カンパニー制は、多くの大企業で取り入れられている組織形態の一つです。
カンパニー制の導入は、顧客満足度の向上や経営判断の迅速化など、さまざまなメリットを享受できると言われています。
本記事では、カンパニー制の特徴に加えて、メリット・デメリットについて解説します。
目次
カンパニー制とは
カンパニー制とは、複数の事業を持つ企業が事業ごとに採算を分離し、それぞれを独立した一つの企業のように扱う組織形態を言います。
カンパニー制の代表格として有名なのが、ネットショッピング、携帯キャリア、クレジットカードなどのサービスを展開する楽天です。
さまざまな事業を展開する企業が、それぞれの事業を取り巻く環境変化にスピーディーに対応することを目的として、カンパニー制を導入するケースが多く見られます。
カンパニー制では、企業における社長となるポジションを各事業=カンパニーごとに設け、経営や人事などに関わる権限を付与します。
責任の所在やカンパニーごとの業績が明確となり、経営判断を迅速に下すことができます。
事業部制との違い
カンパニー制と似たような組織形態として「事業部制」があります。
事業部制とは、組織を商品やサービスごとに分けて権限を与え、それぞれの事業部で独自に運営を行う組織形態です。
事業部制では、利益の向上を目的に業績管理や予算の決定などを事業部で行います。しかし、経営や人事などの重要度の高い意思決定に関しては、本部で行うことがほとんどです。
カンパニー制では、それら重要度の高い意思決定も各カンパニーで行うことから、カンパニー制の方が移譲される権限の範囲が大きいと言えるでしょう。
持ち株会社との違い
「持株会社制(ホールディングス制)」とは、 持株会社が大株主となり、傘下に入っている企業を管理する組織形態を指します。
例えば、セブンイレブンなどで有名な「セブン&アイホールディングス」は、イトーヨーカ堂やセブン銀行など、さまざまな企業を抱える持ち株会社です。
持ち株会社制では、それぞれの企業が別々に経営されており、法的にも独立した企業として認められています。
対してカンパニー制は、各カンパニーが本来は同一の企業であり、法的にも一つの企業として運営されています。
カンパニー制のメリット
ここから、カンパニー制を導入するメリットを4つ解説します。
- 機動的な事業展開ができる
- 組織力が向上する(切磋琢磨できる)
- マネジメント人材が育ちやすい
- 責任と成果が明確になる(評価がしやすい)
機動的な事業展開ができる
カンパニー制では、各カンパニーに決済権や人事権といった多くの権限が移譲されるため、 スピーディーで柔軟な事業展開が可能となります。
大企業では、意思決定を行ってから実行するまでに時間がかかってしまうケースがあります。
しかし、カンパニー制では一つの組織の規模がコンパクトとなるため、実行にかかる時間を短縮できるのです。
変化の激しい社会や市場に対応するためには、スピード感は重要です。
カンパニー制の導入により機動的な事業展開ができれば、企業としての競争優位性を高めることにもつながるでしょう。
組織力が向上する(切磋琢磨できる)
カンパニー制では、組織規模が小さくなるため、責任感が生まれやすくなる傾向があります。
「カンパニーの業績に貢献しよう」「このカンパニーのメンバーで頑張っていこう」といった気持ちが芽生えやすくなるでしょう。こうした従業員のモチベーションの向上が、結果として組織力の向上につながると考えられます。
また、他のカンパニーとの競争が起こることで、互いに切磋琢磨しようという気持ちも生じるでしょう。
カンパニー制の導入により、従業員のモチベーションを引き出し、組織のさらなる活性化が期待できます。
マネジメント人材が育ちやすい
マネジメント人材が育ちやすいという点も、カンパニー制のメリットです。
カンパニー制では各カンパニーの責任者として人材を配置し、社長のように企業経営を行うことが一般的です。
将来の幹部候補者や管理職として期待をしている従業員をカンパニーの上層部に配置すれば、経営経験を積ませることができるでしょう。
擬似的に企業の経営を行うことで経験値を積み、結果として企業としての総合力も高まります。
責任と成果が明確になる(評価がしやすい)
カンパニー制では、それぞれのカンパニーを独立した会社のようにみなすため、責任や成果が明確になるメリットがあります。
各カンパニーの業績を見れば、カンパニーがどれだけの成果を出したのか一目瞭然です。
カンパニーの裁量権が大きいため、本部やバックオフィスに責任転嫁をすることは難しいでしょう。
責任と成果が明確になるため、各カンパニー自体や従業員の評価もしやすくなり、フェアな企業環境を構築することができます。
カンパニー制のデメリット
次に、カンパニー制のデメリットを見ていきましょう。
- コストが増加する
- シナジーを発揮しにくくなる
コストが増加する
複数のカンパニーを作ることで、コストが増加する可能性があります。
一般的な組織形態の企業であれば、経理部や人事部といったバックオフィス部門は一つしか配置しません。
しかし、カンパニー制を導入することで、各カンパニーにそれぞれバックオフィス部門の配置が必要となるため、コストが増加するリスクがあります。
シナジーを発揮しにくくなる
カンパニー制の導入により組織の独立性が高まれば、複数人が協力することで生まれるシナジー(相乗効果)が発揮しにくくなるデメリットもあります。
カンパニー間での競争や責任感の向上はカンパニー制のメリットではある一方で、情報共有や交流の不足から、独自の価値観が生まれたり、競争を超えて足を引っ張り合う関係になったりする可能性があります。
