一般的に、心理的安全性が担保できていない環境では、自分が思ったことを発言することで、
「無知や無能な人間だと思われないか」
「自分の発言が周りの人の邪魔になるのではないか」
「周りの人に対して批判的人間だと思われないか」
と心配してしまい、発言すること自体にブレーキがかかる精神状態になります。組織運営上、好ましくありません。では、心理的安全性を確保するにはどうしたらよいでしょうか。
目次
感情的な判断をしない
まず、上司は部下の発言に対して、主観的な発言を一切排除することを意識しましょう。
「それいいね」や「最高だね」などのポジティブな反応も不要です。とにかくその人の発言に対して、上司が〇か×を付ける作業をしません。発言に対する評価がないので、部下は安心して話すことができるようになります。
では、上司は部下の発言に対して何をするのか。それは、承認と却下です。
部下には、ルールの確認や権限の上申をしてきてほしいわけです。上司はそれに対し、承認と却下を繰り返すのみです。ただ、たとえ却下したとしても「そんなの無理に決まっているでしょ」など、感覚的な発言はしません。
部下の意図している内容が不明確なときは、どういう意味なのか確認を行ってください。上司がそもそも評価しなければ、部下も心理的安全性について心配しなくなります。
経過の報告を禁止させる
部下が上司に報告する際に、経過の話をしてくることがあります。日記のような報告です。「あれをやって、これをやって、すごく忙しかった、大変だった」というような報告ですね。
この報告をさせると、上司と部下が過去の行動に対して分析を始めてしまいます。
「なぜそんなことをしたんだ」
「いつからだ」
「誰が決めたんだ」
業績が未達のとき、部下は自分を正当化するために自己防衛の話を始めようとします。上司も言い訳を言われたらそこに突っ込んだり、評価したりするので、部下は自分の発言に価値があると認識しにくくなります。
こういう事態を防ぐために、上司は部下に対し、過去の経過報告を禁止しましょう。そもそものコミュニケーションのルールを変えてしまうわけです。
結果を設定して、未来の話に終始する
過去の経過の話を禁止したら、上司と部下は何を話せばよいのでしょうか。もちろん未来の話をします。
仕事には必ず期限があります。お勧めは一週間で期限を切り、計画を立て直す会議を毎週実施することです。
月曜日に、今週末までの目標を達成するためにどうする予定なのか、何をどう変化させるのかを部下から報告させます。未来への行動変化と次の期限までに実現する目標を部下に宣言させるのです。
その行動変化に対して、上司は「いいね!」「それはダメだよ!」などの判断は言いません。その行動変化は部下が責任を果たすために自分で考えてきたものであり、その行動変化が正解か、間違いかはその段階では分からないものです。少々頼りない行動変化であっても、部下がやるといっているのであれば、まずはそのままやらせてみましょう。
一週間後、約束した結果がクリアできなかったら、何かが間違っていたということなので、さらなる行動変化を求めます。この繰り返しをしていくと、過去の失敗の批判ではなく、上司と部下の話の内容が常に未来への次の一手に関するものになります。そして、その次の一手が合っているか間違っているかの議論ではなく、「まずやる」という動きになり、会話の90%が未来の話になることが理想です。
未来の話に批判はありません。上司と部下は自由に、いかに明るい未来をつくるかを話すことになるのです。
人間関係をつくらない
上記のように結果で管理し、未来の話を部下が約束し続けると、会議が非常に短く、シンプルになってきます。会議で議論をするのではなく、会議が部下にとって上司にプレゼンテーションし、上司がそれを承認する約束の場になるわけです。
部下は自分が次に達成すべきゴールと、それを実現するために必要な権限が明確なので、上司にいちいち相談するなどの行為がなくなり、常に目の前のことに集中できるようになります。したがって、上司と部下の会話が減ってそもそも話さなくなるのがよい関係です。
上司と部下の人間関係をつくることが重要だと考えると、部下は常に上司が自分を信頼しているかどうかを気にするようになります。ただ、信頼とは上司の感覚の話なので、それを求めると腹の探り合いをしなければなりません。正しくは、設定されたゴールに向かって集中することのみなのですが、「失敗したらどうしよう」とか「嫌われたらどうしよう」と、勝手に考えてしまうようになります。
そもそも人間関係をつくろうとせず、上司と部下の距離感を一定に保ち、信頼している、していないなど誰も気にしていない状態を目指してください。前述した通り、未来を変えるのは次の一歩を出し続けることで、失敗したとしても、改善ができれば何の問題もありません。
信頼を勝ち取ろうとすればするほど、失敗を隠したり自分をよく見せたりしようとします。その行為や感情自体がパフォーマンスを下げるので、上司は部下と距離を取り、常に未来の行動変化を承認する動きを取ることが大事です。
やらないとまずいという恐怖はしっかり与える
誰でも人から高い評価をもらいたいと思うものです。しかし、本来仕事では、その感情にとらわれず、求められる結果を出すことに集中することが大事です。とはいえ、結果を出さないと評価が下がる、報酬が下がるなど、「やるっきゃない」という恐怖を社員は持たないといけませんし、上司は部下に認識させないといけません。
人の感情に左右されるのではなく、目標を達成するために、未来への一歩を踏み出し続け、改善を繰り返すことで、周りの人からの感情的な評価から離れることができます。そして、「結果を出さないとまずいぞ」という事実に対する恐怖を感じることが最も集中できる条件と言えるでしょう。
いかがでしたでしょうか。心理的安全を確保するために、過去の報告から離れ、未来の会話に集中し、上司と部下の距離を保って、淡々と運営を進める。組織内ではすべて無機質に進んでいくことが、実は最も社員のパフォーマンスが上がるということです。不安を感じている社員を褒めて励ましたり、サポートしたり、寄り添ったりするようなアプローチは、実は社員の感情的な負担をさらに大きくし、ロスタイムが生じてしまいます。
ぜひ、無機質に仕事を進めるマネジメントにトライしてみてください。