い大企業であっても、任される業務が単調でスキルの蓄積を見込めない内容であったり、昇進の時期が遅くて若いうちの権限や決定権が限定されていると、キャリア意識の高い若手社員は離職を検討するようになります。
2.労働環境の変化
働き方改革の流れにより、柔軟な働き方が求められるようになりました。
しかし、企業の中には、古い体質や労働環境が残っており、新卒社員の働きやすさを損なっていることがあります。
例えば、残業代の出ない飲み会をなど、職場のイベントへの業後・休日の出席の強要や、そのイベントの中での振る舞いによって人事評価に差をつけるなどの行為は、若い世代を中心に嫌悪されるようになっています。
また、電子化の遅れにより、パソコン上で行ったほうが効率の良い業務をあえて紙で行う文化やハンコ文化など、業務効率の面で劣るだけでなく「この会社はダメだ…」と、問題意識の強い従業員から失望され、離反を招きかねません。
3.企業文化とのミスマッチ
入社前のイメージと実際の企業文化が異なる場合、新卒社員は適応困難を感じ、離職を考えることがあります。
例えば、就活生向けのセミナーでは「目上の上司や先輩にも物怖じせずどんどん意見を出して、社内の雰囲気を変えてくれるような人材を求めている」とアピールしているにもかかわらず、実際の現場は上位下達の文化が根強く、目上の人の指示を従順にこなす人材が優遇される、といった企業も見られます。
このような場合、セミナー時のメッセージを信じてきた新卒人材から「裏切られた!」と感じられてもおかしくないでしょう。
特に、企業の文化や体質が業界標準よりも古いものである場合、新卒社員はギャップによるストレスを感じやすくなります。
関連記事:採用ミスマッチの対策方法5選【従業員を定着させる方法も紹介!】
将来の幹部候補生・定着のための7つ対策
将来性ある新卒社員に、幹部候補生として順調に組織内に適応してもらえるようにするための対策として、以下の7つをご提案します。
- キャリア開発の支援
- 労働環境の改善
- コミュニケーションの促進
- 企業理念の共有と浸透
- フィードバックと評価制度の改善
- ダイバーシティの推進
- メンタルヘルスケアの充実
以下、順番にご説明していきます。
1.キャリア開発の支援
企業が新卒社員に対して、自己実現やキャリアアップを図るための支援を行うことで、成長意識の高い新卒社員に「この会社にいると力をつけられる」と思ってもらえれば大成功といって良いでしょう。
支援の手段としては、泊まりがけの研修や教育制度の充実、社内の先輩社員をメンターに据えたコーチングの実施などが挙げられます。
社員の成長による業績改善と、新卒社員の定着率向上を両立させる効果を期待できます。
2.労働環境の改善
新卒社員にとって、新しいワークスタイルを世の中の企業に率先して取り入れている会社は魅力的に映ります。
そこで、働き方改革に対応していることを示すため、柔軟な労働環境を整備するのが良いでしょう。
業務効率化のみならず、若い世代の社員を定着させるのに効果を発揮します。
例えば、リモートワークやフレックスタイム制度の導入、時短勤務の採用、休暇制度の見直し等が挙げられます。
また、企業のオフィスを各人で決まった席のないフリーアドレスオフィスとしたり、働く環境についても改善を進め、社員が働きやすい制度を取り入れることが重要です。
3.コミュニケーションの促進
新卒社員と上層部や他部署の社員とのコミュニケーションを積極的に促進することで、企業文化への理解を深め、適応を促進させることができます。
定期的なミーティングやイベントを開催し、オープンで協力的なコミュニケーションを推進していくことが望ましいです。
あくまでも、若い世代で嫌われつつある「飲みニケーション」のような上下関係色の強い雰囲気や強制感を感じさせるような雰囲気とならないよう、気さくでフレンドリーな演出を心がけることが必要不可欠です。
4.企業理念の共有と浸透
企業理念は、新卒社員が企業への帰属意識を持つ上で重要な要素です。
理念を明確にし、従業員に共有し浸透させることで、組織の一体感を高め、離職率の低下につなげることができます。
ただし、企業理念の内容が従業員から共感を持たれにくい内容であると、かえって反発心を高めてしまう可能性もあります。
特に、利益追求に偏っていたり、社会貢献や倫理的な観点が欠けている場合、若い世代の社員からの共感が得られない傾向にあります。
例えば、「業界No.1の利益を追求する」という理念は、成果主義を重視していることが伝わりますが、社会や顧客への貢献の観点が欠けているため、共感を得られない可能性があります。
若い世代の共感を呼び、定着を促す企業理念としては、やはり社員自体を大切にするというメッセージが込められていたり、社員一人ひとりの利益に直結する内容(例えば「社員を積極的に子会社の社長に任命し、“個の力を持った”社員を多く輩出していく」など)が挙げられます。
5.フィードバックと評価制度の改善
新卒社員に対して定期的なフィードバックを行い、適切な評価制度を整備することが重要です。
目標設定や評価の透明性を高め、適切な報酬や昇進のチャンスを提供することで、社員のやる気を維持し、定着率を向上させることができます。
また、上司や同僚からのフィードバックを活用して、社員が自己改善に取り組める環境を作ることも重要です。
6.ダイバーシティの推進
企業が多様な人材を受け入れ、活躍できる環境を整えることで、新卒社員が自分らしく働ける場を提供できます。
性別や年齢、国籍、能力等による差別や偏見を排除し、個々の社員のバックボーンに寛容な組織風土を築くことで、新卒社員の定着を促進させることができます。
7.メンタルヘルスケアの充実
新卒社員のメンタルヘルスに配慮した取り組みも離職率低下につながります。
ストレスチェックの実施やカウンセリングの提供、労働環境の見直し等を通じて、社員のメンタルヘルスをサポートする仕組みを整えましょう。
例えば、心理カウンセラーと提携して従業員のケアを担当してもらうなどが例として挙げられます。
関連記事:職場におけるメンタルヘルスケアの基本
まとめ
新卒社員の定着は、企業の競争力向上に繋がります。
今回の記事でご提案した7つの対策を実施することで、新卒社員の離職率を抑え、将来の幹部候補生として成長させることが現実的となりでしょう。
企業としては、新卒社員のニーズや期待に応える取り組みを継続的に行い、組織全体の活力を高めることが求められます。
新卒社員が安心して働ける環境を整えることで、社員一人ひとりが自己実現を追求し、企業の成長に貢献できるようになるのです。
将来の幹部候補生を育成するためには、リーダーシップやコミュニケーションスキルを強化するプログラムや研修も重要です。
「将来、自分自身が企業を率いる立場となって活躍している姿」をイメージできるようになれば、会社を去らずに長く定着してくれる可能性が高まります。
新卒社員が働きやすい環境を整え、自己実現やキャリア形成をサポートし、その企業に勤めることと、承認欲求や自己実現欲求を満たすことが重なるよう努めていきましょう。