本来複数事業を展開していれば発揮できるシナジーはカンパニー制では生まれづらくなるため、カンパニー制を導入する際は、シナジーの重要度や組織全体の協力体制などを見直すことが求められます。
カンパニー制が失敗する主な原因
カンパニー制を導入した企業のなかには、導入を失敗と捉えてカンパニー制を廃止した企業もあります。
考えられる要因を3つご紹介します。
- 権限を移譲しすぎる
- 監視体制が整っていない
- 結果至上主義で短期的な視野になる
権限を移譲しすぎる
カンパニー制で失敗する原因として、権限を移譲しすぎるケースが存在します。
カンパニー制の導入により、人事部や経理部も本部から独立して運営されます。本社機能をカンパニーに譲渡することで、かえってカンパニー内での混乱を生むリスクが発生します。
例えば、人事評価をカンパニー独自の基準で行うことによって社員の不満が発生し、仕事へのモチベーションが低下するかもしれません。
人事評価や業績評価に関しては、公正さを保てるように本部が大枠の方針を決めておくと良いでしょう。
しかし、本部が干渉し過ぎれば、カンパニー制の本来のよさが失われてしまいます。カンパニーの独自性を保ちつつ、会社の方向性や基盤を損ねない程度にルールを設けることが必要です。
監視体制が整っていない
各カンパニーに切り分けることで、本部の監視の目が届かないといったデメリットが生じます。
そのためカンパニー制では、各カンパニーが誤った方向に進まないようにチェックする仕組みを整えることも大切です。
例として、カンパニー内に外部の弁護士や会計士などの専門家を配置して、客観的な視点を保つことが有効でしょう。
なかには、カンパニー制の導入で多額の予算を設けたにも関わらず、ガバナンス不足で思った成果を得ることができなかった事例も存在します。事前の監視体制を構築することが重要です。
結果至上主義で短期的な視野になる
カンパニー制で責任感や独立性が高まるあまり、各カンパニーが短絡的な視野に陥るケースも存在します。
与えられた権限の中でできる限りの価値を生み出そうとした結果、本部と連携して業務を進めることや、情報を共有することを怠る場合があるのです。
企業全体の利益を考える発想が希薄になり、「自分のカンパニーさえ結果を出せればいい」という狭い視野で仕事に臨む人も出てくるかもしれません。
責任や成果が明確になる分、カンパニー制は短絡的で狭い視野に陥りやすい組織形態と言えるため、全社目標やビジョンの浸透も心がけましょう。
カンパニー制を導入している企業例
最後に、カンパニー制を導入している企業を紹介します。
ソニー
ソニーは、日本国内でカンパニー制を初めて導入した企業として知られています。
19の事業本部を8つのカンパニーに編成して、各カンパニーのトップには「プレジデント」と呼ばれる責任者を配置しました。
当時のソニーは業績が悪化していましたが、1994年にカンパニー制を導入したことにより、1997年3月期には、ソニー史上最高となる業績を達成しています。このソニーの導入事例をもとに、他の大企業もカンパニー制を取り入れるようになったと言われています。
なお、経営資源を集中させてヒット商品を生み出すことを目的に、ソニーは2005年にカンパニー制を廃止しています。
トヨタ自動車
トヨタ自動車では、製品群ごとに7つのカンパニー体制を作ることで、各カンパニーが開発から製造まで一貫して行う仕組みとなっています。
トヨタ自動車がカンパニー制を導入したのは、2016年のことです。「もっといいクルマづくり」「人材育成」を目標として導入されました。また、意思決定のスピードを高め、 将来を見据えた中長期的なビジョン策定を強化するといった狙いもあります。
7つのカンパニーの責任者には、トヨタ自動車の専務・常務クラスが就任します。経営層に各カンパニーでのマネジメント経験を積ませることで、トヨタ自動車の次世代トップを育成する狙いもあります。
みずほ銀行
みずほ銀行は2016年にカンパニー制を取り入れました。
元々は10個存在したユニットを「5カンパニー、2ユニット」に再編しています。
顧客との関係を大切にしたアプローチを強化するため、個人や中小企業などを対象としたカンパニーや、大企業などを対象としたカンパニーなど、5つのカンパニーを設立しました。それに伴い本部の機能をスリム化することで、スピーディーな意思決定を実現しています。
また、2つのユニットは「グローバルプロダクツ」「リサーチ&コンサルティング」に分けられ、横断的にあらゆる課題解決に取り組む役割を担っています。
楽天
楽天もカンパニー制を取り入れた企業の一つです。楽天は2016年の4月から6月にかけて、段階的にカンパニー制を取り入れました。
例えば、楽天市場や楽天ブックスなどをはじめとするEコマースの分野を担当する「Eコマースカンパニー」、楽天トラベルや楽天ウェディングなどを担当する「ライフ&レジャーカンパニー」などがあります。
カンパニーを設けることで、ユーザーの視点に基づいたサービスを迅速に開発・提供することが大きな目的です。
また、楽天が大切にしている概念である「アントレプレナーシップ(起業家精神)」や、クリエイティブで革新的な発想を強化するためにも、 カンパニー制がよい影響を与えるものと考えられています。
まとめ
今回はカンパニー制のメリットや実際の導入事例を解説しました。
カンパニー制を導入できるのは大企業のみと思われますが、複数事業を展開していれば、中小企業でもカンパニー制は実現できます。
カンパニー制のメリットとデメリットを把握し、先輩企業の事例を参考にしながら、自社に取り入れてみるのも良いでしょう。